第29話 第0話 転生したら大根だったがな!
これは俺が大根ではなく、転生する前の人だった時の話、正確には人だった最期の日の事だ。
春が過ぎ、梅雨になったので毎日の様に雨が降る。
俺は自転車で通学しているので、雨の日は合羽を羽織る。
雨の野郎は、登下校の時間帯にのみ降ってくるので凄く腹立たしい。おまけに向かい風。
これは学校側が意図的に天候を操り、生徒を嫌がらせているに違いない。
しかも安物の合羽を着ているので、とにかく蒸れる。
気分は朝から最悪だ。
そんな事を考えながら、雨と風と蒸れにイラつかされる毎日を送っていた。
だが、今日は運が良い。
久しぶりの快晴だった。
俺は面倒な学校から解放されると、せっかくの晴れ日なのでどこかでブラつこうと考えた。
けれど、ろくな小遣いさえ待ち合わせてなかったので、そのまま帰る事にした。
帰り途中、山沿いの道の先に何か小さいものが道路にいるのを見つけた。
遠目ながら、それは犬かと思っていたが近づくと犬や猫ではなく、丸っこい動物だった。
薄い茶色の背中に白い点々模様のある猪の子供、ウリボーだ。
しかも3匹もいる。とても可愛らしい。
そこで俺は、3匹のウリボーを見て思い出した。
「猪って子も成体も、捕まえたら1万円貰えるんだったよな?」
親戚に猟師がいる友人から聞いた話だ。
アライグマやヌートリアは1匹、3000円。
シカはその倍の6000円。
猪に至っては1匹で10000円も奨励金が出るというのだ。
しかも子供でも成体の猪でも同じ。
俺の目の前には無垢なウリ坊が3匹。つまりこいつらを捕まえれば30000円!
稼ぎの無い学生にとってそれは大金!
毎日、天候に嫌われていた俺に、神が恵をもたらせたのだ。
粋な事するね神様。俺に信仰心などないが。
俺はすぐに行動を開始した。
ウリボーを1匹抱き上げると、持っていた紐で足を縛り、自転車のカゴに入れる。
残り2匹も同様に足を縛り逃げられない様にした。
ウリボーは警戒心がなく、逆に俺に近寄ってくれた。
これは儲けもんよ!
「ピギー!ピギー!」
「観念しろ、可愛い害獣ウリ公!ここが年貢の納め時よ!」
俺は鳴き喚くウリボーをカゴに詰める。1匹入り切らなかったので、鞄にねじ込み、自転車に跨る。
その時、草むらが揺れ動く。
「お!?もう1匹いるのか!出てこい、かわいいウリ公ちゃん!」
まさかの追加だ。更に10000円!合計40000円の儲け物だ!こんなに楽に稼げるので、俺は無意識に笑っていた。
「ブヒィィィ!!」
姿を現したのはウリボーでは無く、彼ら3匹の親猪だった。それもかなり大きい。
我が子の危機に、母猪は勇敢にも俺に突進してきた。
「おわっ!?」
間一髪、自転車から飛び退いたが、猪の突進で自転車のフレームとタイヤが曲がってしまった。
「おいおい、俺の自転車、廃車確定じゃん……。明日からどうすれば良いんだ?アシが無くなっちゃったよ」
「ブヒィイイイイイイイ!!!」
自転車を盾にしてしゃがんでいた俺の横腹に、もう1匹、父猪が現れ、突っ込んできた。
「ぐはぁっ!?」
俺はもちのろん、飛ばされる。
肋骨が折れた。猪の牙が刺さったので出血もしている。
「……お、俺が悪かった!お子さんには申し訳ないことをしたと思っている。ゆるしてくれ!……待て話せばわかる!」
問答無用!
親猪二匹が助走をつけ、同時に突っ込んできた。
「……俺はただ、金が欲しかっただけなのにぃいい!!」
体を蝕む痛みで動けない俺は、親猪2匹の突進で飛ばされ死んだ。
・・・
俺は見知らぬ部屋に立っていた。
部屋というより何も無い空間。一面真っ白。壁や窓、扉はない。
猪に殺されたと思っていたが生きていたのか?
