第86話 ピョンギヌスの槍
これは、ダイコンデロガがウサタンに殴りかかる少し前の出来事である。
(ダイコンデロガ視点)
時刻は正午を過ぎていた。
先程の俺達(主に刻甲とクレア)が町中でドンパチしたおかげで、人々はざわつきはじめ、憲兵だか自警団だか、よくわからないが、武装した人達が町中を闊歩している。
町人達はげっ歯類連合による破壊行為と認定し、犯人だと思われるげっ歯類の姿を探している。
ウサギ人族はげっ歯類ではないためか、ウサタンが犯人だとは、まだ誰も気づいていないようだ。
なにせ、獣人族の数は多い。
唯一変わった事といえば、鳩尺様を見た人々が困惑の眼差しを向けるという事くらいだ。
そのお陰で、げっ歯類のドン・グリードから人々の視線を逸らす事が出来た。
偶然ってすごいね。
「もう少しで、例の宿屋につきますよ? 小鳥箱のインコ達の報告ですので問題ないかと思われますよ!」
刻甲に俺達はついていく。
そして見覚えのある通りに出た。
「着いた! あの仔ウサギは絶対許さん! 兄者! あとリスとニワトリ! サポートは任せたでー!」
「待ってダリアちゃま!」
ダリアちゃまは、憎きウサタンを目前にして血が騒いだのか、先陣をきろうとしたので俺は呼び止める。
「どうしただ兄者? 敵を目前にビビっただかー? らしく無いでー?」
違う、そうじゃない。
「ダリアちゃまは奴ら、げっ歯類連合に狙われてるから、俺達の後ろに待機しててくれ」
「お、おう……たしかにそうだでなー? 一応、未覚醒だけど、私にも秘められ力あるんだけどなー、やれば出来る子なんだけどなー、やっぱ私じゃ無理だぞなー?」
ダリアちゃまは、身体を丸めて自分も前線に立てる力がある事をアピールしてくる。
そんな目で俺を見ないで!
こっちが悪いみたいじゃないか!
「コッコッコ、 そこまで自分を責める事も無いですよ? ダリア様は仲間を救うため、自国の民草に仇なす朝敵のもとに、自分の足で現場に来たではないですか? 愚僧はそれは素晴らしい事だと思いますよ!」
刻甲がダリアちゃまに、見た目には似合わないフォローを入れる。
「トリ坊主の言う通りだな! 王とは、常に周りを引っ張っていくものだ! 戦場に赴かず、一人遊んでいる王族貴族どもと比べたら、ダリアは立派だと、このドン・グリード様が保証してやる!」
刻甲に続くように、ドン・グリードもダリアちゃまを励ました。
「ええ、そうなんかー? そうだでなー? そうだぞなー!」
ダリアちゃまが元気になった。
「なんじゃこりゃ!? ぬぉおおお!!?」
宿屋の方から叫び事が聞こえた。
同時に何かが転がる音も聞こえた。
この声には聞き覚えがある。 アードバーグの声だ。
「今の音は、どんぐりが転がる音だな。 さては仔ウサギめ、俺のどんぐりを勝手に使いやがったな!」
ドン・グリードは、どんぐりの音が分かるらしい。
俺達は身を隠しながら宿屋に更に接近する。
俺はウサタンと、彼に洗脳されていたはずのアードバーグが戦っている所を目撃した。
アードバーグは無数のどんぐりの中に埋もれ、身動きが出来ないようだ。
「さてはウサタンのヤツ、どんぐりをばら撒きやがったな!」
ドン・グリードはこの状況を理解したらしい。
流石は木ノ実、どんぐりのエキスパートだ。
「どうします? アードバーグさんピンチみたいですけど、助太刀に入りますか?」
刻甲は錫杖を構え、飛び出す姿勢をとる。
俺も刻甲の作戦には賛成だ。
「いや、ちょっと待て!」
俺達二人は、ドン・グリードに呼び止められた。
「あの仔ウサギ、俺の格納庫から『ピョンギヌスの槍』を見つけやがった!」
ドン・グリードの顔が青ざめていた。
確かにウサタンは、漆黒の二又の槍を持っている。
なんだよ『ピョンギヌスの槍』って?
