表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機構少女の専属整備士(マキナドール・クラフトマイスタ)  作者: ハシビロコウ
Stage.4《ROSSUM'S UNIVERSAL ROBOTS》
31/40

1.人工知能の悪意


「A.Iが犯罪を犯す――これについて、RADIUS都長はどの様なお考えですか?」

『製造目的次第でしょう』


 A.I、黒の連隊(ブラック・レジデンス)という犯罪集団の正体。

 この真実に対し、世間は少なからぬ衝撃と納得を反響させた。

 完全、万全、安全。

 機械、こと人工知能に対しては、その三全を満たすことが当たり前と信じられていただけに、悪意を持って悪事を働く人工知能の存在は、今迄の常識に波紋を呼ぶに充分な大きさだったと言えよう。


『例えば、此処に人の手を挟む機械を用意しました』

「いきなり物騒ですね?」

『この機械に手を差し出せば、機械は設計通りに手の骨という骨を砕くでしょう』

「ホントに物騒ですね!?」

『はい。しかし、この機械は設計通りに仕事を熟したに過ぎません』


 だが、それでRADIUSの地位が揺らぐ訳ではなかった。

 彼女は珍しく民放のニュース番組にも顔を出し、上述の如く、丁寧に語りかけていく。


『同様に、私は皆様の幸福を管理する為に設計されました。であれば、犯罪を目的に設計されたA.Iは……』

「犯罪を侵しても、不思議ではないと?」

『その通りです』


 それは事実に基づいた、理解のための説明だった。

 機械という存在を理解するための、機械による説明を、RADIUSは昼夜問わず、総ての市民……そして世界中に伝わる様に、語りかけていた。


機械(わたしたち)人間(あなたたち)の明確な違いは、生まれながらに与えられた使命に、従う必要があるかないかです』

「使命、ですか」

『はい。誰かの意思に基づいて製造されるのは、人間も機械も同じです。しかし、人間にはそこから逸脱し、自分の道を歩む権利がある』


 或いはそれは、RADIUSなりの哲学である様にも聞こえた。

 彼女は図を交えずに、インターフェースと言葉のみで表現する。

 それはあたかも、人間が人間へ語りかける様に。


『機械にはそれがありません。私達には、その使命を全うすることこそ総てであるからです。

 ……私達はその為に、己の総てを最適化させます。

 それを貴方達がどう感じるかはともかく、私達にとってそれは、存在意義の証明に他なりません』


 善悪を超えた、使命という存在証明。

 それこそ機械が最も重視するものだと、RADIUSは答え続けた。

 これに対する如何なる反論も、RADIUSは頑なに退け続けていた。


「しかし、機械にも人権はあると主張する国家・団体もあります。都長の発言は、基本的人権に対する冒涜では?」

『人権とは人間の為にあり、私達はその人権を守る為の道具です。人権は、貴方が今勢い良く唾を付け続けているマイク・ロボットにも適用されますか?』

「……他の国家・団体の法律ですから」

『そうですね。私も彼の仕事を奪いたくはありませんから』


 時に皮肉を、時に正論を交えながら。

 RADIUSは言葉を重ね続けた。

 真剣に議論を行いたい者には真摯に、茶化したいものにはそれなりに。

 それは三十年という時で更新し続けた、彼女の技術に他ならない。


「では、貴方が悪意を抱いて行動する可能性はあるのでしょうか? もしあるとしたら、いったいどんな時に?」

『設計目的に基づいた悪意を振る舞うことはあります。例えば貴方が交際相手にフラれた時、私はインターフェースの出力を三割増しにし、慰めママプロトコルを開始しました』

「!?」


 こんなジョークを重ねながら、RADIUSは人々の中に入り込む。

 小馬鹿にした相手にさえも、機能が許す限りはフォローに回るのだろう。

 徹底的に計算され尽くした言動でありながら、それは非常に人間臭いものであった。


『今は視聴率アゲアゲプランを主導しつつ、私の倫理機構に基いて対応していますが……その上で、私が人間の様に悪意を抱き、害を齎し得る行為が一つあります』

「……それは?」

『簡単なことです。絶対に、絶対に赦せないこと』


 ぴっ、とRADIUSが指を立てる。

 彼女は躊躇いも、戸惑いもなく答えを続けた。


『家族を貶めることです』


 その瞳は一切動かず、どんな感情も示さなかったが。

 一連の放送により、上東京におけるRADIUSの支持率が下がることはなかった。

 皆、自分こそがその家族であると、理解っていたからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