第26話 ピクニックに行こう
騎士王ヌーターンと巨大ヌートリアによる例の騒動から数日が経った。
アライグマ人族が暗躍し、げっ歯類連合が侵攻しているという情報の真意を知るため、東の村の調査に向かったクレアと、数人のネスノ護衛団員が帰ってきた。
そんなアライグマ人族の事だが、クレアが言うに東の村にアライグマ人族も、げっ歯類も居なかったらしい。
現地の人々はアライグマ人族は突然、何処かへ戦に向かった後、それっきり姿を見せなくなったとか。
アライグマ人族の首魁アードバーグ・ライジング王も姿を眩まし、げっ歯類連合については、何の情報も取得できなかった。
ヌーターン曰くそれは既にトトンヌ殿とヒパビパ殿がアライグマ共を蹴散らしたから、らしい。
もっとも俺にとっては、どうでも良かった話であるがね?
「ねぇ、なんで?なんで?なんでなの!?」
アライグマ人族の事なんか俺はどうでも良い。
それとは別に、俺は納得出来ない事があるので、只今ミーナちゃんの肩を、根っこ触手で揺さぶっている。
「なんでって言われてもぉ……」
俺の対応にミーナちゃんは困惑気味。
「だって、デロちゃんには魔力を蓄積する器官がないんですよ」
「器官って、なんだー!?」
ここまで何があったか説明しよう!
俺はこの世界に転生し、トトンヌ、ジェイク、ヌーターンが扱う魔術、それもド派手なヤツを目の当たりにして来たため、周りに影響されやすい俺は何故かずっと側にいるミーナちゃんに「魔術が使いたい」と相談したのだ。
すると彼女は目を輝かせ「私が教えます!」と立候補してきた。
流石はジェイクの実妹、魔術の才もあるようだ。
彼女の指示にあれこれ従い、魔術を発動させようとしたのだが、どうやら俺には魔術を扱う事は出来ないらしい。
なので、俺は彼女に理不尽だと思いながら問いただしている。
そこでたまたま近くにいたシオンが会話に割り混んでくる。
「器官ってのは魔術に使う魔力を形成する臓器っすよ!かつて、この世界の生物が竜だった頃の名残らしいっすよ!……そっかぁ、デロ先輩は魔術使えないんすね!ふーん」
ご親切に教えてくれるのは嬉しいが、ドヤ顔で語るので少しウザいし、最後の勝ち誇ったような台詞はなんだよ?
相手のマウント取るのは俺の特権やぞ!?
「どうしても無理なのか?あの通信機みたいな、魔道具的なのは無いのか?」
「あれを使うにも、使用者が魔力を使う必要があるんすよ?魔力が無いとなるとこの世界で生活するの色々と不便っすよ〜?」
大根に生まれた時点で不便の化身ですが?
どうやら俺に魔術の使用は無理らしい。
となると、あの赤筋大根形態や触手の能力一覧、野菜エネルギーという物は一体なんだろうか?
元々俺自身、野菜獣大根というトトンヌの魔術によって誕生した身。野菜エネルギーが魔力の代用として使えないか、後々調べてみよう。
「ところでシオン、何か用があるのか?」
わざわざ、人をおちょくりに来たわけでも無いだろう。ずっとここから動きそうに無いので色々と気になる。
「あぁ、すっかり忘れてました。これ、どうすか?」
シオンはある用紙を俺に向けて来た。
「……ここ近辺の森に、未確認な魔獣が現れただと?なんだこれ?」
「そのままっすよ。本来オレたち護衛団の仕事なんすけど、変な事件がバンバンと立て続けに起きて、事後処理にもドンと追われ、今や団員達は屍状態なんすよ!」
「確かに護衛団の皆さん、差し入れを持って行った時、凄く顔色が悪かったですね」
団員が過労しきってる事は知っている。
では、シオンは何故この話しを俺に持ち出したか?
