第57話 カッチョパッチョ大王
俺達は、げっ歯類連合を統括する主、カッチョパッチョ大王の分身と対面した。
コイツは、フーリーが持っていたヤマアラシ人族の魔力を秘めた体毛に予め潜んでおり、アードバーグに突き刺さった事で、彼を操り暴走させ、狂戦士に変えていたらしい。
ヌーターンはネスノ村に温泉要塞を作るのが、げっ歯類連合の目的と言っていたが、ヌーターンは性格の問題で、本来の目的については知らされて無かったのだ。
カッチョパッチョはもったいぶる事もなく自分から話す。
「げっ歯類連合は主に二班に分かれておる。
トトンヌとヒパビパは全作戦を統括する身であり、温泉要塞の作戦を主に仕切ってもおる。
その配下には、騎士王とハダカデバネズミ人族がいるがな……。
貴様らは気づいていないと思うが、ネスノ村には、既にハダカデバネズミ人族4枚の刺客が送りこまれておるのだよ。今から引き返すのは大変だろう?」
饒舌に喋るカッチョパッチョ、しかし彼は肝心の事を知らないのだ。
「ハダカデバネズミ人族の4人って、スッパマッパ、デマルミエ、シリヤネン、フルチノフの事か?アイツらなら既に俺達の仲間になったけど?」
「え?……そうなのか?」
「うん、温泉をげっ歯類だけじゃなく、みんなのために使おうと言ったら協力してくれる事になった」
「な、なんだと!?」
カッチョパッチョは俺の言葉が予想外だったらしく、彼の顔が、ハトが豆鉄砲を食らったような表情に変わった。
こいつはハダカデバネズミ人族が俺達に負けて寝返った事を知らないのか。
げっ歯類連合の連絡網は、案外しょぼいようだ。
「ならぬ!ならぬぞ!獣人でも、げっ歯類でも、カピバラ人族でもない、忌々しき神に似た姿をする人族なんぞと共存してたまるかぁ!余は頭にきたぞ!この憤りを晴らすには、この町を破壊しなければ、治まらない!己ら、自分達の愚行を後悔するがよい!」
なんか、カッチョパッチョ大王が逆切れしたぞ?
最初は凄くラスボス感に満ち溢れていたが、急に小物感が出てきた。
カッチョパッチョは両手を振り上げると、頭上にドロドロとした黄色の何かが湧き始め、雪だるま式にどんどん大きくなっていく。
「なんだあれは……?」
俺は謎のドロドロとした物体について誰かに解答を求める。
「すみません、私にもよくわからないです。高温の液体に近いですが、マグマという訳でもなさそうです。ですが、とても良い香りがします」
ミーナちゃんでさえ、あの物体の正体を掴め無いらしい。
見た目は不気味だが、彼女の言った通り、すごく良い香りがする。前世でも嗅いだ記憶がある匂いだ。乳製品っぽい感じだ。
レイラ、刻甲、ライオネルもあの物体が何なのかわからない様子だ。
泥なのか?水なのか?
溶岩なのか?毒なのか?
正体はわからないが、ミーナちゃんは『高温の液体』と予想していた。
冷やせば、なんとかなるだろうか?
「なぁ!? 誰か、冷却とか氷とかの魔術使える人いないか?」
「わしは一応使えるが、こがな熱いもんには焼け石に水じゃ!効かせんで?」
確かにライオネルの言う通りだ。
謎の黄色い液体は、既にカッチョパッチョの体よりも、数倍に膨れ上がっている。もう元気玉だな、これ。
「ダイ・コーンとその仲間達、我々に勝った勝利祝いに、私から教えてやりゅ。 ……あれは牛乳を発酵しゃせた食べ物、つまりチーズだ。……しゃらにそれを高温にして溶かした物なのだ」
後ろから誰かの声が聞こえた。
「え?なんで?」
俺達は声の主を見てつい身構えた。
声の主、それは俺が先ほどまで戦っていたキツネ人族、フーリーであった。
「そう恐れるにゃ……。今も言ったが私は負けた。……にゃらば勝者には敬意を示すのが私に出来る事でありゅ」
フーリーはカッチョパッチョに向かって、槍を携え歩み続ける。
フーリーは、わさびで口内を刺激されたせいか、呂律が回って無いようだが、そこは触れないでおこう。
「こうやって会うのは2度目だな大王!」
「誰かと思えば、負け犬のキツネ人族ではないか!」
カッチョパッチョはフーリーの事など、全く気にしていない様子だ。
「私は犬ではないキツネだ。それに私が負けたのは大根とその仲間達に対してだ。貴様らネズミどもに負けた覚えなどない」
フーリーはさらにカッチョパッチョへと近づく。
ここからでもカッチョパッチョが天に掲げるドロドロとしたチーズ(?)の熱気を感じるのに、フーリーはそれを物ともしない。
見た感じ、口内以外の身体全身も、ボロボロであるが、彼の態度はそれを感じさせない。
フーリーの体から闘気が湧き出ている事から、これも彼の持つ心理操作能力の影響なのだろうか?
