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12せんちおとな

作者: 大鳥居

地域によって呼び方は違うようですが、ここでは「缶下駄」と表現しています。

 親戚からお歳暮が届いた。フルーツ缶詰の詰め合わせだ。

 娘は目を輝かせて「これとこれが食べたい」と桃の缶詰とミカンの缶詰を指名する。

 親戚も娘がフルーツの好きなことを知っていて送ってくれたのだろうと、二缶とも娘の言うがままに食後のデザートに饗された。


 私は開けられた缶詰を見て思い出す。缶下駄という遊びがあったことを。

 早速、空になった缶を洗い、紐を通す穴を開ける。

 お正月に凧揚げで使う予定のたこ糸を押し入れから引っ張りだし、缶に通す。


 あっという間に缶下駄の出来上がりだ。


 作成の途中から興味津々に見守っていた娘が「これなに?これなに?」と聞いてくる。


 「秘密。でも、公園に行ったらこれが何かわかるよ」

 私はちょっともったいぶってそう答える。


 「おとーちゃん、はやくこうえんいくよ!」

 少し興奮気味の娘は、答えが早く知りたいのか私の手をぐいぐいと引っ張って外へと連れ出した。

  

 私は娘に連れられて、近くの公園に出る。手には缶下駄。

 公園に着いた所で娘は握っていた手を離す。


 「こうえんついたよ、おとーちゃん」

 そう言って、私に缶下駄の説明を求めてくる。


 「これはな・・・・・・」

 私は缶を地面に立てて置き、その上に乗る。

 「こうやって遊ぶんだよ」

 手に持った紐で缶が足裏から離れないようにしながら、娘の周りを一周する。


 「すごーい。おとーちゃんおっきくなった」

 

 ――そう来たか。

 私は娘の感想に少し戸惑いを感じる。


 「わたしもするの!」

 娘は缶に乗った私を押し出すように抱きついてきた。

 バランスを崩して缶から降りる私。


 そしてちゃっかりと缶の上に乗る娘。

 私は娘に紐を握らせ、手を離した。


 「紐をちゃんと握って、足が缶から離れないようにするんだよ」

 私のアドバイスを聞いて、娘は足を動かす。

 だが、足が先に出てしまい缶から落ちてしまう。


 何度も缶から落ちるが娘は諦めない。

 

 「手で紐を持ち上げたら足が上がるよ。そしたらそのまま前に進もう」

 私の声に娘は頷く。


 娘は紐を持った手を高く上げる。足が浮いて少しだけ前に進んだ。


 娘が勝ち誇ったような顔をこちらに向けて、満面の笑顔。ドヤ顔だ。


 それからはコツを掴んだようで、しばらく公園の中をカッポカッポと音をさせながら回っていた。


 公園に5時を知らせる放送が流れる。

 娘は缶下駄から降りず、そのまま家まで帰った。

 お気に入りの遊びになったようだ。

 理由を聞くと「おねえちゃんになれるから」とのことだった。

 缶下駄の高さ12センチ分、大人になったと言うことなのだろう。




 家の玄関を開けると、娘はそのまま缶下駄から降りないで入っていく。

 カッポカッポと響かせながら。

 止める間もなく、廊下を進む。

 

 泥だらけの廊下。

 そして私は妻に叱られる。


 娘が大人になるということ。

 それは私にとってどんな未来なのだろう、と思わずにはいられなかった。

良くある話(短編的に)


右が桃缶、左がミカン缶らしい。

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