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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.4《ROSSUM'S UNIVERSAL ROBOTS》
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6.侵入


 プリムスはヘレナに似ていながら、その本質は大きく異なる。

 ヘレナが子犬のように甘えるのが好きならば、プリムスはまるで猫のように気まぐれだ。

 しかし、勢いで行動に出ることは、変わらないようで……。


「……うぉおおあああああああァーッ!?」

『暴れるな。落ちるぞ』

「もう落ちてるじゃねえかぁああああッ!!」


 ……たった今、上東京から歩を抱えて飛び降りるなどという、とんでもない移動方法を敢行していた。

 全身で風を切り、二人はぐんぐんと下東京の冷たい地面に近付いていく。

 勿論、歩の装備にパラシュートなど存在しない。形成する時間も、余裕もなかった。


『焦るな――グライダー、起動』


 無論、無策で飛び降りるプリムスではない。

 その背が音を立てずに変形し、黒い翼膜を張り出す。

 あっという間に一対の黒翼が風に乗り、下降の勢いを弱めていった。


「お、おお……」

『少年、感覚共有(バイザー)を。君の視界も使って探る』

「え、プリムス……脳、あるのかっ?」

『マキナドールよりはあるとも』


 言うが早いか、感覚共有バイザーにプリムスの市民IDが送られてくる。

 恐らくは偽造品であり、体重に関してはシークレット表示されていたのがその動かぬ証拠であった。

 見て見ぬ振りをしながら、歩はプリムスへ自分の感覚を流し込む。

 プリムスが恍惚とした吐息混じりに、これはいいと呟いた。


『生身の感覚とは、こういうものか。嗚呼――いいな。悪くない』

「……何かこっ恥ずかしいんだけど」

『性癖だ。慣れたまえ』

「どしがたい……」


 もっとクールな奴だと思ったのにと、歩はややげんなり気味に地上を見やる。

 何処からも照らされない下東京は、まるで闇の城だ。

 地上から見ればとても恐ろしくも寂しげな光景ではあるのだが……上空から見ると、気付くこともある。


「あれ、何だ?」

『企業工業区画だ。彼処が、目的地でもある』


 それはまるで、白亜の不夜城であった。

 無数のライトで照らされ、落下物避けの電磁バリアで飾られた巨大な建造物。

 いっそ荘厳ささえ感じる過剰装飾感は、RADIUSの設計ではないことは一目瞭然である。

 そして、その建物を象徴するかの様な、歯車の内に収められたハートマークに、歩は心当たりが合った。


「……r.U.r社!?」

『そうだ。……侵入するぞっ』


 翼膜が二人を包み、僅かな電光を帯びる。

 急速な落下物に対し、電磁バリアが反応しようとするが……二人の身体は難なくそれをすり抜け、音もなく着地した。


「バリアに同調したのか……道理で、色々侵入出来る訳だよ」

『東京の防備は、我々とのイタチごっこで出来ているのさ』


 そう言いながら、プリムスは歩を解放する。

 急に手を離されてたたらを踏む歩だったが、向き直って見るプリムスの口は、厳しく引き結ばれていた。


『此処からは、かなり厳しい物を見ることになる。……覚悟は?』

「出来てる」

『よし。ならば行こう』


 プリムスは歩の手を再び繋ぎ、奥へ奥へと足を運ぶ。

 僅かに震えるその指を、歩はしっかりと握った。

 少しだけ力が緩んだ後、再び強く、握り返されていた。


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