第2話 カピバラ監修、東京ドームの呪い 《挿絵あり》
改稿しました。
ミーナはネスノ村で生まれ、幼い頃より畑仕事の手伝いを進んでやっていた。
最初は両親の負担を軽くしようという親切心からだったが、いつのまにか、やりがいを感じていた。
雨の日も、風の日も、体調を崩した日も、家族や他の村人が止めない限りは自らすすんで、畑仕事に精をだす。
彼女が育てた野菜は、村では評判がとても良い。
もちろん大根そのものが、王族や貴族に献上されるほどに上質な野菜という事もあるが、質に関係なく彼女の育てた野菜からは、やさしい味がするそうだ。
彼女は今日も畑仕事に勤しむ。
事件は昼下がりに起こった。
「わー! 大変だー! 畑の大根が襲ってきたぞー!」
「な〜に〜!? 煮ても焼いても、おろして食べても美味しい俺達の村の大根が攻めてきただとー!?」
「それは大変だわ!? 私達ネスノ村の大根の美味しさは、他の村の雑種どもとは格が違うのよ!? きっと強いに決まってるわ!」
「バチが当たったんだべ! 大根おろしに、ポン酢をかけず、醤油をかけたから大根の神様が怒ったんだべ〜!?」」
大根畑の方が何やら騒がしい。
同時に数人の村人が畑から逃げこちらにやってきた。
「ミーナちゃん、こっちは危険だ! 家の中に隠れなさい」
「……え?」
ミーナが畑仕事で、世話になっているおばさんが顔を青くして腕を掴む。
「い、一体、何があったんですか……!?」
大根が攻めて来た!
という状況を、ミーナは呑み込めていないようだ。
「大根が魔物になって攻めてきたんだ!おそらく畑の大根すべてだと……思う」
「そんな……」
おばさんは悔しそうな顔で彼女に説明した
突然、野菜が魔物になる話などミーナは聞いた事などなかった。
おばさんも「こんな事は初めてだ」と言う表情をしている。
「お兄ちゃんとクレアさん達は、いないんですか?」
ミーナはこの村に魔物が現れた時の為に国から派遣された戦士と、村の自警団を一人でやっている兄の所在を聞く。
「クレアさん達は、村周辺の魔物退治で朝からいない…… ジェイクは、……わからない」
「それより今は早く家に隠れなさ…………い!?」
逃げていた二人は突然、100匹ほどの大根に囲まれた。
その素早さに対し、成す術などなかった。
ミーナが気づいた時には、無数の大根に横にされ、何度も、何度も、空中にほうり上げられていた。
他の村人も同様。大根に捕まりミーナと同じく胴上げされている。
ミーナは謝り続けた。けして彼女のせいではない。だが、魔物化してしまったのは「自分がきちんと仕事が出来ていなかったから」だと思いこんでいた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」と繰り返し唱える。自然と涙が溢れてくる。どんなに辛く、怖くても唱え続けた。
しばらくして想いが通じたのか、彼女の周りから大根が消えた。
ほうり上げられたミーナを誰かが受け止める。
ミーナを受け止めたのは兄ジェイクでも、クレアとかいう人物でも、村の誰でもなかった。
それは大根だった。
大根は何も言わず他の村人を助けていく。
大根が飛び蹴りを放つたびに一人、また一人と助けられていく。
全員が助かった事を確認すると、大根は大根畑の方に走り去った。
・・・
「うわぁ……やっちまった」
俺はトトンヌに飛び蹴りをプレゼントした。
トトンヌは現在、上半身がぬかるんだ地面にめり込んだ為、脱出しようと足や腰、尻尾を振って必死にもがいてる。
かわいい。
……いや、そうではなく、俺は大根特有の尖った両足で蹴ったのだ。
それに人や大根が出せるような速度を軽々超越えた飛び蹴りだ。
無事では済まないだろう。
改めて、考えると恐ろし事をしてしまったものだ。
この事が『動物を愛して護る団体』に知られでもしたら、俺は手足を切り落とされ顎を砕かれ、腹を空かした豚のエサにされる事は間違いないッ!
人間だった前世では、情緒不安定だとよく言われたものだ。
流石にトトンヌが可愛そうに感じてきたので助ける事にした
トトンヌの尻尾を掴み、思いっきり引っ張る。
足場がぬかるんでいるので力が入りにくい。
大根特有の尖った両足のおかげで滑る事はない。
しばらく引っ張るとトトンヌは雑草のように抜けた。
カピバラ一匹、救出成功である。
「ウェッヘェ!?ゲホゲホ……!き、貴様ァ!よくもやってくれたなぁ!?」
トトンヌは泥まみれになりながら、怒りをこちらにぶつけてきた。瞳に涙を浮かべながら。
「いや〜ごめんよぉ、吹っ飛んでいくイメージで蹴ったのに、まさかその場に埋まるとは……」
「もういい!貴様から根菜類の総司令の地位を剥奪する!……どうだ!悔しいだろう!?もう貴様はただの動く大根だ!!」
トトンヌは頭に血が上ってるのであろう。何が言いたいのかよく分からん。
ただ、顔に蹴り傷が一切なかった。思ったより丈夫らしい。
「トトンヌの旦那には感謝してるぜ今でも。……ただ自分で誓った事を優先しただけ。あんたが、やってる事は、善い事じゃない」
「つまり、我の邪魔をするという事だな……?
