第73話 Q.レイラの本名ってなんだっけ……??(笑) A.ごめん、覚えていないwww
どこからだ?
俺は突然、近くから聞こえた獣の咆哮の出所を突き止めようとしていた。
俺は周囲を見渡す。
どこにも、鳴き声の主はいない。
空を見上げるも何もいない。
だが声は近かった。
となると、声は下から聞こえた事になる。
「ぎゃおおおおおおおおおおおお!!!!」
何かが足元から現れた。
その何かは、ビビンバが作った橋を、粉微塵に破壊し、その身を陸上に、俺達に晒した。
「おお、やっと起きたか! カピバラゴン!
ビビンバが、それに声をかける。
「カピバラゴン!!?」
そう、川の底から現れたのは、カッチョパッチョ大王と竜の子で、世界蛇を屠った邪竜という神話時代の生き残り、邪竜カピバラゴンであった。
俺はカピバラゴンの突然の出現に、川に浮かぶ板に捕まりながら、驚き固まった。
カピバラゴンを見るのは、ネスノ村以来となる。
あの時は、リラックスしてそうな見た目だったが、今は違う。
寝起きのせいか、若干、凶暴と化している。
「ぐるる〜……」
「あ、ども」
カピバラゴンと目が合った。
その瞬間、好きだとは気づきたくない。
カピバラゴンは二足歩行に移り、右手(右前脚)をあげると、そのままこちらに振り下ろしてきた。
これ、マジやばくね?
バッチャーン! と音を立て、カピバラゴンは俺めがけて水面を叩いた。
その衝撃で俺は飛ばされ、シオン達がいる岸に落下した。
カピバラゴンはそれで満足したようで、これ以上追撃してくる事は無かった。
「じゃあな、大根! 次会える時を楽しみにしてるからなー! ワッハッハ!」
ビビンバがこちらに手を振りながら、機嫌が優れないカピバラゴンの背中に飛び乗った。
カピバラゴンは機嫌が悪かったが、ビビンバが乗ると、大人しくなり、翼を羽ばたかせ、川下の方へ飛び去っていった。
「で、デロ先輩……!? カピバラゴンがなんでここにいるんすか!?」
一部始終を見ていたシオンが声と体を震わせながら、俺に質問してきた。
「そんなの俺が知りたいよ〜! コロサレルカト、オモタ!」
「「ひぃ〜〜」」
俺とシオンは緊張の糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
ひと段落ついたと思いたいが、問題はまだ残っていた。
「げっ! レイラがなんでこんな所におるだいや!」
「なんでって、そりゃあ、バーディアをげっ歯類から助けに来たに決まっとるがん!」
「絶対嘘だで! また私の邪魔をしに来たにきまっとる! 父上に自分だけ良い所を見せようと、戻って来たに決まっとるっちゃ!」
「何言っとるだいや! 私はそんな事せんで! ダリア姉こそ、なんでこんな所におるだ?」
「うるさい! お前失せろいや! 目障りだっちゃ! 私の視界に入ったら許さんけぇなー!」
なんかレイラと『姫』と呼ばれていた人物が、バーディア語で、姉妹みたいに喧嘩してるぞ?
なんか『姫』という子から面倒臭いオーラを感じる。
「な、なぁ、レイラ? その人とは知り合い?」
俺は言い争う2人の間に入る。
こういう時は、敢えて空気を読まずぶち壊す方が良い。
「一応、私の姉だで。 それでなー、この国の姫でもあるだがー」
つまり、ビビンバに追われていたのは、バーディア国の姫ってこと?
しかもレイラは、その妹だと!?
……マジで? アライグマに洗われるまで、みすぼらしいマントを羽織っていたレイラが、王族の血筋だったのかよ!
そんなの分からんわ!
「シオン、知ってた〜?」
「は、初耳っす! レイラ、どういう事っすか!」
話をシオンにも振ってみるが、彼女もレイラの素性について知らないらしい。
俺、レイラに盗賊の件でトラウマ作っちゃったよ!?
打ち首不可避!
そもそも大根の首ってどこ!?
これでわかったが、レイラがバーディアに来てから顔を隠してた理由は、姫だと勘違いされる事を防ぐ事が目的だったのだろう。
「うむ、納得がいかんけど、一応、命の恩人には感謝はせんといけんな。 ……我はバーディア国王ファルボド・アスファの娘、ダリア・ビント・ファルボド・アスファだで!」
ダリアは、俺とシオンに向かい、ご丁寧に挨拶をこなす。
俺とシオンもそれに準じるように挨拶をした。
シギアゲートの時より思ってたが、誰も俺の姿を見て驚かなくなってきたな。
ダリアはレイラと瓜二つの顔をしているが、ショートヘアのレイラとは逆に、切り揃えた前髪と長い黒髪が特徴だ。
身なりにしても、レイラとは対照的に、王族感を隠しきれていない、お上品な格好をしている。
おそらく、ダリアとレイラは一卵性双生児だろう。
なお、妹のレイラは澄んだ表情をしているが、姉のダリアは、不機嫌そうに眉間にシワを寄せている為、常にメンチを切っているような目つきに見えなくもない。
この2人にはギャップがありすぎるので、見分ける事は簡単なのだ。
「まさか、レイラが王族だったとは……」
俺はレイラに視線を移しながら呟いた。
「言ったら、絶対距離を置かれるけぇ、言わんに決まっとるがな。それに、最初名乗った時に王族の姓も言っとったけど?」
あー、確かにレイラのフルネームを聞いたな。
長くて覚えてない。
「シオン、レイラの本名覚えてる?」
自分の無知を隠すように、シオンにキラーパスを送る。
「え、えーと、……ごめん! おぼえてないっす」
シオンも覚えていないのか!
