第16話 文字が読めたぁ……!
2話に分ける物を詰めたので、割と長め。
例の事件から、1週間が経った。
あれから変わった事は、特に無い。
強いて言えば、捕らえられたハダカデバネズミ4匹をトム以下ネスノ護衛団の数名が、王都に送検しに出かけているという事くらいだ。
俺はこの1週間で、文字の読み書きを、習得する事ができた。
それは、以前と同じくミーナに教えて貰っている。
彼女とは例の件で、距離がかなり縮まった。
『距離が縮まる』と言うと聞こえは良いが、ミーナちゃんの潜在的狂気は健在。
つまり、俺は彼女には逆らえない。
逆らったら何されるか、分かったもんじゃない。
そんな俺は現在、なんとかミーナちゃんに解放され、読み書きを習得できたので、村の図書館ことニック爺さんの家に、再びお邪魔していた。
前と同じく、少女がチラチラとこちらを見てくるが、気にしない。
「おっ!この本かな?」
この世界について書いてありそうな本を見つけ、根っこ触手でとり、早速読み始めた。
・・・
(創世記)
この世界には、現在までに5つの時代があった。
まず最初に、この世界を創造した神々が支配する『神代』
次に神々がこの世界から姿を消した事で、世界中を荒らし回った竜族の支配する『竜代』
翼を持たない竜族が進化して獣となり、竜代中期から同時期に起こった『獣代』
竜と獣の無秩序な時代に、痺れを切らした神々が世界を一度滅ぼしかけた戦の時代『暗黒紀』
暗黒紀の後、神々は自分達を崇拝する『知恵ある獣』人族に、世界を支配させた。
それが現在の『人代』である。
・・・
創世記っぽい本を取って読んでみたものの、俺にはよく理解できなかった。
この本に書かれている事を真に受けると、この世界の人間を含む、動物の共通の祖先はドラゴンという事になる。
何それ、かっこいい。
前の世界の哺乳類の祖先は、ネズミだと聞いた事がある。
……差が激しいな。
更に俺は本を深読みする……事は無く、目で文字を流すように本のページをめくっていた。
生憎、俺は文字がビッシリと詰まっている物を読むのは好きではない。
せいぜい読むとすれば、漫画や雑誌くらいだ。
漫画だとしても、推理物みたく文字数の多い物は敬遠しがちである。
そんな俺でも深読みしたくなる程、興味を誘うネタを発見した。
『邪竜カピバラゴン』という単語だ。
それはこないだ目撃した、翼が生えた巨大カピバラの事である。
カピバラゴンという名が、創世記の本をめくっていると、幾度も目に付いた。
早速、そいつについて書いてありそうな本を探す事にした。
・・・
(暗黒紀戦史)
邪竜カピバラゴン。
竜獣大戦、ローデントの戦役に勝利したカッチョパッチョ大王と、捕虜となり彼の妾となった竜族の王妃の間に生まれた混血の邪竜。
生まれた直後、母親を喰い殺し竜の力を受け継いだカピバラ。
後に三界王の一角『陸王ヨルムンガンド』を斃し、三界王衰退の原因を作った。
・・・
カピバラゴンの基本的な情報について調べてみたが……。
あの見た目からは信じられない生い立ちしてるの!
カピバラゴンという生き物がこの世界で恐れられている理由が分かった気がする。
三界王……?陸王ヨルムンガンド……?
またよくわからん言葉が出て来たな……。
・・・
三界王。
世界に君臨した竜王、
『天王ヴリトラ』
『陸王ヨルムンガンド』
『海王リヴァイアサン』の事である。
三界王は後に神々と、邪竜カピバラゴン、カッチョパッチョ大王をはじめとした、げっ歯類で構成される連合軍、通称『ローデンティア』によって滅ぼされる。
・・・
……。
前いた世界とは違うので、知らない言葉が多いのは仕方ないだろう。
ただ、1つだけわかった事がある。
カピバラゴンはめっちゃ強い。
ヴリトラ、ヨルムンガンド、リヴァイアサン。
コイツらは、前の世界でもゲームなどで目にする程のビッグネームだ。
ヨルムンガンドとは北欧神話に登場する、世界を覆う程の巨体を持ち、毒霧を吐き続ける蛇の事である。
調べたところ、この世界の『ヨルムンガンド』も同様の特徴を有している。
そんなバケモノに、あのバカでかいカピバラは勝ったのだ。
トトンヌがドヤ顔で語ってきた理由が、分かった気がする
あれから三界王やローデンティアなど暗黒紀の出来事を調べた。
・・・
(獣代の崩壊と人代の始まり)
竜族との長き戦いに勝利したカピバラ達は、己の力に憂い、愚かにも神々に宣戦してしまう。
怒った神々は当時、最強と謳われたカピバラ族に天罰をくだした。
結果、神々はカピバラから闘争心を奪い、温厚な獣にしたという。
唯一、力を奪えなかった邪竜カピバラゴンとカッチョパッチョ大王は今現在も、ウルカ火山の地下深くに封印されているという。
・・・
その封印、解かれてますやん?神さま……。
ひょっとしなくても、カッチョパッチョ大王という、ふざけた名前のカピバラも封印解かれてると俺は思う。
神はこういう時は動くのだろうか?
