第61話 これは実話であり、実際の証言をもとに制作されている……とか、そういうのは無い
マウントコカトリスことマウントとりとりは嫌なヤツらだが、飛行能力に関してはその実力を認めざるを得ないだろう。
マウントとりとりは、ダチョウや馬よりも大きい。
体重も600kgを越える巨体なのだが、彼らは軽々と飛ぶことができる。
それは、この世界特色で、生物はみな体内に魔力を秘めているから、出来る芸当らしい。
物理的に考えれば、カピバラゴンにしろドラゴンにしろ、あんなに規格外の大きな体格を持つくせに、小鳥みたく羽ばたいただけで飛べる訳がない。
前世の世界では、アホウドリだって高所からグライダーみたいに上昇気流を利用しなければ、自身の重さ故に飛べやしない。
古代のプテラノドンでさえ、その飛行能力を疑われているくらいだ。
ミーナちゃんに聞いたところ、この世界のドラゴンをはじめ、カピバラゴンやマウントとりとりは、魔術を扱う事で安易な離陸を可能にしているらしい。
かと言って、彼奴らは獣なので、呪文を唱えるとかそういう事はしない。
魔獣や魔物は、魔法陣を使うらしい。
魔法陣の使われている物は、魔道具が大部分を占める。
魔道具、魔法陣の形は、人族が彼らの骨格や形を参考に、作りだしたという。
マウントとりとりは、翼を広げる事で、自分の骨格が特定の魔術を発動させる為の、魔法陣の役割を成すらしく、それで飛ぶための魔術を発動させる事が出来るとか。
マウントとりとりが扱う魔術は、翼の上を流れる空気の圧力を極端に下げる事で、圧力の差を作り、翼を持ちあげる事で、浮力を発動させるというものだ。
鳩尺様のようなホバリングは出来ないが、圧力と空気の流れを操る事が出来るらしい。
案外、理系なマウントとりとりなのであった。
「それでは、私についてきてくださいよ!」
「ポポポポポポポポポポポポ、クルッポー!」
刻甲と鳩尺様が俺達を誘導するように先に飛ぶ。
彼に続くようにクレア、シオン、レイラ、アードバーグを乗せたマウントとりとりが飛んでいく。
俺とミーナちゃんも彼女らに続く。
俺はマウントとりとりの手綱をとり指示をする。
「グワァー!」
マウントとりとりは助走をつけて走りだす。
思っていたより、こいつら走るの早いな。
体感だと、地獄のピクニックの時のBHSをも凌ぐ速さだ。
V1、回転!
速度がある程度出るとマウントとりとりは翼を広げる。
マウントとりとりの翼上に靄の様なものが現れる。
翼の上を流れる空気圧を下げる魔術が発動したと言うことだろう。
乗っていてもわかるほど、マウントとりとりを押し上げる浮力を感じる。
気づけば俺達は空を飛んでいた。
……以外と高いな、これ。 少し怖いわー。
俺達が全員飛び上がった事を確認すると、カキザキとコバヤシも、マウントとりとりを走らせ、俺達の後ろにつく。
「それじゃ、健闘を祈りましょう。 無事に峡谷を越えたら、特大ステーキとサラダでも奢りますぜ!」
カキザキはそんな事を呟いた。
そういうのは、死亡フラグだからやめて欲しいものだ。
でもカキザキはマウントコカトリスによる総飛行時間が10000時間を越える経験豊富なベテランらしい。
一方コバヤシは、マウントコカトリスを扱った総飛行時間は、1000時間に満たない新人であるも元軍人と本人は言っていた。
ベテランと、新人なれど元軍人、この組み合わせならば、マグロ人族の脅威に抗えるだろう。
俺は、そう確信した。
・・・
シギアゲートから飛び立ち、1時間が経過した。
マグロ人族は上空10000m以上の高高度でも飛ぶことができるそうなので、俺達はあえて峡谷上空、100mほどの高さを飛んでいる。
普通に考えて音速で飛んでくる相手に対して高所を飛ぶなど、ブタちゃんが、凶暴なサメがいる海域を泳いでいるのと同じ事なのだ。
シギア峡谷はその名の通り、いくつもの崖により形成され、崖の高さ、間隔はまばらである。
上から見れば、迷路の様に入り組んでいる事がわかる。