あんなに旅路仲良くしてたのに!?
その一言に、レイラが口をパクパクさせながら同様している。
既に知っていると思っていたようだ。
「だ、大根はわかるでなー!?」
レイラが、突如俺の体を鷲掴み、唾がかかる勢いで尋ねられる。
「ごめん、覚えていない」
俺は素直に答えた。
「レイラ・ビント・ファルボド・アスファだで! 覚えといてーな!」
レイラ氏、珍しくムキになる。
確かに名前覚えられてない事はショックだね。
今度から気をつけよう。
「ところで、ダリア姉……ダリアはこれからどうするだ? 護衛の人がノびたままだけど?」
レイラが、カピバラゴンが水面を叩いた勢いで、岸に打ち上げられ、干からびそうな感じで気絶している戦士のおっさんと、魔女のねーちゃんを指差しながら、ダリアに問う。
「そのままでいい」
いいんかい!
「貴女様は、如何して、ビーバーに襲われていたのでせうか?」
俺は王族である、レイラとダリアに、敬意を示して畏れ多くも質問してみた。
「ダイコン、気ぃ使わんでいいで! いつも通りで頼む! 私もダリアも、固いのは好きじゃないけぇな」
俺の改まった態度にレイラは困惑する。
気を使われるのは、相当好きじゃないらしい。
「妹はいいぞな〜。 好きに冒険できて」
「なーなー? ダリアはなんでビーバーに追われとっただ?」
レイラに、ダリアは皮肉を言うも、レイラはこの程度の煽りに乗らない。ダリアは撃沈した。
「その……聞く所によると、王宮がげっ歯類連合に完全に乗っ取られた……らしいぞな。 それに、国家叛逆のハダカデバネズミ人族のテロリスト、カクサヌ・ゼン・ラディンが解放されたらしいで」
ダリアは自分が追われている理由をわかる範囲で説明した。
彼女のテンションが低いのは、身内の命がげっ歯類連合に委ねられているからか、レイラを挑発するのに、失敗したせいかは俺には検討がつかない。
「なぁ、ダリア? これはチャンスかもしれんで!」
「チャンス?」
レイラがダリアにとある案を出す。
「父上は、長子という理由でダリアに厳しいけどな、それは期待しとるって事だがな」
「そんなん知らんし、私は父上じゃないし、姉になりたかった訳じゃないが! 誰も私を愛してくれんだがぁ!!」
ダリアという娘の拗らせ方は、そう簡単に治らないだろう。
双子といえど、姉という事で責任感ある子に育って欲しいと、親御さんは願ったのだろう。
その計画は失敗になってる訳だが。
ダリア様というより、ダリアちゃまの方が合ってるな。
そもそも、長子ってそんなに大変なの?
ぼく、一人っ子だったから、そこんとこ、わかんなーい!
ネスノ村の、大根の兄弟達はどうかだって?
……皆殺しにするくらいに愛着なんて無い!
まぁでも、ここまで愛を知らずに育ってしまった姿をみてしまうと、同情してしまうよね。
ここは思いっきり抱きしめてやろうか!?
「ダリア姫ですっけ? 少しいいっすか?」
「え?」
俺より先に、シオンが動いた!
「何かあれば、オレ達が力になるっすよ! 辛い時は話しに乗るっす!」
シオンがダリアを抱きしめた!
「お、おぉ〜!? おわわわわわ!??」
シオンによる突然のハグに、ダリア姫は情報処理が追いつかず、感電したように痙攣しはじめる。
シオンは剣を失ったクレアちゃんをあやすのが得意だからな!
母性力が強いシオンを前にすれば、愛を知らぬダリアを手懐けるなど、赤子の手を捻るように簡単な事なのよ!
「ぬぁああ!? な、何をするだいや! はーなーせーや!」
ダリアは顔を真っ赤にし、シオンを引き剥がす。
「照れる事ないっすよ! オレたちは仲間っす!」
シオンは再び、ダリアを抱きしめる。
いいぞシオン、もっとやれ!
尊い!最高に尊い!
尊すぎて心が蒸発するどころの話じゃねぇ!
俺の心は、今にもプラズマ化しそうだぁ!
「離せっていっとるが!」
顔と耳が、面白いくらい赤くなったダリアがシオンのハグから抜け出した。
「に、二度も抱きしめたな! お母様にも抱きしめられた事無いのにぃ!!!」
ダリアは泣きながら、天パのニュータイプみたいな事を叫んだ。
……なお、内容は180度違う模様。
「びぇええええええん! もうやだー!」
「ダリア姉、どこ行くだいな!? 危ないでー!?」
「レイラ! ダリアちゃんを追うっすよ!」
ダリアは泣き叫びながら、どこかへ走り去っていき、彼女を追うようにシオンとレイラが走りだす。
気づけば俺は一人となってしまった。




