第34話 お前ら、帰ってきとったんかァ!?
地獄のピクニックを終えた俺達3人は、魔猪討伐により得た報酬を土産に、日を跨ぎ村へと帰還した。
村に戻ると、ヌーターンがハダカデバネズミ人族4匹と共に、村を囲う壁の強化に努めていた。
ん……?凄く見覚えのあるハダカデバネズミがいるんだけど!?
俺の予想ではハダカデバネズミを連れたトム一行が帰るのに、あと1週間かかるものかと思っていた。
どうやら、ヌーターン達もこちらの存在に気付いた様だ。
これやばくね?
あの件以来、ハダカデバネズミ人族のスッパマッパ分隊とは会っていない。
俺が奴らを騙した事、しれっと彼らの希望ミェルニルを私物化した事には間違いなく怒っている事だろう。
どうご機嫌をとるべきか?
「おぉ!あの時の策士の大根殿では無いか!!」
彼らハダカデバネズミ人族からは、俺の予想とは逆の反応が返ってきた。
4人をまとめている隊長、スッパマッパがこちらに歩みよってきた。
「あの時は、まんまと術中にはめられたわ!あそこまで騙されると俺も気分が良いもんだ!フッハッハ!あと、ヌーターン殿より全て聞いたぞ?
げっ歯類連合も人間も傷つかず、平和的に解決できるのなら、手伝わない訳もいかない!我々も協力させて貰おう!」
スッパマッパから、俺を恨んでいる気持ちは感じなかった。
逆に、かつてのライバルと出会えてとても嬉しそうな感じだ。それは他のスッパマッパ分隊隊員の3人も同じだった。
とりあえず、ヌーターンが彼らを説得した事が大きな成果だろう。
英雄に仕立てあげててよかった。
「工作や電撃戦において最強な我々分隊を騙す戦術は見事でありましたぞ!」
デマルミエ軍曹は俺の手を握りながら嬉々として話掛けてくる。
「晩飯の残り物あるから、良かったら食べるべ!」
シリヤネン上等兵は大根の煮物を俺に勧めてくる。
それは共喰いになるんじゃないか!?
せっかくなので食べたら、案外美味しかった。
「Очень рад вас снова видеть. Как поживаете?」
フルチノフ伍長が何言ってるか、さっぱりわからないが、いつも無機質な彼に肩車されたので、歓迎してくれているのは分かる。
それにしても、もの凄くフレンドリーだなこいつら。
「ところで、大根……いや根菜類の総司令重巡ダイコンデロガよ!そなたが我々の希望、スケトールハンマーを所持していると、ヌーターン殿より聞いた訳だが……」
さっきまでアホ面さげていたスッパマッパの顔に気迫が現れた。
やはりアレか?返せって事だろうか?戦利品として強奪した訳だし、仲間になるなら返した方が良いのだろう。
「君がスケトールハンマーを使いこなしていると、ヌーターン殿より聞いて、俺は鼻が高いぞ!何せ、まともにアレを使いこなせた者は、ハダカデバネズミ人族史にも記録されてない!俺でも5分も使えば身体全身がつってしまう程のじゃじゃ馬よ!
