第52話 俺達、畑に輝く五つ星だァァッ!
奇襲は順調に進んだ。
アジトに潜むアライグマ人族の身柄を拘束し、敵の大まかな戦力を削ぐ事に成功した。
俺達の奇襲に逆ギレしたアライグマ人族の磨王アードバーグ・ライジングは、大根4号達に向かって『聖剣アラーインスレイヴ』を片手に飛びかかってきた。
アードバーグは剣から山のような量の泡を湧き出してくる。
これはマズイ。この泡に当たってしまえば、せっかく我が身に塗り施したペンキが落ちてしまう。
「デロちゃん!ここは任せてください」
後方待機していたミーナちゃんが、ボールに似た何かをアードバーグに投げつけた。
ミーナちゃんが投げたそれは、アードバーグの
手前で風船が弾ける音を鳴らし爆破した。
「なんじゃこりゃあ!!?」
爆破によって泡はすべて消滅、アードバーグも爆風により数メートル吹き飛ばされる。
「これは中に詰めた水を、一瞬で蒸発させる魔道具なんです!殺傷能力はありませんが、援護は任せてください!」
ミーナちゃんは、いくらか魔道具を携帯している。どれもこれも殺傷能力は無く、支援向きの魔道具らしい。
まあ、ミーナちゃんの場合、自分で攻撃した方が強そうな感じがするけど……。
ただ、アードバーグはアライグマ人族を束ねる磨王。泡を潰されただけで降伏するわけは無い。
「こーなったら、わしが直接しばいたるけぇのぉ!」
アードバーグはアラーインスレイヴでミーナちゃんに斬りかかる。
そんなアードバーグをレイラが横から制止する。
「なんじゃわりゃあ?ひっこんどれーや!」
憤るアードバーグは、零距離でレイラを聖剣の泡で包みこむ。
その結果、レイラが纏っていた使い古されたヨレヨレの濁った白のマントは、新品同様のハリのある純白のマントに生まれ変わった。
「なんだいな、これ……?」
レイラは、綺麗に生まれ変わった自分の召し物に魅了された。
「今じゃー!?」
アードバーグがレイラの隙をついて斬りかかる
レイラは反応が遅れ、アードバーグの攻撃を避けられない。
なので、大根4号が、分身達が助太刀に入る。
「ヒャッハー!テメェは終わりだぁー!」
黄大根の大根5号が、6号、7号を率いてアードバーグを根っこ触手で縛り、動きを封じる。
「なんじゃとぉ!?離せや!やめーや!」
アードバーグは抵抗するが、大根3人に拘束されているので、逃げられる訳が無かった。
「行くぞ!青大根!」
4号は、赤大根と同時に、飛び蹴りを放った。
俺達、分身の飛び蹴りは、『本体』のものと違い未覚醒だ。つまり東京ドームの呪いの効果は無いので、純粋な攻撃力では、分身達の方が上、しかも2人同時なので威力は倍になる。
「ぐっへ〜!?」
蹴られたアードバーグは、その場でひっくり返り、この辺りは砂地だったためか、地面に上半身が埋まってしまった。
懐かしいなこの情景……。トトンヌを思いだす。
作戦は順調に進んでいた。あまりにも順調に進み過ぎた。
俺は、本来恐るべき者の存在をすっかり忘れていた。
「何やら、騒がしいと思ったら、クーデターですかな?……それに死人が蘇ってるようですね?……なんか増えてない!?」
俺達の目の前に奴が現れた。
今作戦、最大の障壁となる敵。キツネ人族のフーリーである。
「仕留めた筈の大根が増えるとは、これは如何なものだろうか?貴様ら大根は、プラナリア野郎か何かなのか?」
「貴様らがいる限り、俺達は蘇る!何度でも!」
4号は小型犬の威嚇みたいに、威厳を守るため多少誇張した返答をする。
「ならば何度でも殺すまでだ」
どうやら逆効果だったようです。
フーリーは俺達に向かって槍を構え、突っ走ってきた。
俺達、分身がキツネ野郎と相対した際『本体』から『とにかく時間を稼げ』と言われている。
今の俺達はライオネルによって鍛えられているため、時間稼ぎくらいなら問題ないだろう。
……という事で時間稼ぎだ。
分身達の各役割を決める。
さっきと同じで、5〜7号の3人が、フーリーの動きを止め、3号と4号が攻撃に徹する。
黄大根の5号は、根っこ触手をフーリーへと伸ばす。
拘束されるとわかっているフーリーは、槍で迫る触手を捌き、根っこを掴むと自分の方へ引き寄せる。
「あ、やばい!……イッタァ!?」
黄大根が槍に貫かれる。
だが、まだ慌てる時間ではない。
6号緑大根、7号桃大根がフーリーの背後に回り込み、拘束を試みる。
「そんな事をするだろうと思っていた」
フーリーは、眉一つ動かさず、背後の大根2人を各個、蹴り飛ばす。
「そんな事をしてくれると信じてたよキツネくん!」
槍に貫かれた黄大根は、フーリーの意識が自分から離れた隙に、フーリーの両腕を槍と共に縛りつけた。
「なにっ……!?」
フーリーは黄大根を仕留めきったと慢心した。
よって黄大根の事は、既に処理したものと思っていたんだろう。
赤大根と俺は、動揺するフーリーに飛び蹴りを放つ。
だが、そこで終わらないのがフーリー。
フーリーは跳躍し、俺達の攻撃を躱す。
「人数多い事もあるが、貴様は前よりは強くなっているのだな」
「えへへ、それほどでも〜」
槍に突き刺されたままの黄大根が褒め言葉に反応する。
お前、今の状況だと一番反応しちゃダメだろ……。
「なので、私も少々本気でいきます」
フーリーから淡々とした声が漏れた。
同時に、俺達はフーリーから殺気が湧き始めるのを実感し、全身に悪寒が疾る。
フーリーは槍と両手を縛られた状況で俺達へ向かってきた。
「おいおい!?早くね?」
赤大根が驚きの声を上げる。
「まず、1つ」
赤大根の頭上に迫ったフーリーは、そのまま赤大根を杭の様に踏み潰し、砂地に沈めた。
「3号!?」
青大根の俺は声を上げるも、既に赤大根は地面に埋まってしまった。
「そして、2つ、3つ!」
瞬く間に、フーリーは緑大根と桃大根さえも杭の様に踏み潰した。
「……これ、やばくね?」
「やばいねー」
俺の不安に対して、他人事の様に答えるのは、槍に突き刺さったままの黄大根。
お前、そこから脱出しろよ!
