第60話 マウントコカトリスの女王と外泊証明書
あけましておめでとうござます!
今年もげっ歯類ともども、よろしくお願いします。
時系列は少し戻る。
フーリーがカッチョパッチョ大王の分身を我が身を犠牲に倒し、一件落着した翌日の事である。
「そんじゃ、わしらは里に帰るけぇのぉ」
ライオネルは他のアライグマ人族を引き連れて、帰り支度を始めていた。
しかしその事に不満なアライグマ人族がいた。
「えぇ!? ライオネル帰るんか! わしは、あのネズミどもに復讐せんと気がすまん! いやじゃ! 帰りたくない!」
ライオネルに噛み付くように駄々をこねるのは、アライグマ人族の王、アードバーグ・ライジングだ。
「アードバーグ! 散々みんなに迷惑かけちょるのに、まだ気がすまんのか!?」
「それは分かっとる! ……じゃけど、やられたまま終わってええんか!? わしらはアライグマ人族じゃ! 何せ敵には、ヌートリア人族までおるけぇのぉ、ここで大人しく退くのはアライグマ人族の現王として、アライグマ人族の未来を作る代表として出来んのじゃ!」
ライオネルはアードバーグの言葉を聞き、しばらく考える。
「……ほんに頑固じゃのぉ、このだらず。 わかったアードバーグ、お主にわしらアライグマ人族の全てを託すけぇのぉ。 わしはみんなで、いつぞやのマグロと胡散臭いカピバラにやられた、行方知れずの仲間を探しに一旦、里に戻るわ。 という事じゃダイコン、だらずの面倒頼むで?」
この場に居合わせていた俺は、ライオネルにアードバーグの事を宜しく頼むように言われた。
アードバーグは既にアラーインスレイヴの呪い、カッチョパッチョの魔力による呪いのどちらからも解放され、正気に戻っているので、もう理不尽なイチャモンをつけて洗ってくる事はしない。
それに、げっ歯類連合にはまだ多くの刺客がいるし、邪竜カピバラゴンという最終兵器をヤツらは持っている。それに対抗するにも、仲間は多い方がいい。
俺はライオネルの提案を受け入れた。
「そんじゃダイコン、これから宜しく頼むで! わしらアライグマ人族が力を貸すんは、長いアライグマ人族史で、貴様らが初めてじゃけぇのぉ。 光栄に思うとええで?」
アードバーグは腰に手を置き、偉そうに胸を張ると、俺の手を握ってきた。
・・・
「という事で、磨王改め、真磨王アードバーグ・ライジングは俺達の仲間になったんだ」
俺はクレアに経緯を説明した。
「宜しく頼むで!」
「ああ、こちらこそ宜しく頼む」
なんとかクレアに事情を飲み込んで貰ってひと段落ついた。
俺達はこれから、峡谷を飛ぶためにマウントコカトリスの騎乗について学ぶ事にした。
マウントコカトリスは、相手構わず主導権を握ってこうようとする魔獣だが、ガチで力が在る者に対しては、大人しく従う習性を持っている。
シオンはヤツらに見下され、ナンパされていた一方、クレアは自身から滲み出る強者のオーラよってマウントコカトリスを服従させる事に出来た様だ。
「気性が荒いとは聞いていたが、マサ子やブラックヘッドスナイパーより手懐けるのは簡単だな」
クレアはそんな事を呟いた。
「グワァ〜!ガァー!グワァ〜!(俺はどこまでも姐さんについていきます!なんでも申し付けください!)」
マウントコカトリスは、クレアを聖者、偶像、暴走族の頭の如く扱い、忠誠を誓っている。
「マウントコカトリスに乗るのは、私も久しぶりでなー。 ダイコン、とりあえずトサカと尾が長いほうが機動性が高いけぇオススメだで!」
レイラはマウントコカトリスの扱いを知っているようで、何だかんだ彼らを手懐ける事に、時間はかからなかった。
「もう洗ったりせんけぇ、大人しくせーや!」
「グェエエエエエ!?(あ、アライグマ人族だぁ!?ヤダァ!洗われるぅううう!?)」
アードバーグは呪いに支配されていた時に、マウントコカトリスを洗ったようで、彼らはアライグマ人族がトラウマになっているらしい。
「お! やっと乗れたっす! 団長! デロ先輩! やりましたよ!」
シオンは、なんだかんだ手懐ける事に成功したらしい。
乗れた事が嬉しいのか、こちらにVサインを送っている。
「ガーガー……グェヘヘヘ……(うっひょー! このメイド娘の太もも、たまんねぇ〜)」
シオンが跨るマウントコカトリスが、ものすごいにやけ顔をしているし、その思考もろくな物ではない。
しかしシオンの太ももを理解できる点に於いては評価してやろう。
アイツはシオンに対して害を与えるヤツではない。
その一方で、俺は未だにマウントコカトリスに乗れずにいる。
「グワァ! ガーガーガー!(え? なんなの君? 大根のくせに、偉大なる僕ちゃんに跨ろうなんて、10年早いんじゃない!? もっとも10年もしたら大根なんて腐りそうだけどね! 君程度じゃあ、僕ちゃんを楽しませる事できない!退屈なのは嫌なのさ! ちなみに僕ちゃん彼女いるよ!)」
お前らマウントコカトリスは、他人と優劣を決める競争を求めるだけでなく、楽しさも望むとか、なんて欲張りな奴らなのだろうか?
