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第56話 新たな影


ダイコンデロガとフーリーが刃を交えていた裏側で、もう一つの戦いが起こっていた。


「アードバーグ、いい加減(たいがい)にせーや!もう洗うもん無いけぇ、みんな困っちょるで!」


アライグマ人族のライオネルは、同種であり(とも)であるライオネルの説得に尽力した。


磨王アードバーグに敵対するのは、ダイコンデロガの師匠、ライオネル以外にも、破戒僧刻甲と悪霊鳩尺様もいる。


現在のアードバーグは、ヤマアラシの尖った体毛を、尻に突き刺された事で、狂戦士に変わり果て、今まで殺傷能力など無かった泡に、爆破属性までも追加した。

だとしても、この3人の力を持ってすれば勝てるだろう。


「洗ったる!ゴシゴシのピッカピカにしたる!ほんで、洗い終わったら、また泥んこで、汚してから洗ったるけぇのぉ!」




洗う事以外何も考えられないアードバーグにライオネルは何度も呼びかけるが、彼が応じる事は無かった。


もう完全に、我を失っている。


鳩尺様はくねくねダンスで、アードバーグの動きを封じようとするも、『汚れたものを洗浄する』事以外、アードバーグには情報が入らないのだ。



「これは、厳しいですよ!?ライオネルさん、いかがいたしましょう!?」


刻甲がライオネルに提案する。


「なぁ?ニワトリの坊主(プリースト)、おのれは、念仏唱えられるんかのぉ?」


「ええ、問題ないですよ!勿論できますとも!しかし、奴の気を一時的に鎮める程度ですので、無力化するのは厳しいですよ!キツイですよ!」


刻甲の言葉を聞き、ライオネルは確信したのか、ニヤリと微笑む。


「気を鎮められるんなら十分、あとはわしがやったるけぇ……」


「せいぜい、1分食い止めるのが、やっとですが大丈夫でしょうか!?」


「そんだけありゃ十分じゃけぇ、任せとけ」


ライオネルには自信があった。

刻甲は彼の指示に従う事にした。



「鳩尺様!磨王の動きを封じてください!くれぐれも()()()()()()しないように!」


了解(クルッポー)!」


鳩尺様は刻甲の言葉に従い、アードバーグに向かい、短い二本足を高速回転させて走りだす。


「なんじゃこのハトォ!気持ち悪いけぇ、ぶち殺し(あらっ)たる!!」


アードバーグはアラーインスレイヴから泡を出し、鳩尺様にむけて飛ばす。


「ポポポポポポポ、ポッ!クルッポー!??」


鳩尺様の身体に泡が纏わりつくと、火炎躍るナパーム爆破を引き起こす。



鳩尺様は炭に塗れてしまい倒れてしまったが、命に別状はない。


問題が起こるのは寧ろアードバーグの方だ。

鳩尺様を攻撃してしまった事で呪いが発動。

アードバーグの足元に、暗闇(きり)が現れ、その中から現る無数の手が、アードバーグを掴む。


「なんじゃこれは!? 汚げな手で、わしをベタベタ触りおってぇ! 」


アードバーグは掴みかかる手を振り解こうとするが、掴んだ手は彼を離さない。


「今じゃ坊主(ニワトリ)!やれーや!」


ライオネルが刻甲に合図を出す。



「わかりました!

……そのカルガモ親子、六道巡って人の世へ。

カルガモの親子が街道を横断す。横断単縦陣で横断中。カルガモ親子の行進、それ即ち、天の気まぐれ。民よ、カルガモに(こうべ)を下げよ。カルガモが渡り終えるまで、人も、畜生も修羅も足を止め刮目せよと帝釈梵天は告げている。カルガモがその道、渡り終えれば、隣人と喜びあうがいい!」


