ヤソマ、貧乳に馬鹿にされる
所長室を出た俺は、すぐにツクヨと合流した。
「父様に何を言われていたの?」
俺はツクヨを勝たせなければ消される約束をした事を言おうかどうか迷ったが口外すれば、あの親父さんとまたトラブルになるかもしれないと判断して、真実を伏せる事にした。
「いやまぁ何、娘よろしく〜的な事言われただけ。」
「本当に?下僕のくせに私に嘘つかないでよ?」
俺はわかったわかったと軽く相槌を打っておいた。
「まぁ良いわ。明日からの為にもこの修練所を軽く案内してあげる。ついてきなさい。」
まだ疑念は晴れていないのか唇を尖らせたツクヨが俺を先導する。
そんなツクヨはどこか足取りに落ち着きが無く、心無しかまるで怯えた子猫のような印象を受けた。
「ここがあんたの教室よ。」
どんな教室かと構えていたが、入口に"神獣科"と書かれた以外はいたって普通の教室という印象を受けた。
「主に座学はここで学ぶのよ。でもやはり神獣科の主軸は体力作りと実習にあるわ。メインは実技場になると思う。」
「って事は、俺とツクヨは教室が違うのか?それってすげー不安なんだけど。」
「まぁ大丈夫でしょ。神獣課はどちらかと言えば身分うんぬんの頭でっかちタイプよりも脳筋タイプばかりだから簡単に馴染めるわよ。」
それ結構馬鹿にしてないか?と思いながら俺は不安を拭えずにいた。
そんな俺の様子を気にするでも無くツクヨは歩を進めて行く。
「ここは私が在籍している所よ。まぁあんたにはあんまり関係無いし、案内する必要は無いわ。」
と"神道科"と書かれたエリアを通り過ぎようとした時、甲高い声が聞こえた。
「あら、あらあらあら、そこにいるのはツクヨ様じゃありませんこと?いつお戻りになられましたの?」
そこには絹のような美しい青々とした黒髪、モデル顔負けレベルにスレンダーで顔立ちの整った美少女が取り巻きらしき女の子達と立っていた。
俺には馴染みが無いからどうなのか分からないが、印象としては、丁寧な言葉使いの割にどこか小馬鹿にしたような雰囲気だ。それにしても貧乳だな。
「あら、こちらの殿方が神獣を宿した人間?私はクシナと申します。以後、お見知り置きを。」
「はぁ、ご丁寧にどうも。マガツ ヤソマっす。」
「ふふ。汚らしいお言葉。やはり落ちこぼれには落ちこぼれなのかしらね。」
ん?何か今馬鹿にされたか?俺は気は強く無いが、いきなり知らない奴に馬鹿にされて黙ってられる程温厚でも無かった。
俺の雰囲気をいち早く察知したツクヨが、クシナに詰め寄ろうとした俺の足の前に出る。
「クシナ。 彼は今はただの人間だけど、きっと偉大な神獣使いになるわ。差し当たっては、試練の日にお目見え出来ると思う。当日を楽しみにしておいて。」
「ふぅ〜〜ん、それはそれは。落ちこぼれの影姫様とただの人間がどこまでやれるか見ものですわね。」
キャハハと取り巻き達と耳につく笑い方でクシナは笑っていた。
「行くわよ。」
顔の強張ったツクヨに促され俺達はその場を後にした。




