第75話 仔ウサギが…舐めてると潰すぞ…!
俺とミーナちゃんが見つけた宿で、それぞれ体を休め、あっという間に夜が明けた。
この宿にくる間も、ダリアちゃまはシオンにべったりとくっついてたようだが、シオンは大丈夫だろうか?
ダリアちゃまはシオンを独占しようとしている。
下手をしなくても、今後のげっ歯類連合幹部との戦いで、支障をきたしてしまう事も十分にあり得る事だ。
この事は、皆と相談した方がいいかもしれない。
俺は宿というより、そこらの地中で一夜を過ごし、仲間達と合流するため、宿屋のロビーに向かった。
扉を開けると、ミーナちゃんやシオン達の声で、賑わっていた。
その他の宿泊客も何かに惹きつけられるように、集まっているようだ。
俺は気になったので、彼女らに近寄る。
「おはようミーナちゃん! 何かあったの?」
「あ、デロちゃんおはよう、見てくださいこのウサギ人族の子を」
ミーナちゃんに声をかけると、どうやらこの騒ぎの発端と思われる獣人の元に通された。
俺とほとんど同じ大きさのウサギ人族が目の前にいる。
純白な体毛に覆われ、長い耳と赤い瞳が特徴的なウサギもとい、ウサギ人族が、鼻をピクピクさせながら、こちらを見つめる
「げっ歯類連合によって親御さんと離れ離れにされたらしいっす!」
シオンがウサギを抱き上げながら、説明してくれた。
確かに、モフモフしてて可愛い。
獣人族とは呼ばれているが、多少大きいウサギにしか見えない。
月で餅を突いていそうな感じのウサギにしか見えない。
しかし何故だろう?
このウサギを見ていると、無条件でモテるイケメンを見てるような嫌悪感が沸いてくる。
そんな事を考えていると、ウサギは視線をこちらから背けた。
嫌悪感が顔にまで出てたのだろうか?
気づけば、ウサギの周りに沢山の女性達が集まっていた。
もちろんその中には、ミーナちゃんやクレアにシオン、レイラもいるようだ。
彼女らはウサギ人族の子に心奪われてしまっている。
「おお、此奴はかわええのぉ、坊主、どっから来たんじゃ?」
「わかんない、パパとママと離れちゃったから、僕、どうしたらいいのかわかんない……」
女性だけでなく、アライグマ人族の王であるアードバーグも、ウサギの虜にされていた。
ウサギの子は、皆の質問に、ぎこちなく応えていく。
「なぁ? クレア、シオン? そろそろ旅路の準備を……」
「すまないダイコン、もう少し待ってくれないか? シオン!私にも抱かせてくれ!」
「デロ先輩、急がなくてもいいと思うっすよ! それよりこの子かわいいっすよ!」
ええ……、ちょっと、ウサギに夢中になりすぎじゃない!?
俺の方が可愛いぞ!
クレアでさえウサギに心奪われているから、ほとぼりが冷めるまで待たなくちゃダメかもしれない。
「耳も足も柔らかくてかわいいぞなー!」
レイラもか!?
お前も、ウサギにゾッコンか!
レイラもミーナちゃんもウサギの術中にはまっている!
やはり女の子は、可愛い小動物に吸い寄せられる運命にあるのだろうか?
「お、俺もかわいいだろー! 」と、叫びたいが余計に虚しくなるだけなので自粛しておこう。
そして事件は起こった。
ミーナちゃんが……!?
ミーナちゃんが…………!!?
「どうした先を言えよ?」と言われても仕方ないほど俺を動揺させる事件が起こった。
ミーナちゃんが……、ウサギを抱き上げてる!!!
「ぼ、僕の(特等席)だぞッ!?」
あまりにも唐突な出来事に、美食家みたいに叫んでしまった。
ミーナちゃんに抱き上げられるのは、俺の特権やぞ! それを貴様ァ!ウサギ風情がぁ!
「デロちゃん、嫉妬ですか〜。 我慢してくださいよ〜、えへへ〜」
ミーナちゃんは、にやけながら呟く。
なんだろう? この喪失感。
まるで、弟や妹が生まれて間もない頃の兄姉のような感覚はッ!?
