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第33話 事後処理は赤毛虫がやってくれました。


ついに、鳩尺様を倒すことができた。

しかしまだ、生死の確認が終わってないヤツらがいる。


「……ココッ!?鳩尺様が、やられるなんて……!?そんな事があるはず!?」


強靭な肉体によって致命傷を免れた三角マッチョの刻甲が、瓦礫から体を出した。


「しかし、なんと鳩尺様を倒しただけでは、お嬢さん達の束縛が解かれる事はないのです!」


「は?話が違うじゃねーか鶏坊主!?」


ここに来て、さっきとは事情が変わり困惑した。


「最初の鳩尺様ならそうだったでしょうね。けれど、召喚霊としての鳩尺様は、あのお嬢さんによって致命傷を負わされ、一度やられたのです!

今さっき、貴方達が見ていた鳩尺様は、私の魔力によって延命、且つ増強された存在、今や鳩尺様と私は一心同体なのです!」


説明ありがとう。

どうやら、刻甲を倒さないとミーナちゃんを救う事は出来ないようだ。


よし、斃そう。


刻甲に殴り掛かろうと、助走をつけると地面が急に揺れ出した。


「デロ先輩、下!?」


遠方から戦況を見ていたシオンの声が微かに聞こえた。


地面が急に盛り上がり、巨大な獣が姿を現した。


「お前も生きとったんか!?」


「ブォオオオオオオオ!」


瓦礫を飛ばし、魔猪が這い上がってきた。


体格が大きい為、身体中にネッコボルグが何本も突き刺さり、牙は一本折れ、鳩尺様によって後ろ足の一本は機能を失いかけている状態。

だが、この魔猪はそんな事、御構い無しに暴れるつもりらしい。


魔猪の殺意は刻甲ではなく、俺の方へ向いた。

シオンが俺に説教(笑)をしてくれなければ、『まちょ』の巨大な威圧感に押され、俺の心はここで再び折れていただろう。

今はその問題ない!

だが、ものすごい勢いで突進してくるので、反応が遅れた。吹き飛んだ瓦礫によって今いる場所は溝となっている。


距離をとった刻甲が、俺と魔猪をまとめて始末しようと、魔術か何か得体の知れない技の準備をしている。


「デロ先輩、目を閉じるっすよ!?」


後方からシオンが叫ぶ。俺はその意味を理解した。

目を瞑り、赤筋大根の脚力で、魔猪の進路から少しでも遠くに跳ねる。


一瞬とはいえど、森は一閃の輝きに侵された。


閃光を直に見た魔猪は、目が焼かれてしまい怯んだ。


この隙を俺は見逃さない。

俺がいた場所を通り過ぎた魔猪の背に、生成可能な最大規模のネッコボルグを形成し、投げつける。


「ブッブヒィイイッッッ!!」


狙った訳では無いが、ネッコボルグが魔猪の尻、恐らく肛門に突き刺さった。

魔猪が今まで聞いた事ない悲痛の哭き声をあげる。

聞いてるだけで、痛い事がわかる。

俺、もしかしたらダーツの才能あるかもしれない。


尻穴に槍が刺さったショックで魔猪は全速で駆けると20m先の大木に頭をぶつけ、動かなくなった。



一方、刻甲はシオンの閃光による妨害を一度経験した身、彼は眼を瞑り閃光から視界を守った。


「同じ策は二度と効きません!貴方が魔猪の相手を僅かながらにしてくれたお陰で、貴方を倒すための、渾身の技ができます!」


刻甲は三角マッチョの体型で、色々とポージングを開始した。

鳥人間コンテスト、ボディビルダー部門があれば優勝できるかもしれない。


刻甲の周りに鳩尺様が纏っていた黒い霧が陽炎のように湧いて現れる。

すると、刻甲の身体が更に巨大化し、鳩尺様と同じ大きさにまで肥大化した。筋肉のせいか鳩尺様よりも大きく感じる。

それだけではない。

全身が、真っ白に変色し、目は鬼灯に似た赤へと変わる。

鳩尺様と一心同体になったというのは嘘では無いようだ。


ココココココ(ポポポポポポ)……。これこそ、私の全力!体内に在る無数の魂が、私の血となり肉となる!もはや、私が負ける要素など無し!」


刻甲の筋肉、及び纏っている黒い霧は、その姿を見た者を、恐怖のドン底へと落とすだろう。


だが、彼の姿をよく観察してみるとそうでもない。

刻甲の足元が霧に覆われてよく見えないが、そこに有る物を彼の体格から推測すると、上半身に比べ、脆弱な下半身である。


つまり、先程と同じ三角マッチョ。


「行くぞ大根!これで最後にしてあげます!」


刻甲が腕を振り、こちらへと駆け出した。

一瞬とは言え、その速度はブラックヘッドスナイパーや鳩尺様、魔猪を超えていた。

俺が出来るのは、奴の猛攻から避ける事。


ネッコボルグを刻甲の眉間めがけ2本投げる!


「そんなもの当たらないですよ!?」


顔を両腕で覆い、ネッコボルグをその丸太の様な腕で弾いた。

その時、刻甲の視界から自分の腕によって俺は消えた。その瞬間が最大のチャンス。


ミェルニルを握りしめ、刻甲の足元へ滑りこんだ。

刻甲とすれ違いざまに、ミェルニルで奴のスネを叩き態勢を崩させる事に成功!


