第17話 怖い!ヌートリアの進撃
動ける大根になって、2週間が経った。
最近、夜間におかしな出来事が起こる。
何か聞こえるのだ。ガタガタと揺れる音や、獣の様な鳴き声などが。
時は多分、丑三つ時。
俺はネスノ村の夜間の見張りをしている。
この世界の文明レベルは、だいたい中世ヨーロッパだ。
もし俺に、知能と経験が有れば、産業革命を起こし周りから、ちやほやされた甘い人生を送る為に、尽力していただろう。
つまり、この世界に街灯などあるわけ無いので暗い。
月光による照明サポートを期待していたが、生憎の曇り空なので暗い。
『夜間、怖いもの』
といえば、幽霊など非科学的な物が思い浮かぶ。
しかし、夜間に車や自転車を扱う者にとっては、それよりも『怖いヤツら』が居る。
それは、無灯火の自転車だ。
実はそれだけではない。
反射板、ライトなど明かりによる存在証明、安全対策を怠る事で闇に潜み、ジョギングやウォーキングをする者達こそが、畏怖の対象なのである。
サイクリストの世界では前者を『ステルス・ジョガー』
後者を『ニンジャ・ウォーカー』と呼び、恐れているらしい。
「おわぁ!危ねぇ!?」
「おっと!すまない」
俺以外にクレアとシオン、ジェイクの3人が警備を担当しているのだが、不審人物に気づかれない為にも、明かりとなる松明やランタンは使えない。
もう少しの所で、クレアに蹴り飛ばされていた所だ。
夜間は危険が湧いてくる。色々な意味で。みんなも気をつけよう!
この異変は、俺がこの世界の事を本で調べ始めた頃から毎日、起こっているのだ。
最初は1日に一度ある程度だったが、最近は1時間ごとに、発生している。
騒音に悩まされ、数人だが不眠症を患い始めた村人がいるので、俺達が立ち上がった訳だ。
睡眠を邪魔する事は極悪非道だ。
犯人は誰か知らないが、一発殴らないと気がすまない。
「ダイコンデロガ殿も不眠症なのか?」
最近やたらイライラしてたのでクレアに心配された。
「お、俺がー、不眠症な訳ぇないだろー?」
「そうか、元気そうでなによりだ……」
自覚はある。俺は誤魔化したが、その演技力は大根役者だ。大根なだけに……ふふっ。
……。
……俺は重症だな。早く事件を解決して安眠したい。
「うわぁああ!」
悲鳴が聞こえた。シオンの声だ。
「シ、シオン!?」
クレアと俺はシオンの声が聞こえた方へ駆け出した。
・・・
俺達がシオンを見つけた時には、彼女と駆けつけた俺とクレア以外には誰もいなかった。
「だ、だんちょ!出たっすよ!いきなり、バーッて!?目が光っててぇ!?」
「ひとまず、落ち着けシオン!」
シオンは腰が抜けたのかその場に座り混んでいた。
暗くてシオンの表情は見え無いが、涙ぐみ震えた声でクレアに訴えかけている。
シオンはこの見張りに参加する予定は無かった。
しかし、俺が『お化けが怖いのかい?』と煽ったら、シオンは顔を赤くして『怖くねぇし!全然怖くねぇーし!ワンパンだし!』とムキになり、作戦の指揮を取ろうと、クレアとマウント合戦を始めていた。
そんな彼女も今は腰を抜かし、クレアの腕を掴んでいる。
トムがいたら、腹抱えて笑ってそうな光景だ。
シオンは産まれたての子鹿の様に、足を震わせ立ち上がった。……クレアの腕は離さないが。
「何かあったのか?」
ジェイクが少し遅れて合流してきた。
「なぁ、ジェイク?それはなんだ?」
俺はジェイクが何かを、掴んでいる事に気付いた。
「これか?今そっちの方から走ってきてたんでな、捕まえた」
ジェイクが捕まえたのは、イタチだった。
「「そういう事か……」」
俺とクレアは察した。
シオンが見た、目が光っていた影とは、このイタチの事だ。
「シオンちゃんはかわいいなぁ!えぇ!?」
「う、うるせぇ!うわぁああん!」
俺は笑いをこらえながら、シオンにトドメの一言を呟くと彼女は泣き崩れ、クレアに屯所へと運ばれていった。
残念ながらシオン選手は、ここでリタイアです。
「なぁ、ジェイク?クレアが今、剣を手放したら相当ヤバい事になりそうだな」
俺は不安を感じた。
今回の件が人為的な犯行という可能性も十分あり得る。
その場合、村の前衛であるクレアは、狙われる可能性は少なくない。
「その時はまたお前が代用品となれば良い事だ」
ジェイクはいつぞやの事をどこで知ったのだろうか?
