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第53話 CON CORN 〜自他共に欺く角〜


まさか、名乗り中に攻撃されるとは思わなかったよ。

しかも、今まで泡は清掃するだけで戦闘能力は無かったのに、突然爆破したし……。


アードバーグの雰囲気は明らかに変質している。

まるで、別人に身体を乗っ取られている感じだ。

フーリーが持っていたヤマアラシの体毛が関係してるのだろう。


「くっそぉ……、名乗り中はバリアエフェクトとか無いのかよ!」


赤大根がそんな事を嘆く。


「そりゃあ、マーモット人族みたいに名乗ってたら、やられるのは当たり前だでぇ?」


「ですよねぇ……」


なんか、レイラとミーナちゃんが冷ややかな視線をこっちに向けてくる。なんでだろう、泣けてくる。



爆破に直撃した4号(おれ)達分身は時間稼ぎが上手くいかなかったので、気分はガタ落ちだ。



「ちょっと待ったー!大根(ほし)はもう一つあるぜ!?」


ものすごく聞き覚えのある声が聞こえた。

他の分身が発した声かと思ったが、そうではない。


本体(白大根)!?」


突如、『本体』大根1号が現れた。

という事は、時間稼ぎは上手くいったのだろう。


「む?……まだ大根いたのか」


本体の出現にフーリーが驚く。

その表情が呆れているように見えた事は、黙っておこう。



「分身ども、よくぞ使命を果たしてくれたな、ありがとう。そして死ねぇ!」


よくわからないが、本体が俺達分身に感謝の気持ちを、殺意で表している。


本体の側に、ニワトリ人族の刻甲が歩みよる。


「来たれ黄泉の巨鳥、その封印は解かれ八尺の躰はそなたの婿を捕らえる魅惑の武器にならん! 奴波 照弥喜痴禁 祭公!」


刻甲が何やら呪文を唱える。

なんか以前にも似たような呪文を聞いた気がする。デジャブだろうか?俺達は分身だからなのか、よく思いだせない。記憶が曖昧だ。


「おい!?なんだよコレェ!」


赤大根が異変に気付く。

俺達分身が、突如黒い霧に包まれた。


「動けない!引きずりこまれる感覚……これって鳩尺様を召喚する気か!」


俺だけでなく、他の分身もそう理解した。


「ご名答!お前達の出番はこれで終了だ!だが、その命は鳩尺様に受け継がれる!安心して生贄となれよ!」


本体がそんな事を言ってくる。


「ちょっと!それあんまりじゃないかぁ!生きる素晴らしさを知れたのにぃ!?」


赤大根が、本体の白大根に抗議する。

いいぞ、もっと言ってやれ!


「赤大根。いや大根3号、お前は立派だ!今こそ線香花火となって輝きを散らす時だ!」


「な、なんだと、それは本当か!……我が生涯に一片の悔い無し!」


赤大根(クソポエム)の3号は、自分の生き様に納得し、拳を天に突き出すと、地面に広がる黒い沼へ、素直に吸い込まれていった。


「なら、俺らも後悔ないぜ!」


「おうよ!」


「俺もそう思う!」


なんか、他の分身も納得してんだけど……!


黄大根と緑大根と桃大根は、親指を立てながら黒い沼へと沈んでいく。

溶鉱炉に沈む時にやりたいポーズ、ベスト1位だよな!


あと、従順だなお前ら!それでいいのかよ!


というか、4号(おれ)も、もう踏ん張れない……。

鳩尺様召喚の儀に抗う事は出来ないようだ。

腑に落ちないが、これも運命ならば受け入れよう。


「本体!お前が立ち止まらない限り、俺はその先にいるぞぉ!」


「居なくていいよ、あとがつっかえてるから、はよ沈め」


本体に塩対応されてしまった。


「止まるんじゃねぇぞ……」


左手を上げ、どこへでも連れてってくれそうな団長の決めポーズをとり、俺は闇に沈んでいった。



・・・



どうも、修行を終えた本体です!