身を隠すには、うってつけだが、自分がどこにいるのか、わからなくなるという欠点もあるので、カキザキ曰く、峡谷の間を飛行する事は控えた方が良いらしい。
峡谷の下は湖になっている。
変な生物等は確認されていないらしいので、何かあれば潜水しても大丈夫そうである。
「ん? 何か聞こえるぞな!?」
「雷……ではないっすね?」
「今は晴れてるからな。 ということは例のマグロ人族とやらか?」
奴らは突然やってくる。
レイラがそんな事を呟き、シオンやクレア達も、不審な音の発生に気付いた。
しばらくして、俺も不審音に気付いた。
この音は、雷ではない。 どちらかと言えば飛行機の音。ジェット機の音に近い。
「ミーナちゃん! あと皆も、例の魔道具を準備を急いで!」
俺は、シギアゲートで手に入れておいた魔道具の準備を皆に勧めた。
「みんな、気ぃつけや!? あのマグロどもは飛んだだけで、隊列を吹き飛ばす力を持っとるけぇのお!」
かつて、マグロ人族に自軍を滅ぼされたアードバーグが声をあげる。
「6時の方向、マグロ飛来!」
コバヤシが俺達の後方、上空から迫るマグロ人族を視認した。
マグロ人族は5人。 アードバーグやカキザキの言っていた通りの人数だ。
急降下するマグロ人族達の尾の先に突如白い霧、煙の様な物が纏わりつく。
俺も見るのは初めてだが、これはソニックブームという物で、音速の壁を越えた際に生じる現象だ。
普通は戦闘機くらいにしか現れないし、よりによってマグロが音速を越えるなど、まともな教養を受けてる者なら考えられる訳ないだろう。
「みんな、魔道具を発動させろ!」
俺は指示を出すと、全員がその魔道具を発動させる。
すると、マウントとりとりを囲むように、半透明の膜、バリアに包まれる。
それからまもなく、マグロ人族が通過する。
たったそれだけで、何かがぶつかってくる衝撃と地上からの轟音で、バリアを纏っていても体が激しく揺さぶられる。
「グワァ!!?」
突然の衝撃と轟音に、マウントとりとりが驚いている。
幸いバリアのお陰で、致命傷から免れる事は出来たが、ただマグロが通り過ぎただけで、気が滅入りそうだ。
「ここは峡谷に潜んだ方がいいでしょう!?」
刻甲が乗る鳩尺様が峡谷へ高度を下げていく。
この間にも、俺達の前を経過したマグロ人族達が、大きく旋回しながらこちらに戻ってくる。
俺達は峡谷内部へと高度を下げ、身を隠し飛行する事にした。
マグロ人族は音速を越える速度を出せるが、大きく弧を描きながら旋回するところを見る限り、機動性はそこまで良くないのだろう。
逆にマウントコカトリスは、速度こそマグロ人族に遠く及ばないものの、運動性能、機動性に関しては、奴らよりも何倍も優れている。
俺達はその優位性を生かし、峡谷の間を飛ぶ事にした。
レーダーを掻い潜るため、狭い所を飛ぶのは伝統芸である。
しかし、そんな事を奴らマグロ人族が知らない事は無かった。
俺は、ある事に気付いた。
今、俺達の目の前を通過したマグロ人族は5人ではなく、良く見れば4人だ。
1人足りない。
「おい、カキザキ! コバヤシ! マグロ1匹、どこかにいるかも知れない! 気をつけろ!」
俺は後方で俺達を護衛する2人に注意を促す。
「どうしたダイコンの旦那? 確かに、お嬢さん方がいるから、心配するかもしれんが、峡谷に行けば問題な……うわぁあああああ!?」
突如、カキザキが乗るマウントとりとりが炎上し、錐揉み状態で峡谷下の湖に墜落した。
「カキザキぃいいいい!?」
俺は峡谷へ落ちて行ったカキザキの名を叫ぶ。
彼の姿は、そのまま湖に消えていった。
カキザキが落ちると同時に、どこかに潜んでいたマグロ人族の1人が、俺達の目の前を低速で通りすぎた。
「クソ!? よくもカキザキを!? ダイコンさん! 刻甲さん! 俺、行ってきます!」
「やめなさい、コバヤシさん! 1人じゃ無理です!」
カキザキをやられて頭に血が上り、冷静さを失ったコバヤシが、刻甲の制止を振り切り、こちらに戻ってきたマグロ人族4人に、無謀にも、単身で向かって行く。
