第69話 シリアスな展開なんぞ、犬に食わせとけ!
アトミックチーズボンバーが爆発した。
不思議と爆破音は無かった。
周りも、途端に静かになった。
風の音すら聞こえない。
俺は根っこ感覚の全てを使い、辺りの状況を確認してみる。
そこには驚きの光景が広がっていた。
ここ一帯が香ばしい匂いを放つ、チーズに塗れていたのだ。
チーズはグツグツと煮えたぎっている。
「なぁ、ダイコン? ものすごくチーズの匂いがするのだが?」
クレアが呟いた。
灯台下暗し。俺は外の状況ばかりみていたが、彼女の言う通り、チーズの匂いがこの場所からも感じられる事に気付いた。
「なんだこれは!?」
俺とクレアは、目の前の岩を目にして驚いた。
俺達が壁にしていた一枚岩が、チーズのようにドロリと解けている。
いや、チーズのようにではない。
岩がチーズになっている。
俺はもう一度、辺りに散らばるチーズを見てみる。
そして俺は理解した。
砂や土がチーズになっている。
どうやら、アトミックチーズボンバーという魔術の正体は、物体を原子レベルでチーズに変換してしまう魔術なのだ。
原子爆弾とは字面が似てるだけだったという事だ。
さっきの光に直撃しなくて良かった。
もし当たっていたら、俺は大根ではなくチーズになってしまっていたのだから。
「あ、あぶなかったー!?」
「死ぬかと思った!」
どうやらハムスター人族達も無事らしい。
全員チーズにならずに助かったようだ。
「くっそ! このままでは、げっ歯類連合、ハムスター人族として示しがつかん! みんなでやっちゃえー!」
最終兵器が通用しなかったせいか、ハムスター5名が単純に襲いかかってきた。
「ダイコン、どうする?」
「どうもこうも、ここは勝負付けないとダメそうだな〜。 ……そうだクレア! 私にいい考えがある!」
絶対、良くは無さそうな台詞と共に、俺はクレアの耳元で囁いた。
「……なるほど、それは実質私がミェルニルを使うという事だな? いいだろう、やってみよう」
「隙だぁ! かくごー!」
ベーコン・プラネットを先鋒に、ハムスターが襲いかかってくる。
「今だ!」
俺はクレアに合図を送ると、彼女にミェルニルを手渡す。
クレアがミェルニルの柄を握り振り上げる。
俺はミェルニル上に乗ると、彼女の腕に根っこ触手を絡ませる。
俺は、自らが道具となる事に対しての抵抗を捨てた。
さらに俺は、無数の根っこ触手を、クレアとは逆方向に束にして絡ませながら伸ばす。
こうして新形態が完成した。
名付けて【大根ランス】である。
この形態は俺が考えたものだ。正規な新形態とかそういうものではない。
今のクレアは、赤筋大根である俺と同等の力を扱える。
彼女は身体強化する事に関しては慣れているので、抵抗なく力を配分できた。
根っこ触手で野菜エネルギーを補充するために、俺はクレアから、補充(云わずとも意味深! ノクターンならヤってる!)した事がある。
この工程を逆にすれば、野菜エネルギーをクレアにも与える事ができるのだ!
クレアに、根っこ以外に、赤いオーラが絡みつく。
重槍と化した俺を構えたクレアは、ハムスター達に立ち向かった。
ハムスター人族は今まで力を温存していたのか、目にも止まらぬそうな速さで走る。
彼らは俺達を動きを封じるため、囲むように走り続ける。
「どうだ! 少しでも動けば貴様らは、ミンチとなるぞ!」
ハムスターが声をあげる。
まさに彼のいう通りだ。
彼らハムスターは、バターになりそうな勢いで俺達の周りを廻り続ける。
このままだと、ハムスター5人に轢き殺されてしまうぞー?
まさに絶対絶命。
しかしこんな状況でも、クレアは冷静なままであった。
「……そこだ」
クレアが大根ランスを前方へ突き出した。
「なっ!?」
ハムスターの一人が、突き出された大根ランスに躓いてしまった!
そりゃ、そうなるでしょうな。
「ぐへっ!」「ぬぉっ!」「あふー!」「うぎゃ!」
躓き、急停止したハムスターに、他の4人は止まる事が出来ず、ぶつかってしまった。
「こ、ここまでか……!?」
ハムスター人族は今の技に全てをかけていたのか、倒れ込んだままだ。
玉突き事故により、満身創痍となってしまったようだ。
こうなる事を予測できなかったのか、ハムスターよ? 危機管理能力が乏しいのかもしれない。
これ以上は俺達も戦う理由がない。
「くっそー! このままでは、げっ歯類連合の目的地が果たせないではないかぁ……!?」
ベーコン・プラネットがそんな事を呟いた。
「お前達の目的はなんなんだ?」
クレアは、彼らハムスター人族に同情したのか、ハムスター人族がげっ歯類連合に加わった理由を尋ねた。
クレアの問いにベーコン・プラネットが顔を上げる。
「ふっ……、いいだろう教えてやる。
まず、げっ歯類連合とは、げっ歯類が世界の枢軸となる世界を作る事を目的にした組織だ」
うん、そこまでは知っている。 カッチョパッチョから直接聞いたもん。
ハムスター人族は更に喋る。
「しかし、げっ歯類が世界を統括、支配しても、とある問題が足枷となってしまうのだ!
