第91話 なんでもできる気がしてきたで!
「ふはは! まんまと騙されたよ。 おかげで、ドン・グリードの能力を手放しちゃったじゃないか!」
ウサタンは頭を抑えながら、ピョンギヌスの槍を杖代わりに使い、身体を支えていた。
大柄なウサタンの身体も、魔眼を看破された影響か、体格が子供並みの大きさ、トトンヌやヌーターンくらいまでに縮小した。
「ふっ……ざまぁみろや! 仔ウサギがぁ……!」
ダリアちゃまは肩を抑えながらウサタンをニヒルな笑みを浮かべて、睨みつける。
ダリアちゃまの顔からは、やってやった感が物凄く伝わってくる。
確かに、彼女はウサタンに致命的な一撃をくわえた。
けど。ダリアちゃまが、そこまでボロボロになってるのは、ウサタン関係ないからね?
側から見れば、競り合っているのだと思うかもしれかいが、彼女はぐりぐるパンチしてたら、肩を脱臼しただけだからね?
彼ら二人が、痛みに苦しみもがいてくれたお陰で、俺はなんとか動けるまでに回復できた。
ドン・グリードに力が戻ったのと同様にミーナちゃんの洗脳も解けた。
「……あれ? 私今まで何を……? うわわ!? この格好なんですか!?」
ミーナちゃんの洗脳は解けたが、服装は戻らない。
とても神秘的なバニーなミーナちゃんは、顔を真っ赤にして(ここすき)その場にうずくまってしまった。(ここすき)
あざといけど、かわいい!
俺は、恥ずかしがるミーナちゃんを、人目につかない場所まで連れて行った。ミーナちゃんに対しては、俺は紳士なのだ!
閑話休題。
ウサタンはまだ本調子ではない。
攻撃するなら今だろう。
「ダリアちゃま! スゲーよ! やれば出来る子だったんだな! お陰でウサタンを困らす事が出来たぜ!」
俺は、勇敢にも物陰から出てきたダリアちゃまに感謝した。
ダリアちゃまが出て来なければ、ウサタンの魔眼には打ち勝て無かった。
「ふっふっふ、 そうだで! 兄者やニワトリが言ったみたいに、私にも出来る事があるだがな! あのウサギは絶対ゆるさん! 私から愛を奪った罪で磔刑にしてやるでー! このダリア様が邪悪なる貴様を裁いてやる!」
俺に褒められた事、役に立てた事がよほど嬉しかったのか、ダリアちゃまは脱臼の痛みを忘れ、腰に手を置き、胸を張る。
よほど嬉しかったのか、大声で自分の手柄を叫んでいる。その姿は、満点のテストを見せびらかす子供みたいだ。
「え? ダリア様!? どうしてここに!?」
「ダリア様って、王女様か!?」
「ああ、ダリア様だ! ダリア様が戦っておられる!」
流石にここまで派手に暴れれば、正体はバレる。
ウサタンに即落ち2コマでやられた冒険者や自警団が、ダリアちゃまの存在に気づいた。
最初に声をあげたのは、彼女を護衛していた魔女のねーちゃんだ。
ダリアちゃまの性格から、こんな所に出てくるとは思っていなかったのか、とても困惑している。
困惑しているのは、他の者達も同じだ。
ダリアちゃまに気づいた町人達も、丸い目をして彼女を見つめていた。
「おいお前ら!いつまで寝てやがる! あのダリア様が戦っておられるんだぞ! 俺達が王女様の前でくたばっててどうすんだ!」
威勢の良い冒険者の兄ちゃんが声をあげる。
それに応じるように、他の者達も立ち上がる。
俺が思うに、ダリアちゃまの事は、内気でメンタルも能力もクソ雑魚だと、バーディアの国民なら誰でも知っていたのだろう。
だから、そんなダリアちゃまが、強大な敵、魔王の前に立ち、有効な一撃を入れたとなれば、その勇敢さに、彼女に魅せられる。
誰もが子供の成長をみるように、ダリアちゃまを見ていた。
以前、ダリアちゃまは、シオンを洗脳された怒りで、考え無しにウサタンに殴りかかった事があるが、今回は違う。俺達を救うために動いたのだ。
現に俺だって、あのダリアちゃまが自分から動くなんて思ってもみなかった。
「あの小娘に借りを作るなんて、思っても見なかったぜ。 後で『ダイヤモンドドングリ』の勲章と『アーモンド大使』の称号を授けてやる!」
