表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

洞窟に吹き荒れる暴風

「誰だよ夜になるまでには着くとか言ったやつ」


「えっ、僕は言ってないですよ?」


「ああ、すまん。独り言だ」


 すみません、言ったの僕です。

 結局洞窟についたのは暗くなった後だった。向かう途中で知恵の果実を見つけたフロウが悪い。俺悪くないもん。


 洞窟の中は闇に包まれており、火か何かで見えるようにしてから行きたいところだったが、フロウの種族は知恵の果実先生曰くウインドウルフ。火を使う魔法は得意ではないらしい。


「魔眼にナイトスコープ的な機能付いてないのかな? 

 ...Oh、よく見えるわ」


 魔眼さんマジ有能。まさかのナイトスコープ付きである。

 視力強化、望遠鏡、ナイトスコープ、魔力視覚、魔人化。チートスキルってこのこと?


「フロウ、俺は暗闇の中でもよく見えるようになった。お前は...大丈夫そうだな」


「はい! 僕は夜の方が元気がでます!」


 フロウのまさしく元気な声が洞窟の中に響き、数匹のコウモリが洞窟から夜空へと羽ばたいていった。

 あのコウモリって感染症とか持ってるのかな? 結構魔力量多かったからおそらく魔物の一種だろう。


「ではさっそく中に入りましょうボス!」


「そうだな、良い場所だったらしばらくここを活動拠点にしよう。湖や知恵の果実も近いしな」


 意気揚々と探検家気分で洞窟の中へ入っていくと、魔力を宿した結晶が青白い光を放っていた。


「キレイですね...これはなんでしょう?」


「今はわからないな...知恵の果実は2つあるが、これは別のことに使いたい。質問するにしても、食うにしてもだ。また知恵の木の下に行った時に聞いてみよう」


 このクレイトル大森林は、魔法物質の宝庫だという。魔素が濃く、過酷な環境故にゴブリンですらとても強力であり、大国であってもなかなか手が出ないらしい。魔力を多く含んだ貴重な物質が多くあるらしく、知恵の果実もその一つであり、きっとこの結晶も貴重な物なのだろう。


 フロウ先輩のおかげでそこまで苦労はしていないが、たしかにこの森はとても危険だ。3対1で勝てるといったゴブリンだが、そのゴブリンもウインドウルフに簡単に狩られる。食鳥植物なんていう物騒なやつもいるし、強大な魔力を持った生物も何体か見かけた。この森は体感している以上に危険な場所だろう。

 そんな場所で俺という足手まといを連れながら戦ってくれているフロウには、本当に感謝だな。


「フロウ、すまないな。俺は出来の悪い棍棒を振り回すくらいしかできない。お前に多く負担をかけてしまっている」


「突然どうしたんですか? 気にしないでください! ボスの手は(わずら)わせません!」


「そうか、ありがとう。では、さっさとこの洞窟を調べ尽くすぞ! あまり大きくないといいんだが...」

「はい、ボス!」


 魔力結晶の仄かな光に包まれながら、俺とフロウは洞窟の奥へと進んでいく。

 俺たちの接近に驚いたコウモリが何匹か襲いかかってくるが、その全てがフロウによって地面へと叩き落とされる。


 数分ほど洞窟の奥へと進んで行くと、いきなり大きな空洞へと出てきた。小学校の教室以上の広さはあるだろうか。

 視線を上に向けると、あまり見たくない光景がそこにはあった。大量のコウモリがびっしりと天井を埋め尽くしていたのだ。地面を見ればコウモリの糞のようなもので覆われていることに気づいた。


