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第63話 ドン・グリード襲来


俺は、わさびに変異する事が出来、それから放たれる強烈なわさびの一撃は、マグロ人族の度肝を抜き、わさびの辛さで、文字通り、お空へ飛んで行った。


しかし、わさびの能力がいくら優れているとは言え、強い力にはそれなりのデメリットと言うものがある。


その欠点(デメリット)とは、わさびの刺激の強い辛さが、時間経過と共に、俺自身にも降りかかるという物だ。

後頭部から銃弾が抜けるような痛みに襲われた俺は、やむなく能力を解除したという訳だ。


欠点のせいで、俺はマグロ人族の残り1人を取り逃がしてしまった。


捕まえたマグロ4匹は、根っこ触手で縛り、身動きを封た。

どうやら、動けないと、彼らは成す術が無いらしく、文字通りのマグロ状態となっている。



俺は、アードバーグにこの場を見張るように頼むと、どこかにいるだろうクレア達に合流する為、根っこ触手で峡谷を掴みながら進む。気分は米国の蜘蛛男である。


ちなみに、アードバーグと共に落ちたマウントとりとりは、機嫌を損ねたので、今は飛びたくないらしい。面倒臭い性格だが、ボナーンと湖に腹打ちしたのは、実質、実際、俺の責任であるので、やむなく徒歩で向かう事にしたのだ。




・・・




(クレア視点)


私達は、ダイコンデロガの言葉に従い、峡谷間を飛んでいる。

カキザキとコバヤシがマグロにやられてしまったが、私達が彼らの生存を確認する事は出来ない。精々、生存を祈る事しか今は出来ない。


「皆さん! 着地してください!」


殿(しんがり)を務める鳩尺様に跨る破戒僧刻甲が私達に声をかける。


「降りろって言われても、下は湖! どこに行けば良いんだよ!?」


シオンは、この状況にイラついているのか、言動が荒くなっている。


「じゃあ、少しでもマグロから逃げましょう。 ここはダイコンさんとアードバーグさんを信じるしかありません」


シオンの投げかけに、刻甲は冷静に返答する。


私も彼の提案には賛成だ。

ここは少しでも遠くへと逃げた方が良さそうだ。


「前方から、マグロじゃない何かが来とるで!」


先頭を行くレイラがこちらに向かってくる不審な飛行態が見つけた。


レイラの言った通り、それはマグロじゃなかった。

彼らと違い、翼を広げているようなだが、鳥では無い。



「あれは……、ムササビだがな!?」


レイラがそれの正体を突き止めた。


私にも、それがムササビだという事が認識出来る。



「誰がムササビだとっ!? 俺はドン・グリ……!!」


飛んで来たムササビは、何か叫んできたが、私達の目の前を通り過ぎてしまったので、最後までよく聞こえなかった。


通り過ぎたムササビは、小鳥のような身のこなしで旋回し、こちらに合わせるように並走してきた。



「俺は、ドン・グリード一家の首領にして、げっ歯類連合(ローデンティア・ネオ)の幹部! リス人族のドン・グリードだ! 覚えとけ!」


どうやらコイツは、ムササビではなくリス人族らしい。

よく見れば、ムササビに似た翼のような膜の正体は、マントのようだ。


そんな事よりも、このリス人族は気になる事を口にした。



「団長、コイツ、げっ歯類連合の幹部って……」


シオンもそう聞こえたという事は、私が聞き間違えたという事では無い。



「おう、そうだとも! 貴様らが出会った中では、ヒパビパにヌーターン、後はトトンヌとカピバラゴンもカッチョパッチョの下に集う幹部だ!」



並走しながらドン・グリードは自分達の情報をペラペラと喋っている。

それは、自身と仲間の実力が本物だと確信しているからだろう。



私自身、あのヌートリア2匹の力は知っている。


ヌーターンはドラゴンを使役したり、瓦礫から巨大ゴーレムを作る能力を持っている。

彼は精神面での弱点は大きいが、ヌーターンのスペックは、私が知る人物の中では、最強の部類に入る。


更にトトンヌはヌーターンを上回る実力がある魔術師だ。

私は奴に負けた。 当時の私の全力をぶつけて、私は負けた。


そして、私達の目の前にやってきたこのリス人族の男はそいつらと同等の力を持っているのだ。



「私達に何か用があるのか……?」


私はドン・グリードに問いかけた。


「おうとも! 貴様らをここで、止めに来た。 マグロだけでは心細いもんでなァ!? 俺は木ノ実10000個分の損害が出る事を知りながら、放置するようなバカじゃねーのよ!」


