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第54話 エキノコックスの秘密


ミーナちゃんとレイラが戦線離脱したため、結果的に、フーリーと俺の戦いになってしまった。



今や、夕立がざーざーと小便(シャワー)の如く降り始めるし、そのせいで地面は滑って転けそうなくらいぐっちゃぐちゃという、肥溜めと勘違いしそうなコンディション。


更に雷がゴロゴロとなる始末。

雷、空気読めよ?

人が大技放つ途中に、落ちたりするなよ!自重しろよ!?


それらを踏まえ、状況は最悪なのかもしれない。



「今度こそ、貴様を突き殺すとしよう」


フーリーが槍を構えて俺との距離を詰める。


俺は根っこ触手を伸ばしフーリーを捕らえようとする。


「無駄だぁ!」


フーリーは根っこ触手の猛攻を飛び跳ねて、全て回避する。



そんな事わかっとるわ!


俺はフーリーに避けられた触手の先端を結び、網状に変化させた。


そして思いっきり引っ張る。


網となった根っこ触手は見事にフーリーを拘束する事に成功。


「こんくらい、なんともないわ!」


フーリーは気合いを込め、喝を入れる。


するとフーリーを縛っていた触手は水分を失ったように砕け、千切れた。


瞬時に俺は、ネッコボルグをフーリーに向けて投げる。


しかし、フーリーは費消するネッコボルグを蹴り落としてしまう。


それも予測済みだ。


俺は予め、飛翔するネッコボルグに続くように自分自身も、槍ではないが、足を突き出す姿勢で、フーリーを蹴り飛ばしに跳ねる。


フーリーは、ネッコボルグを蹴り落とした後、瞬時に次のアクションに移行。

裏拳で俺を殴り、撃墜する。


歯が立たないな。分身を生贄にしたのは愚策だったか?


否、劣勢となってしまったが、愚策ではない。


自他共に欺く角(コン・コーン)

