ヤソマ、発動する
ツクヨが「テレポ」を使った瞬間、景色が歪んで上か下かも分からない状態に入った。
「君の名は。」を見た事がある人ならわかると思うが、タキ君が米カミ酒を飲んだ後世界が歪んでいったあの感覚に似ている。
そんなぐにゃぐにゃの世界で無重力の訓練を積んでいない俺の平行感覚は失われ、猛烈な吐き気を催した。
ツクヨはこんなの平気なのかよ流石神だなと感服しながら横を見ると、ツクヨは青ざめた顔をしながら口をハンカチのような布で押さえていた。もう吐いた後かよ!早過ぎィ!
そのまま数秒、宙に浮いた感覚から今度は一転、下からすごい風が吹き荒れた。
ナナメ下前方には島のような物が浮いていて、徐々にそこに近づいているようだ。
ん?何かおかしい…。
少しずつ平行感覚を取り戻して来た頭が黄色信号を発しだした。
風が吹いてるってゆうか、これ…、落ちてないか?
なんと現状は下から風が吹いているわけでは無く、俺達が落ちているだけだった。
黄色から赤信号に変わった俺の脳内は急いで同時に転送されてきたツクヨに助けを求めるという判断を下した。
「おい!ツクヨ!これ大丈夫なんだろうな!?これで死んだら俺は天界に何しに来たかわかんねぇ!」
「………。」
ツクヨの返事は無い。
「おい!ツクヨ!…ツクヨ!?」
こ、こいつ…、気を失ってやがる…!
そういえば、初めて人間界に来た時も気絶してやがったな…!
「つ、使えねぇぇぇぇ!!!!」
そう叫びながら俺は島の方に向かって落ちていくのだった。
落下中俺は走馬灯を見ていた。
普通走馬灯とは生命の危機に瀕したときに記憶の引き出しを一斉に開けて助かる方法を瞬時に導き出す、一瞬の出来事と聞いた事がある。
しかし、いかんせん俺の死へのタイムリミットは長すぎる為、余計な事まで思い出していた。
主人公と恋仲になった女の子が死んで、その子の妹も巻き込まれて「私、妹です」みたいなフラグ立ったのに、一瞬で次のゲームで死んだりとか、
魔法少女が人を殺しまくったりする話とか、
宇宙人を寄生させられて魔法が使える女の子の話とか、
パニックホラー系ってフラグ回収が雑だし、最後は「そして〇〇は神になった。」みたいな雑な終わり方が多いなー。ナツメグかわいかったから好きだったのになー。とか、余計な事まで思い出していた。
正直、ツクヨのおっぱい揉めたから人生に悔いは無いが、心残りがあるとすれば、「かぐや様は告らせたい」のアニメを見る事なく死んでしまう事ぐらいだ。
動く早坂愛ちゃんを見たかった。
そうこう全く無駄な事を考えている間に、地面の激突まで目下残り数秒となっていた。俺の走馬灯の役立たず!
まぁパラシュート無しスカイダイビングなんかした事無いので、現状を打破する策なんか有る訳が無い。
くそ、ここまでか…。どうせ死ぬならもう一回ぐらいツクヨのおっぱいでも揉んでおくか。
そう思ってツクヨのおっぱいに手を伸ばした。
その瞬間何かに引き寄せられるように俺の手が地面を向き、光を発した。
ドッッッップンッッ!
明らかに固そうだった地面が沼地のように柔らかくなって衝突による衝撃を吸収してくれた。
沼のような感覚だが体は濡れていない…、地面が液化したのでは無く極端に柔らかくなったのか?
何が何だかわからないがこれだけは分かる。
これを…、俺がしたのか?
俺は手を見つめながら、
「何故か闘い方を知っているって感覚が一番近い表現ね。」
とツクヨが言っていたのを思い出していた。
徐々に固くなって行く地面の感覚を背中で感じながら天を仰いでいると、ふと蛇らしき影が見えた。
昔から蛇には何故か興味が引かれ、日がな飽きずにペットショップにて眺めていられる程好きだった。
しかし半分体を起こしながら辺りを見回したが蛇はどこにもいなかった。
気のせいか…。とぼーっとしていたら、遠くから何者かの気配がした。
ガサガサガサ。
くそ、頭がぼーっとしているせいで認識が遅れた。
ここは違う世界だ。何が出てくるかわからねぇ!
最悪戦闘しなきゃいけないかもしれない。
そう思っているとびゅっと何かが飛び出してきた。
「ツクヨちゃん〜〜〜!!」
ツクヨと似たような格好をした、おっとりした顔のこれまた美少女だった。うん。この子もめちゃくちゃ可愛いけどおっぱいはツクヨの勝ち!
「あ、あなたが人間のヤソマくんですね〜。」
「お、おう。はじめまして、マガツ ヤソマです。」
「これはこれはご丁寧に〜。私はククリです〜。縁結びやってます〜。」
「あ、さっきツクヨと何かテレパシーみたいな会話してたのって…?」
「そうです〜。私です〜。」
顔つきもおっとりしてそうだったが話し方もおっとりしていて何だか眠くなるな。
「私が〜、縁結びの術式で〜、ヤソマくんが〜、ツクヨちゃんの相棒に相応しいって〜、見つけたんだよ〜!」
「そうか…。まぁ残念だが、相性はそんなに良くないかもしれねぇぞ?だいたいずっとケンカしてるし。」
俺のやれやれポーズにククリは少しムッとして、
「そんな事ありません〜。あなた達2人の相性は最高です〜。私の占いは結構当たります〜。」
「そうか。悪かった。これから仲良くなれるように頑張るよ。」
少しプンプンしている彼女をなだめる為に適当にごまかしておく。
「そういえば〜、ツクヨちゃんはどこですか〜?」
「あそこで寝ている。」
地面を柔らかくした事と、ククリのインパクトでツクヨの事を忘れていた。
あそこで寝ているのが気を失った使えないツクヨ。ポンコツクヨと名付けよう。
ポンコツクヨの元に駆け寄ったククリはツクヨの頰を叩き出した。
「ツクヨちゃん〜!起きて〜!起きて〜!」
ビシっ!バシっ!ビシっ!バシっ!
俺は痛そうだなーと思いながら見ていた。
ビシっ!バシっ!ビシっ!バシっ!
…叩きすぎじゃね?
普通のビンタどころか掌底じゃね?
ビシっ!バシっ!ビシっ!バシっ!
さっきからけっこう良いの入ってるぞ?
ほらツクヨ気づいてるけど抵抗出来てないじゃん。
小さい声で「ちょ、やめ、いた」とか言ってるじゃん。
そろそろ止めてやるかと思ってククリを見ると妖艶な雰囲気が出ていた。
なんとなく息遣いも甘美なものになっていた。
こいつ…おっとりしてると思っていたがかなりのS女…!
百合のS攻めかぁ…。新たな扉開いちゃうかもしれん…。
「ちょ、あんた、助け、痛いっ!痛いっ!」
ビシっ!バシっ!ビシっ!バシっ!
「痛いって言ってんのよぉぉぉ!!」
ククリを俺の方に吹っ飛ばしてツクヨは立ち上がる。
その両頬は真っ赤に腫れていた。
やべっ、激おこだわ。