良いだろう。我が全魔力をもって貴様を地獄に送ってやる!」
「いいぜ!飛び蹴りしか出来ないが、それだけあれば十分よ!」
大根の大群に勝ったのだ。
カピバラ一匹くらいすぐに倒せる。
・・・
おいおいおいおいおい!?……聞いてない!
トトンヌは魔術とかいうヤバい力を使ってきた。
恐らく俺達、大根が動ける様になったのも魔術の力なのだろう。
カピバラ一匹と思って舐めて近づいたら、火の弾を連射してきたのだ。
直撃はしなかった。しかし大根の葉に何度か擦り、ところどころ焦げてしまった。
こちらは飛び蹴りしか出来ないが、技が磨かれ飛び蹴りに新たな効果が付与された。威力自体は少々下がってしまったものの、得たものは大きいだろう。
『技名』覚醒・飛び蹴り
・効果 蹴った相手に、『東京ドーム』を基準にして土地の広さなどを比較、または説明されてもピンと来なくなる呪いをかける
……この呪いは解くことが出来ません
は?
俺は頭に入ってきた技の新情報に心躍らせていた事 がバカバカしくなった。
流石に可笑しいだろ。何で異世界で東京ドームが出てくるんだ……?
生前、テレビなどで「ここ〇〇は東京ドーム5つ分の広さがある」と説明されても地方民だった俺の頭には「?」が浮かんでいた。
だから何だよ! ピンと来ないだけで殺傷能力は
皆無じゃねーか!
気づけば涙が流れていた。
唯一使える飛び蹴りが強化されたかと思っていた。が、実際は弱体化。
その事実のみが頭を埋め尽くした。
そもそも大根に生まれ変わってしまった事自体、原因は一応知っているのだが、意味不明だ。
なんで、大根なんだ?
俺が大根に対する想いなんて、『おでんうめー!』くらいしか無いぞ?
刺身の下に敷いてある大根、つま(けん)をずっと飾りだと思って手を付けないくらいに、俺は大根に関して無関心だった。
そのせいでバチが当たったかと言えばそうとは思わない。
もしバチが当たるなら、俺はトマトに転生していると思う。
俺は幼い頃より、トマトが大の嫌いで最近はまともに口に入れた事はない。
あの内部の見た目と、口内に広がる青臭さが無理なのだ。
という事でトマト嫌いあるある4選!
1、トマトは嫌いだが、ケチャップやミートソースは寧ろ好物である。
2、テレビや雑誌で紹介される美味しそうな料理に限って、トマトが混入しており、何とも言えない気持ちになる。
3、どの品にもトマトが入っているイメージがあるモ○バーガーには、なかなか行けない。
4、「ミニトマトくらい一口で食べろ」とうながされ、トマトの汁を出さぬ様、噛まずに思い切って飲み込んだら喉にトマトが詰まり、周囲がパニックになる。
トマト嫌いな人には、当てはまると思います!
そう考えてみるとトマトじゃなくて良かった!大根で良かった!
……。
いや、全然よくねぇよ!
「チクショウ!チクショウォ!」
新能力も俺の存在も意味不明すぎて、俺は全てが嫌になった。
前の世界に戻りたい。お家に帰りたい。
俺はヤケクソとなり、トトンヌに飛び蹴りを放つ。
偶然か必然か、俺の両足はトトンヌの腹部に命中した。
「グふぇえ!?」
トトンヌの体は5mほど吹っ飛んだ。
俺自身びっくりしたが、攻撃が当たった理由は別にあった。
「お前がミーナと村を助けてくれたのか?大根同士、仲間割れの次は黒幕のヌートリアと決戦かぁ。 大根の癖に良いやつだな、お前……」
俺とトトンヌ以外にここに一人。
いつのまにか増えていた。
その人物は、カンボジアが天国に思える程、ひでぇジャングルで狩り大好き星人と戦ったり、人類抵抗軍の指揮官の母親を殺す為、未来から送られてきてそうな筋肉を纏った男だった。
俺はこの男を知らない。
「力、貸すぞ大根」
どうやらこの男と、どこかでフラグを建てたらしい。
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《2019年3月21日掲載》
勝手ながらイラストの方を描いてみました。
今作のヒロイン
ミーナ
主人公
大根