ドングリードはどこからか、筒を取り出した。


どうやらムササビと違い、手を広げなくても、飛ぶ事に支障は無いらしい。


「落ちろ!」


ドン・グリードは筒を咥えると、彼の口が膨らむ。


途端に、バンッという空気が破裂する音が、峡谷に響き渡る。


「グェエエエエ!!?」


「え、なんなん!?」


何かが、レイラの乗るマウントコカトリスにめり込んだ。

マウントコカトリスは驚き、バランスを崩してレイラ共々、湖へと落下した。


幸い、高度は低いので、彼女ならば致命傷を免れる事が出来ただろう。


一足遅れたが、私達はこのリス人族の襲撃に対抗しなければならない。



「みんな! 魔道具の準備を!」


「了解っす!」「わかりました」


私はシオンとミーナに、魔道具の使用を呼びかけると、彼女らはすぐに発動させる。


「面倒なことすんなよ!」


ドン・グリードは今度は連続的に、筒から何かを無差別に飛ばして来た。


マウントコカトリスの手綱を引き、ドン・グリードの攻撃を避けようとするが、マウントコカトリスよりも俊敏な身のこなしで、私を嘲笑うように飛んでいる。


「俺は、マグロ達ほど早くは飛べんが、お前達(マウントコカトリス)より器用に飛べる。 幾ら対抗しようが俺には敵わん! くたばれ!」



ドン・グリードの放った射出物が、バリアにいくつも減り込んだ。


それは木ノ実だった。

クルミとか、ドングリとか、そういうものがいくつもバリアにくっついていた。


このまま一方的に、木ノ実をぶつけられては、いくらバリアと言えど、亀裂が少しでも入ってしまえば、破られてしまうのは明確だ。


私は抜刀すると、そのまま剣をドン・グリードに向けた。


聖剣から稲妻が放たれる。


「何!?……ぐぎゃああああ!??」


聖剣からの放電がドン・グリードに直撃。


彼は口の中の木ノ実を全部吐き出すと、湖に墜落した。


「団長!やったっすね!」


「ああ……」


げっ歯類連合の幹部と名乗っていたので、気を引き締めていたが、こうもあっさり勝ってしまうというのは如何なものだろうか?


「一応、奴の死体の確認してくるっす」


「なら愚僧(わたし)もご一緒しますよ!」


シオンと刻甲が、ドン・グリードが落ちた場所へと戻っていく。




「……どこにもいない!?」


ドン・グリードを探すシオンが不安そうに声をあげた。


この辺りの水深は10mくらいだ。おまけに底に生える水草や苔までもが、よく見えるほど透明度が高い。


それなのに、ドン・グリードが見つからない。


「どういう事でしょうか!?

……アードバーグさんの言うところだと、げっ歯類連合のカピバラは瞬間移動、ワープといった魔術を使うそうです。

もしかしたらあのリス人族も、そんな魔術が使えるのかも知れませんね?」


刻甲は、静止飛行する鳩尺様に跨りながら、ドン・グリードの行方を推測する。


「惜しいなニワトリ! 俺が使うのは、瞬間移動では無い!」


「皆さん、上!」


突如、上から声がした。


私もシオンも刻甲も、湖を見ていたため、ミーナだけが、上から迫る奴に気付いた。


落ちた筈のドン・グリードが、私達よりも上からやってきた。 文字通り瞬間移動したのか、奴の気配を直前になるまで掴む事ができなかった。



「まず貴様だ! もじゃもじゃの()()()()