ここはどこ?
その無の空間には、俺の目の前に外見が特定できない奇妙な人か何かが椅子に座っていた。
「どうもはじめまして、欲に正直な少年くん」
目の前の人物に声をかけられた。その声はあらゆる老若男女を掛け合わせた声だ。とても不気味、できればあまり聞きたくない
自分は立ち、相手は座っている。
なんか怒られるみたいだな。
小中坊の頃は、宿題を全然しなかったせいで、大人にこんな感じでよく怒られてたな、懐かしい。
みんなは夏休みの宿題を最初にやる派?最後の日にやる派?
俺は最終日になってもやらない派だ。凄いだろ?
『おい少年!阿呆な事考えず、こっちの話を聞いてくれよ!』
こいつ、直接脳内に!?
「お前、なんなんだ!?そもそも人なのか!?」
「あ、ごめんごめん。…………これでいいかな?」
目の前の人物の姿が見える様になった。
黒いリクルートスーツのナイスバディの黒ショートヘアの姉ちゃんだ。『エロい』しか感想が出てこねぇ。
この空間には俺とドスケベ姉ちゃん。
何も起こさないはずがない!しかし、なぜだろう?全然その気にならない。
「その思春期全開な思考は辞めてくれや?一応私、女の子やぞ?……まぁ、私にとって姿はどうでも良いものだけどねぇ。男でも女でも子供でも老人にでも、獣にもなれる。それは私が神だから」
「神!?」
「そそ。この姿も君に媚びている結果なのさ〜。第一印象は大切!
それでね、君の死因がとてもユニークで、シンプルながら面白かったから、君の魂をここに置いているんだ」
「で、用件はなんだい?神さん」
1人でベラベラ喋る自称神に適当な所で問いを投げかけた。
目の前のコイツが神で無くとも、常識の外にいる異質な存在だと俺にはわかった。
「違う世界に転生して、好きに暴れてみないか?」
神と名乗った人物はニヤリと笑い、俺にそう提案してきた。
「転生?」
「ああ、異世界転生って奴さ。これは詐欺では無いよ?
異世界じゃなく伊勢海に転生!とかそんなクダラナイジョークじゃない。……いや、これもありだな」
「全然笑えないよ?」
「ん、そうか残念……。とにかく、この私が、君が希望するものに転生させてやる!魔王でも勇者でも、ドラゴンでも、なんでもだ!
あ、他の神どもには内緒だぞ?」
転生……。あー、そういうの本当にあるのか〜。
猪に殺された事は今思うと、怖い。
目の前の神が本物なら、そんな猪さえ翻弄できる存在になりたいものだ。
「ふーん。なら魔王より、大魔王になりてぇなぁ……。好きにしていいんだろう?絶対的な力を俺にくれや、神様ちゃん?」
「あいさー!んじゃ早速、大魔王に転生させてやろう!だ、だ、だい…………あ」
神はどこからかパソコンを取りだし、作業を始めていた。
神の癖に文明の利器をご使用とは、やはり人様は偉大なのだろう。
いや、待て!?
物凄い、よろしくない声が出てたぞ?
最後の『あ』ってなんだ!?
「何があったァ!?言え!?」
俺が責めると神は俺から視線をずらし、椅子を降り、プルプルと体を震わせながら、無言で土下座してきた。
「ほ、本当に申し訳ない!!!
間違えて『大魔王』の隣の『大根』をクリックしてしまった!なんでもは出来ないが、許してください!支援はさせてもらうから!」
「は?許せる訳ねぇだろこのバカ!マヌケ!蟹の食べられない所よりも不要野郎!」
土下座する神に罵倒を浴びせるが、意識がどんどん薄くなっていく。
転生が始まったのだろう。
「……と、兎に角、今後のご活躍をお祈りしてます!がんばれ!君なら上手くやれるよ!おたっしゃでー!」
神は手を振り、俺の魂を異世界へ飛ばした。
こうして俺は神の手違いによって、大根に転生する羽目になってしまったのだ。
・・・
そして、現在。
やっぱり、猪怖えよぉ〜!