ミーナちゃんは、一向に精神的魔術によるものであり、実際にエキノコックスに感染したという主張を、譲らなかった。

もしかしたら、本当かもしれない。

彼女の兄は、魔術師のジェイクだし。ミーナちゃん自身も、それなりに知識を有している。


俺は、久しぶりに『野菜エネルギー』の確認をしてみる。


今まで野菜エネルギーを気にかけなかったのは、忘れていた訳ではない。

野菜エネルギーは、何もしなくても常に増え続ける。

故に溜まりすぎて、森で、魔猪や鳩尺様と戦った時もエネルギーが底をつくことがなかった。


今までも、ネスノ村を介しての旅路で野菜エネルギーが溜まり続けていたので、無理な行動でもやってのけた。


トトンヌと対決した最初の頃の野菜エネルギーを100pとするならば、今はその100倍、200倍は溜まっていた。


もっともエネルギーを消費する『赤筋大根形態』でも5000p。『巨大ヌートリア』の時は一回だけで限界だったが、今では数回ならば続けて使う事も可能。


そんな素晴らしいエネルギーも、今や6000pを下回っている。


多く感じるが、フーリー相手だとエネルギー消費の燃費は、サーキットを爆走するスーパーカー並みに最悪だ。


よって勝負をつけるチャンスは、もう一度しかない。


俺は考えをまとめた。


ミーナちゃんから貰った魔道具を片手に、とある方向へ根っこ触手を限界近く伸ばす。


そしてあるものを掴む。ミェルニルだ。


俺は赤筋大根へと変身する。

これで、野菜エネルギーの残量は1000pを下回る。


赤筋大根の力を限界まで発揮し、フーリーの死角を狙った高速での錯乱に徹する。


「幾ら力を増やそうが、貴様の動きは読めた!」


フーリーは、俺が移動する軌道を予測し、先に進行先へ回り込む。


おうそれと、まだフーリーにやられる訳にはいかない。


フーリーの軌道予測をずらす為、随所で急停止、急発進を繰り返す。異動先もフーリーの周りという事以外不規則。


「ええい!鬱陶しい!そこまで煽るなら、ノってやる」


そろそろ、こっちからフーリーに仕掛けようと思ったが、フーリー自ら行動に出た。

奴は槍で、俺を一刺しにする気だ。


俺は懐から、ミーナちゃんから渡された魔道具を片手に振りかぶる。


「させるか!?」


魔道具を取り出した一瞬で、フーリーは俺の行動を台無しにするために、爆破の魔道具(ボール)を槍で貫いた。


途端に魔道具に封じられていた水が一瞬で気体へと昇華し、水蒸気爆発を引き起こす。


辺りの雨や泥が爆破によって弾け飛ぶ。


俺はこの爆風を利用してフーリーの頭上、直上へと飛び跳ねる。


足場が夕立による豪雨で、ぬかるんでいるので、フーリー自身も爆風で滑るように仰け反る。


フーリーは俺の姿を見失ってはいない。


「馬鹿め。このまま槍で突き刺して終わりにしてやろう……」


フーリーは俺の落下地点に槍を突き出す構えを取る。

フーリーは上空の俺に全神経を集中させている。



よし今だ!


