第62話 マグロの刺身には、わさび醤油が一番!
俺とアードバーグは、マウントとりとりこと、マウントコカトリスの制御を人為的なミスにより、ボナーン! と湖に墜落した。
この結果には、例のボロい建物の方々も、ご立腹に違いない。
俺達の生存を確認したマグロ人族は、再びこちらめがけて飛んでくる。
流石にヤバいぞ、これ。
マウントとりとりは、俺達に情けない姿を見せたく無いのか、クチバシを食いしばり、物凄くやせ我慢している事が見て分かる。
水鳥じゃ無いので泳ぎが苦手かと思われたマウントとりとりだが、蛇の尻尾を持っているお陰か、彼は水上をスイスイと泳ぎ、自分だけ浅瀬に移動し、安全そうな所で腰を下ろした。
「なんじゃあいつ!? わしらをほっといて自分だけ休んどるで! おい!このだらず! わしらも助けろや!」
アードバーグがマウントとりとりにSOSを求めるも、ヤツは知らんぷりしている。機嫌を損ねたのだろう。
マグロ人族は俺達に何もせず、一度低速で頭上を通過した、恐らく峡谷の形状を確認しつつ、攻め方を考えているのだろう。
俺は飛びすぎるマグロ人族を見送る。
やはりマグロ人族は速力は高いが、旋回能力、起動力、運動性能は良くないようだ。
おまけに、陽炎が彼らの尾に引きづられている事から、マグロ人族はかなり発熱している。消費するエネルギーも少ない訳がないだろう。
アードバーグやカキザキから聞いた、過去のマグロ人族の襲撃は、どれも1分にも満たぬ、極めて短い時間での出来事だ。
それが今回、マグロ人族は、バリアという邪道な魔道具によって、俺達を仕留めきれず、数分が経過している。
おまけに、急降下による加速をしないと音速を出せないとなると、奴らマグロ人族は勝てない相手では、無いかもしれない。
初見殺しというヤツだ。
ならば、奴らのその特技を封じれば良いだけだ。
「アードバーグ、今持ってるそのモップってアラーインスレイヴか?」
「いや、見た目は似ちょるけど、これはアラーインスレイヴを模して後年に作られた贋作じゃ。 呪いは無いが、泡を湧かせて洗う事ならできるで?」
なるほど。
泡を出せるなら使わせて貰おう。
俺はアードバーグから、アラーインスレイヴを模した剣を貸してもらう事にした。
「他に、わしが出来ることあるんかのぉ?」
「じゃあ、この魔道具を持っててくれ!」
「ええんか?」
「ああ、マグロを誘導してくれるだけで良い。その魔道具はヤツらが攻撃してきた時にでも使ってくれ」
俺とアードバーグは打ち合わせを終わらせ、マグロ人族をおびき出す作戦を始めた。
・・・
やはり、俺が予想した通りだ。
マグロ人族は、体内に熱を溜めてしまうため、長時間の飛行は出来ないらしい。
彼ら5人は湖へと着陸すると、普通のマグロみたいに泳ぎ、体を冷却させている。
ちなみに俺は現在、とある場所から根っこ触手を伸ばし、久々に根っこ視覚と根っこ聴覚を使ってマグロ人族を観察している。
「おい魚ども!? このわし、アライグマ人族の王、アードバーグ・ライジングを覚えとるか!?」
アードバーグがマグロ人族達に語りかける。
「飛べない所を狙って、倒しに来たのか?」
「我々は飛べなくとも、水中でもトップクラスの実力を秘めている」
「たかだかアライグマごときに、我々が倒せる訳が無いだろう」
マグロ人族がアードバーグに向かって挑発する。
「なんじゃおどれら!? 堂々とタイマンも張れん癖に、口ばかり達者にイキりおってぇ! わしが貴様らをぶちまわしたるけぇのぉ!覚悟せーや!」
その挑発にまんまとアードバーグは乗ってしまう。彼は、そのままマグロ人族のいる湖の中心へと泳いでいく。
おいおいアードバーグよ、マグロを甘くみてはいかぬぞ?
