第71話 ビーバーに支配された町
ハムスターの襲撃から数日がたった。
俺達は緑なき大地をひたすら歩き、第一の目的地であるイアドネス大河に辿りついた。
この大河を西へと歩けば、いずれ海、王都へとたどり着く。
川の周りには、人々が住まう町がある。
今までひたすら、何もない荒野みてぇな砂漠を歩いてきたので疲れた。
水分をふんだんに含んだ大根には、こんな乾燥した気候は害悪でしかない。
なので、町という人工物が目に入っただけで、嬉しく思ってしまうのだ。
「ここもか……」
クレアが声を漏らした。
ここはイアドネス大河の近くにあるので、町の名はそのまま、イアドネスシティというらしい。
ただ、町のくせしてまったく賑わっていない。
この通夜のような静かさは、ハムスターに襲われたあの町と似ている。
やはり、げっ歯類連合の侵攻が進んだ事が関連しているのだろうか?
前回の町はハムスターに占領されていたし、もしかしたら、この町も何か、げっ歯類の統治下となっているのかもしれない。
「ダイコン、ここは複数に分かれて町を調べてみよう。 げっ歯類連合について何かがわかるかもしれん」
クレアにそんな事を提案された。
もちろん答えは、イエスである。
俺達、総勢7名は、2人組の3チームに分かれ、町を探索する事にした。
「あの……デロ先輩?」
「どうしたんだいシオン?」
シオンに呼び止められ、俺は彼女の方を振り向く。
「その……、オレ、余ったんすけど、どうすれば、いいっすかね?」
「あ……」
とても大事な事を忘れていた。
『二人組を作れ』という指示は、人数が偶数の時のみ許される指示である。
しかし今の俺達は、動物と野菜含めて7人だ。
つまり、1人余ってしまう。
俺はこの土地について詳しいレイラと組んだ。
クレアは情報収集能力に優れるミーナちゃんと組んだ。
あと、アライグマの王様とニワトリ坊主がタッグを組んだ。
余っちゃったかぁ……。
これは俺の適当さが招いた悲劇だ。
余ってしまうのは、とても悲しい事なのである!
シオンを悲しませたのは、こうなる事を予測出来なかった私の責任だ!
だが、私は謝らない!
「ついてこい赤毛虫!!!」
「……はい!」
俺は、弁明も謝罪もいわない。
ただ一言『ついてこい』とシオンに命じる。
シオンはシオンで、呼ばれた事が嬉しかったのか、元気よく返事をすると、こちらへ駆け寄ってきた。
なんたる忠犬、赤毛虫メイドの尊さたるや。
子犬みてぇでかわいいなお前!
その髪の毛、モフモフさせろ!?
・・・
俺とレイラは、町を散策している。
シオンには単独で近辺の調査をして貰っているので、今は2人で散策中なのだ。
どうやら町人の声を聞く限り、げっ歯類連合に国が侵略されているのは真実らしい。
なんでもこの町は、現在、建聖ビビンバというビーバー人族の統治下となっているらしい。
そのため、前回のハムスターに支配された町同様、町に活気が無いわけか。
とはいえ市場となれば、シギアゲートの時と同じく、それなりに人々が行き交っている。
そこで一つ、気になることがある。
「なぁ? 聞きたかったんだが、なんでレイラは顔隠してんの?」
「…………ひみつ」
バーディアに来てから、レイラは人前に出てる時は、顔をマントで隠している。
おまけに、標準語のクール系となってるし、絶対何か隠している。
「もしかして、レイラってバーディアでは指名手配なのか? 暗殺者って言ってたし、王族の誰か殺っちまった?」
俺はいつものノリで軽口を呟く。
「……いくらダイコンでも言っていい事と悪いことがあるで?」
睨まれると同時に物静かなトーンで怒られてしまった。
王族をネタにするのは流石に不敬罪だったか?
故郷についてジョークを言われるのは好まないのだろう。
国辱はやめておこう。
「いや、その……なんかごめん」
シオンには謝らなかったが、この空気の重さには耐えられないのでレイラに謝った。
「デロ先輩! レイラ! 川岸に凄いものがあるっすよ!」
ありがとうシオン! よくぞこの、鈍重な空気をぶち壊してくれた!
村周辺を観察していたシオンが戻ってきた。
「川岸に嫌でも分かる凄い物が見つかったっす!」
「川岸? ひょっとしてビーバーが作ったダムか?」
この町ってビーバーに支配されてるらしいし、ダムの一つや二つあってもおかしくないだろう。
「そうなんすよ! いや、それだけじゃないっす! 見た限りあれはただのダムじゃないっすよ!」
シオンは早くダムを見せたいのか、俺とレイラを引きずりながら川岸へと移動する。
そして、川岸についた。
案の定、ビーバーが頑張って作っただろうダムがあり、近辺の水位が上がっている。
「あれ? ……あのダムって?」
俺は気づいてしまった。
シオンの言った通り、ダムが普通ではない。
知らなければ、ただのダムだと思うかもしれないが、俺とシオンには、このダムが異質であるという事が瞬時に分かった。
「そうっす! このダムは以前、ヌーターンがネスノ村の近くに作ったダムっす!」
延々と川上から川下へ続くこのダム、その形状は、ヌーターンがエクスカリカリバーの力を自慢するために作ったダム、別名『キャメロット・オブ・ビーバーズ』そのものだった。
「……おいおい、どういう事だよ」
俺は色々考えた。
『キャメロット・オブ・ビーバーズ』が展開されているという事は、ヌーターンが裏切ったという事なのだろうか?