トラウマなの!PTSDなの!ご勘弁!
現在、木の窪みに潜み、根っこ触手で魔猪とシオンの激闘を一応、見守ってる。
シオンはスゲェよ……。あんなデカブツ相手に1人で挑んでさぁ……。
そもそもなんで俺はこんな所に来たんだ?
ネスノ村を未知な脅威から守るため?
じゃあ、なんでネスノ村を守らなきゃダメなんだ?
げっ歯類連合の侵攻を防ぐためだったな。
……何故、俺がそんな事をしなきゃならない?
あのクソッタレの神は「好きに暴れろ」と言った。
ならわざわざ、あんなちんけなイモい村を守らなくてもいいだろ。
何故、守るんだっけなぁ?思い出せない。
「ここに居たんすか、デロ先輩!」
体をシオンに掴まれた。
「バレちゃったか、ハハハハハ……」
「オレは、猪がデロ先輩の天敵だとしても、今、背を向ける事は許せないっす!
あの鳩のバケモンを相手に、あのミーナさんが1人で立ち向かったんだ!ミーナさんのその覚悟、アンタなら分かるだろ?何が何でもここで折れちゃあダメって事くらい」
「……それはワカル、けど猪は無理なんだ。生理的にというか本能的にというか……とにかく無理なの!だから俺は隠れる、有給とります!はなせ!」
俺を掴むシオンの手に力が入る。
シオンも色々思う事があるのだろう。
それはわかるが、今はそれどころじゃないのね。
「……わかった、わかったよ!……アンタには失望したぜ……一生そこでくたばってろ」
シオンは俺を地面に叩きつけ、去っていった。
一瞬だけ目に入った彼女の顔から、怒りと悲しみがひしひしと伝わってきた。
「あいつ、まだあんな事言ってくれるんだな……むかつく」
シオンの厳しい言葉は、俺の心に刺さった。
……。
………………。
……なんかイライラしてきたぞ〜?
シオンの分際で俺を存分に扱いやがって……、ゆるせんなぁ。
シオンの事を考えていると、心から恐怖感が薄れてきた。
ふと、ネスノ村を滅ぼそうとしたトトンヌと野菜獣大根を退けたあの日のことを思い出す。
最初は、動けない大根だった俺を動けるようにしてくれたトトンヌに恩を返そうとしてたな。
でも、ミーナちゃんが他の大根に胴上げされてるのを見て気が変わった。
ミーナちゃんとはこの世界に来てから一方的だが付き合いは長いつもりだ。
あの優しさは良いものだ。
……。
「……あ、そういう事か!?」
「思い出したわー。俺もともとミーナちゃんに、優しくされたことが嬉しかったんだったな。
それであの子を守ろうって決めてトトンヌを蹴って、根菜類の総司令の称号を捨ててまで、村に貢献する事にしてたわ、懐かしい」
すっかり忘れていた。
毎日、地に埋まるただの大根だった俺に声をかけてくれた天使を。そんな彼女を守るという事を。
「あー、もう!シオン!アイツ許さんわ!ぶっころす!」
あの赤毛虫のAファイターめ……、自分はイタチにビビってた癖に、他人が魔猪にビビる事を許容できないのか……。
なんて奴だ、ゆるせんなぁ……。
俺の心から恐怖心は消え、俺を存分に扱ったシオンへの怒りの方が大きくなっていた。
ありえないくらい突然だが、なんとここでネッコボルグが覚醒したようだ。
早速、能力を確認してみよう。
ネッコボルグ(覚醒)
突き刺した相手に、ソシャゲ等のガチャやくじを幾ら引いても、最上ランクの代物を入手できなくなる呪いをかける。
は?
まったく、空気を読んでない能力の覚醒だな、
しかも意味わからんわ!まーたクソ能力ですか?
知ってますよ?
また最後の最後で活躍するクソなんでしょ?
あと、シオンはシメる!
どちらが優れているか誇示しなければならない。




