第67話 ハムスター人族ぅ? 強いよね〜 序盤、中盤、終盤と、隙が無いと思うよ
リスマグロを倒した俺達は、マグロ人族を戦利品に、一度シギアゲートへ戻った。
バーディアまでの飛行距離、及びマウントとりとり達の疲労を考えた結果、面倒だが町に戻る事にしたのだ。
それに、ドン・グリードに、クレアの持つ聖剣ラビ・ラコゼを奪われてしまったので、代用となる武器を探さなければならない。
その結果、シギアゲートで売っていた一番強そうなロングソードを、クレアに渡した。
聖剣を取り戻すまで、彼女にはこれでご勘弁してもらおう。
最悪、ミェルニルを使えばいいと俺は思う。
もっとも、聖剣なくしてげっ歯類連合と戦えるかどうかわからないが、シオンはなんとかやっていけてるので、多分大丈夫だろう。
峡谷の空を好き勝手に支配していたマグロ人族を、シギアゲートのお偉いさん達に、ドヤ顔で晒してやったが、あのおっさん達は、俺達と関わりたくないのか、報酬すら出してこない始末。
二回も町の危機を救ってやったのに、この塩対応、流石に仏のダイコンデロガでも怒っちゃうところだったぞ!?
現に、俺やクレア達が止めなければ、大天使ミーナエルが、羅刹や修羅、魔王さえも泣かせる勢いで町長に怒鳴りそうだったんだぞ!?
誠意を見せろよ! 誠意をよぉ!
町長もそんなミーナちゃんに畏れをなし、バーディアまでの飛行船を特急で飛ばしてくれるらしい。
飛行船とは、これまたスチームパンクな雰囲気を感じる。
もっともこの飛行船は、アンティークな歯車などの油臭さとは無縁で、コイツは色々な魔法陣を使う事で魔術の力で飛ぶものらしい。
もちろんその魔法陣の中には、マウントコカトリスの骨格を元に作られたものもあると、マウントとりとり本人が聞いてもいないのに、ドヤ顔で熱弁してきた。
飛行船に乗るのは初めてなので、妙にテンションが上がる。
地方民が上京して、初めてモノレールに乗った時の感覚と似ている。
地方民にとってモノレールとは、リニアモーターカーと同じくらい近未来的なのだ。はしゃぐのも仕方ない。許してくれよな!
・・・
いやー、暑い。とにかく暑い。
快晴の真昼間の砂漠はとにかく暑い!大根だけど暑いのは嫌なんだ。
否、大根だからこそ、暑いのは嫌なんだ。
こういう仕事は夏野菜の果菜類どもにやらせとけってんだい!
そんなこんなで俺達は、無事バーディアに到着した。
シギア峡谷、バーディア側は既に砂漠だ。
俺達は飛行船でたどり着いたこの町で、これからの旅路について話している。
昼の町だというのに、行き交う人の数が少ない。
何か不穏な雰囲気だ。
俺は砂漠と聞いて、砂の丘が延々と続くようなアラビアンなイメージだったが、実際は西部劇で見るような荒野な砂漠であった。
地元民であるレイラが言うに、海岸沿いに行けば俺が予想する砂まみれの砂漠というものはあるらしい。
バーディア国の都も海の近くにあり、大河であるイアドネス大河を挟むように都は築かれ、げっ歯類連合のアジトが置かれているというウルカ火山はそこから南、例のジャングル地帯にあるらしい。
俺達はこれからげっ歯類連合の野望を台無しにする為に、王都を経由し、ウルカ火山へ行くつもりだ。
火山は川を渡った向こう側にあるが、川を渡るには都を通らないと渡れないらしい。
『バーディアの王都』『イアドネス大河』『ウルカ火山』
レイラの説明だけでは、聞きなれない地名ばかりで、頭に入って来ないので、簡単にまとめてみよう。
げっ歯類どものアジト(山)へ行くには、イアドネス川を渡らなければならない。
その川を渡るには、都を介さなければ、渡る事が出来ないらしい。
結論として、この国のインフラはクソだという事だ。
ちなみに、これからの旅の仲間の事だが、カキザキとコバヤシは、マグロにやられた際の負傷が大きく、この町で待機する事になった。
彼らと同じく、東の果ての国に帰りたい同盟を結んでいる刻甲は、レイラがネスノ村以前から祖国に巣食うリヴァイアサン討伐のために、禁術を使って屠って欲しいという願いのもと、協力する事になり。旅路を共にする事となった。