実のところ、俺は神さまに出会った事がある。
この姿で転生してしまった事こそ奴のせいだからな。
『向こうの世界』から『こっちの世界』に、俺の魂が渡る途中に神と出会った。
この話はまた別の機会にしよう。
カピバラ人族やハダカデバネズミ人族、ヌートリア人族などが所属する『げっ歯類連合』
このネーミングから、黒幕はカッチョパッチョという奴で間違いない。
あのトトンヌやヒパビパよりも、実力が上のヤツがいるのか……。
正直、今の俺では敵わない気がしてきた。
宇宙の果てを考えているみたいな感じ。
考えれば考えるほど、気が遠くなる。
大根という身でも考えると頭が痛くなる。
俺は気分転換に外に出る事にした。
勉強は1日1時間!みんな守ろうね!
気分転換に村の外周を散歩していると、人気の無い所にクレアとシオンがいた。
こんなところで何してんだあいつら?
疲れた脳に百合展開を期待したが、雰囲気はそんな甘そう物では無かった。
「おいそこのお二方!何してはりますの?」
俺は二人の間に割って入った。デリカシーなど俺には無い。
「あ、デロ先輩! 丁度良いところっすね。東の村でアライグマ人族による、作物被害が多発してるらしいっす!これは先日の件と関係ありそうっすよ」
『アライグマ人族』
カジキマグロ人族やニワトリ人族など、げっ歯類以外にも獣人族は存在するらしい。
彼らは、人間の特性を持っており『人』が存在するよりも前から、この世界にいるらしい。
「例のカピバラ人族と関係性があるのか?アライグマはネズミじゃないぞ?」
俺は素朴な疑問を呟いた。
「あり得る事なんだ。ハダカデバネズミ人族から聞き出した情報によると可能性はある。しかしなぁ……」
クレアは、何かおかしな事でもあるかのような顔を歪ませる。
「トトンヌとかいう『カピバラ人族の飯屋?』を自称する奴は、どう見てもヌートリア人族なんだ」
「それがなにか?」
「ヌートリア人族とアライグマ人族は犬猿の仲だ。ヌートリア人族は、アライグマ人族に洗浄戦争にて、互いに害獣指定を受けた因縁の種族でな」
洗浄戦争?害獣指定?
アライグマとヌートリアは日本でも外来種の害獣だ。可愛い見た目をしているのだが嫌われている。
捕獲した際の奨励金も3000円と、似た所もある。
「やはり、ただの偶然っすかねぇ?」
シオンがクレアに溜め息混じりに尋ねた。
「一応、可能性はある。奴らが、げっ歯類のみで構成されている組織とは限らない。奴らがこの村を襲う理由がわからない今、些細な事でも調べるしかないんだ」
クレア達は捕らえたハダカデバネズミ人族に尋問したものの、ネスノ村を襲う理由は、彼らは知らなかったようだ。
彼らに与えられたのは、ただ『野菜の栽培を阻止せよ』という任務だけであった。
「団長!つまり東の村を調査するって事ですかね?」
「うむ、トムと数名が王都に行っている今、数は限られるがな」
「じゃあ、俺が行って良いか?」
人手不足という事なので、俺は人助けという事で名乗りでた。
……というのは表向きで、本音は常にミーナちゃんに見張られている感覚から開放されたいという気持ちからである。
「有難い提案だが……無理だ。すまない……」
ものの一瞬で、一蹴された。
「なんで!?」
「ダイコンデロガ殿は、その……ミーナがいるからな……」
あっ……。そういう事だすか。
先に逃げ道を塞がれていたんだすか。
それは仕方ないだすね。
精神的な束縛から開放される希望は絶たれた。
だが、俺は諦めない。次のチャンスを待とう。
・・・
勉強は1日1時間だと?
