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第31話 くねくねと動くもの


この森は、広いし深い。


たまたま迷い込んだ魔猪の住処からの出口が、半径50m圏内にあってよかった。


その間は魔物にも何にも遭遇する事は無かった。

薄暗く不気味なだけの森だ。


そして、ミーナちゃんと別れた場所へと戻ってきた。


「おーい、ミーナちゃん!」


……。


呼びかけて見るが返事は返ってこない。

やはり、命符が灰色になっているのは彼女の身が危険だと断言して良いだろう。


「デロ先輩!こっち、こっち!」


少し前に意識を取り戻し、ミーナちゃんの捜索のために、放っていたシオンが手を振っている。


「ミーナさんを見つけたっすよ!早く助けを!」


シオンから焦りを感じる。

彼女にミーナちゃんのいる場所へ案内してもらう。


「……ミーナちゃん!?」


1人の少女が茂みに埋もれていた。

髪が桃色なので瞬時にその子がミーナだとわかった。


「シオン、ミーナちゃんの容態は?」


「目立った外傷は無いっすね……鼓動も正常っす!」


ただ、命符は灰色。目の前のミーナちゃんは眠っているだけで、命には別状はない感じに見える。


そういえば、刻甲と鳩尺様はどこに行った?

ミーナちゃんによって肉片残さず消去されたか?

