第14話 こしあん派とつぶあん派 又は角煮かっ!?
― (シオン視点)
ミーナさんが、大根先輩の名前を発表した。
『巡洋艦ダイコンデロガ』
それが一体何なのかオレにはさっぱりわからない。
彼女の持つメモ用紙には、他にも何と言っていいか、わからない名前が書かれていた。
メモを見て、トムの野郎は気分を悪くし、逃げるように屯所から飛び出していった。
大根先輩は書かれていた内容に驚き、メモをミーナさんに押し付けるように返した。
内容が気になるが、二人の反応から察するに、見ない方が良いだろう。
団長も同じことを考えているだろう。
問題は、そこからだ。
ミーナさんの表情が、今まで見た事の無い顔になった。
大根も団長もオレ自身も、その豹変っぷりに、身構えた。
「ミーナ!落ち着け!?」
最初に動いたのは団長だ。
体を揺らしながら、大根先輩に迫る彼女の腕を団長が掴んだ。
「ミーナ、一度落ちつけ!私にも責任はある!まずは、落ち着け!深呼吸して気分を落ち着かせるんだ! な!?な!?」
「クレアさ〜ん?痛い目みたく無かったら、離してくれませんかぁ?」
団長がミーナさんを引き止める。しかし、ミーナさんの眼に、団長は怖気づいた。
「……や、やめてくれ。話せば分かる!」
それでも団長は抵抗した。
やはり、団長は頼もしい。かつてのドラゴンの討伐でも、昨日の野菜獣大根にも、勇敢に立ち向かった騎士だ。
そう簡単に折れる訳がない。
「そぅですか……残念ですねぇ」
ミーナは体を団長の方に向け、一歩一歩近づく。
その気迫に、団長は後ずさりする。
ミーナの手が団長へと伸びる。
その手は団長の首を、掴むものかとオレは思っていた。
ミーナの手は彼女の腰、聖剣へと伸びた。
「!?」
団長が気づいた時には、剣はミーナに奪われていた。
オレはこの緊迫感に押されたせいか、体が動かなかった。
「うぇえええええええん!!たしゅけてぇええ!!怖いよぉおおお!!!ギャース!」
「団長!?」
剣を奪われた団長の泣き声が、屯所の中で響いた。
クレアが体勢を崩し、近くのテーブルにダダッとぶつかり、上に乗せらせていた花瓶がパリーンと割れた。
辺りに何か握れる物、代わりになる物を探すが、今日に限って、ここ屯所のくせして何も見当たらない。
オレのハルバートは今日は自室に置いてきている。
そこで一つ、代わりになりそうなモノを発見した。
オレは『ソレ』を掴み、団長に握らせた。
・・・
(巡洋艦ダイコンデロガ【仮称】視点)
これは〜〜、俺がこの世界の事を知って二日目の出来事だったかなぁ〜?
ネスノ村のミーナちゃんって子に、以前俺の名前を決めて貰う約束をしてまして、今日の昼下がりを過ぎた頃ぉ〜、夕方にですね、俺の名前が決まった〜って報告に来たんですよ。
一体、どんな名前になるんだろうなぁ〜、楽しみだな〜。
なんて思いまして、凄くワクワクしてたんです。
けれど、なんでかな〜。
彼女の開いた口から出た私の名前はね、人に付ける様な名前じゃなかったんですねぇ〜。
『巡洋艦ダイコンデロガ』
完全に可笑しいでしょお?
巡洋艦って言ったら軍艦の一種なんですがね。
なんでかなぁ〜?どうしてだろなぁ〜?
彼女がこの名前にした理由が全然わからない。
それを見かねて、近くにいたクレアっていう、なっが〜いポニーテールの女性がミーナちゃんに尋ねた。
『他にどんな名前を考えていたの?』ってね。
その問いに応えたミーナちゃんは、他の候補名をズラ〜〜っと言った。
それが、どれも変なモノなんですねぇ。
この世のモノとは思えない。
彼女の事が、不審に思いましてね。
俺は、彼女が持っていたメモ用紙を、クレア達の協力で、サッと奪った。
俺は、まだこの世界の文字を覚えきってはいないんだけど、そのメモを見た途端!
