表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DIE CORN 〜転生したら大根だったがな!〜  作者: 瑞 ケッパオ
ネスノ村・大根転生編
5/187

第5話 邪竜カピバラゴン

俺はくっころ騎士改めクレア・フィンバックを、根っこ触手からさりげなく解放し、トトンヌと戦わせる事にしたのだった。


それは、子供がカブトムシを戦わせる感覚と同じものであろう。



「すげぇ……」


俺はアホみたいな声を出した。


目の前で行われている、トトンヌとクレアの一騎打ちに。



トトンヌは現在、魔力が無く、本人も「死ぬかと思った」と言うような、斬撃を受けていながら、クレアと互角。

否、それ以上に渡り合っていたのだ。


トトンヌが近接戦にて、クレアを上回る実力だったため、クレアは最初に見せた、剣先から雷電を纏わせた斬撃を飛ばす遠距離戦に持ち込んだ。


一方、俺は棒立ちで二人の戦いを、アホみたいな顔で眺める。


「ん?」


ただ、突っ立っているだけの俺の頭部の先。つまり葉と茎に違和感を感じた。


ふと振り返ってみると、クレアが乗って来た馬が俺の髪(大根なので葉)を、モシャモシャしていた。


「何しとんじゃ!ワレェ!?」


俺は馬に突っ込みを入れる。


馬は何構わず、モシャり続ける。



「おい、マサ子!?それは食べ物ではない離せ!」


この状況に気づいたクレアが馬に一喝する。


馬は何構わず、モシャり続ける。



この馬は、マサ子と言うのか……。

突っ込みは後にとっておき、今はこのピンチから、いち早く抜け出さなければならない。


クレアは今、戦いで忙しい為、一喝しか出来ない。


「うお!?」


馬(マサ子)に体を持ち上げられた。


本格的にモシャモシャが始まった。

もはや、モシャモシャではない。モグモグだ。


「よくないなぁ、こう言うのは……」


俺はマサ子を優しく、諭してみる。


だが、無意味だ。

馬の耳に念仏である。


俺の堪忍袋は限界だ。というか、緒がキレた。


「お前……死にたいんだってなぁ?

希望(のぞみ)通りにしてやるぅううう!?」


俺が叫んだと同時に嫌な音が聞こえた。


それは『大根の茎が折れる音』だった。


何の音か理解した時には、俺はマサ子から解放され、落下していた。




・・・




運良く根元から茎が折れる事は無かったが、相当短くなった。


「フザケルナ! フザケルナ! バカヤロー!うわぁあああああああ!」


俺は、何処かの外道のように叫び泣き、マサ子(馬)に抗議する。


マサ子は、「ざまぁwww」と言わんばかりに歯茎を全開にして笑い、いななき、煽って来た。


「ぐぬぬ……」


俺は何も言わず、馬から離れ、安全に観戦することにした。



俺がマサ子と戦っている間に戦況は変わっていた。


あのヌートリアは、強かった。


青白い雷撃。更にそれを絡めた、飛んでくる斬撃を次々と繰り出すクレアの猛攻を、捌きながら奴は距離を詰めて行く。


「スゲー。……もう、笑うしかねぇな」


俺は笑いながら呟いた。


一気に距離を詰めたトトンヌは、クレアの懐に潜る。


その事を、読んでいたのであろう。クレアはトトンヌに蹴りを放つ。


だが、当たらない。


トトンヌはクレアの後方に回り、彼女の膝に体当たりした。


クレアは体制を崩す。


その隙をつき、クレアから稲妻を纏う剣を奪い、使おうとしてみたものの、自分の体格にその剣が合わなかったのでトトンヌは投げ捨てる。


……うわぁ、これヤバいな。


クレアの実力は、素人目から見ても無駄な動きが無く、キレのある実力者だ。おまけにあの剣の力がある。


鬼に金棒だ。強い。

しかし、トトンヌはそれを上回っていた。


しかも、本来の力を出せない状態で。


クレアは自分が負けた事にショックを受けているのか、『ヘタリ』と座り込んでいた。


彼女の黒いポニーテールもションボリしてる様に見える。


そんな彼女を見ていたせいか、俺の中で何かが吹っ切れた。


色々、どうでもよくなった。


裏切りとか。


実力差とか。


馬に負けたとか。



俺は駆けた。


トトンヌに飛び蹴りをお届けしないと、気が済まない。

クレアの仇……では無いが、一矢報わずには、いられなくなったのだ。



……が、俺の弱体化した飛び蹴りが、奴の元に届けられる事は無かった。



俺やクレア、トトンヌにマサ子は、急に影に包まれた。


上空を見上げた。


ひょっとして、日食!? と思ったがそうでは無い。


……何かいるのだ。

蝙蝠のような翼を持った、バカでかい生き物が。


「なんだありゃあ!?」


「おお!やっと来たか!? 待っておったぞ!」


どうやら、トトンヌの迎えらしい。




・・・




バカでかい謎の、飛行生物が着陸した。


そいつの正体がわかった。


カピバラだ。


その、バカでかいカピバラを見て唖然している俺を見かねて、トトンヌが話しかけて来た


「あれはカピバラであって、カピバラではないぞ。かつての大戦で生まれし、竜族とカピバラ人族の混血種、邪竜カピバラゴンだ。」


いや、当然のように言われても、わからんがな!


