思惑と初動
予想外の事が起こった。
いや、予想外の事と言っても、悪い事じゃない。むしろいい事だ。
「そうですね、今の魁様方の状況をお聞きすると、食料はフロウ様がなんとかしてくれるでしょう。ですが、ゴブリンと敵対したのは少しまずいですね、この近くはエルゴーという名持ちのゴブリンが数多くのゴブリンを統率しており、敵対した者を潰して回っているのです。おそらく問題因子を早めに積む事で組織を長く存続させるためでしょう。それから~」
レディプスめっちゃ使えるぞ。弱かったからか、生き残るための情報や行動を熟知してやがる。それに元から頭の回転が速いようだ。おかげで会議がスムーズに進み、とるべき行動があらかた決まった。
ちなみにフロウは会議において、ほとんど役に立っていない。
「じゃあ、とりあえずは魔物を狩ってレベリング。周りから素材を集めてこの洞窟を中心に要塞化。貴重な資源である知恵の果実に聞くべき事のリストアップ。周辺の脅威の確認。こんなもんか」
「そうですね、他にもやるべきことはありますが、最優先すべきは情報と戦力の強化です。仲間を増やすのが一番手っ取り早いのですが」
レディプスの言うことは理にかなっていると思う。というかレベルなんてあるのか、知らなかったわ。
「じゃあ洞窟の外の見張りを交代制にして今日はもう寝るぞ」
俺が寝ることを提案すると、レディプスが不思議そうな目でこちらを見ていた。
「あれ、ご存知ないのですか? 我々魔物は魔力を消費することで休息や睡眠を取る必要がないのですよ?」
…休息がいらないとか長期戦闘時めちゃくちゃ強いじゃないか! いや、でも魔力消費量とかの問題はないのか?
レディプスに聞いてみると、これまた驚く重要なことを言ってきた。
「魔力消費ですか? たしかに少しはかかりますが、活動に問題があるほどではないですよ。それに、この洞窟にある魔晶石から魔力を取り込めば全く問題なくなりますし」
さらっと言っていたが『魔晶石』これはなかなかとんでもない物だった。
魔晶石とは、この洞窟に大量に存在する青白い光を放つ結晶のことらしい。
魔力を空気中から吸収し、蓄える性質があるらしく、結晶に接触することでその魔力を取り込むこともできる。
ためしてみたが、全力で俺の限界量まで吸収してみると、魔晶石一つの内、三分の一くらいの量が減っていた。それがこの洞窟には数え切れないほどある。
「魔力タンクとしては最高だな。レベルを考えたらそこまで大した量にはならなそうだが。
フロウの場合は二つで充填完了か、魔晶石にも大小あるが、かなり優秀だな」
「フロウ様に大量の魔晶石を渡せば例の風魔法を連発することもできますね。ゴブリン共は基本的には魔力を使えません。使える種もいますが、魔法という分野ではかなり優位に立てます」
ちなみに私は糸を出すことくらいしかできませんが。と、付け足したレディプスは、腰から生えている四本の蜘蛛の足から勢いよく糸を発射してみせた。
その糸はとても強靭で、ソレを使って天井に登ることもできると言う。
「さてと、じゃあフロウ、今日の見張りは頼んでもいいか? さっさと休んで明日に備えよう」
「わかりました! 任せてください!」
「そうですね。皆様、改めてこれからよろしくお願い致します」
「ああ、よろしく」
「よろしくです!」
こうして、一日でフロウという頼りになる戦闘員と、レディプスという頭の切れる仲間を手に入れた。
一息つける場所に来て、今まで考えていなかったことをつい考えてしまう。
これから俺は異世界で生きていけるのだろうか? 友人達は心配しているだろうか?
そして...トイレ事情をどうしようか?
真面目なことやくだらないことを考えながら、いつのまにやら夢の中へと落ちていくのだった。
____「報告シマス、ニンゲン二人ガ敵対行動ヲトッテキマシタ」
大きな洞窟を大改造したゴブリン達の本拠地『ホラアナ』の最奥。ボスの間にて新人ゴブリンが、大柄で筋肉質なゴブリンへと報告をした。
「ほう、人間が? また懲りもせずにこの森にやって来たか。...だが、二人とは妙だな。いつもであれば十以上は連れてくるはずだが」
他のゴブリンとは違い、饒舌で知性を伺わせる話し方をする大柄なゴブリンの名前は、エルゴー。多数のゴブリンを従えているここら一帯の主だ。
ゴブリンという脆弱な種族を上手く率いて策を巡らせ、その恵まれた体躯を生かして人間の調査隊を何度も追い返している実力者である。
「ソレガモットオカシインデス、奴ラ鎧モ剣モ、モッテナイ。魔法ダケデ戦ッテマシタ」
「鎧も剣も無しだと? 人間の兵士ではない、か。冒険者だとしても5人はいなければこの森にはこないだろうし...途中でウインドウルフにでも見つかって数が減ったのか?」
エルゴーは不可解な人物達の出自を考えるが、鎧も剣も持たずにこのクレイトル大森林に来る人間などそうそういるものじゃない。皆目見当がつかない人間達に、どこか不気味なものを感じた。
「わかった、次にそいつらを見つけた時は捕らえろ。当人から直接聞き出そう。捜索隊には黒いのと白いのを連れて行け」
「ワカリマシタ、黒ト白に伝エテオキマス」
報告に来たゴブリンがボスの間を後にすると、エルゴーは一人つぶやいた。
「私は統治する側よりも、戦場で真っ先に飛び出す方が性に合っているのだがな...」
その呟きは誰にも聞かれることは無かったが、エルゴーの心の奥深くへと染み込んでいった。
短くてすみません…5話からは5000文字程度になるように調節します。