今まで、自分だけが独占していた愛情を、よく分からない新参に削がれたような気持ち。
俺が、ヤキモチを焼いているのか? 子ウサギ如きに?
そんなバカな! 転生する前は、もう高校生だぞ? 思春期も終わるような年やぞ?
子供みたいに嫉妬してるのか?
「いやぁああああ!!?」
俺は自分の感情を受け入れられなかった。
自分の情けなさが認められず、彼女達から逃げるように、宿屋を飛び出した。
俺は外に飛び出すやいなや、呆然と立ち尽くした。
なんか何も考えたくない気分だ。
ふて寝しないが、起きたばかりなので意味がない。
こう言う時には、ウサギに対する憎しみを込めて、何か呟きたいものだ。
何か、良い台詞は無いだろうか?
「 仔ウサギが……舐めてると潰すぞ……!?」
そう、それそれ!
……って、誰だ?
俺は声の聞こえた方に視線を移した。
「あの野郎……、私の、新お母様を奪いやがった」
俺の目の先には、何やら只ならぬ邪悪なオーラを纏った褐色少女がいた。
「あ、ダリアちゃまだ!」
俺はダリアに朝の挨拶をするも、彼女の眼中に俺は入って無いようだ。
ダリアは親指の爪を噛みながら、怨念や憎悪、嫉妬の篭った眼光をウサギがいるだろう方向に向けている。
そういえば、あのウサギの周りにダリアちゃまは居なかったね。
俺より闇が大きいダリアちゃまの姿を目にしたことで、逆に正気に戻れた気がする。
俺は、こっそりと窓からウサギとその周りに集うミーナちゃんやシオン達を観察する。
「ちっ……見れば見る程、憎たらしい! 妬ましい! 」
いつのまにか、俺の背後で、ダリアちゃまもウサギ達の様子を見ているようだ。
「無条件で愛される奴は嫌いなんだよ……!」
そんな君には、丑の刻参り初心者用、スターターデッキをプレゼントしてやろう!
ダリアはずっと小声で「妬ましい、妬ましい」と呟いている。
グリーンアイの橋姫かな?
ダリアちゃまの目は完全に血走っている。
何をいつ何時、何をしでかすかわかったもんじゃない。
「絶対、あのウサギはげっ歯類連合に決まっとる! 今すぐ化けの皮を剥がしたるでー!」
俺は、何をしでかすかわからないと言ったが、流石に今、やらかすのはヤメテヨー!
心の準備出来てナイヨー!
ダリアちゃまが、宿屋に突貫した。
「おいバカ! そんな派手な事したら、姫だとバレるぞ!」
全然レイラと似てないと思っていたが、無策で突貫するという共通点があるので、やはり血を分けた双子の姉妹なのだと、俺は納得した。
俺はネッコ触手で、ダリアちゃまの動きを止めたが、既に突入した後なので、もう意味ないや。
ロビー内の人々の視線がこちらに向いた。
ダリアちゃまの正体がバレて大騒ぎ!
とはならなかった。
不気味なほどに静かだ。
「どうしたんですか?」
そんな中、ミーナちゃんがウサギを抱き上げながら、こちらへ歩みよってきた。
「ダリアさんもデロ先輩も顔色悪いっすよ? どうかしたんすか?」
シオンも俺達2人を心配してか、近づいてくる。
「何って! そのウサギは絶対危険だで! 離せ!その前歯から考えて、 きっとげっ歯類連合の刺客に違いないで!」
ダリアが声をあげると、子供の冗談に対するような笑い声が、ロビー中に響いた。
「何言っとるだいや? ウサギはげっ歯類じゃないで? そうだでな、ミーナ?」
レイラはダリアを呆れた様子で諌める。
てっきり、ウサギはげっ歯類だと思ったていたが違うのか?