「うゎ……!?」


シオンは咄嗟にバリアを張って、木ノ実攻撃を弾くも、ドン・グリードはバリアの上に着地した。


どうでも良い事だが、ドン・グリードは、いまのシオンの服装から、イヌ人族だと勘違いしたようだ。




ドン・グリードを振り落とそうと、無理な飛行を試みるも、あのリス人族の男は、しがみついて離れない。



「こんな物、ぶっ壊してやらぁ!」


ドン・グリードはシオンを包むバリアを、筒で何度も殴る。


シオンも抵抗するように、マウントコカトリスの手綱を捌き、振り落そうとする。


ここは私も助力した方が良い。


「シオン!私に任せろ! 刻甲も頼めるか!?」


「はい! 丁度準備完了した所です! 鳩尺様!やってください!」


私はシオンのバリアに乗るドングリードに向かって再び放電を飛ばす。


「それはもう見飽きた!」


ドン・グリードがこちらに左手を向けると稲妻が、奴の手に吸い込まれていった。


「お返しだ!」


今度は、あのリスが右手に握る筒を振ると、私が放った青白い稲妻が飛んできた。



「心配無用!」


それと同時に刻甲が跨る鳩尺様の口から、禍々しい黒い球体が放たれる。


その一撃は、稲妻を弾き飛ばし、シオンを避けるように、確実にドン・グリードへ飛んでいく。



「弓矢だろうが、木ノ実だろうが、はたまた大魔術だろうが、何かが飛んでくる事は予想済みだ!」


ドン・グリードは黒い球体に左手をかざすと、さっきの稲妻と同様に、吸い込まれていった。


「てめーら纏めて、消してやりゃー!」


ドン・グリードか筒を振る。


すると、鳩尺様が放ったモノと同じ、黒い球体が放たれる。


私は理解した。

あのリス人族、ドン・グリードは相手の魔力を吸収してしまうのだ。


黒い球は、発信元である刻甲めがけて飛んでいく。


「鳩尺様、ここは私にお任せください!」


回避不可だと判断した刻甲は鳩尺様から飛び出した。


刻甲は錫杖を構えると、向かってくる黒い球を叩く。


瞬間、大爆発が起こった。


爆風の影響で、マウントコカトリス共々身体が揺さぶられる。


刻甲は自身を犠牲にしたせいで、体力が尽きたのか、そのまま湖に落下した。


「クレアさん、私、刻甲さんを助けに行ってきます!」


「ポポポポポポポ!? クルッポー!」


「あぁ、頼む! こっちは任されたぞ!」


ミーナと鳩尺様は、刻甲を回収しに向かった。

私だけでこのリス人族を対処するのは難しい。

だが、なんとしてでも倒さなければならない。



「これで、邪魔は出来んだろ? 残念ながら、魔術は俺には効かん! そして、このイヌ人族の娘も、終わりだぁ!」


シオンを包んでいたバリアに亀裂、ひびが波状に広がり、バリアは消滅した。


ドン・グリードが、シオンとマウントコカトリスに襲いかかる。


基本的に、物理的な攻撃手段以外の異能な力は、魔術である。

この空中戦に於いて、弓矢を扱う者が居ないとなれば、魔術による殴り合いが主となる。


だが、魔術はこのリスには効かない。


こんな空中では原始的な、斬る蹴る殴る絞める突く……などといった物理的な攻撃は難しい。


ただそれは、距離が離れていればの場合である。



「ぐっ……このイヌめ! 諦めが悪いぞ!?」


「テメェが、バリアを壊す時を待ってたんだよ!? 大人しくしてると思ったかァ!?」


シオンはドン・グリードを掴み、ヘッドロックで動きを封じる。

彼女も彼女で対抗策を考えていたようだ。



「ぐあ……!? 貴様? よく見ればイヌ人族じゃなくてヒトか!? どおりで、噛みつかず、絞めてくる訳だ」


ドン・グリードは今更、シオンがヒトだと理解したらしい。



「くっそ!?離せ! なかなか絞めるの上手いじゃねーか!? 畜生!」


「オレは、以前デロ先輩に、こういった技をやられてなぁ……! それをオレ流で再現したって訳よ!」


「ふはは、そいつが例の『特異点』だよなぁ? そりゃスゲーや」


ヤケになったのか、ドン・グリードが笑いだした。


「団長! 今がチャンスっす! オレごとやってください!」


シオンが血迷った事を言ってきた。


「な、何を言ってんだシオン!? 」


「いいから、やるっすよ! このままコイツらにやられたままでいいんすか!? オレなら覚悟は出来てる! 必殺の落雷でいつも通り、やればいいんだよ!!?」


シオンの口調はどんどん荒くなる。

ここで引いては彼女の必死の抵抗が無駄になってしまう。



今のシオンの目は、私を信頼しきっている目だ。

そんな目を向けられているのに、期待を裏切って良いだろうか?……否、良い訳がない。



私はシオンの意思を尊重する。


聖剣を天に仰ぎ、稲妻を集める。

飛行中というのも相まって、雷の集まりは悪い。

だが威力としては十分だ。


確実にドン・グリードに当たるように、シオンへのダメージが最低限になるように、狙いを定める。


「行くぞ!」


私はシオン共々、ドン・グリードに稲妻を放った。



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