そんなコバヤシとマウントとりとりに、マグロ人族が口から火炎の弾を吐き飛ばしてくる。
「コバヤシぃいいいい!?」
俺は呼び止めるも、コバヤシは、マグロ人族に墜落され、湖に姿を消した。
「刻甲! アイツらの最大の狙いは、おそらく俺だ。 ミーナちゃんを頼む!」
俺は自分が、げっ歯類連合にとって、特異点などと呼ばれている所から考え、一番脅威だと思われているという事を、何となく自覚している。
俺はミーナちゃんを、刻甲と鳩尺様に渡そうとする。
「そげな事するんなら、こっちこいやダイコン!」
アードバーグがマウントとりとりの舵をこちらに向け近づいてくる。
「あのマグロどもも、わしらアライグマ人族の復讐の対象じゃけぇ、黙っとる訳無いじゃろ!?」
アードバーグと共にマグロ人族を引きつけるために、アードバーグが乗るマウントとりとりに飛び移る。
「それじゃ、あとは任せましたよ! 着地できそうな所を見つけ次第、我々は身を隠しときます!」
「デロちゃん! 気をつけてくださいね」
刻甲、鳩尺様、ミーナちゃんの2組は峡谷へ下がっていく。
「危険を感じたら、すぐ引き返せよ?」
「健闘祈ってるっす!」
「あんまり無茶したら、いけんでー!?」
クレア、シオン、レイラの3人も続くようにミーナちゃんらに続くように、峡谷へと侵入する。
これで、空を飛んでいるのは、マウントコカトリス1匹と俺とアードバーグ、そしてマグロ人族だけである。
バリアを纏いながら俺達は、マグロ人族へ立ち向かう。
どうやらマグロ人族は、急降下でのみ、音速を超えた飛行ができるらしい。
ならば逆に、奴らに近づけば、音速飛行と一撃離脱という奴らの戦法を封じられると俺は考えた。
音速は、気圧や温度によって変動するので、確定した数字は言えないが、時速1200km前後くらいだろう。
マウントコカトリスの平行時の飛行速度は、聞くところでは、時速400kmほどらしい。
マグロ人族は音速を超えなくとも、マウントコカトリスの倍、初期のジェット戦闘機並みの速度は普通に出せるようだ。
つまり、音速を封じた程度で易々と敵う相手では無い。
マグロ人族は陽炎を帯びながら、高速で俺達とすれ違う。
「ガァ、ガァー!??」
マウントとりとりがバランスを崩し、落下していく。
「なんじゃこりゃ!? 何があったんじゃ!?」
アードバーグがマウントとりとりの手綱を引き、高度を上げようと試みる。
私、ダイコンデロガは、音速による衝撃波のみに注意力を回しており、大事な事を忘れておりました。
音速以下の速度(されど超高速)で飛ぶマグロ人族が経過した後には、衝撃波はない。
ただ、乱気流という物があるので、マウントコカトリスは風の流れを掴めなかった。
おまけに、超高速で通過したため、マグロ人族の周りには強い風が吹く。
飛ぶための浮力は、流体の気圧が下がる事を利用して発生する力らしい。
つまり気圧が低いとなると、そっちに吸い寄せられちゃうんだなーこれが。
所謂、スリップストリームだ! いや違うな……。
そんなこんなで、自分のミスで、マウントコカトリスは落ちていくのであります!
「やばいよ!やばいよ!」
「くっそ!なんで上がらんのじゃ!? 引いとるけぇ、飛べや!」
手綱を引くも、失速しているので飛べない。
失速した場合、一度、降下して速度を上げる必要がある。
飛行機のゲームしていれば、わかる事だったのだが、今の俺とアードバーグは、軽くパニックになっているので、それに気づかない。
「畜生!こんな事が、現実な訳が無い! 夢だ! フィクションだ!」
俺は現実逃避するも、この感覚は本物。現実は非情である。
「フィクションじゃ無いのかよ騙された!」
メーデー! メーデー! メーデー!
STALL! PULL UP! PULL UP!
だが無意味だ。 もう、助からないゾ♡
失速して落下していくマウントコカトリスにまたがる俺とアードバーグのバカ2人は、そのまま湖に、ボナーン!と腹打ちし墜落した。