何、バカな事を言っている?
今時、1時間程度では、大した進行など出来ぬわ!たわけ!
上文を訳すと、俺は再び本を、漁っている。
どうしても調べておきたい事が、あったからだ。
それは、さっきクレアが言っていた『洗浄戦争』についてだ。
獣人族について書かれてそうな本を読み漁っていると、その事について書いてある本を見つけた。
(人代における獣人族の躍動。清潔自慢の洗浄戦争編)
ヌートリア人族とアライグマ人族。
約500年前に、この2種族の間に起こった戦争、それこそが洗浄戦争。別名『アライッコ戦争』である。
この戦争により、ヌートリアが占領していた領土『ヌー大陸』は消滅した。
・・・
なにそれ……しょうもな。
アライグマは『野生の洗った厨』と呼ばれるほど、なんでも洗う動物である。
それに対し、ヌートリアも植物などを、一度水で泥を流してから食べる。頻繁に毛づくろいをするなど、綺麗好きな動物である。(ジェイク監修に基づく記述)
何故戦争になったのだろうか?
しかも、ついでに土地が滅んでますよ?
『ヌー大陸』ってなんだ?
本を読み進める。
・・・
戦争の発端は両種族の王族の会食で綺麗好き自慢をした事である。
口論は白熱し、最終的に武力による対決となった。
戦争のルールは、どれだけ多くの物を、より綺麗に洗えたかで勝敗を競うものだった。
当初、戦争は3ヶ月以内に終息するものかと思われた。
しかし、戦線が拡大していき、戦争は約3年間も続いた。
この戦争による戦死者は、両陣営合わせて10万人を超える。
・・・
色々、おかしいだろ!
戦争となった理由が、しょうもなさすぎる。
洗うだけなのに何故、死人が出る?
・・・
終戦の兆しが見えたのは開戦から2年半が経った頃であった。
当時の、アライグマ人族の王アミーゴ・ライジングの演説、通称『心洗われる一喝』の一言により、勝利の女神はアライグマ人族に微笑んだ。
『奴らヌートリアは嘘つきだ!自分達を「高潔な綺麗好き」と名乗っているが、それは真っ赤な嘘だ!
我ら民は知っているか?ヌートリアの別名を!
奴らが隠した真実を!
ヌートリアの別名は「沼ドブネズミ」だ!
そのような汚らしい名前の奴らに我らが負ける筈がない!
今こそ立ち上がれ。我らアライグマ人族こそ地上で最も高潔な種族だと思い知らせてやろうぞ!』
(以上はアライグマ人族語を訳した物。諸説あり)
この演説の事を聞いたヌートリア人族は、皆、酷く落ち込み、自ら命を絶つ者も少なくなかった。
その結果ヌートリア人族軍は指揮が下がり、後の終末戦線(別名アル・ァイグ・マゲドン)と、ラグーンナロクの戦いで敗北し、屈辱的な無条件降伏を呑まされ終戦を迎えた。
ついでに『ヌー大陸』は地図上から消滅した。
この戦争で湖など綺麗にしすぎた為に、魚貝類の数が激減し、森を綺麗にしすぎて山菜、キノコ類が採れなくなった被害が続出し、各国でアライグマ人族とヌートリア人族は、害獣指定を受ける事となる。
・・・
「えぇ……」
俺は困惑した。
洗浄戦争がどんなものかと思いいざ調べてみたら、かつて無い程にくだらないモノだった。
それに、『ヌー大陸』については何も分からなかった。
多分忘れても良い単語だ、
それにしてもヌートリア人族、心弱すぎるだろ。よく3年も頑張ったな……。
ひょっとしたら、戦争で疲れきっていたから、かもしれない。
それとは逆に、アライグマ人族!
言って良いことと、悪いことがあるだろ!?
俺はヌートリア人族が少し可愛そうに思えてきた。
しかし、トトンヌ達は全力でぶっ潰す。それとこれとは別である。