「私は最期にカッチョパッチョ、貴様を討ち滅ぼしてやる!」
フーリーは槍を構える。
カッチョパッチョは、チーズを振り上げたままフーリーを睨むも、今の態勢では何も出来ない。
「己は何をいっておるのだ? 余は本物ではなく分身、倒した所でなんともないわ!」
「だが、貴様を倒せる事には変わらん。ただのキツネが、伝説のカピバラの王を倒すのだ。貴様本体の自尊心を砕くには十分であろう?」
「ぐぬぬ……!許さん!これでも食らえい!」
フーリーの挑発にカッチョパッチョは怒り、振り上げていたチーズの一部をフーリーに放つ。
今のフーリーでは、チーズであろうと避けられない。
ドロドロに溶けたチーズはフーリーの顔に当たる。
「余の扱う固有大魔術『あらゆる物をチーズに変換する能力』には、何人たりとも敵わぬのだ! 余の上にある『これ』は、魔術でマグマを生成し、それをチーズフォンデュへと変えたもの!摂氏1000度のチーズフォンデュで焼け死ぬが良い」
「知った事かぁああああ!!」
フーリーは耐えた。
いくら顔にマグマの如く熱されたチーズがベタつこうと、怯む事は無い。
彼は持ち前の『嘘を現実に変える魔術』を使い、カッチョパッチョに攻撃する事に関する事象以外を拒絶しているのだろう。
フーリーは槍を構え、カッチョパッチョへと突進し、大王の土手っ腹に槍を突き刺した。
「なんだとぉおおおおお!?」
フーリーの予想外の行動に度肝を抜かれたカッチョパッチョは、天に仰ぐチーズの掌握権を離してしまった。
フーリーとカッチョパッチョに、大量のドロドロのマグマもとい、チーズフォンデュが降りかかる。
「あちちちちちち……!! あっちゃああああああ!!?」
カッチョパッチョが熱さのあまり絶叫する。
大王は、体についたチーズを取ろうとするも、素手なので触ると熱い。おまけに体毛にチーズがくっついているので取りにくい。そして熱い。
「どうだ?貴様が分身と言えど、五感は本体と共有していると私は知っている!本体もさぞ熱かろう!」
1000度のチーズに塗れている事が幻に思えるほどの火事場のバカ力をフーリーは発揮した。
フーリーは槍でカッチョパッチョを突き刺したまま、押すように走り出す。
体長5mを越すカッチョパッチョを、槍で突き刺しても、フーリーは決して失速しない。
寧ろ、さらに加速した。
フーリーの突き進む先は崖だ。
このままでは彼はカッチョパッチョの分身共々、崖下へ真っ逆さまである。
されど彼は止まらない。
わかっていながら、敢えて止まらない。
「おのれ! 止まらんか! 止まれ! 危ないぞ! やめて! このまま進むとお前も死んでしまうぞ!?」
「承知の上だ!」
カッチョパッチョの声などフーリーに届くわけなかった。
「うわぁあああああ!!?」
結局、フーリーとカッチョパッチョは止まることなく、そのまま崖から落下した。
カッチョパッチョの情け無い悲鳴だけが木霊する。
「フーリー!!?」
俺達はフーリーの行方を辿ろうと崖の上から見下げてフーリーの行方を探してみるも、目に入るのは、とろけたチーズが糸を引きながら空を漂っているだけで、その他には何も無かい。
フーリーの生存を確認する事は出来なかった。
シギアゲートを荒らしまわったアライグマ人族とキツネ人族のフーリーの大騒動は、こうして幕を下ろすのだった。
これにてアライグマ編終了。