俺は、仕掛けた罠を発動させる。

ありとあらゆる場所から、根っこがフーリーに襲いかかる。


俺は、コイツの周りを無意味に、煽るだけに動きまわっていた訳ではない。


全ては、この根っこによる罠を設置するためだ。


この罠は、ライオネルには初見で見破られた。

それは、罠を単純に罠として使おうとしたためだ。


しかし今回は、フーリーを煽るふりをする事で、罠の設置を悟られない様にした。


おまけに、魔道具を使う事をフーリーに暗示させ、わざと魔道具を発動させ、俺は空へ跳んだ。


つまり、フーリーは地上に関してはノーマーク。

俺だけに気を配っているため、本命(わな)に気づかれる事が無かった。



「なんだと!?」


フーリーは完全に虚を突かれた、そんな顔をしている。


罠の発動に反応が遅れ、フーリーは無数の根っこに縛られる。


フーリーは、さっき根っこによる束縛を解いた時みたいに喝を入れるが、赤筋大根の根っこはそう簡単に千切れない。


俺は落下地点周辺に根っこ触手を伸ばし地を掴む。

俺は、地面を掴む根っこ触手で身体を引っ張り、更に加速する。


「ぐぬぬ……、クッソォオオオオオ!」


フーリーは全身の動きを封じられ、もふもふ尻尾による衝撃吸収さえ出来なかった。



辺りに雷鳴とは別の、轟音が響いた。



やっとだ。

やっと、フーリーに一撃を入れる事が出来た。

それも不満のない自慢の一撃。


俺が蹴った衝撃で軽く地面が抉れ、一瞬だけだがその場の雨や水分が蒸発した。


「私とした事が……こんな不覚をとるなど……!!」


フーリーは今の一撃に脳天から喰らったので、全身キズと泥まみれ。

だが、コイツはまだ立ち上がる。

流石はフーリーだ。強い。


もっとも、俺は赤筋大根の飛び蹴り一発で終わらすつもりは無い。


俺はミーナちゃんの『エキノコックスは精神魔術によるもの』という奇妙な説を推してみようと思う。


精神攻撃には精神攻撃をぶつければいい。


俺は一つだけ、精神攻撃が出来る。

それは飛び蹴りを食らって者限定に発動する能力だ。


「大根……!まだ私は終わらんぞ!」


フーリーはボロボロになりながらも槍を握り、俺に立ち向かう。


「……たくっ、無駄にしぶといなフーリー。()()()()()何個分のしぶとさか是非とも聞きたいわー」


俺はフーリーに聞こえる声で意味のわからない事を呟いた。


「と、トーキョードーム……だ、と!?……ぐっ、ぐわぁあ!!?」


俺の言葉に反応したと同時に、フーリーは頭を抑えながら、踠きだした。


フーリーに飛び蹴りの特殊効果『東京ドームの呪い』が発動したのだ。


絶叫し苦しむフーリーの身体から、蛆の様な不気味なオーラが散っていき、消滅した。


「術が破られただと……?信じられん」


フーリーは頭を抑えながら、冷静に状況を理解していく。


フーリーが『術が破られた』と言っていた事から、ミーナちゃんの予想通りだったという事なのだろう。



「デロちゃん! やりましたね!」


「ミーナの言ってた事本当だったんかいな!?」


ミーナちゃんとレイラが、戻ってきた。

彼女2人は、先ほどまでのエキノコックスにかかっていたと思えない。それほどまでに好調に見える。


という事は、シオンも元に戻ったのだろう。


「フーリー! テメェの術は見破った。 ()()()()()()()はもう使えない。観念して諦めろ!」


俺は、フーリーに降伏を促す。


「ダイコン!それを言うなら()()()()()()()だで!」


「レイラさん違いますよ、エキノコックスですよ!」


フーリーに一撃を入れたという高揚感で、言い間違えてしまった。訂正したレイラも間違っていたようなので、もう何が正しいのか、わからない。



「降伏しろ、だと?バカめ。勝負とはどちらかが相手を見下ろすまで終わらんもんよ!たかだか一撃! エキノコックスの術を破った所でいい気になりやがって……!」


フーリーは息を整えて、態勢をもどす。


「だが、術を破った事は褒めてやる。毎度の土産に教えてやる。『自他共に欺く角』とは、『自分自身に嘘を信実だと思い込ませる能力』と『潜在意識に無意識のうちに刺激を与えて影響を与える能力』を組み合わせて発動する心理的魔術よ」


つまり精神的に嘘を真実と誤認させ、意識外に『エキノコックスに感染した』と思わせていたというトリックなのだろう。


プラシーボ効果とサブリミナル効果のミックスかな?

だとしたら、二度手間な気もするが、俺はそこんとこの心理学には詳しくないので深く考えるのはやめよう。


結果として、フーリーは虚偽を真実だと思い込む事で、現象を現実化させる魔術を使っていたのだ。



「もしかして、根っこ触手を腐敗させて拘束を解いたのも『それ』なのか?」


俺はフーリーに問う。


「ああ、そうだとも」


フーリーは冷淡に応えた。


「そもそも私自身、今の今まで、強がっていたが、もう何が本当で嘘なのかわからん。武術、槍術を極めた事でさえな。おまけに今の気分は最悪だ。私が誰なのかさえも自分では判断がつかん」


フーリーは頭を抑え、俺と距離を開ける。


「私は、強者と戦えると聞いて『げっ歯類連合』に集った。

魔術師のトトンヌやヒパビパも大したものだが、連合の王カッチョパッチョは私の到達点とも言って良い強豪の主よ」


フーリーの口は止まらない。止めると無駄に思考してしまい、嘘と真実の区別ができなくなってしまうのだろう。


「今まで、()()()()()()奴に、蹴り技に長けたカンガルー人族の戦士がいた。大根、貴様はそのカンガルー人族を超えていると認めてやる。……だから私と決着をつけよう。何が真実かわからんが、貴様と勝敗を決する未来があるなら、それは、真実(けっか)なのだからなぁ!全力で来い!」


フーリーの全身の筋肉が強張る。

術を破られた彼は、刻が秒単位で進むにつれ、弱っていくように見える。


このまま時間稼いで、フーリーが自滅するのを待ちたいが、そうは問屋がおろさない。


俺はフーリーの望み通り、決着をつける事にした。



未だに夕立が弱まる気配は無い。

地面の土や砂は、ぐっちゃぐちゃ。気を抜けば滑って転んで不意を突かれて即終了(END)


俺もフーリーも技が放てるのは一発が限界。



その時だった!


空の彼方から雷鳴が轟き、ある場所へ落下した。


「あぎゃあああああああああああああ!!!??」


不幸にも俺、大根に雷が墜落した。


「「「えええええええ!?」」」


まさかの超展開にミーナちゃんとレイラは目を見開きながら驚き、フーリーも「それは無いわー」と言いたげな顔で困惑した。



突然の落雷には気をつけよう!




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