俺は、シオンに彼女の介抱をまかせ、辺りに不審な物が無いか調べてみる。


「み、ミーナさん!?」


シオンが声を荒げた。

そちらを向くと、ミーナちゃんが意識をとり戻したらしく、虚ろな目でシオンと俺を交互に見ていた。


「……」


「ミーナさん!?大丈夫っすか!あのニワトリとオバケの鳩は倒せたんすか!?」


「……」


ミーナちゃんは黙りこくっている。

彼女の顔からは生気を感じなかった。


「……ミーナさん?」


シオンもその不自然さに気づいた。


「デロ先輩……!コイツ、ミーナさんじゃないっす!」


「え?」


俺が見ている桃色の髪の毛の子はどう見てもミーナだ。

シオンはそれを否定した。

俺よりミーナとの付き合いが長いであろうシオンには彼女が偽物、得体の知れない何かだと感づいたようだ。


「ぽぽぽ、バレタ、バレタ。やはり即席のモノマネはダメか……」


ミーナの形をした少女が、不気味な笑みを浮かべ、その姿に不釣り合いな低い声で喋った。


ここまで来れば俺もわかる。コイツはミーナちゃんじゃない。


周りから、鈴を鳴らす音が聴こえてくる。

それと同じくして、森の奥から霧が現れ、俺らの周りを包みだした。

これは、ただの霧ではない。真っ黒で禍々しい瘴気だ。


すごく見覚えがある。


「ここにいれば、貴方が戻ってくると思ってました」


霧の中から、ニワトリ人族の破戒僧、刻甲が現れた。


「貴方の仲間のお嬢さんは、とても勇敢でした。故に美しく散るのです」


刻甲は愉快そうに喋っている。

散るとはどういう事だろうか、ミーナの行方が気になる。

それに、刻甲はいるが、鳩尺様の姿は見えない。


「おい、鶏坊主!ミーナをどこにやった?それに鳩尺様の姿も見えない」


「2人共、そこにいるじゃないですか?」


俺の罵倒を込めた問いに刻甲は涼しげな顔でミーナの形をしたものを指差す。


「何言ってんだ鶏野郎!?これはミーナさんじゃねーよ!」


刻甲から感じる威圧感に押されまいと、シオンも敵意を剥き出して声をあげた。


「だから、そこにいるじゃないですか。鳩尺様も、ミーナというお嬢さんも」


シオンが吠えるが、刻甲は半笑いで答える。


そこで、さっき『ミーナの形をした何か』が『ぽぽぽ』と呟いていた事を思い出した。


ミーナの形をしたものを見ると、それの形状が変わりだす。

彼女の形をしたものは脱色され全身真っ白になった。すると全身が熱湯みたいに沸騰し、人の形からボーリングのピンに似た形状に変化した。


「シオン!?そこから離れろ!」


「え!?」


嫌な予感がした。


根っこ触手でシオンを掴み、強引に引く。


謎の白いピンに似たものが何かわかった。



「ポポポポポポポポポポポポ……ッ、クルッポ〜!」


その正体はやはり鳩尺様だった。

正体を現すと、鳩尺様の周りの草が枯れていった。


俺がシオンを引きずらなければ、今頃彼女はどうなっていたか。

シオンも自分が危険に晒されていた事に気づき、顔を真っ青にしていた。


「鳩尺様!?ミーナさんが、倒したはずじゃ」


シオンが狼狽える。声は震え、腰を抜かしてしまった様だ。

もうちょっと、シャキッとしろよ赤毛虫!


「だから言ったでしょ〜?お嬢さんは勇敢であったと……」


「何、言ってんだ鶏野郎!ミーナさんはまだ生きてんだよ!命符が灰色だけど、黒じゃないからな!生きているん……ゲホ!?」


「吠えるなシオン。……ミーナちゃんをどこにやった、鶏坊主!?」


シオンが、ビビっている事を隠そうと虚勢を張って刻甲に噛み付く勢いだったので、俺は彼女を引っ叩いて引っ込ませ、俺が変わりに尋ねる。


シオンはネスノ村の夜の時も、幽霊が怖い、怖くないかで意地張っていたため退場となった。

その事を反省してないのかコイツ?


「お嬢さんは鳩尺様の一部となる事でしょう。ほら?鳩尺様をご覧下さい、とてもご機嫌のようです」


「ポポポポポポポポ、ポッポー!クルッポー!」


……うん、とてもご機嫌そうだな。


「彼女を救いたいのなら、鳩尺様を斃すしかないですよ?やりますか?無理でしょうけど。コッコッコ!」


なるほど、刻甲曰く、鳩尺様を殺ればミーナちゃんを救えるのだな……。


よし、ぶっ殺す!


ミェルニルを振りかざし、早速鳩尺様の頬を殴り飛ばした。


「ポポーーッッッ!??」


鳩尺様は、勢いが衰えた独楽(こま)みたいに回り、その場にばたりと足を挙げて倒れた。


え?当たった?


あれほどネッコボルグがすり抜けたのにこれは当たるのかよ……?もしかして不意打ちは当たるのか?


ふと、刻甲の顔色を見てみる。

鳩尺様を殴られたにも関わらず、彼は焦っても驚いてもいなかった。

むしろ嬉しそうだ、あれは喜んでる顔だ。


「コーッコッコ!!鳩尺様を傷つけましたね?殴りましたね?コココ……罰当たり!虚無の世界に呑まれるが良い!」


「何!?」


体を誰かに掴まれる。

黒い霧から無数の手が俺を掴みに来ていた。


「うわぁあああああああ!!デロ先輩!?」


シオン、お前が叫ぶ必要はないぞ?静かにしろ。


どうやら霧の中に俺を引きずりこむ気だ。もの凄い力だ。

普通なら即、完敗。

だが今の俺は赤筋大根だ。巨大ヌートリアにも打ち勝った怪力を侮らないで欲しい。


遥か後方に根っこ触手を木に巻きつけ、全力で抵抗する。


「おい、シオン!ブラック(B)ヘッド(H)スナイパー(S)の所へ逃げろ!?」


「へ?」


「へ?じゃねーよ、赤毛虫!マッハでBHSまで疾走(はし)れ!」


「あ、そうか。あい!了解っす!」


シオンは俺の命令通り、BHSの所へ走って消えた。


「仲間だけは助けるとは、大根ながらに良い心を持っていますね?」


無数の手に掴まれる俺を嘲笑うように刻甲が口を挟む。


「だろ?もちろん、ミーナも助ける。そして俺はこんなヤツらには負ける訳がない」


「何ですと!?」


今だ!

温存していた赤筋大根の怪力を最大に放出する。


俺の体を支える無数の触手達が、俺を掴む数多の手を引きちぎる程の力で引っ張る。


結果、圧勝。力こそパワー!

