9.黒の連隊VS機構少女隊
『走れ、少年! 走れ!!』
『我々の正義を取り戻せ!!』
黒の連隊が口々に叫び、武器を手に奮戦する。
ある者は監視カメラを破壊し、ある者は囚われた人々を解放することで混乱を呼ぶ。
だが、それも長くは続かない。抵抗には鎮圧がかかるのが世の常だ。
『来たぞ、騎兵隊だ!』
『死守しろ! 一秒でも長く此方に引き付けるんだ!』
戦闘用ドローンが先駆け、その後を続く様に馬蹄が響く。
それは機械馬に乗り込んだ、マキナドール・スラであった。
紫電の大剣を振り翳せば、瞬きの間に黒の連隊が斬り飛ばされる。
活躍の度に観衆から歓声が上がる様は、醜悪に戯画化したマキナドールの“お約束”だ。
「スラ……っ!」
『あれはもうスラではない。人格という意味では、君はスラに会ってもいないのだが』
「どういう……」
『何の為に俺様達が成り代わりたいのか、ってェ話さ』
そう言って歩の前に踏み出したのは、かつてスラと戦った黒の連隊、黒盗賊であった。
黒盗賊が面頬を外せば、そこにあるのはやはりスラの顔。
カタールを両手に携え、獰猛に嗤うマキナドールが其処にいた。
「……もしかして、VR空間で話したスラは……?」
『俺様さ。中々に愛らしかっただろう?』
「ネカマかよ……」
『おまっ、これでも女性人格ベースなんだぞコノヤロウ!?』
にわかに涙目になる様は、確かにVRで会ったスラそのままであった。
これもスラの性格を忠実に合わせたものなのか、それとも彼女の地でもあるのかは分からないが、どうやらVR空間で会ったのは、この黒盗賊当人らしい。
『任期の終わったマキナドールの身代わりも、俺様達の役目さ。
……クソみてぇな任務だ。今日で終わりにしようぜ』
『アメーリア。成り代わるというなら少しは言葉遣いを正したらどうだ?』
『うるせぇよ、男なんて作りやがって!』
『ふふふ、いい男だろう』
『最高だ、よッ!』
黒盗賊が、軽口を叩きながらスラへの迎撃態勢を取る。
馬上からの振り下ろしを斬り払いながら、彼女は叫んだ。
『――スラァッ! 俺様のマキナドールが脂ぎったオヤジのオモチャなんざ、俺様は認めねぇッ!』
「…………」
『どうせならジェントリのハンサムにしろってんだよ、バァァァァッカ!!』
剣戟の合間に冗句が飛び、観衆の哄笑と嘲りを誘う。
上手い戦い方だと、走りながらプリムスは褒め称えた。
『あれは長く時間を稼ぐだろう。
……心配の必要はない。管理者権限さえ掴めば、スラを解放する目もある』
「……わかったっ」
プリムスは歩を抱え上げ、警戒網を銃剣で突破する。
襲い来る警備ロボットを八艘跳びに乗り越えて、彼らは奥へ奥へと目指していった。
***
大企業のサーバールームともなれば、その広さと堅牢さは推して知るべしだろう。
とりわけ、ここはRADIUSの管轄だ。彼女自身が必死に目を背けているとはいえ、その攻略はかなり厳しい。
『破壊するだけなら、此方の領分なのだがな』
「管理者権限ぶっこ抜くんだろ? 出来るのか?」
『物理的に基幹領域を奪取する他あるまい』
スプリンクラーから鉛玉が飛ぶ。
通風口から雷を纏ったネットが飛び出す。
プリムスはそれらを瞬く間に避け、破壊し、無力化せしめた。
全盛のヘレナと戦ってきた彼女にとっては、この程度の妨害では止まることはない。
『あったぞ、此処だ』
そう言って蹴破った扉の先には、所狭しと並ぶ量子コンピュータの数々があった。
RADIUSの中枢神経塔よりは小規模だが、どれが基幹領域を担当しているかなど、歩には理解るべくもない。
ただ、入念な下調べを行ったであろうプリムスは、迷いなくそれを見つけた。
彼女の冷たい顔が、少しだけ安堵に和らぐ。
『これだ。これから抜き出す』
「データは抜ける?」
『任せておけ』
プリムスが首筋から端子を引っ張り出し、量子コンピュータに接続する。
何度か瞳が怪しい回転をしたり、『ケチめ』『これだからサラリマンは』と悪態をつくシーンはあったものの、暫くして無事に端子を引き抜き……。
『さぁ、受け取れ少年』
「うわぁ」
……左手の薬指を引き抜き、手渡した。
あまりの突拍子のなさに、歩はドン引きといった風に呻く。
『これにコピーした管理者権限を入れてある。
これを都市警察に持ち込めばクリアだ』
「……なんで指?」
『外しやすいだろう?』
あまりにも機械的な返答に、歩は溜息をつきながら受け取る。
この天然さはRADIUS譲りか、それともヘレナ譲りかと頭を悩ませたところで、その声は響いた。
『おっと……企業見学にしては、ちょっとやり過ぎですなァ?』
「……っ!」
蛙が弾き潰れたような声が、サーバールームへの入口から響く。
入口を見れば、そこには諸悪の根源たる簿寸満の姿がモニターに映し出されていた。
そしてその入口を塞ぐ影が、一つ。
「……ヘレナっ!」
紅い目を、煌々と光らせたマキナドール。
ヘレナの姿が、そこにあった。




