第12話 吾輩は大根である。名前はまだ無い
やぁ!みんな、元気かな!?
俺は大根、名前はまだない。
俺からみんなに良い知らせがあるんDA☆
クレアによる雷撃に、スッパマッパ隊長のありがた迷惑によって直撃してしまった俺はなんと……!
…………。
生きてましたぁ!
拍手ゥ!
「なんで生きてんねん!死んどけや!」って言った人!
そんな君にはもれなく『VHSのテープが絡まったり、埃に塗れる呪い』をかけてやる!
「今時、VHSなんて無い」だって?
…………。
ぐぬぬ……。
話を戻そう。俺は正直、死んだかと思った。
紫の雷光とクッソうるさい轟音を撒き散らす、俺の頭上に展開されたドス黒い雲。
更にそこから発射された極太の稲妻に、俺は走馬灯を見た。
ただそこに、ロクな思い出は無い。
しかし、あの雷撃による死傷者は、なんと0人。
ハダカデバネズミという生き物は頑丈であり、強運であった。
『ハダカデバネズミ人族は不滅だ』という証明ができたので、スッパマッパ隊長も満足だろう。
あの4匹は黒焦げになったものの、重傷程度で済んだ。
彼らは、意識を戻したトムと数人の団員に身柄確保され、簡易的な牢屋に投獄された。
そして俺は、あのハダカバカネズミ4匹同様、黒焦げになってしまった。
これは流石にヤバいと感じたクレアが、駆け寄って来たので、俺はその隙をつき、根っこ触手で彼女を襲い『あの時と同じコト』をして回復したのである。
「ぶ、無事でなにより……だ。今回は私の確認不足が原因だ。今度から気をつけよう……」
クレアは顔を赤くしながら言った。
なんで、かおが、あかいんだろう?ぼく、わかんない。
一方『ハダカデバネズミの希望』と呼ばれた武器、ドスケベドチャクソ有能スケトールハンマー『ミェルニル』は無傷であった。
流石、伝説の武器と言ったところであろう。
クレアに、このドスケベハンマーについて聞いたところ、神話上の存在だと思っていたらしい。
本物かどうか確かめるため、クレアを叩いてみようとすると「自分の鎧は変わりが無く、聖剣の力を最大限に発揮する為の物だから、それだけはやめてくれ」と脅す様に言われた。
まぁ、怒るよなぁ。
逆に、誰になら試しても良いか聞くと、「自分自身で試せ」と言われた。
試しに自分を叩いて見たが、何も起こらなかった。
それとは別に、このハンマーを握っていると、体から力がみなぎってくる感覚が現れた。
おそらく伝説の武器の効力なのだろう。
あと、身体から赤い線が浮かび上がる。
うわ!? 何これ、キモ!?
俺はスケトールハンマーを押し付ける感じで、クレアに譲る事にした。
スケトールハンマーを手放すと、身体に浮かび上がる赤い線は消えた。
ハンマーを受け取ったクレアには、それらしき症状は現れなかった。
なんなの?呪いかと思ったじゃない!?
「改めて感謝する。敵を信頼させ騙し自爆を狙い、こちらの負担を軽減させる配慮と、その策士っぷりに感激した。だが今回みたいな危険な事はしないように、貴方も我々の仲間なのだから。」
クレアは俺の事を心配していた様だ。
となると、あの時の「よし!」とは何だったんだ?
「まぁ、大丈夫だろう」って妥協したのかもしれない。
最低限の犠牲だ。仕方ないだろう。
お陰でこっちは、死ぬかと思ったがね。
そして現在に至る。
「団長、何してるんすかぁ?……げっ!?クソ大根!」
案の定、俺とクレアの前に、重甲Aファイターシオンが息を切らしながら駆け寄ってきた。
『げっ』とはなんだ?『げっ』とは!?
あと『クソ大根』って……俺は笑いのニューウェーブとちゃうぞ!?
「この極悪クソ大根め!やはり生きてたか!クレア団長、退くっすよ!?オレがこの裏切り者を、討ってやるっす!」
「おい、クレア!このバカをどうにかしてくれ」
昨日、俺に負けた事を忘れ、何を勘違いしたのかシオンは武器を構え、今にも襲いかかってきそうである。
俺はシオンの対応は面倒なので、クレアに投げた。
「……落ち着けシオン!この大根が、さっき敵と共にいたのは、そういう作戦なんだ」
「団長、コイツに騙されているっすよ!」
「ほら、それはアレだ……。『まずは味方を騙せ』って言うだろ?」
クレアのフォローによって、シオンから滲み出ていた殺気が消えた。
「……む。確かに、言われてみれば。名だたる策士は皆そう言うっすね。……今回ばかりは大目に見るっす」
クレア・フィンバックよ、よくやった!
初めて、赤毛虫が納得した。
「そこの大根!今回は団長の顔を立てといてやるっす!」
それだけ言うとシオンは村の中へ戻っていった。
シオンの口調は、以前より優しくなっていた。
それに『クソ大根』と呼ばれもしなくなった。
とりあえず、和解できたって事ですな。めでたし、めでたし。拍手ゥ!