コココ(ポポポ)!?」


頭の下がった刻甲の顔面めがけて、ミェルニルを振り下ろす。


「ココココココココ……コケーー!!?」


殴られた際の逆向きの運動エネルギーによって、刻甲の身体が横回転しながら転んだ。

そして、まもなく彼は大爆発した。


爆発により、黒い霧が周囲に撒き散る。

俺自身爆風によって、吹き飛ばされたが問題は無い。


鳩尺様の時もだが、この爆発はミェルニルによるものだろう。

ミェルニルの持つ効果で、彼が身に纏うあらゆる物を蒸発させ、吹き飛ばした結果だ。

現に、爆心地に倒れる刻甲は、元の体型よりも痩せ細り、葉っぱすら身につけていない素っ裸。



「デロ先輩、やりましたね!これで全て終わりっすよ!」


後方からシオンが飛び出してきた。自分が役にたったからだろう、物凄くウキウキしていた。


「いや、まだだ。ミーナちゃんを助けてない」


俺は、刻甲に近づく。


「ココ……!?わ、私が悪かった!お嬢さんなら解放してあげます!思怒魔栄尼 照理也喜痴禁 陀部鯛!」


刻甲が俺の存在に気づくと、恐れるようにご機嫌をとりだした。

刻甲が何やら、念仏を唱え終わると、爆心地周辺に黒い霧が現れた。


霧の中から、かつて鳩尺様の贄として呑み込まれた冒険者達が浮かび上がる。

その中には、ミーナもいた。


俺も、シオン安堵の表情を浮かべる。


ミーナを保護したシオンが、彼女の身には問題が無さそうだと、言っているようだ。

俺もミーナちゃんの元に行きたいが、今は刻甲の件が終わってない、


「おい、鶏坊主!?せっかくの可愛くて綺麗なミーナちゃんの肌が傷だらけなんだよなぁ?どうしてくれんの?」


理不尽なクレームをつけるのは勝者の特権である。


「コッ!?その……本当にすみません!どうしたら許して頂けますか……!?」


この鶏、物凄く図々しいんだが?

許すつもりなどないが、ここは遊ばせて貰おう。


「許してほしいの?」


「はい!私に出来る事ならなんなりと!」


つまり、なんでもやってくれるのだな。


「じゃあ、全力で『コケコッコー!』って鳴け!あれを一度聞いてみたかったんだよ!」


「へ?そんな事で宜しいのですか!?」


「御託はいい!さっさと鳴け!」


刻甲は訳が分からなさそうだったが、今の自分の状況を悟り、息を大きく吸い込んだ。


「クックドゥードゥルドゥー!!!」


刻甲の渾身の叫びは森中に響いた。

あ、コケコッコーって聞こえなかったから失格(ギルティ)


「うるせぇ!」


「コケー!??」


逆ギレだが仕方ない。俺は刻甲の腹部に飛び蹴りを食らわし、遠くへと飛ばした。

その後、彼の姿を見た者はいない。


これで、全て終わった。




本命の魔猪も討伐完了し、あとは帰るだけだが、鳩尺様に取り込まれていた冒険者達に借りを返して貰わねばならない。


「おいシオン!とりあえず、そこら辺の冒険者から、金目の物盗って帰るぞ!」


「盗る!??」


「あぁ、せっかく助けてやったんだから金品とっても文句言えねぇだろ?」


「デロ先輩……、流石にそれは」


シオンには人としての良心が、ちゃんとあるらしい。

案外、根は良い子なのね。


なら、ここで悪魔の囁きを入れてみる。


「なぁ、よく考えてみろ?もし今後、今日みたいに皆の足を引っ張る事があったらどうする?仲間に迷惑かかるし、トム副団長には一生笑い者にされ、クレア団長には見捨てられるかもしれないぜぃ??」


「く、クレア団長が!?それは嫌っす!」


お?クレアの名で食いつくか。


「そうならない為にも、俺が強くなれるコツを教えてやろうって言ってんだよ?」


「な、なるほど……。それは是非教えて欲しいっす!団長に嫌われるのは嫌っす!あとトムはムカつくから絶対やだ!」


シオンに火がついた。

よし、金目の物を取り尽くしてしまえ!


「……デロちゃん?シオンさん?何を企んでいるんですぅ?」


なんか、凄く愛らしい声が聞こえる。

……ん?この声は!?


振り返るとミーナちゃんが微笑んでいた。


「デロちゃん?いかない事考えませんかぁ?」


「ミーナちゃ……ミーナさん!?……もうお体は大丈夫なのでせうか?」


ミーナちゃんは微笑んでいる。

だが、彼女の瞳は笑っていない。狂気を感じる。

鳩尺様がもしやまた化けていると思ったが、それとは違う。

俺が感じとっているのは本物の狂気。


「あ、いや!?なんでもないんだミーナちゃん!あの鳩尺様のせいなんだよー、はっはっは!それより疲れただろう!?休んだらど……うわ!離して!」


言い訳など聞かない。ミーナちゃんに俺はすくい上げられる様に掴まれた。


「な、なぁ!?シオン、助けてくれないか?」


「すー!すー!……シラナイッスヨー。オレ、何も聞いてない」


シオンは、口笛になっていない、クソを吹き散らし、視線を俺から外す。


この裏切り者め!おのれ、赤毛虫!


「デロちゃん?少しあっちでお話しましょ?」


「す、すみませんでした……」


「すみませんじゃ、済まない事があるんですよぉ?」


その通りでございます……。


この後、めちゃくちゃ道徳心を叩き込まれた。

ネスノ村に戻る頃、俺は聖人になってるかもしれない。



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