その問題とは、げっ歯類特有の、寿命が極めて短いという事なのだ!
いくら数が増えようと、有能な人材を育てきるまでに、我々げっ歯類は、寿命で死んでしまう!我々ハムスター人族でさえ、20年生きれば長寿! しかし、それでは短い! 世界を支配し続けるには、長い命が必要なのだよ!」
ハムスター人族は、目的が果たせない事が悔しそうに語った。
確かにげっ歯類、ネズミの寿命は短い。それは獣人族となっても、短いままらしい。
……というか、急に話が重くなりすぎじゃない?
もっと、コミカルな世界かと思ってたよ。
「なるほど、だから生命や魂を操る禁術を扱える刻甲を、連合に勧誘したわけか?」
クレアが呟いた。
確かに、今の寿命の話を聞く限り、彼らげっ歯類に禁術を扱う者が多くいる事に納得がいく。
おそらく、カッチョパッチョ大王はもちろんの事、トトンヌやヌーターン、ドン・グリードといった連合幹部は、短命という問題を克服しているのだろう。
戦いは終わっていなかった。
突如、ハムスター人族から話を聞いている俺達に稲妻が襲いかかってきた。
クレアは赤筋大根により得た運動能力で、稲妻を回避。
ハムスター人族と俺達は、稲妻が飛んできた丘の方を見上げる。
こんな快晴の日に雷? どういう事だ?
「い、いまのは!?」
「間違いない、この雷は!?」
「我らが四天王が扱う、車輪の聖雷!」
「四天王が来てくれた!?」
「おお、勝利は我々のものだー!」
「まだ、希望は尽きていなかった!」
今の電撃を見て、活力枯れたハムスター5名の目に希望が現れだした。
「またせたな! 我らが兵どもよ!」
近くの丘から声が聞こえる。
そちらはさっき、稲妻が飛んできた方向と同じだ。
「我はハムスター人族四天王が一柱! 持国天 サーロイン・ベガ!」
「同じく四天王が一柱! 増長天カルビ・シリウス!」
「同じく四天王が一柱! 広目天ホルモン・フォーマルハウト!」
「同じく四天王が一柱! 多聞天ハラミ・スピカ!」
「「「「我々四天王が貴様らを成敗してくれるわ!」」」」
ハムスター人族四天王はご丁寧に名乗ってくれた。
突っ込みどころが多すぎて、何から指摘すれば良いのか、俺にはわからん。
コイツらの名前を聞いてると、自然とお腹が減ってくるのは、フーリーも使っていたサブリミナル効果みたいなものだろうか?
「くらえ! ハムスター・アストラ四連星!」
四天王は同時に襲いかかってきた。
彼ら各員は車輪に入っている。
この車輪はどうみても、ハムスターがよく回している奴だ。
その車輪を回しながら彼らは襲い掛かる。
タイヤのように回転し、青白い稲妻を引きづりながら、突っ込んでくる姿は、今にも時代を越えようとしているデ○リアン。
「へーイ! 来いよ ! 腰抜け!」
俺はハムスター四天王を煽る!
「勝手に挑発されるのは困る、やめてくれないか?」
「すみません……」
少し調子に乗りすぎて、クレアに叱られてしまった。
クレアはハムスターを車輪ごと、大根ランスで突き刺す。
突き刺した際、車輪に根っこを削られるような衝撃に襲われる。
赤筋大根の力がなければ、致命傷まったなしである。
クレアは4つの車輪を弾き飛ばす事に成功。
「おい!お前たちも車輪を使うんだ!」
四天王の一人、ハラミ・スピカが部下5人に指示をだす。
「「「「「了解!」」」」」
彼ら5人は丘の上に登ると、予め用意されていたらしい車輪に乗り、丘の斜面を使い、こちらへ転がってくる。
「どうだ! これこそハムスター人族の秘宝だ!
高速に回転させる事で回転エネルギーを電気に変換する事ができるこの車輪で、貴様らを轢いてやる!」
クレアはひたすら突っ込んでくる合計9つの車輪を躱し続ける。
クレアの表情が険しくなっていく。
彼女の呼吸が荒くなってきているのもみて取れる。
流石に赤筋大根の力を彼女にこれ以上供給するのは限界か?
もしかしたら、さっきのハムスターの話に同情してしまったのかもしれない。
寿命という命に関するヘヴィな話を聞かされ、自分が正しいのかわからないのだろう。
ずっとコミカルな世界だと思ってたのに、寿命とかの話をされると萎えるよね!
という訳で、形成逆転されてしまったのである。
ど、どうしよ〜!




