第30話 『魔猪』と『まちょ』
(シオン視点)
まさかここまで来て、デロ先輩が怖気付くとは思わなかった。
最初はトムと同じような、うざったい大根だと思ってた。
そんな奴が、無数の野菜獣大根を1人で殲滅したなんて信じられない。
けれど、ハダカデバネズミ人族を倒す為、オレの知らない所で暗躍し、身体を犠牲にしてまで奴らを倒した事を団長から聞き、オレは彼を、その勇気を認めた。
多くの猛者を見てくれば分かる。デロ先輩はクレア団長同様、只者ではなかった。
こないだの夜の件は、オレは終始ポンコツだった。
だって夜は幽霊が出るのだ、怖くないはずがない。
無理をしたせいでみんなに迷惑をかけた。
団長の仇をとるため再度戻って、デロ先輩を助けるも、オレは何故か意識を失った。
気づいた時には、デロ先輩が全てを終わらせていた。
オレはあの大根には敵わない。
なら団長と同じように背中を支えていこう。
そう思って、魔獣退治に誘った。なのに……。
「なんでこうなるんだよ!クソォ!」
オレの期待は裏切られた。信頼しだしていたのに。
そう考えると胸の奥が、無駄に重く感じる。
オレは目の前の怪物、魔猪を睨みつける。
魔猪は10mくらいある巨体に、ねじれた4本の牙を持っているので魔猪はとにかくデカく感じる。
そんな猪に大剣で何度も隙を突き斬りかかるが、厚い皮と筋肉に遮られ、怯ませることすら出来ない。
白状しよう。オレはこの魔猪には勝てない。
あとどれくらい持ち堪えるのか?
10分?5分?……いや1分か?無理だな。10秒すら危うい。
「もう、これしか無ぇ……」
玉砕。
オレには無駄な事だと分かっていれど、これしか選択できる事は無かった。
大剣を握りしめ、地面を踏みしめる。
「グォオオオオオオ……!」
魔猪が突進してきた。これでオレもお前も最期だ。思いっきりぶった斬ってやる!
「……!?」
魔猪がいつになっても襲いかかってこない。オレは何もしてない。
「ブ…ブゥ!? ぴぎー!ぴぎー!」
オレの目の前に迫っていた魔猪は突然、悲鳴をあげ、地に伏せていた。
「なんだ……!?」
オレは魔猪の背中に何かが居る事に気付いた。
「よぉ、シオンちゃん!?地獄の底から蘇って来たぜ!?」
「で、デロ先輩!?」
さっきまでの弱音を吐いていた大根は、いつもの頼もしい大根に戻っていた。
オレは嬉しかった。
正直、さっきは自分が不器用なせいでやりすぎたし、言い過ぎた。血が頭に登るといつも、ああなっちまう。
けど、彼は見事に復活した。
「来てくれたんすね!?デロ先輩!?」
「あぁ、そうとも!テメェを地獄に引きずり混む為になぁ!?」
……え?どゆこと?
「シオンのくせによぉ!?イタチにビビってたくせによぉ!?……テメェの血は何色だー!?」
デロ先輩がオレを根っこで縛りつけてきた。
デロ先輩は、体に赤い横線が浮かび、手にはミェルニルを持っている
クレア団長が言うに、彼の新たな力らしい。
オレに敵意を向けている。思い当たる節が1つある。
「その、やり過ぎました……すみません!」
オレは、さっき自分が言った事、した事を謝る。
「すみませんじゃ、済みません!!俺と共に地獄に落ちろぉおおおおお!?」
デロ先輩がオレに飛びかかってきた。
・・・
(重巡ダイコンデロガ視点)
俺は……、猪が嫌いだぁあああああああああああ!
でも、絶対、討伐してやる!
もう勝てる気しかしねぇぜぇええ!……ほぁあああああ!
河川敷で絶叫する受験生をリスペクトした入魂だ。指揮は高い方が良いに決まっている。
俺はブラックヘッドスナイパーの所に荷物を取りにきていた。それはミェルニル。
猪が俺の因縁の敵である事に変わりは無いので、細心の注意を払う。
赤筋大根となって、全力で挑む。
とりあえず、ネッコボルグ(覚醒)は今は役に立たないだろう。
ソシャゲなどのガチャで、最上位ランクのアイテムが出ないという『東京ドーム』よりも異世界で使い道の無い呪い。
つまりこれに刺されたら、金や虹色のタマゴや光、青帯の封筒、ローディングすらも見ることが出来なくなるのだ。爆死不可避。
前の世界だとそれなりに脅威となるし、使ってみたいがここでは何の意味もない。
飛び蹴りの東京ドームの件があるので、どこかで優位性が出るのだろうが、想像できない。
これはしばらく保留だ。
まったく訳のわからないタイミングで覚醒したので、反応に困る。
俺は魔猪の元に向かう。
現在、シオンちゃん圧倒的ピ〜ンチ!実力差は歴然!このままではシオンちゃんが危ないぞ〜?
俺はミェルニルに力を込め、赤筋大根の力を発動させる。
「蒸着ッ!!」
重巡ダイコンデロガが赤筋大根になるタイムは、サバを読んで僅か0.05秒に過ぎない!
でも、蒸着プロセスをもう一度見せる事は尺の都合で、出来ないので割愛させてもらおう!!
