第72話 ビーバーサーカー
どんな攻撃を食らおうと、そのビーバーは怯まない。
今まで戦ってきた獣人達は、避けるなり防ぐなり、行動を起こしてきたが、このビーバーはそういった事をしない。
俺とシオンは、レイラのはやとちりにより、ビーバーに襲われる『姫』と呼ばれる人物を助けることにした。
レイラはお得の目にも止まらぬ素早さを活かし、走るビーバーに足払いを仕掛ける。
しかし、いつぞやの『ビーバーに似た獣』のようにはいかなかった。
逆に、足払いをしたはずのレイラの方が、飛ばされていた。
ビーバーはレイラを飛ばした事に気付いていないのか、彼女を気にも留めない。
レイラは態勢を整えると、懐から投げナイフを取り出し、ビーバーに投げつける。
ナイフはビーバーに突き刺さった。
しかしビーバーは気づかない。
ビーバーの眼中に、レイラは入っていなかった。
ビーバーは止まらない。
なお走り続ける。
「こらまてー! 待たんかー!」
陸上では動きが鈍いという特性のお陰か、ビーバーと『姫』の距離間は均衡したままだ。
レイラだけで、なんとかなると思っていたが、あのビーバーが余りにも特異すぎるので、ここから俺も戦いに介入しよう。
俺は根っこ触手を伸ばし、ビーバーを拘束する。
「おお!? ぬぬ……、邪ぁ、魔ぁ……ダァ!!」
ブチブチと嫌な音が聞こえた。
ビーバーは、根っこ触手に拘束されても、止まらない。
根っこ触手を引きちぎり、ビーバーはしつこく前進する。
「う、うっそだろ〜!」
根っこ触手の拘束はほぼ無意味だ。
ミーナちゃんは、どこで覚えたのかわからない脱出技で根っこ触手の拘束から免れた。
だが、このビーバーは、単純な力のみで拘束を解いた。
そんな事する奴は、地獄のピクニックの時の『まちょ』だけだ。
あのずんぐりむっくりの身体のどこに、そんな力があるのだビーバーよ。
もう、笑うしかねーよなぁ!?
こいつビーバーを元にして作られたターミネーターか?
そうじゃなければ、目的完遂するまで決して止まらない、ミーナちゃんに匹敵するレベルの狂戦士だ。
名付けて、ビーバーサーカーと言ったところだろう。
「くたばれクソネズミ!」
ビーバーの動きを封じる事は出来なかったが、大きな隙は出来た。
その隙をつき、シオンが大剣を垂直に振り下ろす。
ガギーン! と耳障りな金属音が辺りに響きわたる。
「邪! 魔! だ! この犬……!? いや、ヒト? 毛虫? ……??? ……ええい! もうなんでもええわ! どけー!」
ビーバーが大剣を豪快に振り回す。
するとシオンの身体が軽々と宙を舞い、川へとバチャーンと落ちた。
シオンは呆気なく敗れた。
しかし、チャンスは出来た。こちらに流れが渡った。
ビーバーの死角から迫ったレイラが、短刀をビーバーの脇腹へ突き刺した。
「おお、以外といい動きするじゃねーか、マヌケぇ!」
ビーバーはレイラをやっと認知した。
彼は平たい尻尾を振り、レイラの横腹を引っ叩く。
レイラは態勢を崩す。
今のビーバーは俺に気付いていない。
俺は根っこ触手を束ね、シンプルにビーバーを殴った。
「おお!? 大根! 貴様が例の野菜獣大根か!? 会いたかったぞ!」
ビーバーと目が合うと、彼は嬉しそうに話し始めた。
殴られた事など、彼にとってはどうでも良いらしい。
「俺の弟子、ヌーターンが世話になったそうだな? その謝礼はちゃんとせねばならんなぁ!」
ヌーターンが弟子?
ビーバーの目つきが変わった。
ビーバーは『姫』を追いかけるのをやめ、目標を俺に変えたようだ。
ビーバーがエクスカリカリバーを振りかざすと、亜空間から木材が出現し、無数の木材は、俺に向かって飛んできた。
根っこ触手で木材を捌き、根っこ触手を束ねビーバーを殴る。
「……」
ビーバーの顔面を殴った。
まるで地面を殴った感じだ。
ビーバーはビクともしない。
ビーバーは怯みもしなかった。
「ダリアね……いや、姫! 待ちんさいな!?」
未だ走り続ける『姫』をレイラが追いかけていった。
「デロ先輩! そのビーバー只者じゃないっす! なんていうか、『山』みたいっす!
ウミガメのように這いながら、揚陸してきたシオンが、声をかけてきた。
その事は既に身を待って体感した。
このビーバーが、魔術の猛攻に晒されても平然としてた事はわかった。
「ヌーターンの師匠だと?」
俺は、確認するように、ビーバーに問う。
さっきからずっと気になっていた事でもある。
「おうとも! 俺はヌーターンの師で、奴にエクスカリカリバーを渡した建聖ビビンバというもんだ! もっとも、今は俺に無理やり返却させたがな! ワッハッハ!」
建聖ビビンバ、この町を支配しているビーバー人族である。
俺達が出会ったのは、ご本人だったという事だ。
実力からみて、トトンヌやドン・グリードと同格だ。
もっとも、頭の方はドン・グリード並みかもしれないが。
「つまり、お前はげっ歯類連合幹部なのか?」
「そうだ!俺は、 七幹部が一人、『暴食』を担当する事になった建聖ビビンバだ!」
ビビンバは、こちらの質問に、素直にあれこれ喋ってくれた。
ただ色々とカオスだ。
「ちなみに『暴食』と言っても、俺はそこまで食べんぞ!どちらかと言うと食は細い! 丁度幹部が7人だから、トトンヌが七大罪を推してきただけだからな! ワッハッハ!」
意味無いんかい!