力を取り戻したドン・グリードも立ち上がる。
「鳩尺様に頼んだ価値がありましたよ! 私がやられたのはフェイクですよ? 鳩尺様を逃がすのが目的でしたから! コッコッコ!」
「騒々しいぞニワトリ! ダイコン一人に任せちょる場合じゃないで? いつまでも寝とらんで、はよ立てや!」
もちろん、ドン・グリードだけでなく、刻甲とアードバーグも傷だらけの身を起こした。
「あ、そうだ! ドン・グリードさん、この子をどうぞ! 手乗りインコです!」
刻甲はドン・グリードに、1羽の黄色いセキセイインコを渡す。
恐らく小鳥箱というインコボックスから出てきた1羽だ。
「……なんだこれ?」
ドン・グリードは困惑しながら、インコを受け取る。
インコはドン・グリードの腕に乗ると、軽やか足取りで彼の頭頂部に鎮座した。
「セキセイインコです! どうですか?懐っこいので可愛いでしょ!?」
「……お、おう」
訳の分からない刻甲の回答に困惑するも、ドン・グリードはセキセイインコを受け入れた。
人も獣も、大根も、ウサタンを倒すために、皆がダリアちゃまのもとに集う。
俺だけの力では、ピョンギヌスの槍を持つウサタンを倒す事は実質不可能だろう。
何せ、さっき一度刺されただけで、身体をまともに動かす事すら出来なかったのだ。
おまけに赤筋大根の力は、強制的に解除されちまってる。
恐らく、野菜エネルギーをかなり消失したのだ。
だから力が必要だ。
ドン・グリードは力を取り戻したので、十分な戦力となる事は間違いない。
・・・
(ダリア視点)
大根兄者や獣人達だけでなく、私の元に、沢山の人達が集まってきた。
「ダリア様!」 「王女様!」「ダリアちゃま!」
皆が私の名を呼んでいる。
その声色は、私が小さな頃から聞き飽きた嫌な物ではない。
その声色は、私が小さな頃から聞きたかった物、欲しかった物だ。
私はふと振り返った。
そこには、沢山の人がいた。
「わ、私を応援しとるんかいな!? こんな私を!??」
私はこの状況を飲み込められず戸惑う。
この人達は、親父から高い銭で雇われた私の護衛かもしれない。
だから私に集ってくれてるのかもしれない。
だから、声を上げた。
「王女様のためなら我々は剣を取りますよ! 王女様が前を行くなら、我々も共に戦います!」
とある女冒険者に声をかけられた。
その冒険者には見覚えがあった。
彼女は、ビーバーから最後まで私を守っていた魔女の人だ。
彼女の隣には、同じく最後まで私を護衛していた鎧の男もいた。
「そ、そんな無理せんでも良いで!? 父上に幾らで雇われたかは知らんけど、私なんかの為にそこまで命かけんでも、良いだで!?」
私は彼女らに無理をしないように語りかけた。
この仔ウサギは強い。兄者大根を一撃で倒したのだ。
おまけに冒険者達はまとめてウサギにやられていた。
私は迷惑をかけたく無かったのだ。
だから彼女らに逃げてほしかった。
金のためにそこまでする必要は無いと。
「我々は、国王様からは一銭も頂いておりません! 貴女を守る為、自分から護衛の務めに参りました」
鎧の男の言葉に、魔女の人も相槌を打つ。
「ダリア様! 我々民は、この国を、貴女を愛しております! 報酬など無くとも、愛する貴女や国王様、国の為に戦って死ぬ覚悟は出来ております!」
報酬を貰っていないだと?
つまり、この人達は今までタダ働きで、私の護衛をしていたのか?
しかも、それは私を愛していたからだと。
気付けば無意識に涙が流れていた。
今まで、欲していた愛が、既に手に入っていたのだ
私はずっと金で雇われたと自己完結させていた。
私は既に愛されていたのだ。
それに気づき、身体が楽になった。軽くなった。心が晴れた。
同時に、身体の底から力がみなぎりだした。
全身の血液が煮えたぎるような感覚。
なんか何でも出来る気がしてきたで!
この私に任しときんさい! やったるでぇ!




