第93話 モフモフな体毛には敵わない
覚醒したダリアちゃまと、彼女の元に集った冒険者達と共に、ウサタンを倒すはずだった。
しかし、ダリアちゃまが覚醒したてほやほやの能力を調子に乗って乱用してしまい、敵味方関係なく多大な被害を出してしまったのだ。
ダリアちゃまが放った氷ブーメランの一つは、家屋の壁に突き刺さったり、貫通したりしている物もある。
あとで、王国に賠償してもらおう。
もちろんダリアちゃまの小遣いから引かれるだろう。
という事で、第三ラウンドの始まりだ。
ウサタンも体調を戻しつつある。
彼は目を瞑りながら、ダリアちゃまを含む俺達5人を、遇らうほど強力な魔術を奮ってくる。
『水』『火』『土』『風』
ウサタンは、ファンタジー世界では、よく見る四属性の魔術を組み合わせて、俺達に放ってくる。
『火』と『風』を組み合わせて爆発魔術を乱発してきたり、『水』と『風』を組み合わせ、圧縮された小型の台風を発生させたりと、やりたい放題だ。
流石は魔王。
「ムカシ、ムカシ、アルトコロニ、オジイサン、オバアサン……ナガレテキマシタ」
ドン・グリードの頭部に鎮座したセキセイインコが、さっきから意味の無いおしゃべりをしている。
こんな状況でも、小鳥箱より出でしインコは動じないようだ。
「おいニワトリ! このインコは一体なんなんだよ! さっきから、ピーチクパーチク、五月蝿いんだが!?」
ドン・グリードは刻甲に抗議する。
「もう少し、待っててください! きっとその子は役に立ちますよ!?」
「いや、マジで邪魔なんだが?」
「役に立ちますよ! 『準備出来た』とその子が言ったら、よろしくお願いしますね!」
「えぇ?……どういうこっちゃ?」
「今に分かりますよ!」
「いや、今教えろや!」
「直にわかりますよ!」
「いや……」
「直にわかるんです!
「お、おう」
断固として引かない刻甲に、ドン・グリードの方が折れた。
「オジイサンハ、ヤマへ……ナガレ、マシタ」
一方、セキセイインコは何構わずおしゃべりを続けている。
誰よりも平常心を保っているこのインコは、鳥の世界では大物なのかもしれない。
こんなのを持たせるなんて、刻甲は何を考えているんだ?
まぁ、刻甲には何か考えがあるのだろう。
俺じゃなくドン・グリードに任せた辺り、彼の『異次元格納庫』を頼っているのだろう。多分。
それはそれとして、ウサタンは場所など御構い無しに魔術を唱えてきやがる。
周りにどんなに被害がでようと知った事では無いようだ。
こんな町で戦っていては、被害が尋常じゃないほどでる。
なので、ハムスター人族の時同様、俺は場所を変える事にした。
と言っても、この宿屋があるここらは、町のほぼ中心地。
人気が少なく、建造物に被害が出ないとなると、川のほとりくらいしか、戦える場所は無かった。
「おい大根! 俺もアライグマもダリアも、ここじゃなく川辺の方が力を発揮しやすい! 移動すっぞ!?」
どうやら、ドン・グリードも川辺への移動を望んでいる。
なら、迷う事は無い。
ひたすら真っ直ぐ、川まで行こうや!
「ダイコン! ここは話に任せてーな!」
ダリアちゃまは、名誉挽回するためウサタンを引きつける事にした。
「なるほど、まずは王女様からかー、いいよー! 相手したげる!」
ウサタンは四足歩行で、ピョンピョンと跳ね、ダリアちゃまを追いかける。
ダリアちゃまは足場を凍らせ、スケートみたくウサタンを翻弄する。
俺はポツンと落ちたままの、クレアより借用した聖剣を拾い、ダリアちゃまの後を追う。
聖剣を手にしたが、俺は再び赤筋大根にはならない。
下手に野菜エネルギーを消費してしまい、またピョンギヌスに貫かれては、まさに一貫の終わり、ゲームオーバーとなるからだ。
ドン・グリードやアードバーグ、刻甲らもダリアちゃまとウサタンを追っていく。
「冷たっ! 」
砂漠の暑さで氷はすぐに解ける。
その水しぶきが、ダリアちゃまを追走するウサタンの顔にかかり、ウサタンはびっくりしている。
いいぞ、ダリアちゃま!
そのまま真っ直ぐ行くんだ!
「どうだ、仔ウサギ! 私の可憐な瞬足に恐れをなしただか〜!?」
ダリアちゃま、調子にのってウサタンを煽る。
「うるさいな!」
水しぶきとダリアちゃまの挑発にイラついたウサタンは、額から生えた一角から、火球を放つ。
「うぉおおおお!??」
ダリアちゃまは、火球を躱した。
しかし無理な動きをしたせいで、バランスを崩し顔面から転倒した。
わー、痛そー。
「…… 足つったー! 兄者たすけてー!」
なにやってんだアイツ……。
幸い乙女の顔に深い傷が出来る事は無かったが、ダリアちゃまは、右脚をつってしまったようだ。
彼女は涙目で俺に助けを求めている。
脱臼したり、転んだり、ブーメランぶっ放したり、転んだり、足つったり……、もう何もさせない方が良いだろうか?
と、思っていたが、なんとか河川敷に到達する事ができたようだ。
ダリアちゃま、よくやった!
「隙あり!」
「ウギャアアアアアアアア!」
ウサタンが、ダリアちゃまがつった右脚に向かって倒れてきた。
ダリアちゃまは悲鳴をあげる。
ウサタン、流石は魔王。やる事がえげつない。
「くっそー! ち、力が入らんがな! 悔しいけど、モフモフしてて気持ちいいがな……」
ウサタンのモフモフした体毛の心地良さの虜となったダリアちゃまは、敢え無くやられてしまった。
「次は誰かなぁ?」
「俺が相手をしてやるクソガキ!」
ドン・グリードは鉄の筒を構えて、ウサタンを見据えている。
ドン・グリードは、さらに川辺へと走り出す。
ウサタンはそんなドン・グリードを追いかける。
「まんまと着いてきたなバカめ!今度こそコイツをお見舞いしてやる! 『こんがり焼けたアーモンド弾!』」
ドン・グリードはアーモンドの実をウサタンに向けて吐き飛ばす。
「あー、それは嫌だよー」
ウサタンは身体を丸める。
すると彼の体毛がよりモフモフな物へと変質した。
ウサタンのモフモフな体毛に着弾したアーモンド弾が爆発する事は無かった。
なぜなら、モフモフした体毛により威力を殺されたからだ。
ウサタンの体毛に勢い奪われたアーモンドは、彼の足元に虚しく落ちた。
よし、解説してるだけじゃ無く、俺もそろそろ動きますか。
ウサタンの意識はドン・グリードへ向いている。
ドン・グリードがヤツの注意を引きつけてくれているので、俺は彼の援護に入る事にしよう。