あと鳩尺様についてだが、彼女を見た人々が困惑してしまうので、今はどこかへと召還されている。必要な時になれば、呼び出せるらしい。
鳩尺様は町の子供達から「なにあの鳩? きもちわるーい」と罵られ、落ちこんでいたので、俺も彼女が必要な時以外はいない方が良いと思う。
身支度を整えた俺達は、いざげっ歯類連合のアジトへと歩み始め……ようとした時、町の真ん中で、黒マントを羽織った謎の集団に囲まれた。
「お前達が、我々げっ歯類連合に仇なす怨敵だなァ!? 我々、げっ歯類連合・ハムスター隊が貴様らに引導を渡してやる!」
俺達を囲んだ奴らの正体、それはハムスターだった。
「我はハムスター人族四天王の側近が一人! ベーコン・プラネット!」
「同じく、サラミ・サテライト!」
「同じく、チャーシュー・ムーン!」
「同じく、コンビーフ・アステロイド!」
「同じく、ケバブ・ギャラクシー!」
彼らはご丁寧に挨拶してきた。
あまりにもシュールすぎる光景に、見入ってしまった。
いつかのキツネとアライグマなら、名乗り中でも構わず攻撃してきただろう。
とりあえず、見た感じでは、ただのお喋りハムスターだ。
彼らの名前を聞くと何故かお腹が空いてしまう。
「マグロ人族とドン・グリード殿の復讐は我々ハムスター人族が果たしてやる!」
「カッチョパッチョ大王より授かりし大魔術『アトミック・チーズボンバー』で貴様らを消し炭にしてやる!」
ハムスター人族の2人が声を上げる。
コイツらは俺達を倒すために、わざわざ来たようだ。
「それと、そこのニワトリ!?」
「はい、なんでしょう?」
おそらくハムスター人族のまとめ役であろう、ベーコン・プラネットが刻甲に声をかけてきた。
「聞くところによると、貴様は『禁術』を扱うらしいではないか!? しかも命の与奪を操作する類のをなぁ? 獣人という馴染みだ、チャンスをやる! 俺達げっ歯類連合の仲間になれ! そうすれば仲間の命だけは助けてやる!」
「なるほど! 確かに愚僧は死にたくないですね!」
どうやらハムスター人族は、禁術を使える刻甲を仲間にしたいらしい。
刻甲も彼らハムスターの提案に、前向きに考えだしている。
そんな事でいいのか? ニワトリ野郎!?
「それは困るで! リヴァイアサンが倒せんくなるっちゃ! 」
俺が刻甲に突っ込みを入れる前に、レイラが刻甲を止める。
「確かに、げっ歯類連合につけば、世界を牛耳る事が可能でしょう。
禁術を使っても何も言われなくなりそうで、良いですよね! 夢みたいですよ!
……けれど、誘いは断っちゃいますよ!? 私は仲間は裏切りません! こっちの方が楽しいですよ? コッコッコ! ハムスターさん達も仲間になりませんか?」
刻甲はハムスター人族の誘いを断り、逆に勧誘してみせる。
その判断に、レイラは安心したようだ。
「ぐぬぬ……! こうなったら皆殺しだ! 『アトミック・チーズボンバー』……はここでは使えないが、我々ハムスターが貴様らに天誅をくだしてやるぅううう!」
まさに瞬間湯沸かし器。
ハムスターは要求が受けいられないのが余程不満なのか、文字通り顔が真っ赤になる程に、激昂した。
どうやら、ハムスター人族はやる気らしい。
「でも、お前ら5人だろ!? オレ達の方が数は多いし、お前らハムスターは、あのリス公より弱そうだ! ねぇ、デロ先輩? 全然余裕っすよね!」
「あたり前だろ赤毛虫犬娘!」
「当たり前だぞな〜?」
シオンの昂ぶった意気込みに、俺とレイラは便乗する。
シオンとクレアは置いといて、真・磨王アードバーグ、破戒僧刻甲、暗殺者レイラ、そして大天使ミーナエルがいる。
マーモット人族と似た雰囲気をした、たった5匹のハムスター程度、俺達の相手ではない。
「出てこいみんなぁ!」
「「「「ウォオオオオオオオオオオ!!!」」」」
ベーコン・プラネットの合図とともに、町中至る所から無数のハムスター人族が湧いたように現れた。
ドドドッと音を立てながら無数のハムスター人族がこちらに押し寄せてくる。
「ここに来る途中、モンゴリアンデスワームに捕まり、命を失った仲間もいれば、ピクニックしてて食べた弁当が腐ってて、食中毒で倒れた仲間もいる。それでも我々の軍勢は多い!