無数の手から解放された俺は、その反動でパチンコに飛ばされる石ころみたいに飛んだ。


落下地点にはBHSと、丁度合流したシオンがいた。


「またせたなシオン!逃げるぞ!」


「えぇ!?空を飛んだ……!?」


俺はBHSの背中に乗りシオンと共にここを離れる。


案の定、鳩尺様も追いかけてくる。

だが、以前のような速度は出ない。

変わりに俺を掴んできた手が襲いかかる。


森中に霧が広がっている。

全てヤツらの手中という事か?

別にそれで良い。


「デロ先輩!?ミーナさんはどうするんすか?」


「もちろん助ける。だが、あの鳩と鶏坊主を倒すには、あの場所に行く必要がある」


「そ、そっすね!あの作戦キメてやりましょう!」


幾多の手による強襲が突然途切れると、俺達は霧を抜けた。



急に、明るくなった。


全然見なくなっていた魔物も見かける様になった。

けれど、何かが歪。

先程まで吹いてなかった風が吹く。

これが生温かく全身にまとわりついてくるので、気持ち悪い。


「ん?あれは?」


「どうしたシオン?」


「いや、あの森の奥に何か見えるんすけど?ただの魔物ですかねぇ?」


シオンの目の先には、確かに何かがいる。


色は鳩尺様と同じ白。そして細長い。

それが、波打つように左右にくねくねと揺れ動いていた。


「なんだあれは?……明らかに魔物じゃないな」


「ああいう魔物は聞いた事無いっすねぇ……。ちょっと望遠鏡で覗いてみるっすね!」


シオンでも、あの遠くでくねくねする何かについて知らないらしい。


「………………うわぁあああああああ!!」


「どーしたぁ!!?おちつけ!何を見た!?」


望遠鏡でくねくねとした謎の物体を見たシオンが突然叫んだ。

まるで、見てはいけない物を直視してしまったかのように。


「あれ……なんすかねぇ?もうダメっす。ハハハ……」


「何を見た!おい赤毛虫(シオン)!?さっきの魔猪の時と立場逆転してんだけど!!?お前、さっきからなんなの!?

……もしや、さっきの肉体言語で頭イカれた?もしそうなら謝るわ、ごめん!」


「ちがうっすよ……あのくねくね動くヤツのせいっすねぇ……なんつーか、オレ、もうダメっす……あとは任せたっす……」


シオンの身体は震えていた。

彼女から魂が抜けたようだ。

放心状態となったシオンはとりあえず、馬上から落ちぬように縛っておこう。


俺も望遠鏡で謎のくねくねする物体を見てみる事にした。


「…………!!?」


俺は『それ』を見てしまった。


くねくねする物体。

それは体を左右に揺らす2m半程の白い物体。

くねくねする物体と目が合った。

そいつの全身からは羽毛が生えており、顔には嘴があった。

くねくねする物体は『ポポポ』と呟いていた。

それの正体は鳩尺様だった。



鳩尺様が波打つように身体を揺らしていたのだ。


くねくねする物体の正体を理解した途端に、頭の中にソイツが飛び込んでくる錯覚を感じた。


『ポポ……ポポポポ、ポポポポポポポポポポポポポポポ……ポポポポ、ポッポ〜、ポッポ〜!クルッポー!』



耳鳴りの様に、鳩尺様の声が頭の中で響きだす。


目を閉じると目蓋の裏側に鳩尺様の姿を見た。

これは幻覚だ。凄く心を押しつぶされそうだ。

シオンの身に降りかかった恐怖を理解した。


目蓋の裏側に現れた鳩尺様は、くねくねと身体を波状に揺らしていた。


……幻覚なのは別にいいとして、くねくねと踊るのはやめて欲しいものだ。反応に困る。


『ポポ!?……』


……!?


何故か、鳩尺様が落ち込んだ。

くねくね踊っていた鳩尺様の幻が、急に動きを止め、悲しそうな顔を浮かべていた。

すると、幻覚が見えなくなった。同時に、嫌な気分も多少マシになってきた。


なにこれ?



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