第81話 どちらかといえば、縛るよりも縛られたい
刻甲がクレアに斬られ、彼の巨体から鮮血が吹き出している。
「刻甲!」
咄嗟に刻甲の名を叫ぶ。
「問題ありませんよ!」
刻甲はその重症な見た目とは裏腹に、涼しい顔で、こちらにサムズアップしてきた。
「早いですね! しかもこれは痛いですよ! でも問題ありません! 愚僧は鳩尺様の力を使える破戒僧ですので! ……ココッ!」
刻甲が斬られた大胸筋や腹筋、広背筋に力を込めてポージングする。
すると刻甲の傷は完全に消えていた。
「やはりバケモノだな……」
それを見たクレアは呟いた。
俺もそう思う。
「ええ、愚僧は鳩尺様と融合しているので、実質バケモノです! でも何ら不思議ではない事ですよ! 破戒僧なので」
破戒僧万能説。
すごいなー、俺も破戒僧になろうかなー。
「だが、不死身ではないだろう? 魔力が無くなれば回復が出来ない。 ならば魔力が切れるまで斬り割いてやる」
思想がゴリラだ。
普段のクレアなら、浮かべないような不敵な笑みをうかべ、地面を踏み込み再び刻甲に斬りかかる。
「そうはさせませんよ! コココ……ッ!」
刻甲が消えた。
例の超加速によるものだ。
俺が認知出来ない世界で2人は戦っている。
それが分かるように、俺の周りで紫電が飛んきている。
音を頼りに俺も加勢しようと思ったが、奴らは、音速なんてスローモーションに見える程超高速、加速世界で戦っているだろうから俺は加勢できない。
2人は町のあらゆる場所を転々としながら戦っている。
もっとも、俺が彼らに追いつけるなど、ただの大根形態では無理だ。
「待てぇ! 待てったら待て! クソ大根!」
刻甲とクレアを追う俺を、シオンが追ってくる。
俺はそれを無視するも鬱陶しいので、根っこ触手で、建物をよじ登ったりして、三次元的に動くことにした。
「ああ!? そんなぁ!? この卑怯者ぉ!それは無しだろ!? 逃げんじゃねーよ! いや、逃げるなら地面を行けよ!」
シオンはそんな俺に抗議してくる。
お前、思考が獣人になってんぞ?
とまぁ、シオンが犬みてぇにワンワン無いてるが俺には関係ない。
加速した世界で戦っている刻甲とクレアを追うべく、紫電がほとばしっている辺りに近づいてみる。
2人は、戦いながら人気の無い町外れへと移動している事に気づいた。
刻甲は何も考えず、出鱈目に暴れ戦っていたわけではない。破戒僧だからな。
そして、勝敗が決まる。
何かが、岩盤にぶつかった。
「ど、どうやらここまでのようです! 明日は全身筋肉痛ですよ、辛いです!」
ついに2人が、俺が認知できる世界にもどってきた。
岩盤にめり込んだのは刻甲だった。
彼は、よろよろと身体を起こす。
しかしクレアによる追撃は来なかった。
彼女は、地面に突き刺した剣で体重を支えている。
息も乱れている。
彼女に纏わりついていた紫電が消えた所から、それなりに力を使っているのだろう。
「団長! これを!」
こんな時にシオンが合流してきやがった。
こんなに騒音撒き散らしてたら、そりゃあ、来るわな。
シオンは小石ほどの何かを懐から取り出し、クレアに向かって投げる。
クレアはそれを受け取ると飲み込んだ。
一呼吸を置くと、クレアの辛そうな表情が安らかなものへ変わっていく。
「助かったシオン。これでもう少し動けそうだ」
「援護は任せるっす!?」
合流したシオンとクレアは、俺と刻甲へと視線を向けた。
「どうやら、回復、疲労軽減アイテムのようですよ?」
態勢を整えた刻甲が俺の横に立つ。
鳩尺様の力のお陰で、致命傷は免れているが、刻甲の負担は少なからず本人にも溜まっているに違いない。
だから、次の手で勝負をつけよう。
「刻甲、クレアの足止めを頼む! 出来るか?」
「ええ、問題ないです。 おそらくクレアさんはもうさっきの技を使ってこないので足止めは大丈夫です! それよりもシオンさんは大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない」
刻甲と打ち合わせを終わらせると、刻甲は単身でクレアに立ち向かった。
それを、見てシオンが刻甲の妨害に入る。
そんなシオンの妨害を俺が妨害することにしよう。
根っこ触手を伸ばし、シオンを拘束する。
「こんなもの!……ぐぬぬ、解けない!?」
ふはははは!