「ちなみに、お前達が戦ったドン・グリードは、そのまま『強欲』を担当してるぞ!」
そこは普通なのか。
「その過程で、誰も『色欲』を担当したがらないのだ! だから、今は『色欲』担当はおらん! ……どうだ大根!? 今、俺達の仲間になれば『色欲』担当になれるぞ!?」
「結構です。お断りします」
俺はビビンバの誘いを丁重に断った。
色欲の大根とかナンセンスすぎるだろ。
俺は再び、ビビンバと戦いに戻ろうと、彼から距離を開け始める。
下手に近くにいては、いくら陽気な性格したビーバーといえ、何をされるかわからん。
「お! もうこんな時間か!」
俺は、緊迫した空気を作ろうとしていたのに、ビビンバはその努力を軽々と壊した。
「すまぬな大根! 今日は昼から捕らえたオポッサム人族の収容ログハウスを作る予定なのだ! それに、その『姫』がお前達といれば、いずれはまた逢えるっちゅーもんだ! さらばだー!」
ビビンバは川に飛び込んだ。
そう簡単に逃がすと思う???
僕はそう思って欲しくありません!
「逃がさんでー!」
レイラやアードバーグの口調が感染ったのか、俺は中国地方風方言を放つと、ビビンバを追って川に飛び込んだ。
バカめ! いくらビーバーが泳ぎが得意とはいえ、水中に潜った俺は、わさび形態というマグロ人族さえ瞬殺する力を使えるのだ。
そう簡単に逃げられると思うなってんだ! へっへっへー!
俺はビビンバを追うように、川に飛び込んだ。
わさびに転身し、ビーバーを追う。
わさびになれる時間は限られている。
ここは『水中にて最強!』わさびの力を存分に奮ってやろう。
ビビンバを目視にて確認、及び射程圏内に入った。
わさびの弾丸を生み出し、ビビンバに向かって撃ち出す。
もちろんその攻撃に、ビビンバが気づいていないはずがない。
「ボゴボゴボゴ! ボゴ!(しつこいと女に嫌われっぞ!)」
「ボゴゴボゴ!(やかましい!)」
水中なので、ビビンバが言っていることは良く聞き取れなかったが、言いたい事は分かってしまったので、瞬時に反論してしまった。
ビビンバは、俺が放った通称わさび弾を、見事な遊泳能力で躱す
ミーナから聞いた事だが、ヌートリアにビーバー、そしてカピバラという大型げっ歯類は、泳義に関して高い能力を秘めている。
実際に、ヌートリア人族のヌーターンは、ワニを凌ぐ速さで泳いだ。
その中でも、ビーバーはダムや巣を作るため、木枝を担ぎ泳ぐ事が出来る。
それほどにパワフルな動物だ。
よって、わさび弾を躱したビビンバから即座に反撃がきた。
ビビンバはエクスカリカリバーから、お馴染みの三日月状の斬撃を飛ばす、
俺はわさび弾を飛んでくる斬撃にぶつけて相殺させる。
わさび弾が、相殺された事で小規模の爆発が発生。
「辛ッ!?」
ビビンバの体内に、爆風に乗ってきたわさびの破片が入った事で、自身の体を水上に飛び上がらせた。
わさび形態が『神をも殺す』と言われてたのは伊達じゃない。
やはり、わさびは体内のどこに触れても、無条件で、五感に刺激を与える。
流石のビビンバも、わさびの辛さにはおったまげたのだ。
俺は宙へ飛んでったビビンバを追うように、飛び跳ねる。
陸上に上がってしまったので、俺は、『わさび形態』から『わさび大根形態』に変化。
わさびが混入したネッコボルグを生成し、ビビンバになげつける。
しかしその一撃をビビンバはエクスカリカリバーで防ぐ。
ビビンバの五感は正常に戻っていない。
けれど、ヤツは俺の動きを感で捉えきっている。
こうなったら、ひたすらごり押しだ。
再びネッコボルグを生成し、ビビンバになげつける。
するとビビンバは木材を召喚し、瞬時に砦を築き、ネッコボルグの攻撃を防ぐ。
俺はビビンバが作った木製の砦に上がり、ヤツがいるであろう頂上目指して登っていく。
「ふっはっはー! ひっかかったな!」
ビビンバと目があった。
この短時間でヤツの視神経は正常に戻ったようだ。
ビビンバがエクスカリカリバーを天に突き上げる。
すると、俺が立っている足場を中心に、砦が崩れだした。
ビビンバは意地でも俺に捕まりたくないらしい。
どんだけ帰りたいんだ?
砦が崩れた。 そう思っていたが、実際は違った。
砦を築いていた木材が俺の動きを封じるように、覆いかぶさってきた。
すると、木材は型を変え、俺を包んだ形で木箱になった。
迷いなく、俺は木箱を破壊し、脱出を試みる。
木板を圧縮して作られてるせいか、普通よりも硬くなってはいるが、接着面は脆いので、ネッコボルグを突っ込み、テコの原理で脱出した。
「おお、もう脱出してきたんかぁ!」
ビビンバは俺が木箱に閉じ込められている間に、木で橋を作り、向こう岸へと渡っている。
こちらが、追いやすいように、わざわざ橋を作ってくれるなんて、親切なビーバーだな。
そう思っていた時期が俺にもありました。
俺が橋に乗り込み、ビビンバの背中めがけて走りだした時だった。
「ぐぉおおおおおおお!!!」
とても不気味な獣の鳴き声が、近くから聞こえた。
その禍々しい圧に俺は圧倒され、全身から冷汗が流れる。
何かヤバい事が起きるぞ、これ!