きっと頭の中に、鈴鹿サーキットがあるのだろう。
マウントコカトリスは、俺が言葉を理解していると気づくと、物凄く腹立つ顔で、煽りはじめてきた。
もうこいつらに、マウントコカトリスなんて立派な呼び名は要らないな。
主導権を握り、マウントを取ろうとする鳥という事で、こいつらを『マウントとりとり』と呼ぶ事にしよう。
俺は油断してそうなマウントとりとりを狙い、無理矢理乗ろうと試みるも、コイツらはダチョウに似た長い脚を持っているので、すぐ逃げられる。
もう俺は、コイツらに乗れないのだろうか?
「デロちゃんを困らせたらダメですよぉ!」
諦めかけていた俺に天使が舞い降りた。
「その声はミーナちゃ……なんじゃそりゃ!?」
俺はミーナちゃんの方を見ると信じられない光景を目の当たりにした。
「……ミーナちゃん、それ全部、手懐けたの?」
「はい!優しく語りかけたら大人しくなりましたよ!みんな良い子です」
ミーナちゃんは笑顔でマウントとりとりに跨っている。
だがそれだけじゃない。
彼女は10匹を越える数のマウントとりとりを侍らせていた。
「ぐわ……ぐわわわわわわ……(この女には逆らえねぇ……ドラゴンの群れにだってビビらなかったこの俺が本能的にこの女はヤバいと判断した。俺は利口だ。 命がいくつあっても足らねぇ。 逆らえねーよ……)」
ミーナちゃんが跨るのは、さっき俺とシオンに、ドラゴンの群れを記憶を失いながら戦ったという虚言を吐いていたヤツだ。
「デロちゃん、この子に乗ってください」
ミーナは自分が乗っているマウントとりとりに俺を招待してきた。
もっとも俺は、身長(主根)が40cmと小柄のため、共用の方がいいだろう。
「いいですか皆さん? デロちゃんをイジメちゃダメですよぉ〜、」
「「「グワァ〜!(我らが女王の仰せのままに!)」」
マウントとりとり達は、鍛えられた軍隊の様に整列すると、ミーナちゃんの掛け声に応じるように返事した。
ミーナちゃんは、マウントコカトリスの女王に就任したらしい。
なにはともあれ、俺はミーナちゃんの絶対的主導権によって、無事にマウントコカトリスに認められ、手懐ける事が出来た。
よくよく考えれば、クレアが『マサ子達よりも楽に手懐けられた』と言ってたから、マサコとBHSの名付け親であり、彼らを手懐けているミーナちゃんが、マウントとりとりを配下に置く事など容易い事に決まっているのだ。
・・・
「それじゃ、こちらの書類にサインしてください」
マウントとりとりの扱い方をひと通り理解した俺達は、カキザキからある用紙を受け取った。
何やら、びっしりとマウントコカトリスの使用、シギア峡谷横断についての注意事項が書かれている。
「マグロ人族にやられたとしても、シギアゲート側は、何も責任を負わないって事ですね。テロリストや盗賊じみた強行手段でしたからね……」
カキザキの言葉通り、俺達はシギアゲートの町長だの町の色々な団体の静止を振りきって強行的に峡谷を飛ぶことにした。
おまけに、マグロ人族から身を守るという名目で、衝撃波から身を守るためのバリアを張れる魔道具を出来る限り頂戴したってわけよ。
そりゃ向こうからしたら俺達、厄介者でしかない。
シギアゲートのお偉いさん達は、大人しく黙っているわけない。
万が一にも俺達にイチャモンつけられてもいいように、証明書を書かせるという事にしたのだ。
俺達、そんな893やチンピラみたいな事しないよ? 多分しないよ?
「一応確認しとくが、これにサインしたら傭兵部隊に送られる事は無いよな!?」
「……ないですね」
『カキザキ』って名前が、外泊証明書にサインを求めてくる奴に似ているので、俺は無駄に細心の注意を払って、書類に目を通す。
利用規約には、ちゃんと目を通そう!
書類にサインした俺達は、いよいよマウントとりとりに跨る。
「皆さん、準備はいいですか!?」
刻甲が俺達に確認をしつつ、カキザキ、コバヤシと共に俺達の後方へ移動する。
ところで気になったのだが……。
「なんで、刻甲は鳩尺様に乗ってるの?」
刻甲はマウントとりとりではなく、鳩尺様に乗っている。
以前、森でBHSと追いかけっこしてた時には鳩尺様に刻甲は乗っていたが、鳩尺様が飛ぶというイメージは無い。
「なぁ、鳩尺様って飛べるのか?」
俺は刻甲に素朴な質問をする。
「今回は、鳩尺様を飛行特攻に鍛えてみたんです! どうです? この機動性!」
「ポポポポポポポポポポポポポポ!」
刻甲は鳩尺様の飛行能力を俺に見せつける様に、鳩尺様を羽ばたかせる。
すると鳩尺様は、翼を羽ばたかせると、その巨体が嘘の様に、ヘリみたいに垂直に浮かせる。
「おお、ト○プガンみたい! エア○ウルフだね!」
俺は、後々にゲロりそうなくらいウキウキな気分で鳩尺様を見つめる。
鳩尺様は走る際に脚を高速回転する事で素早く走る事が出来る。
なら飛ぶ時はどうなるか?
答えは、似た様な感じだ。
鳩尺様はハチドリの如く、両翼を超高速で羽ばたかせる事で、静止飛行している。
正直言ってキモい。鳥というより羽虫に見えてしまう。
こんなの目にしてしまえば、敵さんは撃墜したくなるだろう。
とりあえず鳩尺様は囮に使う前提で考えよう。どうせ物理的な攻撃では死なないさ。
俺は一人で納得し、ハチドリみたいに飛ぶ鳩尺様とそれを自慢する刻甲から視線を外した。