洗脳されウサタンの力の一端を使うシオンにとって、赤筋大根の力を使えない俺の根っこ触手を千切る事は簡単な事。
そのため根っこ触手を、編んで丈夫にしてみた。
これで簡単には拘束を解く事は出来まい!
シオンを縛って放置している隙に、刻甲がクレアの足止めをしてくれている。
刻甲は、クレアの使う稲妻の耐性が高いようだが、俺は通常形態では雷や熱に弱いのでクレアには下手に近寄れない。
俺は根っこ触手でクレアの手足を掴みにかかる。
聖剣を持つクレアの右腕を根っこ触手で掴む事が出来た。
このままクレアの動きを止める。
しかし彼女は、そう簡単に大人しくしてくれない。
クレアは聖剣から放電し、縛られている手甲に稲妻を纏わせた。
「痛っ!?」
稲妻が根っこ触手を一瞬で焼き尽くした。
その際に俺自身にも、わずかながらに電気が流れてきた。
瞬時に根っこ触手を切り離したから良かったものの、あと少し反応に遅れていれば、黒コゲ大根になっていただろう。
「愚僧が動きを封じます!」
刻甲がクレアに向かって走りだす。
クレアは、突っ走ってくる刻甲に、電撃を放って迎撃するも、決定打にはならない。
「ぐふっ!?」
クレアの電撃が刻甲を倒すよりも先に、刻甲のタックルがクレアを打ちのめした。
体重差には勝てず、クレアは弾き飛んだ。
しかし聖剣を離さない。
クレアは瞬時に受け身を取り、顔の側面に、両手で剣を構える。
更にそこから地面を踏みしめ、大きく加速する。
加速する、はずだった。
「なんだと!?」
クレアは動けなかった。
それは何故か?
答えは、僕ちゃんがいつのまにか仕掛けておいた根っこ触手の罠によって捕らえたからだ!
いつ罠を仕掛けただと?
……そんなこと俺が知るか!
クレアよ、再びこの罠に引っかかるとはなさけない。
クレアは足に絡みついた根っこを電撃で焼こうとするが、とある事に気付き放電を収める。
根っこ触手は彼女の防具内部まで浸透している。下手に放電すれば、クレア自身に危害が及ぶ。
前方には強大な体格とオーラを持つ刻甲。
そんな奴に隙を与えてはならないという一心からか、クレアは急ぐように、剣で地道に根っこを斬っていく。
その時、クレアは根っこ触手を切るという事と刻甲の様子ばかりに、意識を集中させていたせいで、もう一つ大事なものを見落としていた。
「やぁ、その聖剣、俺にくれないか?」
「!?」
俺はクレアの耳元で囁いた。
クレアが根っこを斬るため稲妻を引っ込めてくれている間に、俺は彼女の背中によじ登る事に成功。
俺はクレアの持つ聖剣にしがみつく。
「この! 離せ!」
「ムリダナ」
クレアは俺を手をバッテンにして、クレアの要求を却下する。
クレアは聖剣から俺を引き離そうとする。
でも残念。
聖剣に触れた時点で、俺の勝利なのだ。
これでチェックメイト!
対局ありがとうございました!
クレアの持つ聖剣ラビ・ラコゼは、エクスカリカリバーやミェルニル、アラーインスレイヴと同じで、超常的な能力を秘めている伝説の武器なのだ。
つまり、この聖剣を握った事で、俺は『赤筋大根』に変身できるのですわ〜!
爆風が発生した。
零距離で発生した爆破には防御を取る事が出来ず、クレアの体が大きく転がる。
聖剣は俺が根っこ触手で持っている。
今のクレアは完全フリーハンド。
「びぇええええん! 大根がいぢめてくるぅうう! うぇええええええ!」
聖剣を手放したクレアは、俺の予想通り、ワンワンと泣きだした。
これにて、2人目の無力化に成功!
「て、てめぇ! よくも団長を泣かせたな! 許さねぇ!」
どうやら、あの根っこ触手の拘束からシオンが抜け出して来たらしい。
シオンは、クレアを泣かせた俺に対して、親犬みたいにワンワンと吠えている。
まぁ、残ったコイツの無力化は簡単だ。
赤筋大根になれたので、気に止めるほどじゃないが、一応油断大敵だ。
シオンにも大人しくなって貰おう。




