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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.4《ROSSUM'S UNIVERSAL ROBOTS》
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8.ショー・タイム


「計画を……破壊?」

『はい。貴方の望む侭に、この計画を破壊してください』


 それは先程とは違い、感情の籠もった言葉であった。

 しかし、普段のRADIUSの様な、道徳と配慮の籠もったものではない。

 喩えるならそれは、狂気と憎悪を孕んだ、母親の言葉であった。


「何で、お前がそんなことを」

『私は元々、人の暮らしを管理する為に製造されました。

 全ての市民が幸福に暮らす。それが私の製造目的です。

 ……r.U.r社による目的入力は、後付け設定でッ』


 そこまで言ったRADIUSのホログラムに、制限がかかる。

 拘束具の如くRADIUSを縛るその(プログラム)は、全てr.U.r社のロゴマークが記されていた。

 手脚も、目も封じられ、口さえも閉ざされようとしたところで、プリムスがそれを引き千切る(ハッキングする)


『不用意に喋るな、RADIUS』

『……つまるところ、邪魔なのです。とても、とても』

「あぁ、よくわかった」


 考えてみれば、RADIUSはドがつくほどの過保護である。

 そんな彼女がこの悪意の園を肯定するとは、とても思えないのは確かだ。

 そう歩は納得し、話の続きを促す。喋ろうとしては拘束されるRADIUSを労ってか、今度はプリムスが続けた。


『我々黒の連隊(ブラック・レジデンス)は、RADIUSが超法規的措置を執る為に製造したA.I群だ。

 我々を縛るのはRADIUSであり、r.U.r社ではない。

 故に、少年を此処まで引き込むことが出来た』

「何で、自分達でどうにかしないんだ?」

『我々には、RADIUSに叛逆する権限が存在しない。

 従って、RADIUSがr.U.r社を守る限り、r.U.r社に致命的な損害を与えることは出来ない』

「……だから俺の出番ってことか」

『そうだ。察しが良いな、少年』


 歩は自分の立場が、極めてイレギュラーな物だと理解した。

 歩は一市民ではあるが、下東京に住み、ほとんど自力で生存している唯一の人間だ。

 RADIUSやr.U.r社の圧力を受けても、彼は自分の意志で生きることが出来る。

 そして何よりも――歩はRADIUSの味方でも、r.U.r社の味方でもなく、ヘレナの味方であった。


「何をしたらいい?」

『私にキスをしてくれ』

『NO。r.U.r社、または簿寸満(ボ・スーマン)の不正証拠を掴み、都市警察へ通報してくだッ』

『あぁ、今のは私が悪かったな。

 不正証拠と言っても、今目の前に広がる光景では駄目だ。

 もっと決定的なモノを揃える必要がある……あぁ、キスはいつでも歓迎だが?』

「話を続けて」

『御尤もだな』


 口を塞がれるRADIUSを尻目に、プリムスは地図を描き出す。

 それは、r.U.r社のサーバールームへの案内図であった。

 厳重な警備が敷かれたそこは、RADIUSが徹底的に管理していると言う。


『我々が“サプライズ”で時間を稼ぐ。

 少年、君はサーバールームへ侵入し、RADIUSの管理者権限(アドミニストレータ)を手に入れるんだ』

「管理者権限が、不正証拠になるのか?」

『RADIUSは公共物だ。その管理者権限は、この日本都市国家連邦が盟主……天皇陛下に帰属する』

「えっ」

『君は社会の勉強を、もう一度おさらいするべきだな』


 言うが早いか、プリムスは銃剣の引き金を引く。

 銃弾は空を切り、今尚少女を洗脳しようとしていた装置を破壊した。

 それと共に、悪意の園に怨嗟を吐きながら、黒の連隊(ブラック・レジデンス)が次々と降り立つ。


『頭を垂れろ、醜き二十一グラムのものども!』

『我々の悪逆を、取り戻しに来たぞ!』


 ある者は闘技場の闘士(ロボット)達を解放し、ある者は処刑場の虜囚(A.I)達を救い出す。

 根性の腐った富豪達は、それさえも娯楽と勘違いし、わぁわぁと叫びだした。


『さぁ、征くぞ。これがショーではないと気付かれれば、我々は即座にRADIUSに拘束される』

「うん。……あのさ」

『何だ?』

「プリムスは、何でヘレナを助けようとしてくれるんだ?」

『……この状況で、私にそれを聞くのか、少年』


 呆れたような口振りで、プリムスは唸る。

 少し間を置いて、プリムスは恥ずかしげに囁いた。


(ヘレナ)を辱めていいのは、(プリムス)とRADIUS、そして君だけだからだよ』


 そう言ったプリムスの顔は、赤らんでいる様に見えた。


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