げっ歯類連合、幹部集結 その1/3
今回から3話、クライマックスに向けた閑話を挟みます。
「ヒパビパ!話は本当なのか!?あのキツネ人族の欺角・フーリーが負けたというのは!?」
部屋中にトトンヌの声が響く。
ここは、バーディア地方にそびえるウルカ火山に建設されたげっ歯類連合のアジト総本部。
シギアゲートでの作戦が失敗した挙句に、カッチョパッチョ大王の分身が、フーリーに裏切られたという情報が広まり、トトンヌだけでなく、連合の全獣人達も落ち着いていられなかった。
「えぇ……、信じられませんが、全て真実です。カッチョパッチョ大王は、分身がやられたショックで寝込んでおられます。
大王は、雰囲気だけは完全復活してますが、実力がそれに伴う復活をしていないのです……」
手品師の様な格好のカピバラ人族、ヒパビパはトトンヌの問いに対し、包み隠さずに答えた。
「あの大根がフーリーを倒したのか!?確かにあの大根は強いが、フーリーは我やヒパビパと互角の実力!……というか大根の奴、よくも休戦の約束を破ってくれたな!ゆるせん!」
トトンヌはフーリーと手合わせしたことがあるようだ。
彼の実力を知っているからこそ、トトンヌは事態の飲み込みに時間がかかった。
「すまない。俺がフーリー頼みにしていたせいだ。あの大根の事を要注意しておけばこんな事態を回避できたはずだ」
「ヤンマーマさんが、悔いる必要はありません。私があの野菜獣大根の力を侮り、フーリーの力を過大評価していた故の失敗です」
ヤマアラシ人族、剣豪ヤンマーマは作戦失敗の責任は自分にもあると申すが、ヒパビパはそれさえも自分の責任だと述べる。
現在この空間には、トトンヌ、ヒパビパ、ヤンマーマを含めて6人いる。
「だから言ったのだ! ダイコン達を敵に回すくらいなら、人も獣も共に仲良く温泉を作ろうと!何で皆わかってくれないのだ!?」
「ええい! うるさいぞヌーターン! 何度も言っているが、温泉を作る事だけが目的ではない!我々は、 げっ歯類を中心とした世界を作るのだ!人族などと仲良くできる訳ないだろう!」
ヌーターンはヤンマーマに無理矢理連れて帰られてから、トトンヌ達に何度も抗議した。
しかし、彼の思いが伝わる事は無かった。
本来の目的は、ヌーターンの性格を考え皆が何も告げなかったのだから。
「だいたい、ヌーターンは何をしていたんだ!?フラッと何処かへ消えたと思ったら、ネスノ村の奴らと仲良くして!?おまけにハダカデバネズミ人族まで懐柔されてるではないか!このバカァ!」
「何がバカだ? ワタシは騎士王として皆が幸せになれる世界の実現のために動いただけなのだ!トトンヌ殿の方がバカバカなのだ!このアホォ!」
「な、なんだと!?……ヌーターンのドジ!方向音痴!」
「ムッキー!!……トトンヌの分からず屋!パキケファロサウルスよりも固い頭!」
「このあんぽんたん!」
「なにぃ!このマヌケ!」
「「ああああああああああああああ!!!」」
2匹のヌートリアは、相手を罵倒する言葉の語彙が尽き、動物的本能に従い叫んだ。
「お前らうるせーよ!黙れ! 叫ぶ奴は、マーモット人族だけで十分、貴様らも追い出されてぇか!?」
「「……ごめん」」
ヌートリア2人の喚き合いを、とある男が一蹴し、トトンヌとヌーターンは男に謝罪した。
「すみません、ドン・グリードさん!ご迷惑お掛けしました」
ヒパビパはその男に謝罪し、トトンヌとヌーターンの仲介人として割り込んだ。
声を荒げた男は、げっ歯類連合幹部が一人、木の実の大規模な密売を仕切るリス人族のマフィア、グリード一家の首領、ドン・グリードだ。
彼は椅子にもたれ、気怠げな表情をしている。
ドン・グリードの体長は約50cm、つぶらな目が特徴で、胴体よりも大きな尻尾は見た者の心を奪うだろう。
しかし可愛らしい見た目に騙されてはいけない。
彼はマフィアでありギャングスターである。
とても悪い奴なのだ。その証拠に眼帯をつけている。
「ところでヌーターン?貴様には罰を受けて貰わんと、俺らも納得いかんのだが?」
ドン・グリードはつぶらな隻眼でヌーターンを睨みつける。
「そうだぞヌーターン!貴様は罰として1週間お菓子抜きだ!あと、晩飯には貴様の嫌いなレーズンを入れてやる!」
トトンヌもドン・グリードの意見に賛成である。
「トトンヌの旦那よぉ?ヌーターンを子供やペット扱いするのはどうかと思うぞ? ……コイツがやった事は、木ノ実で例えるとドングリ10000粒の損害に値する。ただで許せるモンじゃねぇよ?」
トトンヌはヌーターンに対して甘い所がある。
ドン・グリードは、そこを諭すように呟いた。
「だからワタシは、皆のために、より良い提案をしているだけなのだ!ドン・グリードさんも、トトンヌ殿もヒパビパ殿も、他の皆も、わかってほしいのだ!」
「少し黙っとれ!」
ドン・グリードはヌーターンの話し相手をする事が面倒になった。
彼は口に何かを詰め、何やら筒を取り出し、口に咥える。
「!?」
ドン・グリードは咥えた筒をヌーターンに向けると、思いっきり口の中の物を吹きだした。
瞬間、乾いた破裂音が部屋全体に響く。
「いったぁ!??」
ヌーターンの額に何かが当たり、その反動でひっくり返るようにこけた。
突然の額の痛みに悶えるヌーターンの側に、クルミがひとつ転がっていた。
ドン・グリードはこの一瞬で、口にクルミをセットすると筒に向けてクルミを弾丸の様に吹きだしたのだ。
その速度は音よりも早く、命中精度は100m先の羽虫をも射抜く。
ドン・グリードは狙撃の名手でもある。
「とりあえず、ヌーターンは謹慎という事でいいだろう? 俺もその方がいいと思う」
「そうですね。トトンヌ殿?ヌーターンを自室に閉じ込めておきなさい」
ヤンマーマの提案にヒパビパは了承する。
その報告を聞き、ドン・グリードはため息をつき椅子にかけ直した。
「ま、待て!話はまだ終わってないのだ!」
「もういい!もういいヌーターン!大人しく部屋で反省してろ!」
抵抗するヌーターンをトトンヌが引きずりながら部屋を後にした。
『また会う時は、げっ歯類連合とネスノ村が和解できていると思うぞ!』
これはヌーターンが、ダイコンデロガ達に残した手紙の一文である。
どうやらダイコンデロガも予想していた通り、ヌーターンの和解作戦は失敗に終わってしまったのだった。