聖人を貫く『ロンギヌスの槍』的なものか?
かわいい名前してんな!
いや、名前が似てるからといって能力が似てる可能性は低い。
現に『エクスカリカリバー』と『エクスカリバー』
『ミェルニル』と『ミョルニル』
『アラーインスレイヴ』と『ダーインスレイヴ』
これらの伝説の武器は、全くの接点がない。
名前だけが似てるだけのパチモンという可能性の方が大きい。
「ピョンギヌスの槍』ってなんなんだ?
俺はドン・グリードに、ウサタンが持つ槍の詳細を訪ねる。
「あの槍は、神の加護を持つ者や、神から貰った力を貰った者の力を無効化させる力持っている。
その昔、神と魔族が争っていた時代に作られた物だ」
おいおいおい! ガチじゃねーか! 本家に勝るんじゃねーかピョンギヌス!
『神から力を持つ者』って、俺もそれに該当しますやんか?
『根っこ触手』とか『ネッコボルグ』とか『赤筋大根形態』や『わさび形態』が、あの槍の前では無意味という事だ。
「というか、お前そんな物をずっと持ってたの?」
俺はドン・グリードに質問する。
今ウサタンの手に渡っていなくとも、ピョンギヌスの槍が存在する時点で、俺達の勝算は無くなってしまう。
「ああ、そうだ! 凄いだろ! ヒパビパがピョンギヌスの槍の召喚に成功したんで、俺が『ピョンギヌスの槍』をウサタンから隠す為に、俺の格納庫に封印しておく事にしたんだ」
「なんでそんな事を?」
「ピョンギヌスの槍をウサタンが手にしてしまえば、げっ歯類連合が世界を牛耳る事が難しくなるからだ! ヒパビパもトトンヌも神の加護がある! それを無効化されるのは困るからな!」
ドン・グリードは、かなり動揺しているのか、ヒパビパとトトンヌの情報を提供してくれた。教えてくれてありがとう。
つまり、ヤバいのだな。
カピバラゴンとどっちが脅威となるのかはわからないが、トトンヌやヒパビパが警戒するあたり、ピョンギヌスの槍によって、げっ歯類連合が敗北する事もあるという事だ。
ピョンギヌスの槍は、俺にとっても邪魔な存在だ。
だが、ここは慎重にしなければならない。
下手な奇襲を仕掛けるのは三流のやる事だ。
それに関しては、ドン・グリードも刻甲、鳩尺様も同意見みたいだ。
「なーなー? 今こっちに気づいてないけー、チャンスだで?」
ダリアちゃまは状況がわかってないようだが、戦闘要員じゃないので無視。
俺は、アードバーグとウサタン、磨王vs魔王の行末を見守る。
そこで、彼らに動きがあった。
「な! あ、あの野郎!」
俺は見てしまった。
ウサタンが側にいたミーナちゃんに、ピョンギヌスの槍から、黒い霧を放ったのだ。
黒い霧はミーナちゃんを包んで行く。
あの仔ウサギ! ミーナちゃんに毒牙をかけやがった!
そこまで外道なのか魔王というのは!
しばらくして霧は晴れる。
すると、ミーナちゃんの姿は変わってしまっていた。
頭にウサギ耳、背中や肩、胸元が見える露出度が高く、ボディラインを引き締ませた衣装だ。 無論、下半身の露出度も高い。
ミーナちゃんは、バニーガールとなってしまったのだ!
それを見た俺は我を失うほど激昂した。
あのウサギは、ミーナちゃんの事をわかっていない。
清楚な大天使ミーナちゃんにあのような格好させるなんて畜生、下衆の極みである。
その後、怒りのあまり俺は我を失った。
気づいた時には、聖剣ラビ・ラコゼを持ち赤筋大根となり、ウサタンを根っこ触手で縛っていた。
更に罵倒を浴びせ、ホトトギスが鳴くまでウサタンを殴るという宣言をしてしまっていた。
『ここは慎重にしなければならない。
下手な奇襲を仕掛けるのは三流のやる事だ』
俺は三流だという事が証明されてしまった。
てへぺろォ!!!