ここで会ったが百年目! 旅路で命を落とした仲間の意思を背負い、貴様らをヒマワリの種のように齧ってやる!」
え? ちょっと待って!?
聞いてない! 聴いてない!
5匹かと思ったら数百匹現れたんだけど!?
ハムスターってゴキブリみたく、1匹いたら30匹いる理論の動物なの!?
ヤバい! ハムスターは激おこだ。
ヒマワリの種を齧る勢いで、俺達に迫りくる。
種を齧るという事は大根を齧るなど、木綿豆腐を齧るのに等しい。
ここで、やつらに齧られる訳にはいかない!
「なんじゃこの数はァ! さすがに無理じゃろ! 逃げた方がええで!?」
「いくらなんでも多すぎだっちゃ! アードバーグの言う通り逃げようでー!」
アードバーグとレイラは、この場からいち早く逃げる事を勧めてきた。
俺もその方がいいと思う。
ハムスター人族は沢山いる。
しかもそれぞれ動き方が違うという事が、遠目でもわかる。
マーモット人族のように、得意分野が違うようだ。
総勢数百、動き方が多種多様、まるで大局将棋だな!
「デロちゃん? どうします? レイラさん達が言う通り逃げますか?」
「愚僧も撤退を勧めますよ! ココで勝ったとしても疲労が残ってしまいそうです! げっ歯類連合幹部との戦いで仇となりますよ! 逃げましょう!」
「そうっす!ニワトリの言う通りっす!」
どうやら逃げる事に満場一致だな。
「じゃあ、みんなは逃げろ! 俺が食い止める」
俺はここに残り、ハムスター人族と戦う事にした。
誰かがここで、食い止めなければ、ハムスター人族からはどうあがいても逃げ切れない。
なんたって数が違う。(戦いは数だよ!)
ここは誰か人柱が必要となる。
「なら私が、お供しよう」
クレアが名乗りでてきた。
「サポートなら任せてくれ」
大根という見た目を抜きにして、かっこよく『俺に構わず行け』と言いたいが、クレアの今の目は俺が何を言っても無駄だろう。
「ダイコンはこの砂漠の事を知らないだろう? 砂嵐が吹く事もあるから、その時は私に聞いてくれ」
なるほど、そういう事か。確かに、俺は砂漠については何も知らん。
ここは遠慮なく、頼らせて貰おう。
ハムスターの群衆も、ドコドコと迫ってきている。時間がない。
「みんな逃げろ!」
皆に俺は叫んだ。
全員何も言わず、この土地に一番詳しいレイラを、先頭に走りだす。
ミーナちゃんからミェルニルを受け取る。
俺とクレアは、同時に動く将棋の駒のようなハムスターの大群へと視線を向け、ミェルニルを握りしめて赤筋大根になった。
「なぁ、ダイコン? 勝算の方は?」
クレアにそんな事を聞かれる。
「ハムスタ〜ぁ? 強いよね〜? 序盤、中盤、終盤と、隙が無いと思うよ? でも、俺は負けないよ」
はむすたっ……ハムスター達が躍動する俺の戦闘を、皆さんに見せたいね。
俺はハムスターの群衆の中へ突っ込んだ。
あれ? 今の台詞を言った人って、みんな負けてるんだっけ?
……大丈夫、だよな?