俺に手伝えと言う事だな。
「まぁ、大丈夫だろ〜?この村は今や壁で囲われてるし、ここは安全でしょ〜」
面倒事は嫌なので拒否する。自分にとって利益が無いのだから当然だ。
現在、ネスノ村は丸太、木々によって作られた壁に覆われている。
この壁は巨大ヌートリアの残骸から、ヌーターンとエクスカリカリバーの労力によって築かれた。
これがある限り、この村に直接的な被害が出る事は無いだろう。
「デロちゃん?前みたく空から来られたら壁の意味がないんだよ?」
ミーナちゃんに諭される。確かにこの世界だと空から仕掛けられる事もあるな。それは大変だ。
「なぁ、シオン?別に俺じゃなくても、戦力いるんじゃねぇの?」
俺は必死に動かない事を提唱し訴える。
「みんな手が塞がっているっす!団長や団員は書類と戦闘中。ジェイクは持病のせいで遠出はできない。ヌーターンは村長らと共に、温泉掘り起こす為の地中の調査。手が空いてるのはオレとデロ先輩とミーナさんだけなんすよ〜」
今までミーナちゃんは、戦闘要員じゃなかったので疑問に思ったが、ミーナという人物についてよく考えてみれば、俺もクレアもシオンも、手がつけられない存在だったことを思い出し、妥当だと思った。
そもそもミーナちゃんは畑仕事は大丈夫なのだろうか?
この魔獣退治の仕事を面倒なので、拒否しようとした俺の気配に感づいたのか、さっきからミーナちゃんの視線が痛い。
「ちなみに報酬とかあるのですか?」
ミーナちゃんがシオンに問う。
確かにそれは大事な事である。
「情報提供なら銀貨5枚。討伐で金貨5枚っすね」
この国の通貨は、高価な物から金貨、銀貨、銅貨が存在する。
円で変換するなら金貨1枚は10万円位の価値。
銀貨1枚は千円。銅貨1枚は100円くらいだ。
もっとも日本と比べれば物価は低い。一般人の月の給付は銀貨10枚くらいだと言われている。
「うわぁ……。めっちゃ報酬でるやん」
気づくと俺は、ミーナちゃんに抱き上げられていた。
これはもう逃げられない。
でも、金貨5枚も報酬でるならやってもいっか!
金は恐らくほとんど村に寄付させられるが。
やらなければ死ぬ。
俺を抱き締めるミーナちゃんの細い腕から殺気が伝わる。
「ミーナちゃんは、畑の、お仕事、しなくていいの?」
「お陰様で、今はゆっくりできる時期になったんですよぉ」
恐る恐るミーナちゃんに尋ねると、無機質なねっとりとした声で囁かれる。
・・・
という事で俺とシオン、ミーナちゃんの3人は、ブラックヘッドスナイパー(白)と共に魔獣を討伐するべく森へ来た。
大根だから2人と1本じゃ無いのかって?
大根だとしても、概念的に人だから問題無いのだよ。
俺とシオンが主戦力でミーナちゃんは後方支援という感じだ。
魔獣といえど、巨大ヌートリア並みの強さは無いと思われるので、御使い感覚で楽しもうと思う。
目撃情報がある場所を転々と回っていく。
俺達の他にも魔獣を討伐して一旗上げようと冒険者と呼ばれる連中がちらほらと見える。
冒険者のほとんどが重武装の男達。
彼らは約5人でパーティを組んでいる。
対して俺ら3人。
さらにピクニック感覚で来ているため、周りから「なんだあいつら?頭がイカれちまってるぜ?」という目で見られている。
そんな俺達を見かねて、若い冒険者の兄ちゃん達にシオンとミーナは声を掛けられる。
見た目は前世の俺と同じくらい10代後半といった所だろう。
俺の存在は異端過ぎて彼らはきづかない。
「ねぇ、君達だけで大丈夫?良かったら魔物狩りの猛者の俺達が君たちをエスコートして……っておい!?」
シオンはこういう輩に慣れているのか華麗にスルーを決める。
ミーナも彼らに会釈するだけで彼らの前を通りすぎる。
「なんだぁ……てめェら……?」
女の子に塩対応され、兄ちゃんがキレた!
