ヤソマ、脅される
あれから俺とツクヨとククリは高天原にある修練所へ徒歩で向かった。
途中村や街道を歩いていて思ったが、天界とは非常に穏やかな所である、という印象を受けた。
のんびり農作業をしている人がいたり、幼子が走り回っていたり。
地方の田舎のようなスローライフ感がでていた。
なんでも有るけど騒がしい都会の喧騒から離れてこういう生活も悪くなさそうだな。
歩く事数十分、男、江田島が書き上げたような「高天原神格化修練所」と物々しい看板のある場所についた。
コンクリートの学舎、小さなドーム型の体育館らしき場所、広々とした運動場。
…いや、これ普通に学校やん。
天界に来て神だの神獣だのファンタジーすごかったやん。
めっちゃ青春詰まってそうな普通の学校やん。
寺のような場所を想像していた俺は完全に肩透かしを食らっていた。
そんな様子の俺にツクヨが少し強張った声で
「さぁ、行くわよ。」
と俺の手を引き、力強い足取りでズンズン進んでいく。
あれ?緊張してる?
転校生の俺の方が緊張したいんだけど…。
そう思いながら見たツクヨはその可愛らしい桜色の唇を噛み締めていた。
ククリとは途中で別れ、ツクヨに手を引かれたどり着いたのは所長室と書かれた部屋だった。
中央にある机の向こう側に豪華絢爛な椅子にガタイの大きさを除けば平安時代に出てきそうな偉そうなおっさんが踏ん反り返って座っている。どことなく機嫌が悪そうだ。
俺の手を引いてきたツクヨが一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「天界に只今戻りました。」
こいつこんな慎ましい態度もとれるんだなと驚いていたら、野太い声が返ってきた。
「うむ。ご苦労であった。して、首尾は如何なるものか。」
緊張した面持ちのツクヨが答える。
「はい。依代の確保に成功。名はマガツ ヤソマ。神獣は不明ですが、おそらくオオモノヌシかと思われます。」
「ほう……、大地の神獣か…。使えそうか?」
「今のところはわかりません。しかし、トーナメントまでにはモノにしてみせます。」
「うむ、わかった。下がってよい。……マガツ ヤソマとやら、少し残れ。」
ツクヨは一歩下がって深々と一礼した後、心配そうに俺に一瞥をくれて、退室していった。
「さて、マガツ ヤソマといったな?」
「はい?」
俺を睨みつけたその偉そうな男がゆっくりと語り出す。
「はっきり言って儂は貴様が気に入らん。ただでさえ神聖な天界にうす汚い人間が足を踏み入れているだけでも気分が悪いのに、よりにもよって男だと?ツクヨたんが穢れるではないか!」
ツクヨ……たん?
「え、いや、連れて来られたのは俺の方なんだけど…。」
「黙れ。この場で儂に逆らえると思うな。貴様如きを消し炭にするのは容易いぞ。」
何てこった。この修練所で一番偉い人に初対面でめちゃくちゃ嫌われてる。
俺そんなにムカつく見た目してるかなぁ。
「この際、何故天界の民では無く只の人間に神獣が宿ったかはどうでも良い。大事なのは貴様と組んでツクヨたんが勝てるかどうかだ。」
「いやー、勝てるんですかね?俺まだ全然術式?とか自由に使え無いっス。」
「そうか。一つ良い事を教えてやろう。ツクヨたんが優勝できなければ貴様を消す。」
何なのこの人、中国マフィアなの?
「んな無茶苦茶な。せめて記憶を消して人間界に帰す程度にしてほしいんだが。」
「ならん。神獣が貴様の中にいる以上、人間界で暴発する恐れがある。監禁する手もあるが儂が気に入らんという理由で消すと決めた。」
ヤバいなぁ。この人かなり本気っぽいぞ。
天界に来てからずっと命の危機なんだけど誰か助けてくんない?
「人間よ。衣、食、住は保障してやる。その変わりすぐにでも神獣を扱えるようにせよ。必ず、ツクヨたんを勝たせるのだ。」
俺はふーっと大きくため息をついて意を決して喋り出した。
「さっきから引っかかっているんだが、その"ツクヨたん"ってのは何なんだ?それに控えめに見ても贔屓しすぎに思うが。」
「ツクヨたんはツクヨたんである。この世で最も愛らしく美しいものの一つだ。あれには一族の名誉の為にも必ず生徒会長になって貰わねばならんからな。」
「そうなのか?それとおっさんに何の関係が?」
「おっさんでは無い、消すぞ人間。儂はイザナギ、ツクヨたんのお父さんだ。」
このハルクみたいなおっさんからあんなに可愛い生き物が生まれてきたのか?
しかし俺の偏見という事もある。
しっかりとツクヨを想像しながら、このおっさんと照らし合わせてみよう。
うーん……。おぇぇぇぇぇ!!
気持ち悪さ10倍界王拳だったわ。
「わかったら下がれ人間。必ずツクヨたんを勝たせよ。」
命の掛かった約束を無理やりやらされて、俺は部屋を後にした。




