第55話 DIE CORN 〜死ね!とんがり野郎!〜
なんとも酷い話だ!
俺は雷のクソッタレに、戦いの邪魔をするなと予め忠告しておいた。それなのに。
その結果がこのザマよ!
雷は、落下先を俺の頭上に決めやがった。
「痛ぇ……」
俺は水溜りに伏せ、雨に打たれながら悶えている。
幸いにも、赤筋大根は炎や熱、雷に対する高い耐性能力が備わっているため致命傷を免れる事はできた。
クレアが操る雷に、ハダカデバネズミ共々殺されかけた事や、ヌーターンが扱う魔術、『沼狸神の積乱雲』に追い込まれた事で俺は億劫になっていた。
「デロちゃん……大丈夫、ですか?」
ミーナちゃんが心配そうに問いかけてくる。
「大問題だが、大丈夫!それより、ミーナちゃんもレイラも無事でよかった!」
俺は赤筋大根の力を雷撃のショックで手放し、通常形態に戻ってしまい、誰がみても悲壮感溢れる表情で、ミーナに返事を返す。
「……気をとりなおして、いくぞフーリー!」
「お、そうか……」
フーリーは、これから放つ一手で全てを決めたいらしいので、ご丁寧にも待ってくれていた。
俺を待つなら、分身達も待ってやれよ……。
フーリーは槍を構える。
足場がぬかるんでいようが、フーリーはお構い無しといった感じだ。
「いくら死んでも、朽ちても、倒れようが立ち上がる大根、貴様に称号を授けてやる」
フーリーは俺に敬意を表しているようだ。
「カンガルー人族を越える、見事な飛び蹴りと、死のうとも何度でも蘇る姿から、貴様に『死を拒絶してくる角菜』という意味を込め、DIE CORNという二つ名を授けてやろう!」
えぇ……。
ダジャレ?だっさ……。
まぁ、フーリーが自他共に欺く角、コンコンってのが、キツネの鳴き声だし、今に始まった事じゃないか。
「死を拒絶してくる角菜……、かっこいいですね!」
ミーナちゃん、やはり君はそう思うんだね?
君のその笑顔はかわいいが、感性は理解できないよ。
フーリーから再び、醜悪なオーラが現れる。
完全とはいかないだろうが精神が安定してきたのだろう。
俺も、フーリーから距離をとる。
大根特有の尖った足が、スパイクの代わりとなり地面に突き刺さるので、滑ってこける心配は無い。
それよりさっきから、雷に当たったせいか体内がヒリヒリと痛い。
……。
いや、ヒリヒリどころでは無い。
身体を引き裂かれる感じだ。
それだけでは無い。
突如、俺の周りに緑色の電気がほとばしる。
間違いなく俺の体から放電してる。
雷に当たって俺の体、おかしくなったか?
「デロちゃん、本当に大丈夫ですか?キラキラ光ってますけど……」
ミーナちゃんは異常をきたす俺をみて、再び心配の眼差しを向けてくる。
俺は一度、精神を落ち着かせる。
そこで思いだした。
全身を駆け巡る引き裂かれる痛みと、それに連動するように現れる緑色の稲妻。
思い当たる節が一つある。
皿洗いに嫌気にさして『神をも殺す力』の覚醒に急ぎ、川に飛び込んだ時にこの症状が現れた。
流水にしたる事が覚醒条件。
現在、俺は大量の雨粒を浴びている。
あの時はダメだったが、今の落雷によって覚醒の準備ができたのかもしれない。
もっと遡って思い返してみれば、赤筋大根の力に目覚めた時も、ヌーターンの『沼狸神の積乱雲』が影響していた。
「試してみるか……!」
どういう訳か、雷に当たった事で、わずかながらだが、野菜エネルギーが回復している。
俺は全身に力を込める。
予想は的中した。
今まで体感したことの無い力が溢れてくる。
このまま、新能力に覚醒!と、思うじゃん?
「イッタァ!……痛いって!」
力は溢れてくる。
なのに、全身を貪る痛みは癒えることはない。
ここは、力を押さえた方が良さそうだ。
そうこう思考をまわしている間に、フーリーは槍を構え、突っ走り、槍を地面に突き刺さすと、その反動で宙へ舞う。
この技は俺達が初めて見たフーリーの技だ。
フーリーは雷に対する恐怖よりも、俺に打ち勝つ気持ちの方が勝っているようだ。
なら俺も痛みに対して、覚悟を決めなければ次に繋がらない。
俺は力を、足のみに集中させる。
すると、体に変化が起きた。
「ダイコンの色が緑に変わったで……!」
レイラが述べた通りだ。
通常時の俺は白い大根だが、それが緑へと変色した。
俺の足を軸に、緑の電気も踊り纏う。
「いくぞ!死ね!とんがり野郎!」
フーリーは全ての力をもって、俺に飛び蹴りを放つ。
合わせる訳では無いが、俺も飛び蹴りで相対する。
俺は加速をつける。
踏みしめた場所に、緑電がほとばしる。
「どりゃあああああッ!!」
俺は、全神経、全力を込めた両足をフーリーへと向け飛翔する。
俺とフーリーは互いの体に、渾身の一撃を打ち込んだ。
互いの一撃がぶつかりあった衝撃で、小規模の爆発が起こった。
フーリーは俺に一撃を食らわせた事で完全に運動エネルギーを使い果たし、その場に軽々と着地した。
その一方で、俺はフーリーの一撃を受け止める事に失敗し、錐揉み状態で地面へと突っ込んだ。
「終わった……な」
フーリーは小さく呟き、俺の方を振り向いた。
「ぐっ……!?なんだこの痛みは!?」
フーリーの身体に異変が起こる。
気づけば彼の全身に緑の稲妻が纏わりついていた。
フーリーは抵抗するも、電気相手にそれは無意味。
「からーい!!!」
舌を出し、目から涙を流しながら、フーリーはその場に倒れ、意識を失った。
俺は倒れ伏せたまま、そんなフーリーを見つめていた。
「これが、新能力か……勝てたのは良いが地味だな。『神をも殺す』って冗談キツイわー…」
微かな声で俺は独り言をつぶやく。
倒れた俺に、ミーナちゃんとレイラが駆けつけてくる。
とりあえず、勝てた。
ついに勝てた。
キツネ1匹倒すための準備に何日も使ってしまったが、対戦する時間は短かった。
それに、決着の付け方もつまらないものだった。
夕立もいつのまにか弱まってきている。
とりあえず、新能力は解除しておこう。水が
無ければ毒で自分が死ぬらしいし。
俺は頭に入った『新能力』の情報を確認してみる。
『わさび大根形態』
流水にたからなくとも、少しの水気で覚醒可能。
極めて刺激の強い身体の一部を、相手の体内へと送り込み、口内を爆破させる。
あと電気を操る。
なお、『わさび大根形態』は未覚醒であり、不完全形態である。
という事らしい。
未覚醒というのは、足のみに力を割いてたせいだな。
俺は安心するも、もう一つ肝心な事を忘れていた。
「アライグマどうなった!?」
俺は倒れた体を起こし、もう一つの戦いに目を向けた。
俺の目の先、そこには、禍々しい闘気を纏ったアードバーグ・ライジングが、ライオネルとその部下のアライグマ、刻甲と鳩尺様と歪み合う真っ最中であった。
どうやら、俺とフーリーとの戦いは、そこまで時間が経っていなかったらしい。