「それは無理ぞ、あんなのは二度とごめんだ!」
俺は呆れた様にジェイクに突っ込みを入れた。
「ところでダイコンデロガ、根っこ触手という奴で周囲の様子は見れるか?」
「一応、やってみたがこの暗さでは根っこ触手の『視覚』は役に立たないんだ」
「なら、他の五感の機能は使えないのか?」
「どういう訳か光が無いと、根っこ聴覚も扱えないんだ」
自分自身、根っこ聴覚が扱えない事には困惑している。太陽光が無ければ基本的に、根っこの機能の扱いが限られているのだ。
根っこ触手で今出来る事は、手足の代わりに使う事。
切断して、根っこボルグにする事くらいだ。
「ジェイクは腹の方は大丈夫なのか?」
俺は話題を変えた。元々、気になっていた事でもある。
無いと思うが、幽霊にビビって脱糞という大惨事は絶対あってはいけない事だ。
「心配ない。日中こそ迷惑をかけているが、夜間は何故か腹の調子は安定している。それに自身の体の事は分かっている」
「そうか」
ジェイクは先程から空を見上げている。絶賛曇り空のため何も見えないのだが……。
戦闘面では、ジェイクもクレアも癖はあるが有能である為、俺はまたお役ごめんになるのだろう。
楽だから一向に構わないがね。
それからしばらくしてクレアが戻ってきたので、俺たちは行動を再開した。
・・・
そろそろ、前の不審な音から、1時間が経つ。
今度こそ、音の在り方を特定したいものだ。
「グオォオオオオッ!」
何やら獣の鳴き声が聞こえた。
目覚まし音の代わりになるくらいには、五月蝿い咆哮だ。そして、以前から聞こえていた、鳴き声と同じものだ。
「……上か!?」
神経を研ぎ澄ませていたクレアは音の出所を特定したようだ。
だが、上方には雲が掛かっており、星すら見えない。
「!?」
クレアは勢いよく上方へ抜刀した。
振り上げられた剣の先端から、青白い稲妻が放たれ、分厚い雲を貫いた。
雲はそれにより周囲に飛び散り、村周辺は月光により照らされる。
そして何かが、村外れに流星のように墜落した。
墜落音がここからでもよく聞こえる事から、かなり大きな物が落ちたのだろう。
ひょっとしたら未確認飛行物体でも落としたのかもしれない。
「やはり、あの雲は魔術の類だったか……」
ジェイクが呟く。先程から空を見上げていたのはそういう事だったのか。
やはり、先人に知識に関しては敵わない。
・・・
墜落現場に到着した俺たちが見た物、それは大きなトカゲにコウモリのような翼が生えた生物、ドラゴンだった。
頭部だけで乗用車並みの大きさがある程でかい。
「おいおい?まじかよ……」
思わず声が漏れた。
カピバラゴンと違い、本物の竜を見たからだ。
「下手に近づくな、気絶してるだけで生きている」
ドラゴンに近づきすぎた俺を、ジェイクが呼び止める。
それをよそ目にクレアはドラゴンに平気に近づく。
「大丈夫だ。目覚めてもしばらくは、身体を動かせないだろう」
クレアとジェイクはドラゴンに乗り上がり、色々と調査を始める。
「誰かが乗っていた形跡があるな。それに高濃度の魔力を感じる。この異変の犯人に違いないな……」
ジェイクは眉間にシワをよせて語った。
「……っ!」
少し離れた所に何か小さな影が蠢めいている。
「クレア、ジェイク!?アレはなんだ?」
俺は2人に問い、蠢めく影に近づく。
「こいつは……!」
俺を含めたここにいる3人は、その影に見覚えがあった。
その影は上半身が地面に埋まっており、抜け出そうと尻尾や足をバタバタさせている。
かわいい。
以前、同じ光景を見たことがある。
「トトンヌ……!?」
俺たちが見ているのは、どう見てもヌートリア人族の尻だ。
「やはり、貴様らの仕業だったか……」
クレアの表情が険しくなる。
クレアはヌートリアの尻尾を掴み、土から抜こうとする。
その時だった。
「クレア団長!避けろ!?」
ジェイクだけが、異変に気付きジェイクが突き飛ばそうと、クレアに駆け寄る。
死角から、クレアの放つ斬撃に似た何かが、飛んできたのだ。
「ーっ!?」
反応に遅れたクレアは飛んでくる斬撃を背に受け、その場に身体を崩した。
「ふっふっふー!見たか人間!これが我々ヌートリア人族の力よ!貴様らが見ていたソレはただの木偶人形よ!」
何かが、いた。
トトンヌと同じ見た目をしているが、鎧を着込み、片手には剣を持っている。
「誰だお前は!トトンヌじゃないな!」
「貴様がトトンヌ殿が言っていた大根だな?
