ヤソマ、ビビる
あの後、ツクヨに俺が住む寮の部屋を案内されて、時間も時間だったので今日の所はここまでと言われ、寮の玄関先にてツクヨと別れた。
そして部屋に戻った俺は、疲れもあったので横になって目を閉じた。
さて、ここで一度自分がおかれている状況を整理しておこう。
まず俺はツクヨの相棒として修練所の試練に出場して、ツクヨと共に闘わなければいけない。
次に、ツクヨを優勝させないと俺の命は無い。あの親父さんの言い方は恐らく冗談では無いだろう。
相手はあのスレンダー貧乳のクシナ。学年でも指折りの実力者らしい。
そんな相手に神獣武装や、術式を全く使え無い俺と初めて神獣を扱うツクヨが勝つ。
……これ、かなり詰んでないか?
疲れも相まって、俺はこの厳しい現実から目を逸らす様に眠りに落ちた。
*
「……。……マ。……ヤソマ。」
誰かに呼ばれて目を開けるとそこは一面真っ白な世界だった。
ただただ何も無い空間なのに、なんて落ち着く場所なのだろう。今までの何処よりも居心地がいい。
天界だのなんだの、一気に色々有り過ぎた。
ここは何も無い分、何も考えなくて良さそうだ。
あーでもやっぱりマックぐらいはあって欲しいかな。
「ヤソマは本当に余計な事をすぐ考えるのぅ。お主は落ち着きを知らんのか。」
俺はギョッとして当たりを見回す。確かにさっきまで俺しかいなかったはずだが…。
いや、誰かいる。確か俺は名前を呼ばれて気がついたはずだ。今更そんな事に気づくとはこの居心地の良い世界で頭がボケてしまっている。
「くひひ。そうじゃそうじゃ。ヤソマはボケておる。儂をしかと見よ。お主の目の前におる。」
いる。確かに何かが目の前にいる。
はっきりと認識は出来ないが、小さめの人影がぼんやりと見える。
「なんじゃなんじゃ。まだ儂を見るに至ってはおらんのか。はよぅ精進せんか、この莫迦者め。」
ポカリとその声の主に叩かれた。
どうやら俺の実力不足ではっきりと姿が認識出来ないようだ。
「まぁいずれ近い内にまた会うじゃろ。楽しみにしておるぞ。」
「お前は一体誰だ?」
「儂はーーーーーじゃ。じゃあの。くひひひ。」
そのぼんやりとした人影は徐々に薄くなり遂には見えなくなってしまった。
*
昨日の疲れもあってか深い眠りについた俺は今までに無いぐらいにスッキリと目覚めた。
何か夢を見ていた気がするが、どうにも思い出せない。まぁ今までも見ていた夢を思い出せなかった事なんか何度もあるし、特に気にする必要は無いだろう。
それよりも今気にしないといけないのは、今日から俺はこの高天原修練所に通うという事。
右も左も分からない、あまつさえ種族すら違うのだ。アウェイ感は半端じゃないだろう。
だが俺にはツクヨを優勝させる義務がある。とにかく神獣や術式とは何たるかを学び、少しでも多くの知識や技術を身につけておかないと、試練で奇跡は起こせない。
その為には指導してくれる先生の他にも、術式やその他に強くなるコツを教えてくれる友人が必要だ。
まずはクラスで友人を作る為には、ナメられない事が大切だと俺は思う。
一発かましてやるか。
そう思いながら俺は修練所へと向かった。
「お前がマガツか。俺がお前の担任の金剛だ。よろしくな。」
筋骨隆々とした顔の厳ついおっさんが挨拶をしてきた。例えるなら、豪波動拳を使うアイツによく似ている。こわっ。
俺は当たり障りの無い挨拶を済ませ、金剛先生の後をついて"神獣科"の教室へ向かう。
やべー、ここ最近で一番緊張してきた。
緊張しすぎてもうほんと帰りたい。
そう思っている内に先生の声が響き始めた。
「お前らー、席に着けー。あー、知ってる奴もいるかと思うが、今日から転校生が来る事になった。おーい!入っていいぞー!」
あぁ、この瞬間が来てしまった。だが臆するな。
転校の挨拶がなんだ、ツクヨと優勝しなかったら待っているのは"死"だぞ。
堂々と力強く行け!
かかってこいよクソども!やってやんよ!
俺はガラァっ!と力いっぱいに教室の扉を開け、力強い瞳で生徒達を睨め付けた。
そこに広がっていた光景は、ビーバップハイスクールに出てきそうなタイプのヤンキー集団だった。
たった一人の生徒を除いて全員がヤンキーだった神獣科。
俺はナメられてはいけないと咄嗟に、
「マガツ ヤソマです。よろしくおねしゃーす。」
と入室3秒で思いっきり下を向き、蚊の方がボリューム大きいんじゃないかという声で自己紹介を済ませた。