「このまま、残りの貴様らも無力化したいが、ヤンマーマの支持通り、磨王殿を『覚醒』させなければならないか」
フーリーは上半身が埋まってしまったアードバーグに歩みよると、何やら黒い針を取り出した。
覚醒とはどういう意味だろうか?
「ふん!」
フーリーは、地面から突き出したアードバーグの下半身、もっと局地的に言えば、ケツ穴にその黒い針を突き刺した。それは痛い!
「いったぁあああああああ!!!?」
埋まっていたアードバーグが尻から全身に行き渡る激痛に悶え、ノミみたいに飛び跳ねる。
「おどれらぁああ!?許さんけぇ!絶対にのぉ!!」
なんかアードバーグの怒りの矛先が、俺達に向かってきた。
「八つ当たりにも程があるぞなー?」
戦況を見守っていたレイラが呟いた。
何故だろう?
再度アラーインスレイヴを構えたアードバーグの雰囲気が、熟練の剣術士みたいに変わった様に感じる。
「フーリー!何をしたんだ!」
俺は問いかける。
「ヤンマーマに言われてた保険だ。ヤマアラシの剣のような体毛、これを突き刺せば、決して退く事のない狂戦士に生まれ変わるのだ」
何が『狂戦士』だよ!
こっちにはミーナちゃんっていう、本物の狂気の擬人化がいるんだぞ!?
「ゴシゴシ洗ったるぅううう!!」
とはいえ、アードバーグから溢れ出るこの闘気は直感的に、ミーナちゃんと似ていると俺は感じる。敵にまわしてはいけない。そんな感じのものだ。
「ミーナちゃん!さっきのアレ投げてくれ!」
「え、はい!」
俺はミーナちゃんに指示を出す。
彼女は俺の頼み通り、フーリーとアードバーグ、俺達分身との間に、さっきミーナちゃんが使った魔道具の球体を投げつける。
「なに!?」
アードバーグは我を失っているので、魔道具など眼中に入らない。
フーリーはこの魔道具の事を知らない。
だから、それが破裂する事がわからなかった。
ミーナちゃんが投げた魔道具がフーリーの進行先に落下し爆破した。
爆破によって砂が舞い上がりフーリーとアードバーグの視界を遮る。
その隙に、俺は埋まった分身と槍に刺さったままの黄大根を引きづり高所によじ登り、尺稼ぎ……ではなく時間稼ぎの準備に入る。
「ゴホゴホッ!……小賢しいまねを!どこ行った?」
砂煙を抜けたフーリーは俺達の居場所に視線を移す。
「なんだあれは?」
フーリーは唖然とした表情を浮かべている。
だろうな。
「俺達が、貴様ら悪党を成敗してやる!」
赤大根が叫ぶ。
「なんだあれは???」
「なんですかねぇ?」
「なんだいな、あれ?」
「なんじゃ、ありゃあ!」
フーリーだけでなく、ミーナちゃんとレイラ、おまけにアードバーグも困惑している。
ならば好都合。
「俺達、大根戦隊!5人揃って……」
「「「「「ダイ○ンジャー!」」」」」
俺達分身5人が名乗りあげた。
あれ?なんか違う……。
「おい!今伏字いれたの誰だ!」
俺は他4人に問う。
「「「「だって、伏字入れないとヤバいじゃん」」」」
何言ってんだこの分身ども? フーリーに踏まれて、刺されておかしくなったのか?
「いや、伏字いれた方がヤバいだろ!シンプルなパロディで『ダイコンジャー』で良かったろ!『ダイ○ンジャー』だと、誤解を招く!」
「そんな事は、どうでも良い!青大根、お前の立ち位置変えるぞ!」
「ハイィィィ!??」
なんか勝手に、赤大根が仕切りだした。
もう俺では、手がつけられないんだァァッ!
だが、時間稼ぎという事には変わりはないんだァァッ!
……ということで。
「気!」「力!」「転!」「身!」「了!」
「オーラチェンジャー!」
よーし!ここまでは良い!
案外楽しいなこれ!
あとは、戦隊シリーズの中でも難関と言われる名乗り口上だけだ!
「「鬱陶しい!!」」
アライグマ人族とキツネ人族には、名乗り口上という、日本特有の文化が通じなかった。
俺らが一箇所に集結しているのをいい事に、アードバーグは、弾幕となった泡を俺達に向けて飛ばしてきた。
「うわぁああ!卑怯だろそれぇ!」
弾幕泡は俺達に当たると爆発し、俺達5人の大根は、爆破によって吹っ飛んだ。
この技も、ヤンマーマの針の効果なのだろうか?
名乗り上げが通用するマーモット人族の時に、このネタをすべきだったと俺達分身は後悔したのだった。
次からは西暦3000年から来た感じで、シンプルかつ迅速に名乗った方が良いだろう。