あの沼ドブネズミめ、よくも裏切ってくれたな!
よくよく考えれば、ヌーターンと別れてから幾日も経過したのに、げっ歯類連合は俺達に牙を向けたままではないか!
ヌーターンによる和平交渉が失敗するという俺の予想は、的中してしまったようだ。
俺はこの町のどこかにいると思われる裏切り者を探す事にした。
彼を探す必要は無かった。
というより、犯人はヌーターンではなかったのだ。
「くそっ! このままでは捕まっちまう」
「姫様! 早くお逃げください!」
川下の方から、マントを羽織った何者かをエスコートする魔女のねーちゃんと、鎧を纏った戦士のおっさんが、こちらへ走ってきた。
彼ら3人は誰かから逃げている。
「こらまてー! 逃げても無駄だぞー!」
彼らを追ってきた者、それはビーバーだった。
身長は160cmと、大きいし、喋るし、ビーバー人族で間違いないだろう。
更にあのビーバーについてわかった事がある。
あのビーバー人族が持っている剣。
奴は背中に大剣を背負い、もう一つ、剣を握っている。
その握っている方の剣なのだが、それの特徴はノコギリのような形をしている。
エクスカリカリバーそのものだった。
あの剣は俺も使った事があるので、見間違える訳はない。
「くそっ! 時間稼ぎだけでも……!」
鎧を纏った戦士のおっさんが、大剣を構えて、2人に背を向ける。
離れていても伝わる。おっさんは覚悟を決めている。ビーバー相手に、死ぬ覚悟を決めているのだ。
「どりゃあああああああ!」
おっさん、ビーバーに斬りかかる!
「邪魔ァ!」
おっさんがビーバーに殴り飛ばされた。
おっさんの方が先にビーバーに刃を振り下ろしたはずだ。
その筈なのに、後攻のビーバーの方が背負った大剣でおっさんを殴り飛ばしたのだ。
大剣で殴り飛ばされたおっさんは、牛車に轢かれたように吹っ飛び、川へ落ちた。
そんな彼に、ビーバーは視線を向けない。
残った2人めがけて突っ込む。
「『火炎閃槍』!」
今度は、魔女のねーちゃんが、トトンヌやヌーターンも使ってきたレーザーをビーバーに向けて放つ。
ビーバーはレーザーを避けられなかった。
レーザーがビーバーに当たると同時に黒煙と炎がほとばしる爆発が発生。
やったか!……残念、やれてない!
「こりゃあ! 大人しくつかまれー!」
むせる!
ビーバーは難なく、炎を突破してきた。
まるで今の一撃が無かったかのように、ビーバーは驚きもしない。
奴はただ走っているだけだ。
自慢の一撃がまったく通用しなかった事に、慌てたのか、魔女のねーちゃんは、火、水、土、風、あらゆる魔術をビーバーにぶつける。
「邪魔ァ!」
「ぐぁあ! 姫様、お逃げください!」
魔女のねーちゃんが、唱えた魔術は、素人目でも、『火炎閃槍』同様に、レベルの高いものに違いない。
されど必死に抵抗するも報われる事はなかった。
魔女のねーちゃんはビーバーの持つ大剣で、おっさん同様に殴り飛ばされ、川へ落ちた。
「うわぁああああ!! こっち来るないやー! あっちいけや!」
「ガッハッハ! それは無理だな!」
姫と呼ばれていた人物は、悲鳴を上げ、ビーバーから逃げる。
「ん? 姫って言われとったでなー?」
「ああ、そうだな」
レイラに、確認するように尋ねられた。
あの魔女のねーちゃんは、確かに『姫』と言っていた。
姫ってアレか?
この国の王族的な意味の姫か?
オタサーの姫ではないよな?
「今の声といい、もしかして、ダリア姉かいな!?」
突如、レイラがビーバーに向かって走りだした。
「おいレイラ! 闇雲に突っ込むな!」
さっきのねーちゃんが使った『火炎閃槍』とかいう魔術は半端な物ではない。
ヌーターンやトトンヌとの戦闘で、俺はそれを知っている。
その『火炎閃槍』を無傷で切り抜けるビーバー相手に、ひとりで立ち向かうなど、無謀もいいところだ。
「シオン、援護頼む!」
「了解っす!」
こうなったら、ヤケだ。
レイラの後を追うように、俺とシオンもビーバーへ立ち向かった。