刻甲は、錫杖(つえ)を前方に構え、片手に数珠を持ち念仏を唱えた。


「うぐっ……ぐあ……!?」


刻甲の念仏が効いたのか、アードバーグから邪気が薄れ、彼は呻きだす。


今が絶好のチャンスだ。


「アードバーグ!これを見ろや!」


「!?」


ライオネルは懐からとある物を取り出した。

それは木彫りの像。

アライグマ人族の英雄を模して作られた古めかしい彫刻像だ。


「……それは!?」


邪気が薄れたお陰で、アードバーグは正気を取り戻しつつある。


「なんじゃ?お前さん、これの事忘れたんか?これはわしとお前がまだ若い頃に、先代王アイテール・ライジング様に貰った英雄の証じゃろ?」


ライオネルの言葉に、アードバーグが昔の事を思い出し、顔を上げる。




それは、アードバーグとライオネルが若い頃に、アライグマ人族が、ウサギ人族の侵攻に打ち勝ち、その功績を認められ当時のアライグマ人族の王、アイテール・ライジングから貰った物だ。


「……とは言ったものの、カッとなってこれを、カピバラ人族に投げつける様な奴が、覚えちょるわけ無いじゃろな〜」


「……覚えとるし」


ライオネルの言葉にアードバーグがポツリと呟いた。


「ほんじゃあ、そのザマはなんじゃ?『アライグマは、洗っても洗われるな』その言葉を忘れとるがな?」


「……」


ライオネルの言葉にアードバーグは機嫌が悪そうにむくれている。


「じゃけぇ、もう一度やり直そうや?お前(だらず)でも、助かる方法教えたる!」


その言葉で、アードバーグは過去のことを思い出した。


アドミラール・ライオネルという友に出会った事。

そんな友とウサギ人族の侵略に打ち勝った事。

先代から王の座を受け継いだ事。

アライグマ人族の名を世に轟かせる為に、暴走した事。


「付き合ってくれんのか?こんな馬鹿者(だらず)に?」


「不満か?」


「いや、十分じゃ!」


磨王は消え、アードバーグは完全に、正気を取り戻し、手からアラーインスレイヴを手放した。

それを確認したライオネルは、彼に聖剣の呪いを消す呪文を唱える。するとアードバーグの胸の刀傷は汚れの様に落ちて消えた。



時を同じくして、空気を読んだように雨が止み始める。


これにて一件落着、かと思われた。

そんな結末に納得出来ない者がこの場に潜んでいた。



【やはり、げっ歯類以外に侵略の協力をあおったのが大間違いだった】



どこからか、そんな声が聞こえた。


「ぐっ……!?なんじゃこりゃ!身体が熱い!」


「アードバーグ!どうしたんじゃあ!?」


突如、アードバーグがもがき苦しみだす。

ライオネルは慌てて彼の体を支えるも、突如アードバーグの体から黒い瘴気(けむり)が湧き、ライオネルは気を失ってしまう。



丁度その情景を、フーリーとの戦いに勝ったダイコンデロガとミーナ、レイラの3名が見つめていた。




・・・




(ダイコンデロガ視点)


なんだよなんだよ?折角、フーリーとの鎬を削る戦いに、なんとか勝ったと思えば、そちらも大変そうな事になってんじゃん!?


