表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.4《ROSSUM'S UNIVERSAL ROBOTS》
35/40

5.黒の騎士と契約整備士


 女の子はデートに遅れるもの。

 男の子は遅刻に寛容であること。

 そんな話を、どこで聞いたんだったかと、歩はずっと考えていた。

 そうして、下東京で拾った古い映画だと思い出した時。

 待ち合わせの時間から三時間過ぎていることを、腕時計が指し示した。


「……遅い」


 ここは上東京、軌道エレベーター前。

 歩はここで、ヘレナとデートの待ち合わせをしていた。

 最初はまだかまだかと待ちわびていた歩も、今ではすっかりやさぐれている。

 そうして暫く。突然歩は奇声と共に頭を掻き毟ると、旧式のスマートフォンを取り出した。


「RADIUS!」

『なんでしょう、歩様』

「ヘレナが来ない!!」

『困りましたね』


 スマートフォンから流れる音声は、RADIUSのものであった。

 彼女はやれやれと言わんばかりに、道を照らし始める。


『ヘレナの家までナビゲートしましょう。どうぞ、ついてきてください』

「頼む!」


 逸る足取りで、歩は光を追いかける。

 向かうはヘレナの家。

 デートは出来ずとも、歩はなんとしても、彼女から答えを聞かなければならなかったのだ。


”””


「いない」

『困りましたね』


 そうしてヘレナを捜すこと、実に十二時間。

 歩達の根気強い捜索にも関わらず、ヘレナはまるで見つかることがなかった。

 ヘレナの家も、都庁のマキナドール・ガレージも、都市警察署も、ヘレナの行きつけの店まで、上東京の至るところへ足を運んでも、彼女は影も形もなかったのである。

 これには流石の歩も打ちひしがれ、思わず涙が零れそうになっていた。


『気を取り直し、次の地点へ向かいましょう。次は……』

「……もういいよ、RADIUS」

『歩様』

「もう、いいんだ」


 それは余りにも悲痛な感情を孕んだ、諦めの言葉であった。

 拒絶されたのだと、歩は確信を持ってうなだれた。


「帰るよ、下東京に」

『ですが』

「ヘレナによろしくな、RADIUS」

『歩様』


 引き留めようとするRADIUSの言葉を背に受けながら、歩は軌道エレベーターへと踵を返す。

 何故受け入れられると思っていたのか。自分は一度、彼女を見捨てたも同然だというのに。

 そんな考えが、後悔となって歩を責め立てる。

 逃げるように、逃れるように足早になりーー。


『おや。では少年は、今はフリーということか?』

「っ!?」


 不意にかかったヘレナの声によって、縫い止められた。

 どこから、と歩が首を振れば、すぐ真後ろから呼気が吹きかけられる。

 たまらず歩が高い声をあ上げれば、声の主はさも愉快そうに

嗤う。

 その嗤い方に、歩は覚えがあった。


「ーープリムスっ!?」

『そうとも、少年。プリムス。首位たる者。黒の連隊(ブラック・レジデンス)が首位此処にあり、だ』


 それはヘレナと同じ顔、同じ声を持つA.I、プリムスの仕業であった。

 再生怪人の如く、以前と寸分違わぬ姿で現れた彼女は、悪い悪いと歩の頭を撫で回す。

 その撫で方さえヘレナと同じで、歩は薄気味悪さすら感じていた。


『アーイイ、スゴクイイ……。私の存在証明が達成されるようだ……』

『度し難い』

「……なんで、お前が此処にいるんだよ」

黒の連隊(ブラック・レジデンス)は滅びない。そこの木偶の坊と違って、低コストで何度でも蘇るのだ!』

『度し難い……』


 妙にテンションの高いプリムスだが、彼女が存在しているということは、黒の連隊(ブラック・レジデンス)は未だ活動可能ということに他ならない。

 忌々しげにRADIUSが罵倒するのもどこ吹く風と哄笑するプリムスへ、怪訝な目で歩は睨む。


「……何しに来たんだよ、お前」

『少年と、交渉に来た』

「交渉……?」

『そうだ。少年、我々の整備士になる気はないか?』

「はァ?」


 いきなりの提案に、歩は何を言っているのだろうと首を傾げる。

 確かに歩はマキナドールの専属整備士だったが、今の歩はその任務を退任した身だ。

 自分と契約することが、彼女の存在意義に関わるのかどうか疑問を抱きながら、歩は首を横に振る。


「ダメだ」

『いいだろう? けちなRADIUSやヘレナと違って、私は代価を支払うぞ?』

『給与は支払っています』

『なら、巨万の富を、充分な見返りを与えよう。どうかな?』

「ダメだ。悪者に、協力なんて出来ない」

『では、いい子になろう。……手始めに、マキナドール・ヘレナの窮地を救うのはどうかな?』

「っ!?」


 思わぬ提案に、歩は目を見開く。

 ヘレナの窮地。どうしてそこに考えつかなかったのだろう?

 そんなこと、誰かに誘導されなければあり得ないのに……。

 そう考えた歩の目の前に……RADIUSの姿は、もうなかった。


「RADIUS……?」

『高度な人工知能は嘘をつく。私もそうだ。だが、そんなことはどうだっていいだろう?』

「……そうだな」


 今はヘレナの窮地についてが先である。

 そう判断した歩は、改めてプリムスへ向き直る。

 彼女はひどく満足そうに笑いながら、言葉を続けた。


『マキナドール・ヘレナは今、存在抹消の危機にある』

「存在抹消……!?」

『主観的な表現だ。だが、君も目の当たりにすればそう思うだろう……』


 プリムスの顔が、複雑に歪んだ。

 目的を達成したようで、その結果が不本意に終わろうとしている。そんな葛藤を孕んだ顔だと、歩は感じた。

 その意図を明かさぬまま、プリムスは歩へ契約を持ちかける。


『私の整備士になれ、伊須都 歩。そうすれば、ヘレナを救う為に協力してやる』

「わかった」

『……即答か。疑わないのか?』

「お前はヘレナに成り代わる気なんだろ?」


 歩は嘆息と共に、プリムスへの理解を示す。

 それは、善悪を越えた信頼でもあった。

 この悪意ある機械人形は、悪逆の限りを尽くしたとしても、決して己の存在意義に嘘はつかない。


「ヘレナなら、こういう時に嘘はつかない。絶対に」

『……それもそうだ』


 故に、「ヘレナに似ている」ということも、プリムスにとっては最大の敬意であり、賛辞であった。

 満足げに笑うプリムスが、歩の手を愛おしげに取る。


『案内しよう、私の整備士(クラフトマイスタ)。今宵は私が、君のマキナドールだ』

「……おう。頼むぞ、プリムス!」


 そうして、少年と機械人形が走り始める。

 時刻は夜の十一時。

 日が変わるまで、後一時間であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