邪竜という名前にしては、かなり大人しそう。

翼が生えている事と、大きさを抜きにすれば、外見はただのカピバラだ。


「トトンヌ御大よ、ご機嫌いかがですかなぁ?」


カピバラゴンの背中から誰かが声を発した。


「……すまない、ヒパビパ殿。作戦は完全には行かなかった」


ヒパビパと呼ばれたカピバラゴンに乗っていたそいつは、トトンヌより倍近くの体格をしたネズミだった。


ジェイクよりも大きく、トトンヌに似ている外見をしているものの、尻尾は無く、毛の色は薄い茶色。


彼は本物のカピバラ人族だ。


シルクハットに片眼鏡、燕尾服にステッキという、手品師のような格好が特徴的だ。


「畑の大根をすべて、野菜獣にできた時点で作戦は成功ではありませんか?」


トトンヌにフォローするカピバラ人族のヒパビパは、次にこちらに視線を移す。


「あちらが例の特異点ですか。

どこか、トトンヌ殿と同じ雰囲気を感じますね。」


何を言ってるんだ、アイツは?

俺とトトンヌが同じな訳ないだろう。



それからまもなく、トトンヌとヒパビパを乗せた邪竜カピバラゴンは、大空に羽ばたき消えて行った。


不意打ちを、入れても良かったのだか、ヒパビパという実力が未知数な奴がいる為やめた。

例えトトンヌより、実力が下だとしてもだ。


何せ、異世界に転生してから今日初めて動き回ったのだ。

変な事ばかりで疲れた。


実際、倒れそう。



そういえば、巨大カピバラのインパクトのせいか、クレアの事を忘れていた。

彼女は未だに座り込んでいる。

そこまで、ショックなのだろうか。


よく考えてみれば確かに、団長という地位にいながら、ヌートリアに負けたとなると、死にたくなるだろうな。


という訳で、優しい大根の名で通したい俺は、彼女に労いの言葉をかける事にするのさ!


「いや〜、クレアさんは頑張ったよ〜!俺なんか、馬に負けたんだからさぁ、ヌートリアに負けるくらい平気だって〜!」


あれ?これって励ます、というよりも、煽っているよね? まぁ、いっか。


クレアの近くにいた俺はクレアに「パシッ」と叩かれた。


そうなるよね。


「ほ、本当に申し訳ない所存であります」


謝ると彼女と目が合った。やはり、目には涙が溢れていた。


「うええええええええん! 大根がしゃべったぁあ!怖いよ、ママー! びえええええええん!」


「えぇっ!!?」


まさかの反応だった。


何か言われるかと思ったが、まさか、子供みたいにギャン泣きされるとは……。


まるで意味がわからんぞ!?


明らかに様子がおかしい。

トトンヌが魔術で何か、したのだろうか?


「びぇええええええええん!」


「ほらほら、良い子だから泣かないで……」


今、俺に出来るのは、子供の如く泣き叫ぶクレアをあやす事のみである。




・・・




クレアの部下であり、ネスノ護衛団の副団長の一人シオン・クーパーは団長クレアの事が心配だった。


現在、魔物の討伐を終えて村に戻っている途中だ。

魔物の数は多けれど、特に問題なく遂行した。


「団長……大丈夫かなぁ。マジでヤベーのに……」


「またかよ、シオン。 団長が村の援護に行ってからずっとそれじゃねーか?」


「トムは黙ってろ」


シオンと同じく副団長のトムが彼女に話しかけるも、一蹴される。


シオンや団員は、団長があの聖剣『ラビ・ラコゼ』を、手放してしまった場合、どうなるか知っていた。


「でも、あの可愛い団長も好きなんだがなぁ」


「たしかに」


他の団員はクレアの心配をするというよりも、剣を落とした姿が見たいという談笑をしている。


「オメーらなぁ……、団長が剣を手放したら、泣き虫の子供になっちまうんだぞ!?」


シオンは団長想いの良い部下である。


今まで団長クレア・フィンバックが剣を手放し、子供の如く泣きわめく事が幾度かあった。


元に戻すには、別に剣でなくとも、棒状だったり握れる物ならなんでも良い。


以前、剣を川に落とした時は、剣が見つかるまで、ナマズを持たせて、落ち着かせた事もあった。



団長の心配をするシオンを見て、ニヤついたトムがシオンに一言、呟いた。


「でも、そんな泣き虫の時の団長が大好きなんだろ?

いつも目を輝かせてお守してるもんな!ぬへへ……」


「うるせー!トムは黙ってろ!次、喋ったら殺す!」


顔を真っ赤にするシオンを見て、団員は皆、笑い転げた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