つまり、君に我々のハダカデバネズミ人族の希望を献上しよう!心配するな!我らクイーンも喜ぶであろう!」
ビーバー人族がヌーターンに聖剣エクスカリカリバーを譲渡したように、スッパマッパは、ミェルニルを正式に俺にくれるらしい。
「活躍を期待してるでありますよ!」
「めでてぇだぁ、また新しい仲間が増えてオラは嬉しいだよ」
「Хорошо!」
こうしてハダカデバネズミ人族から正式にミェルニルを譲り受ける事となり、彼らは温泉を掘り当てる事をヌーターンの指揮の下に行う事になったという。
・・・
シオンと共に、久しぶりに屯所に顔を出した。
ミーナちゃんは畑の様子を見たいようなので、一度別れた。
「団長!魔獣の討伐完了したっすよ!」
「このバカァ!声がうるせぇぞ!」
シオンが屯所の扉を勢いよく開き、屯所内に打撃音が響く。入り口付近でお勤めを終え、ぐったりと腰をイスに落としていたトムにシオンは怒鳴られる。
「うるせー!トムは黙ってろ!」
「おいおい!?長旅から帰ってきた俺の心を憩う場所は無いのか団長よ!?」
久方ぶりだろうに、この2人は全くブレないな。
シオンはトムに噛み付こうとする勢いだが、このままだと、話が進まないのでここは黙らそう。
「シオン、静かに!」
「は、はい!」
根っこ触手でシオンの首根っこを掴み、大人しくさせる。
「おいまじかよ……!?あの狂犬が、忠犬になってる、だと……!?ダイコン、あんたスゲェや……!つか、笑えるなこれ、なんだよ『わん』って……ぷっ」
トムは、シオンが『わん!』と言った事がジワジワとツボに入ったのか、腹と口を押さえて笑いを堪えている。
「この……っ!?笑うんじゃねーよ!デロ先輩も急に触らないで欲しいっす!」
トムに醜態を晒した事が余程悔しかったのか、シオンの目には涙が浮かび、声も身体も震えている。
ここは適当な事を言っておこう。
「シオンよ、お前が悔しいと思っているなら絶対成長する!悔いた数だけお前は強くなる!」
「な、なるほど!……見たかトム!オレはまた強くなったぞ!」
「何言ってんだお前?頭ん中に蛆でも湧いたか?」
シオンの昂ぶった珍言にトムは半笑いで突っ込んだ。
我ながら何言ってるか分からないがシオンが納得したので、大丈夫だろう。
「お前達……、何してるんだ?」
茶番劇にクレアが呆れたのか屯所奥から顔を出した。
彼女は今日も鎧は身につけて居らず、エクスカリカリバーの後遺症により、タバコの様に小枝を咥えている。
「あ、団長!森の魔獣、もとい魔猪の討伐やってやりましたよ!」
シオンは子供みたいにウキウキした様子で団長の元に歩みよって行った。
「ご苦労様……と言いたいところだが、例のげっ歯類連合が、東方の砂漠の国、バーディア王国領で不審な動きをギルドによって観測された」
「団長さんよぉ?それだとこの村には関係無いんじゃねーの?バーディアってずっと東にある所だろ?俺達に関係あんのか?」
トムの言い分も分かるが、ヤツらげっ歯類連合の最終目的はネスノ村を滅ぼし、温泉郷を築く事だ。
回りくどさに定評のあるトトンヌなら、こんなチンケな村を潰すのに、壮大に無駄な準備をするだろう。
それは、邪竜カピバラゴンを使役しながら、この村を捻り潰さない事、ヌーターンとかヒパビパという、優れた駒を所持している事からの推測だが。
無駄とは言え、ヤツらにこれ以上力をつけさせる訳にもいかない。
「トムには言ってなかったが、最終的にこの村を侵略する事は確定しているような物だ。
いち早く手を打たなければならない」
「なるほどなぁ……、まぁ、いくらバーディアへの遠征を拒絶しても意味ねぇんだけどな」
トムはやれやれと言いたげに脱力し、イスにもたれかかる。
「それってどういう意味?」
俺はトムに問う。
「あ、そういえばダイコンとシオンには、まだ言ってなかったな」
彼は思い出したかのように、呟いた。
「帰り途中に寄ったギルドで出会ったバーディア出身の自称暗殺者で、なんでもげっ歯類連合を追ってる奴を連れてきた。団長、今アイツどこにいる?」
「今日は見てないな」
トム曰く、げっ歯類連合を追っている者が俺達以外にもいるらしく、その人物を連れてきたらしい、
さっき、シリヤネン上等兵が『また仲間が増えた』と言っていたのはこの事なのだろう。
「私……呼ばれた……?」
背後から、知らない片言の声が聞こえた。
そちらを振り向くと、少女が俺とシオンの真後ろに立っていた。
「「おわっ!いつのまに!?」」
気配もなく急に現れたので近くにいた俺とシオンは驚き、シオンに至っては腰が抜け、ヘロヘロと尻餅をついた。
トムがそんなシオンを嘲笑ってるが、そこは別にどうでも良い。
急に現れた少女は、小麦色の褐色の肌に黒い髪に赤い眼という見た目をしている。見た目年齢はシオンより 1つ2つ上くらいだろう。
首に巻かれたマントによって顔半分が隠れているせいか、動く大根を見ても無反応のようだ。これは逆に悲しい。
彼女についてまとめると、砂漠からやってきた感じである。おまけに俺でも彼女の存在に気づかなかったので、彼女は本場の本物の暗殺者なのかもしれない。