・・・
動けるようになり二日が経ったが、野菜獣大根だの、カピバラ人族だの、ヌートリア人族だの、げっ歯類連合だの、よくわからない事件が起こり、二日という時間が長く感じる。
ハダカデバネズミ人族との死闘(?)を終え、泥塗れになった村の掃除を手伝い、気づいた時には昼下がり。
俺は現在、畑仕事を終えたミーナに、文字の読み書きを教わっていた。
ちなみにジェイクは、ハダカデバネズミとの死闘の後、運動したせいか腸が活発に動きだし、昨日と同じく、トイレに何度も通っている。
ジェイクの土属性魔術があれば、村の掃除も楽に終われたと思うが、腹を下すと魔術を満足に、扱え無いらしい。
また今回も、ジェイクの必要性が無いと思ったが、クレアが扱っていた紫の稲妻は彼の魔術との連携により出来る技なんだとか。
それなら、トトンヌの時使わなかったのも、うなづける。
この世界の文字は、ローマ字や、ハングル、オシテ文字の様な、組み合わせにより形成される文字だったので、覚えるのに時間がかかりそうに無い。
もし、アルファベッドの様なさまざまな発音があれば俺は苦労する。『なんで、夜って「night」って書くの!?どこから「gh」が出てきたの!?それだとナイグトじゃん!わけわかめ!うわぁああああん』と、俺は日本人特有のパニックになっていただろう。
「そういえば、俺の名前ってもう、決まってたりするの?」
俺はミーナに、名前を考えてもらっている事を思い出したので、聞いてみた。
「はい、大根さんにぴったりな、強くてかっこいい名前を考えてるんですけど……、幾つか迷ってまして。もう少し待っててください。夜には決めますから!」
ミーナは俺の名前を色々考えてくれているようだ。
名前が正式に決まったら、マサ子とブラックヘッドスナイパーに挨拶に行き「テメェらよか良い名前を貰ったぜ!」とドヤ顔で言ってやろう。
あの二頭の様な酷い名前になる事は無いからな。ぬへへ……!
・・・
ミーナとの楽しいお勉強タイムを終えた俺は、浮かれ気分で外をぶらついていた。
その途中で、ネスノ護衛団の屯所に立ち寄った。
昨日の件、今朝の件で今日の昼間は、団員の皆さんも忙しそうであったので近づかなかったが、夕方も近くなる頃には彼らも仕事を終え、皆ぐったりとしていた。
「あー、もう!手首痛え!なんで一度にこんな事、やらなきゃならねぇんだぁ!」
「シオンにしては上出来だぞ。おかげで、書類まとめるのに予想より10秒くらい短縮できたからな」
「団長……それ、皮肉で言ってるっすか?」
「俺は、そう思うぜぃ?」
「うるせぇ!トムは黙ってろ!」
クレアとシオン、トムの3人が愚痴をこぼしながら屯所から出てきた。
俺は彼女らに声をかける。
「仕事終わったんですかい?」
「あぁ、昨日の魔物の件と野菜獣大根の件は片付いた。しかし、あのネズミ……ハダカデバネズミ人族については、まだだな」
クレアも相当、お疲れのようだ。
昨日、今日の連戦と山のような書類を纏める事に力を使い果たしたようだ。
「聞いてくれよ、大根!」
珍しく、シオンから話しかけてきた。
「トムの野郎、あんだけ昨日も、今日も、オレをこき使っといて、何にも謝礼無いんすよ!大根からも言ってやるっすよ!『金、寄越せ、クソ野郎!』って!」
「いや、こき使って無いぜ!?お前にぴったりな役を回しただけだ!」
シオンの主張を遮るようにトムがツッコミをいれた。
「そう言えば、かなりご機嫌だな大根。何か良いことでもあったのか?」
クレアは俺の雰囲気が違う事に気づいたらしい。
俺の幸せオーラは隠せなかったようだ。
「あと少ししたら、俺の名前決まりそうなんですよ〜」
「なるほど。誰かに命名を頼んでいるのか?」
クレアに聞かれたので俺は答える事にした。
「えぇ、ミーナちゃんに頼んでるんですよぉ」
俺のその一言に、目の前の3人だけではなく、近くの団員と近くを通りかかった村人が顔をギョッとさせた。
「か、確認の為に、もう一度聞くが、ミーナってあのミーナか!?ジェイクの妹の?」
「そうだけど何か?」
俺の返答を聞くと、クレア、シオン、トムの俺を見る目が、優しく座った。
「悩み事あったら、いつでも相談に乗ってやるぜ……」
トムは俺に優しく語りかけると、その場から去った。
「え?」
俺は訳が分からなかった。
続いてクレアが俺に語りかけてきた。
「その身なりから、人生辛い事も多いだろう。だが、私はいつだって貴方の味方だ!昨日、今日見たいな事があったら、また力になってやる。安心しろ」
クレアは俺の頭を撫でると、トムが去った方へ歩いていった。
「大根……いや、大根先輩!オレ、ずっと誤解してたっす!仲間の振りしてる悪いヤツって思ってたけど、野菜獣大根と戦って、苦戦して、わかったっす!
先輩がホンモノのツワモノって理解できたっす!今度、メシでも奢ってやるっすよ……!」
は?
らしく無い言葉をかけて来るシオンに俺は戸惑う。
「……」
歩き去った3人のあの対応の変わりように、俺はしばらく考え込む。
そして一つの答えを導き出した。
ミーナに名前を貰うという事が、物凄く名誉なのだろう。
おそらくこの村では、王族から名を貰うようなものなのだろう。
クレア達の、あの態度の変わり様は、きっとそういう事だ。
そう考えると、ワクワクが止まらないのである。