「あー、なんだ。フロウはあのコウモリを全滅させることとかできるか?」

「任せてください! 魔力は無くなりますが、大きな風で全部倒せます!」


 瞬間、洞窟の中だというのに風がふわりと俺の頬を撫でたかと思うと、空洞の中に魔力の回転が起こっていた。おそらく風が凄まじい速さで回転しているのだろう。

 やがて魔力の回転は空洞全てを包みこむと、コウモリやその糞を巻き込んで凄まじい音を立て始めた。


 フロウ先輩強すぎる。...絶対怒らせないようにしよう。というかまだ成体でもないのにこの威力の魔法を使うとは、魔人化による影響を考えてもウインドウルフ強すぎだろ。


「終わりました!」


 風が収縮して行き、空洞の中心点に風が集まると、巻き込んでいた物全てをその場に残して消えて行った。


「ん? なんだあれ」

「どうしたんです?」


 空洞の天井を見上げていると、隅っこに灰色の物体がプルプルと動いているのが見えた。

 魔力があるので魔物か貴重物質のどちらかだが...あ、落ちた。


「あれは、魔物ですね! 倒してきます!」

「まて、アレはまだ敵対行動をしていない。ゴブリンやコウモリとは違って攻撃してこない魔物の可能性もある」


 敵対行動をしてこないフロウのような魔物であれば、魔人化することで強力な仲間を増やせる可能性がある。

 灰色の魔物に近づいてみると、洞窟に来るまでに何匹か存在を確認した蜘蛛のようだ。

 警戒しながら距離を縮めるが、蜘蛛は特に反応せずに固まっていた。しかし、フロウが一歩近づいた瞬間、素早く後退した。


「すこしフロウは止まっていてくれ、近くまで行って来る」

「え、あ、はい。わかりました!」


 フロウの目は危険だと言っているように感じたが、ウインドウルフにとってボスの命令は絶対なのか、何も言わずに従っていた。


 近づくだけ近づいてみたが、灰色の蜘蛛に変化はない。俺が手を触れても固まったまま動かずにいた。


「このままじゃジリ貧だな、魔人化してみるか」


 俺が蜘蛛に魔力を注ぐと、蜘蛛はピクリと反応はしたものの、抵抗もせずに光に包まれていった。

 光が治ると、蜘蛛はタキシードを纏った美青年へと変化した。


「なっ!? 私が人間に? どういうことだ?」


「あー、混乱しているところ悪いな。すこし対話がしたくて人の姿にさせてもらった」


 スッと立ち上がった蜘蛛の腰からは、巨大な蜘蛛の足が4本生えていた。人間の手足と合わせて8本、蜘蛛の足の数ということだろうか。

 触れていた手の感触からわかったが、蜘蛛のタキシードはどうやら甲殻のようだ。硬い感触がした。


「たしかに人間の言葉を理解できている、これならば対話ができるな。

 助かった、私はコウモリが大量にいるせいでここの洞窟から出ることができなくなっていたんだ」



 ...こいつはアホの子なのか? 話し方は頭が良さそうなのだが。敵対的ではなさそうだが、仲間に加わってはくれなそうだな...


「いきなりで悪いのだが、私をあなた方の仲間にしてはくれないか?」


 前言撤回。向こうから言ってくれたわ。初対面から仲間になろうとなんて普通は思わないし、フロウと出会った時のことを考えると俺の魔力か何かが安心しやすいとかあるのか?


「ああ、いいぞ。だが、どういう理由だ?」


「そうだな、説明をしていなかった。私はあまり身体能力に恵まれなくてな、同時に生まれた蜘蛛達ならば、あのコウモリをものともせずに脱出できたのだが、私にはできない。要は仲間を作って生存確率を高めたいのだ」


 なるほど、弱いから仲間が欲しいのか。相手も同じく敵対的ではない者を仲間に迎えたかったと。単純にフロウの力を見て長い物には巻かれろ精神かもしれないが。


「そういう理由なら歓迎だ。俺たちも仲間を増やしたくてな。混乱を避けるため俺をリーダーにまとめたいんだが、問題ないよな?」


「あ、ああ。問題はないが...リーダーはそっちの銀髪ではないのか?」


「え? 僕がボスな訳ないですよ。ボスはボス以外ありえないに決まってますよ?」


 蜘蛛は戸惑ったようにフロウを見たが、フロウはキョトンと首を傾げ、何言ってんだこいつと言わんばかりの顔をしていた。


「じゃあそういうことで。っと、名前を名乗っていなかったな、泉野目 魁だ。お前は...名前はなさそうだな」


「たしかに名前はない。だがすぐに考えよう。

 ...いえ、口調を正しておきましょう。あなたがボスなのですから」


「正したいなら好きにすればいい。が、チームの関係を明確にするならば正した方がいいな」


 蜘蛛もフロウと同じく丁寧な言葉遣いに正すようだ。

 蜘蛛は自分で名前をつけるのか、少し考えてみたりしたのだが。スパイダーから取ってダイスとか。


「そうですね、レディプスという名前にしましょう。魁様、よろしくお願いします」


「お、おう。レディプスな、よろしく」


「レディプスさん! 僕の方が先輩ですからね!」


 名付けセンスないのかこいつ。それでいいのなら止めはしないが。いや、魔物と人間のセンスが違うだけかもしれないな。

 そんなことを考えていると、フロウが不思議そうな顔をした。


「そういえば、レディプスって名前変ですよね。なんでそんな名前にしたんです?」


 どうやら同じ魔物であるフロウから見ても変な名前らしい。いや、レディプスの種族特有のセンスかもしれないしな、うん。

 というかフロウお前、結構ぶっちゃけるな。


「へ、変な...どこがですか! レディプス以上にかっこいい名前なんてありません!」


「名前の話は終わりだ。次の目的や行動を決めるぞ」


 変な名前の新しい部下を加え、俺たちは次の目的を決めるための会議を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