リョウカイ、ジョウチャクプロセスカットシマス。
赤筋大根になった俺は跳び、魔猪の背中に乗る。
この形態は身体能力が増し増しになっているので、通常よりも豪快な動きができる。
取り敢えず、この魔猪は邪魔なので根っこ触手で縛る。ギリギリ、シオンを救えたのでよかった。
よく考えると『魔猪』って字体からは厳ついイメージなのだが、読みは『まちょ』なのだ。
なんとも緩い呼び名。
それにきづけば、案外猪もかわいいものだ。
読みと書きでここまで印象が変わるのも珍しい。
そう思えば『まちょ』が愛らしく感じる。
(o・∇・o)マチョカワイイネー
まちょは根っこ触手で縛られたので身動きが取れない。『ぴぎー!ぴぎー!』って鳴いてて可愛そうだが、お前は暫くこのままだ。我慢しろ。あとで玩具を与えてやる。
この間に、シオンと決着をつけよう。
「よぉ、シオンちゃん!?地獄の底から蘇って来たぜ!?」
「デロ先輩!?」
シオンが『まちょ』の背に立つ俺に気づき、声を上げた。何か嬉しそうな声だな。
「来てくれたんすね!?デロ先輩!?」
「あぁ、そうとも!テメェを地獄に引きずり混む為になぁ〜」
さっきの仕返しをしなくてはな、地味に地面に叩きつけられるのは痛かったぞ?
犬に上下関係を学ばせるのは大切な事である。
シオンは俺の発言に困惑している。そりゃ、そうだ。
「シオンのくせによぉ!?イタチにビビってたくせによぉ!?……テメェの血は何色だー!?」
シオンを根っこ触手で縛り尋問を開始する。
「その、やり過ぎました……すみません!」
シオンは何が原因か気づいたらしく、素直に謝ってきた。
自覚はあったのか。
しかし、お灸を据えなければならない。
「すみませんじゃ、済みません!!俺と共に地獄に落ちろぉおおおおお!?」
とりあえず、身動きできないシオンに馬乗りになり、一度拘束を解く。
「お前、俺が魔術使えないの知って、調子のってんじゃねぇの?そもそもお前、魔術つかえるのか?」
「つ、つかえるっすよ!補正系魔術とか、回復魔術とか、あと閃光飛ばして仲間に合図したりとか!」
「地味なもんばっかじゃねーか!」
「うぅ……それは」
本人も気にしていた。
ちょっと落ち込み方が割とガチなので、俺の良心にも少し響いた。
しかし、ここで退いてはダメだ。
「ここで良い知らせがある!……俺も魔術使えるようになったんだ!凄いだろ?」
「え?魔力がないのに……ですか?」
「魔力が無きゃ魔術が使えないと、いつから錯覚してた?」
「なん……だと……?」
シオンから降り、根っこ触手を束ね、腕の様な物を4本形成する。
「な、なんすかそれぇ……!?や、やめ」
残念、辞められないのだ!地獄への往復切符を渡してやる!
帰ってくる頃?……そんな先の事はわからない!
「喰らえ!マジカル大根万字固め!」
根っこ触手で関節わ……魔術を発動させる。肉体言語って奴だ。
「いだだだだだだだ!?」
「まだまだ!マジカル大根バックブリーカー!」
「い"だ"い"!ギブ!ギブ!いででで」
マジカル大根スリーパーホールド!
マジカル大根逆エビ固め!
「ぐはぁ……!?」
よし、こんなもんだろう。
「これは……一体!?」
「教えてやる、人間には二種類しかいない!支配される愚民と君臨する覇王だと。魔法の国から来たプリンセスの言葉だ、覚えとけ」
「……承知したっす!……ガハッ」
シオンは小さく呟くと、魂が抜けた様に気絶した。
どこも、折れてないはずだが……。
今は眠らせておこう。
それとまちょに関してはこのままだ。
どう見ても、まちょと戦う流れだって?
……今。決着つけるとは言ってないんだなぁ〜これが。
今はBHSと共にここから脱出する。
根っこ触手でぐるぐるに縛ったシオンをBHSに投げ乗せる。
張り巡らせていた根っこ触手によって、この空間の出口は大方わかった。
根っこ触手は光さえあれば便利だ。
切り離しても使えるし、槍にもできる。感覚が劣るが五感の変わりにもなる。
俺は一応、ミーナの命符を確認する
「な、なんじゃこりゃあああああ!?」
命符を見て俺は驚いた。
さっきまで純白だった札が灰色っぽくなっていた。
死んだら黒になるとしか聞いてないが、俺の予想では灰色って安心は出来ない。
白と黒の間だから、半死にとか……。
「やっべぇ!こんなところで肉体言語してる場合じゃねぇじゃん!」
今更、素に戻る。
「BHS!ミーナちゃんが危ない!急ぐぞ!」
「!?」
BHSが荒ぶりだした。
マサ子と比べ、割と大人しいBHSがここまで気がたっている。
「ヒヒン!?(どこに行けばいい!?)」
「あそこの坂を登れ!別れた所に戻ろう!」
急な展開に置いてかれそうだ。
ミーナちゃんと別れた場所までそこまで離れていない。BHSなら3分あればつける。
俺はシオンがBHSから落ちない様に支えつつ、この場を出た。
まちょ、また会おう!