「そうなのか、ミーナちゃん?」
レイラ同様、俺はミーナちゃんに質問してみた。
「両者は門歯(前歯)が伸び続けるという特徴がありますが、ウサギはげっ歯類ではないんですよ〜。
まず、ネズミなどのげっ歯類は、歯が上下2対の、『単歯類』と呼ばれる動物です。
それに対して、ウサギは、上下2対の前歯の他に、上前歯の奥にもう2本の前歯があるんです。それがげっ歯類との決定的な違いなため、ウサギは『重歯類』と呼ばれる種類の動物なんですよ〜。
そもそも、この『ウサギ目』『げっ歯目』が似てるのは、『グリレス大目』という、ヤマネという共通の祖先がいて〜……」
「なるほど、わからん!!!」
ミーナちゃんの解説を聞いてると眠くなって来たので、この辺で打ち切らせて貰おう!
「イヌとネコくらいの違いだと思ってください」
ミーナちゃんが、らしくなく妥協した。
ミーナちゃんの説明はよくわからなかったが、言いたい事はわかった。
「つまり、ウサギは、げっ歯類じゃないから、連合とは関係ないと言いたいんだな!?」
「はい」
俺の問いにミーナちゃんは素直に答える。
その理屈だと、キツネ人族はどうなるんだよ?
言い訳がミーナちゃんにしてはガバガバだな……。
ミーナちゃんは相変わらず、笑みを浮かべている。
しかし、よく見るといつもと違う。
普段の彼女の笑顔の奥には、必ず『何か』が潜んでいる。
しかし、今のミーナちゃんからは何も感じない。
彼女の笑顔のその奥には何もないのだ。
俺は同様にレイラやその他、ウサギを囲っていた者達の目を見る。
俺は異変を感じた。
「なぁ? お前って本当にただのウサギ人族なのか?」
俺は視線をミーナちゃんの腕の中にいるウサギに移し、質問した。
彼は俺と目が合うと、視線を外した。
「なんのことか、わかんないなー」
ウサギはとぼけた様子で幼稚な声で答える。
「ぐぬぬ、貴様ぁ……! 返せよ! 私のシオンを! 聖域を返してぇええ!」
ダメだダリアちゃま!
ザビーゼ○ターを返して欲しそうに言っても無理だからな!?
ウサギの神経を逆なでするような声に、ダリアちゃまが敵意をむき出しにして、ウサギに飛びかかろうとしたので、俺は根っこ触手で彼女を縛り、静止させる。
ウサギは俺とダリアちゃまのどちらも見ていない。
俺達の事をそこまで見たくないのか?
ウサギは、どこからか取り出したのかわからない木ノ実を食べながらレイラに手を振る。
とことん舐めた野郎だな。
このウサギみたいな、人を見下してくるあざとさは俺は嫌いだ。
逆にミーナちゃんのような、闇を飼いならしてそうなあざとさは大好きSA☆
「うるさいなー、もういいよ。そこの君? この不埒者を捕まえろ」
「わかったでー!」
ウサギがレイラに指示を出すと、彼女はそれに従った。
瞬間、レイラの目が、怪しく赤く光った。
レイラがこちらに視線を向けると、瞬時に彼女が消えた。
「速っ!」
レイラの動きが、俺の知っている何倍もの速度で動き、俺は反応が遅れてしまった。
ここに来るまでに、技を磨いたという事なのだろうか?
その成果をこんな形で使われるなんて、思っても見なかったが。
気づけばレイラは、ダリアちゃまの首筋に短剣を突き立てていた。
レイラは暗殺者だが、そんな殺意の高い事はしないはずだ。
レイラの目はいつもと違う。
ウサギみたいに赤くなっている。
俺はウサギの方をみる。
ウサギの目もレイラと同調するように怪しく光っている。
「もしかして、洗脳か!?」
俺は察した。
レイラやミーナちゃんは、このウサギに洗脳されたんだと。ウサギに向けて俺は確認する。
「うん、そうだよ。 げっ歯類連合の幹部なんだから、そんくらい出来て当然でしょー?」
ウサギは認めた。
というか、やっぱりげっ歯類連合の一員だったのか。
ウサギ目だの重歯類だの小難しい言い訳しといて、あっさりゲロるんかい!?