『ウゥワァアアアアアッッッ!』って悲鳴をあげた。
そんな俺を心配して、トムって青年がメモを覗いてしまった。
途端に彼の顔が真っっっ青になったんだ。
オェー。オェエエエ!って吐きそうなくらいに。
俺はメモをミーナちゃんに、ヒュッと返した。
多分ですがね、原因がわかりました。
皆さん?これは、……霊の仕業なんですねぇ。
身体に霊が入ってきてる!
もう一つわかった。
間違えたら、私は霊に殺されます!多分!
彼女。ミーナちゃんには、霊が憑いている。
その霊は……。
どこかで、死んだか殺された男の、奥さんの、弟だがね!
じゃあ、どうして彼女、ミーナちゃんに霊が憑いてしまったか?
あの優しい性格。
これが原因だったんですねぇ。
よく昔から、轢かれたネコに手を合わせたり、放置されっ放しのお墓に手を合わせると、無縁仏が憑いてくるって話がありますよねぇ。
つまりどういう事かと言うと、そう言う事なんです。
彼女は、こちらをジーーーッと見てる。
今までのミーナちゃんの眼じゃない!
ジーーーッと見られた事で思い出したんですがね。
あれは、中学二年生の頃だったかな〜。
クラスでガーッと抗争が起きてまして、窓ガラスが彼方此方にパリーンと割れてたんですよ。
怖いなぁ、何があったんだろなぁって、気になったんで、クラスメイトの、仮にAくんに、原因を聞いた。
なんでも『こしあん派』か『つぶあん派』かで対立してたそうなんですね。
クラスに入ってきた私を見かねて、二人のクラスメイトがですね、俺にサッと尋ねてきた。
『お前は、こしあん派?つぶあん派?』
危機迫ってくるように聞かれたから、声が出ないんだ。
一呼吸入れたら喋れたから、俺は正直に答えた。
『ボクは餡子じたい嫌い。チョコレートこそ最高!』ってね。
途端にクラスがサーッと静まり返った。
争いも止まったのは良かったんですがねぇ。
みんなが俺の顔をジーーーッとみてる。
それから3日くらいだったかなぁ。俺はAくんを含んだクラスメイト全員に無視された。
そんな事があるのかも、知れませんね。
でね?
ミーナちゃんは立ち上がり、口を開いた!
『逃がしませんよ。デロちゃん?』ってニタァ〜って笑いながら言うんですねぇ。
途端に俺の体から、冷や汗が、ダラーーーーッと流れた。
彼女は体を、ゆら〜りゆら〜り……と揺らしながら近づいて来る。
うわぁあああ!? やめろい!
ミーナを止めるように、そこでクレアが、キュッと止めにかかる。
けれど、反撃を食らってクレアは剣をミーナちゃんにヒュッと奪われた。
でね、クレアはウワァアアアアッッッて、子供みたいに泣きだした!
嘘だろ、おい!?
いやぁ……俺もクレアの事は、知ってたんですがねぇ、まさか今泣きだすだなんて思わないサー。
そうしたら、剣を盗られて態勢を崩したクレアが、近くのテーブルにガッッとぶつかり、テーブルの上の花瓶が落ちて割れた。
うわわわ!? 怖ぇな〜…。
花瓶が今、落ちて割れましたよね?
そりゃ、落ちたら割れる。そんな事、俺でも知ってる。
じゃあ、何故落ちたか……?
これはねぇ。絶対多分、霊がここに、サーッと集まってきてる証拠なんですねぇ。
一般的には『ポルターガイスト』と、呼ばれる超常現象なんですがね、ミーナちゃんの変貌がピュッと引き金になったんです。
間違いなく『ポルターガイスト』ですね。うん。
つまり、俺達は知らず知らずの内に、霊を集めちゃったの。
これは不味いなぁ、怖いなぁ、……なんて思いましてね。
おそらく、だから、きっとここに居座るのは危険!