マグロは割と食物連鎖の上位に位置する海洋生物だぞ? あまり舐めてると痛い目にあうと思います。
さては貴様、スイミーを知らないな?
バシャバシャと泳ぐアードバーグの周りに、マグロ人族が煽るように泳ぎ始める。
よし。作戦完了!
俺は、アードバーグから受け取った剣から、大量の泡を湧かせる。
「何だこの泡は!?」
マグロ人族は案の定慌てだす。
ネタばらしをすれば、俺はアードバーグ、マグロ人族が泳いでいる下で、ずっとスタンバってました。
大根の体では呼吸の必要性が無いためか、ずっと潜っていられる。こりゃスゲーや!
俺は空でバランスを奪われた腹いせを、水中で晴らした。
当たり前の事だが、泡の中は気体だ。液体ではない。
ならば、大量の泡がマグロ達を包むとどうなるだろうか?
泡によって水の密度が下がり浮力が弱まってしまい、沈んでしまうのだ。
これは海底からガスが沸くことで、船が沈没するという話を聞いた事があり、そこからの転用だ。
「ぐへぇ!? ちょっと待てや!わしも、沈めて、どうすんじゃあああ!?」
おっと、マグロ人族と平面的な距離が近いのでアードバーグまで巻きこんでしまった。 てへぺろぉ!
勿論、マグロの動きを封じて作戦終了、な訳がない。
俺は、先日のフーリー戦で不完全だった能力を、今こそ覚醒させるのだ!
だって、今俺ざいる場所って水中じゃん?
今やらなきゃ、いつやるの? って話になるじゃん?
俺は全身に力を込める。
俺の身体から緑の稲妻がほとばしる。
やはりと言うべきか、身体全体に痺れるような痛みが広がる。
すると俺の身体が緑へと変色する。
『わさび大根形態』だ。しかしこれは不完全。
俺はこの先の形態を目指す。
力を込めると、更に稲妻が多く現れ、俺の全身に激痛が現れる。
大根特有の滑らかな肌が、突如変化しだす。
「うわ……、何これ、キモ!?」
俺はつい水中で、声を出してしまった。
滑らかな肌が、爬虫類のような鱗みたいなゴツゴツとした物に変化した。
そして、案の定頭の中に新たな情報が入ってきた。
【覚醒・わさび形態】
自身にも有害な毒が湧き出るため、綺麗な冷水でのみ、本形態に完全な変化が可能となります。
主な能力は、精神面の強化。
五感がより鋭くなる。
短所としては、水中以外での運動能力が、通常大根形態よりも下がります。1分以上の陸上での活動は、自身の毒によって、良くて死にます。
という事らしい。 ……良くて死ぬってなんだよ。
力の赤筋大根と技のわさび、という所だろう。
……絶対違う気がする。
とりあえず、この『わさび形態』の本領を、早速マグロで実験してみよう。
俺はマグロ人族の1人に狙いを絞り、体から湧き出るわさびのエネルギー弾を放ってみせる。
「かーめーはーめー……波動拳!」
例の構えで、わさびをマグロに飛ばした。
……技名は気分だ。型さえ似てりゃあ、北斗剛掌波でもなんでも良かったのだ。
「かっらーい!!?」
マグロ人族の1人が、わさび弾を食らい。空へと飛んで行く。
根っこ視覚から、そのマグロが爆撃機の迎撃に向かうように、空彼方へと飛んで行く様子が確認できた。
そこまで、悶絶する辛さなのだろうか?
やっぱ、わさびスゲー!
というより、マグロとわさびの相性って良いよね!
久しぶりに寿司が食べたいと思う今日この頃なのであった。
この調子で反撃していこう!
連投は、今回で一旦終わります。