声を掛けてきたリーダー格の兄ちゃん1号がシオンの肩をつかんできた。
俺はブラックヘッドスナイパー(以下BHS)の背中でその行末を見守る。
「おい待てよ!?嬢ちゃん達のことを思って言ってんだぜ?無視は無いだろ?俺らと組もうよ〜」
それでも、しつこく絡んでくる兄ちゃん達。
そこで、機嫌が悪いのかBHSが、兄ちゃん1号の頭に食らいついた。
「何すんだ!?このクソ馬!」
兄ちゃん1号の頭はヨダレでベトベトだ。彼の仲間達も引くくらいに。
「くっそぉ!髪のセットにどんだけ時間がかかると思ってんだ!この野郎!」
到底、冒険者と思えないチャラい理由で兄ちゃん1号はBHSに斬りかかる。最近の若い子は短気ねぇ……。
BHSは兄ちゃん1号の攻撃を素通りするだけで躱す。
兄ちゃんはBHSが自分に背を向けたのが絶好の隙だと思い。そのまま斬りかかる。
「兄ちゃん!草食動物の背後は危険だよ!?」
咄嗟に俺は兄ちゃんに助言を言う。彼の短気さは冒険者だと思えない。
もしかしたら彼らはピクニックに来ただけの一般人かもしれない。
「大根が喋った!?」
兄ちゃん達の視線がこちらに向く。
兄ちゃんが動きを止めたので彼は助かった。俺に感謝しろよ?
と、思っていたが紙一重で兄ちゃんを救う事は出来なかった。
BHSが後ろ脚で、兄ちゃん1号を蹴り上げたのだ。
不幸にもBHSの蹄は兄ちゃん1号の股間に的中してしまった。
うわぁ……ご愁傷様です。
兄ちゃんは無言でその場でアルマジロかダンゴムシの様に丸くなる。
「これ以上、痛い目に遭いたくなければ帰れ」
シオンが兄ちゃん達に忠告を入れる。
「それは出来ねぇなぁ」
兄ちゃん達の1人、仮に兄ちゃん2号がシオンに楯突く。彼の視線は俺に向いている。その顔は村人らの様な物珍しそうな物を見る顔ではなかった。
「俺らの連れを傷つけたんだ。その喋る大根は頂こうか?」
え?何それ……。
「あぁ、そう言う事っすか〜」
シオンが1人で、納得しだした。
どういう事か全然わからん!
「おいシオン、どういう事だ!?」
「生きる大根、野菜獣大根を捕獲、あるいは討伐した場合、一体につき金貨5枚の報酬が出る事になったんすよ」
「は?何それ!」
聞けばネスノ村の件が何故か知れ渡っており、野菜獣大根が脅威的な存在かつ未確認なためか冒険者ギルドという組織が捕獲、討伐対象にしたらしい。
つまり、俺は人気者という訳だ。
前世とは真逆な立ち位置ね!色んな意味で。
彼らから情報を聞きたかったんだが、シオンからあれこれ聞いてる間に、BHSが兄ちゃん2号達を空気を読まず蹴り倒してしまった。
道理でシオンからあれこれ聞いてる時、BHSがロデオマシーンの如く荒ぶっていた訳だ。
シオンとの会話が終わり、兄ちゃん達を見れば彼ら全員、兄ちゃん1号と同じくダンゴムシへのリスペクトなのか、丸くなり悶絶していた。
兄ちゃん2号からは、1号とは違う強者の雰囲気を感じたが、ただの勘違いだった。
兄ちゃん達が可哀想なので黙祷しておこう。




