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機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.4《ROSSUM'S UNIVERSAL ROBOTS》
32/40

2.デートのおやくそく


 RADIUSがこれ以上にないほど、楽しそうな顔をしていた。


「あーっくん♪」

「はいはい、なんだよヘレナ」

「えへへー、あっくーん♪」

「……ったく」


 ヘレナが歩に抱きつき、歩がそれをやれやれと受け止め、撫で回す。

 見るものが見れば、残悔と祝福の混じった顔で砂糖の塊を吐き出すだろうその光景を、RADIUSは至福のひとときと言わんばかりに見つめていた。

 視界の外でニヤつく様は、まるでチェシャ猫のようである。ドローンに寝そべる様も、ネット上で実しやかに語られるRADIUS猫説を如実に表していた。


「……何見てんだよ、RADIUS」

『どうぞお構いなく』

「家主はそっちだろ」


 猫じゃらしを引っ張り出せば、RADIUSがにゃんにゃんとドローンから手を伸ばす。

 ホログラムであるが故に、掴めないのがミソだと有志によるRADIUSまとめサイトにはあったが、成程これは面白いと歩は頷いた。

 一頻り遊んで満足した歩は、ヘレナに押し倒されながら手帳をめくり始めた。


「で……今後は、暇になるんだっけ」

『はい。ヘレナのマキナドールとしての任期も、もうすぐ終了ですから』

「なんとか大金星だったよー……マキナドールの面汚しにならなくてよかったぁ」


 ほっと息をつくヘレナを、歩は労るように撫でる。

 黒の連隊(ブラック・レジデンス)、そしてプリムスを打破した頃、丁度ヘレナの任期は終わりを迎えようとしていた。

 機構少女(マキナドール)が任期制なのは、マキナドールが有する逮捕権の為である。

 本来は都市警察に委託されているそれを、個人がいつまでも所有することはトラブルの種であるとして、一年の任期中のみとしているのだ。

 逮捕権がなくなれば、マキナドールはマキナドールではなく、ただのフルボーグ市民となる。

 それでも有名人であることは変わりないが……マキナドールとしてのヘレナも、再び終わりの時を迎えようとしていた。


「貯金は溜まったし、当分はのんびり暮らせるかなぁ……」

「そういえばヘレナって、マキナドールじゃなかった時はどうやって稼いでたんだ?」

「んーとね、電気売ってた」

「電気」

「そう、電気」


 水と空気があれば発電出来るのだ、と言いながら、ヘレナはラジオの電源コードを腕に挿す。

 瞬く間に軽快な音楽を鳴らし始めたラジオに、彼女は満足そうに頷いた。


「これを蓄電池に入れて納品するの。マキナドールの電池屋さんです!」

『本来は非常用発電機能なのですが、一日ぼうっとしていれば、売れる程度には発電可能です。非常用品、日用品、嗜好品として需要があります』

「嗜好品」

『はい、嗜好品です』


 何とも言えない表情を浮かべながら、歩は手帳をぱらぱらと捲る。

 食事のレシピ、機械工学の技術メモ、家具や機械のアイデアなど、様々に書き記したそれの、本来の使い道。

 カレンダーには、ヘレナの任期満了日と……完成予定の日時が、刻まれていた。


「……なぁ、ヘレナ」

「ん? なぁに、あっくん」

「任期終わるの、どう思ってるんだ?」

「ん、っとね」


 少し、ヘレナは考える。

 彼女の表情はころころ変わってわかりやすいが、真剣に物を考える時、何を考えているかは分かり難い。

 そんな彼女が、少し間を置いて口を開いた。


「もっと続けばいいのに、って思っちゃった」

「思っ、ちゃった?」

「うん。歩くんとの冒険が、もっともっと続けばいいのに、って」


 いけないことだけどね、と彼女は苦笑する。

 いけないことなのだろうか、と歩は首をひねった。


「ヒーロー、続けたっていいんじゃねぇの」

「ダメだよ。次のマキナドールが、日の目を待ってる」

「でも……」

「私はお情けで、もう一度立ち上がる機会を貰えて……素敵な再会が出来た。それだけでも充分、恵まれてるんだよ」


 だからこれでおしまい、と彼女はいう。

 でもそれで、本当にいいのだろうか。

 そう歩は言いたかったが……言葉に窮した。

 彼女の笑みを見ると、そうは言えなかった。

 だから、代わりの勇気を振り絞る。


「……じゃぁ、任期が終わったらさ」

「ん?」

「連れてきたい、ところが、あるんだけど」

「……それって……」


 歩の顔が、頓に赤くなる。

 彼女には見えていないが、頬が熱くなる感覚は、バイザー越しに漏れているだろう。

 それ以上悟られるまいと歩は口を結んでいたが、やがてヘレナがくすくすと笑って。


「……いいよ」

「えっ」

「あっくんが連れてってくれるなら、どこだって行くよ」


 そう、穏やかに微笑んだ。

 デートの日程は、任期終了の、三日後であった。


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