すぐに逃げた方が良い。これだけは言える。絶対多分!
でね、俺は逃げようとしたんだけど、身体を女にグァっと捕まれた。
よせよ!おい!?
その女は、俺が赤毛虫と呼んでいるモジャモジャアっ!とした、なっが〜い赤い髪の女の子なんですがねぇ。
その彼女が俺の身体を、シュッと持ち上げるとクレアにパッと慣れた手付きで持たせた!
うっそだろぉ〜!?
これじゃ、逃げられないサー。
やめろよぉ!
この後の展開が最悪と分かっていても、逃げたい時に動けない。
そんな時が、あるのかもしれないですねぇ。多分。いや、多分じゃない絶対。
・・・
ミーナちゃんの変わりっぷりに恐怖を感じ過ぎて、怪談の語り手、I.J氏みたいな語り(付け焼き刃)になってしまった。
ミーナちゃんの変貌が本当に、霊のせいなのか真意は不明だが、メモを見られた事に対しての恥ずかしさが変貌の引き金となったのだろう。
黒歴史ノートを誰かに見られたら、舌を噛みきりたくなるのと同じだろう。
俺は現在、クレアに握られている。
シオンが、ミーナちゃんに奪われた剣の代わりに、俺を持たせたのだ。
俺はマッハでここから逃げたかったのに!
お陰で、この問題を解決しなくちゃいけないじゃないか……。
そもそも、名前決めるだけで時間取り過ぎだろ。
と、いつまでも愚痴を言ってられない。
「なぁクレア、大丈夫なのか?」
俺はとりあえずクレアの心配をする。
「心配をかけた。そしてすまない、二人とも」
「いいんすよ!団長のフォローをするのがオレらなんすから!」
クレアにシオンが一声かける。
……できればそのフォローに、次から俺を巻き込まないで欲しいね。
俺は、握られているので身動きとれない。
「おい、クレア、シオン!とりあえずここから逃げよう!」
「む?やはりそれが賢明か!」
「今はそれがいいっすね……」
「デロちゃん、逃がしませんよぉ〜。……ウフフ」
悪いがミーナちゃん、それは無理なんだ。
「とりあえず、逃げろぉ!」
俺はクレアに合図を送ると、クレアは全速力で屯所を飛び出した。
「あっ!?」
シオンがミーナちゃんの進路を妨害していたお陰ですんなりと、逃げられた。
しかし、間も無く、ミーナちゃんは追ってきた。
あの走り方はガチだ。ガチフォームだ。
流石は、筋肉モリモリマッチョマン(腹部はクソザコ)ジェイクの妹。運動神経のポテンシャルは素晴らしいものであった。
シオンの妨害は、少しだけだが役にたった。
だから、こうして逃げられた。
赤毛虫、お前はバカだが良いやつだったよ。
来世では幸せになってくれ。
俺とクレア、ミーナとの差は、ゴリゴリと削られていく。
クレアは鎧を身に付けている。
鎧がどれくらいの重量を持つかは知らないが、ミーナの瞬足。畑仕事のために動きやすい服装をしている。こちらとの差は歴然だ。
聖剣を取られているので、クレアは力を奮えない。
所持武器が大根のみなので、反撃もできない。
俺はもの凄くブンブンと振り回されて、目が回って気分が悪い。
いつ、吐いてもおかしくない。大根に吐くものなど無いが。
ミーナちゃんは、俺を捕らえるまで止まらない。
「おい、クレア!なんとかしてくれや!」
「すまない。逃げるだけで限界だ……」
クレアは、後ろから、迫る狂戦士から逃げる事で、いっぱいのようだ。
ミーナちゃんとの鬼ごっこは、しばらく続きそうである。
ブンブンとクレアに振り回される俺も限界だ。
色んな意味でね。