俺は刻甲に鳩尺様の召喚を準備させるために、生け贄(ぶんしん)に時間稼ぎを命じていた。


情報の共有を奴らと拒絶していたのは、鳩尺様召喚のための生け贄になる事を理解させないためだ。


大根4号が抵抗していたが、なんだかんだ折れてくれたので助かった。


「ポポポポポポポポポポポポ、クルッポー!」


身長は八尺(240cm)もあるがそのほとんどが首なので、シルエットはボーリングのピンを彷彿させる白い鳩。

頭にはつばの広い帽子を被り、黒く長い髪が風にたなびいている。

そいつの名は鳩尺様。大悪霊である。



分身とはいえ、奴らは俺自身であるため、五体も取り入れた鳩尺様は、かなりの力を秘めている。


今の鳩尺様は、あの森の時よりも能力値が高いのだ。



俺は辺りを見渡し、今の戦況の確認をした。

当初は、俺と鳩尺様でフーリーを相手にして、磨王アードバーグはライオネルに任せようと思っていたが、アードバーグの様子がおかしい。


ミーナちゃんというよりも、鳩尺様に近い感じの邪悪なオーラをアードバーグから感じる。


「ライオネル師匠!1人で大丈夫そうか?」


「ありゃ、魂を誰かに乗っ取られとる。ちーと、1人じゃキツイかもしれんのぉ」


俺達と共に、機を伺っていたライオネルに問いかけるも、アードバーグを目にした彼の表情は芳しくない。


「じゃあ、フーリーは俺だけに任せてくれ、鳩尺様と刻甲はライオネルの応援を頼む」


「え?良いのですか?」


刻甲は、俺ひとりでフーリーと戦う事に対して心配した表情を浮かべた。


ここは俺がフーリーの相手をするのが、最善策だ。その為に、ライオネルに数日程度だが、対フーリーに備えて鍛えてきたのだ。


「問題ないで!私とミーナでダイコンの援護するけぇな」


「私が力になれる事なんて一握りですが、アシストは私達に任せてください」


レイラとミーナちゃんが俺の側につく。


「そうですか、ではお互いに健闘をお祈りします!……私坊主ですので『お祈り』はおかしいですか!? 大丈夫です、私破戒僧なので!」


なんか刻甲のテンションがおかしいが、今に始まった事ではないので俺は触れない事にした。




・・・




フーリーは強い。


修行によって戦い方を学んだとはいえ、奴の懐に入る事は難しい

。ただでさえ体格差、身長差が倍はあるキツネを倒すなんて普通は難しい。


フーリーは分身大根供との戦闘で、俺が侮れないと警戒しているため、安定度力を解放しているように見える。彼からは初見時の時の余裕さは感じられない。


俺はネッコボルグで、何度かフーリーに攻撃を仕掛けるも、前方は槍で塞がれ。背後を狙った攻撃は、もふもふな尻尾によって攻撃を打ち消されてしまう。


逆に、フーリーはカウンターを狙い、俺の攻撃の隙を見て仕掛けるも、皿洗いによって鍛えられた攻防の切り替えのお陰で、直撃する事は一度としてない。


ここまでの実力は、五分五分といった所だが、俺はもちろんの事、多分フーリーも全力を出してはいないだろう。


俺はフーリーと一対一、正々堂々と勝負する趣味はない。

そのために、ミーナちゃんとレイラに援護を頼んでいる。


ミーナちゃんは使い捨ての魔道具で支援してくれている。

負傷した際の回復薬や、身体能力を強化させるアイテムのようなものを俺とレイラに施してくれている。

水蒸気爆破を引き起こすボールの残数は残り1つ。これは案外使える魔道具なので、使いどきは考えなければならない。



レイラは、ミーナちゃんによる魔道具の効果で、ただでさえ疾い動きが、さらに増強されている。



フーリーは、俺の動きに関しては、目で追う事も、対処する事もできる。

だが、レイラの動きには、ついて来れていないように感じた。

フーリーが、レイラからの攻撃を捌けているのは、武闘家としての業、予測によるものだろう。