ワタシはヌートリア人族の騎士王ヌーターン!
よくもワタシの作戦を邪魔してくれたな!この聖剣、エクスカリカリバーで天誅を下してやる!」
「騎士の癖にやる事が汚いぞ!」
俺と騎士王ヌーターンは睨みあう。
「くっ……私とした事が、不意を突かれるとは」
クレアは重い足取りで立ち上がる。
「大丈夫なのか、クレア団長?」
クレアはジェイクに身体を支えられている。
「あぁ、思っていたよりも身体は平気なんだが……」
何かクレアが、俺の方をチラチラと見ている。様子がおかしい。
「……我慢できない。すまない!ダイコンデロガ」
クレアが俺を掴む。
「痛い!クレアァ!痛いわ!」
クレアは俺をかじりだした。
とっさに根っこ触手で彼女を縛り、身動きを封じた。
クレアの歯型が残ってしまった。治るだろうか。
「一体、なんなんだこれは……?」
ジェイクもわからないらしい。
「ふっふっふー!良いだろう人間、特別に教えてやる!その女は、我がエクスカリカリバーの呪いにかかったのだ!」
「なんだと?本物なのか?」
「ジェイク、お前、知ってたんかい!」
「本物という、確証が持てなかった……ヌートリアがビーバー人族の聖剣を持つなど、同盟を結んでいたとしても、あり得ない」
「ふふっ。ワタシは特別なのだ、あらゆる試練を乗り越え、トトンヌ殿の協力を得て、手にしたんだからな!」
「ところで、どんな呪いなんだ?」
急にクレアにかじられたという、キテレツな事実。
一体、どんな呪いなのだろうか。
「この聖剣に斬られた者は、ありとあらゆる物を、かじりたくなる呪いにかかるのだ!恐ろしいだろう!?」
ヌートリアの騎士王さんは教えてくれた。
うん、それは怖いな。まるでゾンビだ。
クレアはこの近くで、一番かじりやすそうな俺を選んだ訳か。
解せぬ。
「ジェイク、呪いは解けるのか?」
「それは、俺にも分からん。過去には、エクスカリカリバーで斬られた者達によって、ジャングルが1つ滅んだという話もある。恒久的な呪いかもしれない」
解けない呪い。
そういえば、俺の『飛び蹴り』にも、実用性がない恒久的な呪いをかける力があったな。
しかし、エクスカリカリバーの呪いは俺の飛び蹴りと違い、えげつなく悲惨な結果を呼ぶ物だ。
どうにかして、呪いを解く術を見つけなければならない。
「ジェイク、クレアを安全な所に運んでくれないか?」
「いいのか?手強い相手だぞ?」
「それは、わかってる。だが、もしジェイクも呪いにかかったら洒落にならないだろ?ここは俺に任せて行け」
もう俺の死亡フラグがビンビンに勃ってるじゃないか。
でも、なんか行けそうな気がするの。
ジェイクは根っこ触手で縛られたクレアを、米俵みたいに担ぐと村へと消えた。
俺はこの、自称ヌートリア人族の騎士王さんと向かいあう。
こいつの名前なんだっけ?
忘れたので、ヌートリア・ペンドラゴンとでも呼ばせて貰おう。
まともに、戦うのはトトンヌの時以来だ。
前回と違い、仲間の助けは来ない。
だが、力はついた。楽に倒してしまっても良いのだろう?
夜間なので使える技は限られるが、なんとかなる。
この戦い、俺の勝利だ!
もう、何も怖くない!
約一カ月の休載をとります。
投稿再開は八月上旬ごろを目処にしています。
詳しく決まりましたら、活動報告でお知らせします。