「おい!何があったんだ!?」


俺は刻甲に聞いてみる。


「わかりません!ライオネルさんが、完全に磨王を封じたんですが、突如あのアライグマ人族の王から、変な声が聞こえて、こんな事になったんです」


刻甲も何がなんだかわからない様子だ。


アードバーグに変化が起きた。


アードバーグが纏っていた不気味なオーラが彼から離れた。


解放されたアードバーグは気絶し、その場に倒れこむ。


アードバーグから出た不気味なオーラは、実態を現す。


身長は間違いなく、鳩尺様を越えている。5mはあるだろう。

全身、薄い茶色の毛に覆われ、手足は黒く、ずんぐりむっくりとした体型で、頭はデカい。


「まさかカピバラ人族!?」


俺はそう口に出す。周りのみんなもそう思っているだろう。


だが、カピバラ人族にしてはデカすぎる。

俺は、カピバラ人族はヒパビパしか見た事が無いが、筋肉魔術師ジェイクより、少し大きいと聞いていたので、2mくらいが普通サイズだろう。

しかし、今ここに顕現したカピバラ人族は、その倍の体格を有している。


このカピバラ人族は、地面に擦れるほど長く黒いマントを羽織り、漆黒の鎧を着込み、その胸部分には、やたらデカイ赤い玉が埋め込まれ、肩部分は尖っている。


コイツの見た目をまとめると、90年代のファンタジーアニメに出てきそうな格好だ。


それだけで、このカピバラ人族が只者ではないという事が見てとれる。



「こうして、会うのは初めてだな。(うぬ)がトトンヌが生み出した野菜獣大根、その特異点だな」


カピバラが口を開いた。

見た目に反して、ダンディな渋い声をしている。


「お前は誰だ?」


俺はカピバラに問う。


「余は、カピバラ人族、げっ歯類(ローデンティア)の長。現世に蘇り、世界をげっ歯類の為に作り変える神に至らんとする者、カッチョパッチョ大王である!」


カッチョパッチョ大王。

その名を聞き、場の空気が凍りついた。


「カッチョパッチョ大王って……竜の時代を終わらせた神話のカピバラですよね!?……でも神によって封印されたんじゃないんですか!?それとも私の覚え違いですか!?」


刻甲が喉を震わせながら言った。


「そうだとも。だがここにいる余は、剣豪(ヤンマーマ)の針毛の魔力から、そこのアライグマの生体魔力によって具現化した虚像(デコイ)でしかないのだよ」



カッチョパッチョ大王を見ている鳩尺様は、彼から何かを感じとったのか、マナーモードにでもなったように、ブルブルと無言で微痙攣している。


鳩尺様が恐怖するほどの奴という事か?


今見ているカッチョパッチョは虚像と本人が言っている通りならば、俺で言うところの分身みたいなものだろう。

それでこの迫力という事は、本体は恐るべき存在に違いない。

流石は伝説上のカピバラの英雄である。



「つまり、げっ歯類連合のボスって事だな?なぜたかだか温泉如きに、ここまで手間をかけるんだ!?」


俺はカッチョパッチョに率直に聞く。


「温泉?……あぁ、それは世界征服のための礎の一つよ、(うぬ)らは、騎士王(ヌーターン)にあれこれ聞いたようだが、場の空気に流されやすい彼に、あれこれ話すと思うか?けれど、温泉はいいぞ!冷えた日は肩まで浸かれば全身ポカポカになれる。まさに天国だ!」


「言われてみれば、たしかに……」


ヌーターンの性格を考えてみれば、カッチョパッチョの言葉は的を射ている。



「じゃあ、本当の狙いはなんだいな!バーディアの海に、海王(リヴァイアサン)を放ったのもお前って事かいな!?」


「いかにも」


レイラの問いに、カッチョパッチョは包み隠さず答えた。


「余は、かつてドラゴンが支配する竜代を終わらせた様に、現世の人の世界、人代を終わらせ、げっ歯類によるげっ歯類の為の世界、げっ歯類代をつくるのだ!バーディア王国は実験には持ってこいの土地なのだよ」


カッチョパッチョは愉快そうに述べた。



「なんだいやそれ……!お前のせいで、国がどんな状況になっとるか分かっとるだか!?」


「レイラさん、落ち着いてください!」


カッチョパッチョの言葉が癇に障ったのか、レイラがらしくもなく、冷静さを欠いている。


ミーナちゃんがそんな彼女を諌めるも、レイラの腹の虫が治まる事はない。


温泉を作るだけかと思っていたが、世界を股にかけるほど壮大になってきたな……。


だが、温泉は計画の基盤、土台でしか無いという台詞から、逆に温泉を手に入れさせ無ければ、げっ歯類連合を好き勝手にさせる事を封じられるという事だろう。

カッチョパッチョが温泉について熱弁していた事から、彼も温泉が好きなのだろう。好きな物はいつでも手に届く所にある方が良いに決まっている。



このカピバラから殺気が伝わってこないので、俺はもう少し、カッチョパッチョ大王と話を続けてみる事にした。



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