レイラの素早さは一級品だが『暗殺者』と自分でも言っている通り、決闘のような戦いは、不意が狙いにくいため相性が悪い。相手がフーリーなら尚更だ。


俺はレイラに視線を送り、フーリーの気を引きつけるように伝える。


レイラは俺の思いを理解し、フーリーの注意を引く。


「バーディア国の小娘、暗殺者としての才は認めてやる。 だが、それだけだ」


フーリーが微笑んだ。

その顔は、勝利を確信したような。未来を見たような表情だ。


「そこだっ!」


フーリーは、背後に向けて槍を振り回した。


一見、適当に振り回したようなフーリーの槍捌きは、的確にレイラの脇腹を叩き、彼女の動きを停止させた。


「これでお終いだ……自他共に欺く角(コン・コーン)!」



フーリーの体から、蛆みたいな不気味なオーラが沸く。

するとフーリーは、その場で助走もつけずに、レイラを蹴り伏せた。


レイラの背中から、重い衝撃が弾け抜ける(ビジョン)が見えた気がした。


蹴られた彼女は魂が抜けたようにその場に倒れる。


「レイラ!?」


「デロちゃん!落ち着いてください」


戦況を忘れ、レイラに駆けつけようとした俺をミーナが呼び止める。


「回復されては面倒だ。そこの小娘、次は貴様だ」


「え!?」


「ミーナちゃん、危ねぇ!?」


フーリーがこちらに迫る。

厳密には、ミーナにフーリーが飛びかかる。


俺は根っこ触手を伸ばし、ミーナちゃんを助けようとする。


しかし遅かった。


フーリーの抜き手がミーナの鳩尾に深く入る。

俺がその状況を理解した時、彼女は倒れた。


「……」


言葉が出なかった。


「安心しろ、小娘を殺す趣味も虐げる趣味も、私には無い。せいぜいエキノコックスによって苦しむ程度だ。だが貴様だけは別だ、何万回だろうと殺してやる」


よくそれで『虐める趣味は無い』って言えるな。


フーリーの槍が俺の眉間に迫る。


ザクッと、何かを貫く嫌な音が聞こえた。


俺は貫かれたのか?

いや、無事だ。

フーリーが突き刺したのは、俺でも誰でもなく、地面だった。


「何!?貴様、そんな体で動けるのか!?」


フーリーが的を外した理由。


「デロちゃん……!アシストは任せてください」


倒れたはずのミーナが、フーリーの足を引っ張り、体制を崩す事に成功したようだ。


「お、おい、ミーナちゃん大丈夫なのか!?エキノコックスになっちまったんじゃ!?」


俺は本気で彼女の容体を心配する。

現に彼女は高熱により血色がよくない。


「……何言ってるんですか!?シオンさんはこんなでも頑張ってたんです!私がここで弱気になってたら、ダメじゃないですか!」


ミーナは、ミーナちゃんは、無理に笑顔を作ってみせる。


あんなに、鬼や悪魔の所業をしておいて、自分が被害者になれば弱気になる。ミーナは、そんな人物ではない。


仲間の苦しさを知っているからこそ、彼女は立ち上がる。

彼女の表情はとても辛そうだ。

歩くだけでフラフラとしていて、見てるだけで不安になる。


「レイラさんは私に任せてください。それと、これを置いておきます。 エキノコックスの秘密が、精神的魔術による症状だという事は、間違いないと思います。……デロちゃんならその術を破る事が出来ると信じてます!」


ミーナは倒れたレイラを担ぎ、離脱する。

彼女が残していったもの、それは最後の1つの爆破の魔道具であった。


俺は覚悟を決めた。

全力を持ってフーリーを倒すと。


その覚悟と同時に、いつまでも曇天だった空から、雨が降り始めた。

雨は次第に、強さを増していく。

夕立が始まった。

この雨が吉と出るか、凶と出るか、それはまだわからない。




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