第90話 ダリアちゃま始動
思い……だした!?
三人でウサタンに必殺技を放ったのに、逆に俺達がやられている理解を。
ウサタンはあの一瞬で、亜空間へ移動したのだ。
恐らく自らに危機が迫った際に発動するように仕掛けておいたのだろう。
その結果、ターゲットを見失ったことで、ドン・グリードの放ったアーモンドがアードバーグに直撃。アードバーグに着弾とともにアーモンドは轟音響かせ爆発。
俺は赤筋大根の勢いを止める事が出来ず、ドングリードに激突!
こうしてドン・グリードとアードバーグは気絶した。
唯一残った俺は、異次元から戻ってきたウサタンに、聖剣とネッコボルグを構えて突貫した。
奴も槍を持っているので迫合いが続いたものの、ウサタンの持つピョンギヌスの槍に、体を一突きされた。
俺が覚えているのはここまでだ。
赤筋大根という頑丈な身でありながら、ピョンギヌスの槍には、容易く貫かれてしまった。
ピョンギヌスの槍の効果によるものなのか、赤筋大根の力を維持する野菜エネルギーの供給が追いつかなくなり、強制的に通常の大根に戻ってしまった。
クレアから拝借した聖剣は近くに転がっていた。
ウサタンは剣に興味を示さない。
このピョンギヌスの槍が、ドン・グリードの言っていたとおり、神から与えられた力や、加護を無効化させるという噂が、本当だと俺が意識を失った事で証明されたわけだ。
それと同時に俺が神から力を授かった事が、このウサギにバレちゃっただろう。
「へー、君ってこの槍の影響を受けるんだね〜? トトンヌに作られた野菜獣大根も、その範囲になるのか〜? それとも、ヒパビパが君の事をトトンヌと似ていると言ってたから、本当に神さまから力を貰ってるのかな? それなら、その強さにも納得できる」
ウサタンは俺をもふもふした足で踏みつける。
それでは、手応えが無い事に気付いたのか、今度は、茎を鷲掴みにして、持ち上げる。
俺は槍の影響が抜け切っていないようで、体に力が入らないし、ウサタンを睨むどころか、まともに焦点を合わす事すら出来ない。
それを知ってかウサタンは逆に、赤い瞳で俺を睨みつけている。
完全に勝ち誇った目だ。
だが、俺達は負けた訳ではない。
まだ俺達には仲間がいる。
来てくれる保証は無い。
来てくれても、ウサタンとまともにやりあえる事は出来ないだろう。
そんな願いが通じたのか、ひとつの見覚えのあるシルエットが見えた。焦点が合わないので、ぼやけてよく見えない。
だが、仲間だということはわかった。
ウサタンはその人物には、まだ気づいていない。
ウサタンは、勝ち誇っているので、俺から目をそらさない。
ならば好都合、ウサタンをはめることにしよう。
「……さっき、げっ歯類連合を裏切るみたいな事……言ってたが、敵にまわしてもいいのか……?」
俺はウサタンに聞こえる微かな声で尋ねる。
今は、これ以上大きな声は出せない。
「構わないね、ピョンギヌスの槍を手にした今、僕に勝てるヤツなんていないよ!」
「だとよ、ビビンバ! 今の聞いたか?」
俺は近づいてきた人物の方を見ながら、呟いた。
「ビビンバ!? ……来るなら来るって言ってよ〜、さっきのは冗談だよ〜」
俺の言葉に、ウサタンは瞬時に反応し、ビビンバがいると思われる方に、目線を移した。
ウサタンは、常に陽気なビビンバなら、適当に騙せると思っていたのだろう。
「え……? そ、そんなぁ!?」
そしてウサタンは困惑し、恐怖した。
しかも、ビビンバだと思っていた相手の目を見てしまったのだ。
俺達に近寄ってきた人物はビビンバでは無い。
では誰か?
その答えは意外だが、簡単だ。
「お前……、私からお母様だけじゃなく、兄者も奪う気かいな!? 離せぇ!」
そう、答えは俺の姉、ダリアちゃまである。
ダリアちゃまと目を合わせてしまったウサタンは瞬時に悶絶した。
彼女が姿を出してくれたのは奇跡だ。
作戦にも予定にもない、いい意味での誤算だ。
まさかダリアちゃまに救われるとは思わなかった。
どういう心境の変化で行動したのかは、わからない。
でも、彼女は自ら動いてくれた。
ダリアちゃまは、憎しみに満ちた瞳で、ウサタンを睨みつける。
「そ、そんな! なぜだ、何故だ! 前線に出るだけの勇気など姫にはないはず……!?」
ウサタンはダリアちゃまの眼を直視したため、頭を抑えながら苦しむ。
俺がダリアちゃまを、ビビンバと偽った理由は単純な事だ。
この町はビーバー人族に支配されているからだ。
こんだけ騒げば、ビビンバが町に戻ってくる可能性だってあり得るだろう。
それに、俺が知っているげっ歯類連合の面々で、ウサタンが言い訳した際に、ヒパビパやヤンマーマは騙せなさそうだし、トトンヌでは騙せる自信はない。
ウサタンが口八丁で騙せるヤツは、ハダカデバネズミ人族のスッパマッパ分隊並みに素直で無ければならないだろう。
だから俺は、陽気なビーバーであるビビンバを選んだ。
作戦は無事成功した。
「うわ……、うぎゃああああ!」
ウサタンが目を抑えて絶叫する。
苦しむウサタンの茹でから俺は解放され、地面に転がる。
俺やドン・グリードよりも、ウサタンに対する憎悪の気持ちが強いダリアちゃまの目は、ウサタンを発狂させる事に他愛もないのだ。
ウサタンの目に秘密があるという俺の予想は間違っていなかったのだ。
ウサタンの体から、光が幾らか飛び散り始める。
それらの光は、倒れているドン・グリードへと引き寄せられていく。
恐らくウサタンが奪ったドン・グリードの能力が、本来の持ち主に戻ったのだろう。
ダリアちゃまは、苦しむウサタンに向かって走り出す。
「私に愛をよこせぇええええ!!!」
ダリアちゃまは叫ぶ。
叫びながら、彼女は両腕をブンブンと振り回し、ウサタンに殴りかかる。
ダリアちゃまは、両腕を伸ばしきった状態でぐるぐると回す。
遠心力や推力を利用した連続的な殴打。
人はこの技を児童式旋風拳と呼ぶ。
ダリアちゃまはぐるぐるパンチで、ウサタンのもふもふとした毛皮をぽかぽかと殴る。
ぐるぐるパンチは、腕を回すことで遠心力を生み、連続的に相手を殴る事が可能。
おまけに推力も発生するので、殴った際の反動を打ち消し、常にゼロ距離で殴る事ができる優れ技である。
ダリアちゃまが優勢に思えたが、問題が発生した!
「う……!? 肩がー! 肩がー! 外れたー!? うわぁあああ!」
どうやら慣れないぐるぐるパンチの乱用で、ダリアちゃまの肩が外れてしまったらしい。
肩が外れて悶えるダリアちゃまと、目を抑えて苦しむウサタン。
そして俺は地面に捨てられている。
ぐだぐだしてるね。




