第7話 この村はヤバい……
トトンヌ殿とヒパビパ殿が、作戦を無事に遂行し帰還された。
しかし、トトンヌ殿は腑に落ちないと言いたげな、表情をされていたので、ワタシは事情を聞いてみる事にした。
話を聞いた限り、野菜獣大根の中に『特異点』といった独立した自我を持った個体が反逆した為に、ネスノ村への侵攻を一時中断するという物であった。
トトンヌ殿はヌートリア人族であり、かつての大戦で失われたカピバラ人族の闘争心を、取り戻させた英雄である。
その彼が大根ごときに休戦を提案したと。
ありえない。
彼の力があれば、そのくらい他愛もなく、捻り潰せるはずだ。
どう考えても、ありえない。
ワタシは真相を確かめる為、単独でネスノ村に向かう事にした。
・・・
俺はクレアと共に村に入ると村人に歓迎された。
村人が、俺を見る目は様々だった。
そりゃ、動く大根がいたら、反応は人それぞれだろうな。
誰でも困惑する。
だって、自分自身、困惑してたし。動く大根がいたら驚くものね。仕方ないよね。
そんな大根に、最初に話し掛けてきたのは、少女だった。
あの少女だ。
俺が守る事を決め、暴れる大根から村人を助けるきっかけとなった、あの少女だった。
「えっと……。助けていただき、ありがとうございます……。 私はミーナと言います。」
少女は俺の目線に合わせる様に、体を丸めながら話し掛けてきた。
助けた時はよく見てなかったが、髪型はふわりとした、春の暖かさを感じさせる桜色のショートヘア。
服装は腹部を引き締めるコルセットに、スカートに黒いタイツが魅力的だ。
なんとも愛らしい。
彼女との身長差を活かせば、スカートの中も覗くことも出来るだろう。でも僕はやらないね。
この少女は優しさを、擬人化したような子だ。
クレアと違って、ずっと純潔であるべき存在だ。
だからやらない。OK?
……この子は、もう天使だな。うん。
「ど、どうも!ご無事で、なによりだす。 大根だす。名前はまだ無いだす!」
女の子を間近で見ることに、慣れていないせいで、変な緊張をしてしまう。
クレアの時は、最初タイミングが悪く、敵だと思っていたから、俺にとっての『大好きフォルム』であっても怖かった。
その後は共闘した事による吊り橋効果なのか、知らぬ間に打ち解けた。
だが、今回は違う。
クレアの時とは違うのだ。
彼女を触手で、弄んでいたからと言って、平気な訳はない。
「あの……、お兄ちゃんがご迷惑をおかけしました。
すみません」
兄とは、ジェイクの事だろう。
彼も『妹を助けてくれて感謝している』と言っていたし。
だが、ジェイクの妹がこの子という事は、予想して無かった。
ジェイクと同じ様な、筋肉の持ち主かと思っていたからな。
道理で思い当たる節が無い訳だ。
ミーナは、兄ジェイクとは反対で華奢な体格をしている。
けれども、畑仕事に慣れているせいか、身体の芯はガッシリしている様にも見える。
ミーナ、もとい大天使ミーナエルと話したい事は色々あったが、今回の事件の事を村長に話さねばならない。
……と、クレアは言っていた。
腹の調子が、安定しだしたジェイクと合流し、クレアと俺の3人は、村長の元へ報告と挨拶を兼ねて、出向く事になった。
その前にマサ子を、馬屋に帰しに行く。
馬屋には、現在マサ子の他に一頭、白いのがいた。
「ブラックヘッドスナイパー、元気にしてたか?」
クレアが白い馬に呼びかけた。
マサ子の時も思ったが、ブラックヘッドスナイパーって、名付けた奴はどんなネーミングセンスしてるんだ?
マサ子は、まさかの牡馬だったし。
この、白い馬に関して、ブラックヘッド要素も、スナイパー要素も無いな。
まぁ、かつての日本競馬界にも、芦毛いのに『黒い船』だとか『金の船』だとか、そんな名前のが居たから、妥協しよう。
でも、マサ子はなぁ……。
誰が名付けたのか、かなり気になる。
『カピバラ人族の宝』や『この世界(魔術や魔物の事)』が何なのかよりも気になる。
そんな事を考えながら、村長宅へ向かうのだった。
・・・
ネスノ村村長は、俺の事を珍しげに見ていた。
まぁ、無理もない。
前世なら、自分に集まる視線に苛立ちを覚えていたが、今の世界の俺は心が寛大だ。
そうなる気持ちは分かる。
さっきも言ったが、動く大根だもの。仕方ないよね。
俺はカピバラ人族が、この村の地下に眠る宝を狙っている事。
トトンヌという、ヌートリアの癖にカピバラを名乗っている事。
そのトトンヌが、『カピバラ人族の飯屋』と名乗っている事。
あと一応、邪竜カピバラゴンについて話した。
クレアは、クレアちゃんになっている時の記憶が無い為、説明はほとんど俺が話した。
ジェイクに至っては、ついて来た意味が、無い様に感じるし。
なにより一番の問題は、村の特産品とも言える、大根の全滅だろう。
野菜獣大根、つまり魔物化して国に納める分も無いという事だ。
「魔物化した」と言ったところで、言い訳にもならないだろう。
村長も、ここの村の護衛団団長であるクレアも、何らかの処罰が課せられそうである。
トトンヌの作戦を、例の秘密結社や、某宇宙人並みに回りくどい作戦だと思い、バカにしていたが、被害者側は笑えるものではない。
「それでこれから大丈夫なんですか?」
俺は村長に尋ねる。
けれども、村長とクレアは余裕の笑みを浮かべていた。
「なぁに、心配はいらぬ。嵐など災害があっても良いように考えとるからのぉ」
村長は事前にこう言った有事の際に備えていた。
これは有能である。
どこぞの村みたく、戦力をすべて魔物退治に回した結果、村がヌートリアの魔手により、ピンチになってしまった護衛団とは大違いだな。
「それで、どんな手があるんですか?」
俺は村長に聞いて見ると、「その質問を待っていた」かと言う様に口を開いた。
「それは偽装じゃよ。他の所の大根を、ネスノ村の大根と言う事にするんじゃよ。」
さっきの賞賛は取り消そう……。
村長は、さらっと可笑しな事を言った。
しかし、クレアとジェイクはそれに了承してるようである。
「もし特産品が工芸品など、食べ物以外なら村の危機じゃったが、ワシらの村は大根じゃ。 国に納める分くらい、でっちあげられる。 余裕じゃ」
村長……アンタ、大物だなぁ。
「勝因を聞いても?」
俺は村長に最後の質問をした。
「この国の王族、貴族の舌は、皆揃ってバカじゃ。
猪肉を牛肉と偽ってもバレやしない。
それに、年期の入ったワインとぶどうジュースを、すり替えてもまったく、気付きもせんのじゃ」
なるほど。これは勝てますわ。
……というかそんな事で、この国は大丈夫なのか?
でも、問題の一つは村長の人脈を頼れば、すぐに解決出来る事がわかった!
やったね!