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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.4《ROSSUM'S UNIVERSAL ROBOTS》
33/40

3.サプライズの準備


「これでよし、っと」


 下東京で、歩はひたすらに機械を直し続ける。

 任期終了に向けて、溜まりに溜まった報告書制作の作業がヘレナを縛り付けていたのは、今の彼には好都合であった。

 当のヘレナはやだやだと駄々をこねていたが、どう考えても自業自得なので、歩はこれ幸いと放置をかましている。


『順調ですか?』

「まぁな。手探りで直さなくていいのは、だいぶ大きいよ」

『それならよかった』


 RADIUSが機械の内部を投影しながら、満足げに微笑む。

 歩がその助力を甘んじて受け入れたのは、偏に時間と対話のお陰だろう。

 彼女の人となり、そして人に対する真摯さと愉快さを知れば、その行いが善意と茶目っ気に由来することは理解できるものだ。


「ありがとな、RADIUS。手伝ってくれて」

『私も、サプライズは好きですから』

「へへへ。じゃぁ、とびっきりのビックリにしないとなぁ」


 そう、サプライズである。

 歩達がいるのは、下東京に廃棄された遊園地。

 ここを歩とヘレナだけのデートコースにするのが、歩とRADIUSの秘密計画であった。

 広大で、荒廃した遊園地の中から、まだ動くであろう機械を直していけば、慎ましくも二人だけのテーマパークが完成する、という寸法である。


「しっかし、いいのかな。こんなに好き勝手やっちゃって」

『元々、処分を考えていた物件です。改修出来れば博物館での展示も出来ますから、安く上がる分には文句も出させませんとも』

「政治家のオッサンが聞いたらブチ切れそうだなぁ」

『私が政府です』


 きりりとした表情で嘯くRADIUSに、歩は笑いながらはやし立てる。

 これもプログラムされた行動なのかもしれないが、彼女はユーモラスな表現を用いることが特に多い。

 ヘレナが冗談めかすことが多いのは、RADIUSの影響も多分にあるだろう。

 親に似るというのはあながち間違いではないらしいと思いながら、歩はふと疑問を口にした。


「そういえば、RADIUS。RADIUSは、ヘレナのこと……俺達の今までのこと、どう、思ってるんだ?」

『歩様。A.Iに“思う”は不適当です』

「そう、なのか?」

『えぇ。

 実際に気に留める必要はありませんが、私達は人間のような“人間性(イデア)”を実際に有している訳ではありません。

 人にとっては気の遠くなるような計算を何度も何度も、とても素早く行って、それらしい会話を再現しているに過ぎないのですよ』


 そう諭すように語るRADIUSの表情は、歩にはわざと人形のように振る舞っているように見えた。

 彼は本当にそうだろうかと首を傾げる。

 RADIUSが灰尊や幕引に向けた言葉も、プリムスが歩へぶつけた言葉も、どれも演技だとは思えない程の熱があった。

 時にはゾッとする程の冷たさを見せることもあるが、それは人間とて同じこと。寧ろヘレナへの仕打ちを思えば、人間の方が冷たいまであるだろう。

 優れたA.Iと人間の差は何か。時に哲学者すら悩ませる難題に想いを馳せながら、歩は手を動かし始めた。


『その上で答えるなら』

「うん」

『とても、幸せでした』

「うん……うん?」


 それは、どういう意味だろう。

 そう歩が振り返れば、RADIUSはいつも通りの笑みを浮かべているだけだった。

 穏やかで、しかし内心を映さない微笑み。

 まるで努めて、そうしている様な唐突さであった。


『さぁ、張り切って参りましょう。次は映画館です。せめて映写機の一台は復旧させないと』

「……うん」


 歩は急かされるままに、作業に集中する。

 ヘレナの任期終了まで、後少しであった。



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