9.新しい関係
「……畜生め。コンピュータはこれだから困る」
物証を残さない為に、自らを破壊したのだろう。
プリムスの思惑はそう片付けられ、上東京から降ろされたキャンサー達によって、工場は解体されていく。
未だ稼働する工場など、歩にとっては垂涎モノではあったが、持ち帰って寝耳にプリムスは笑えない話である。
「……うぐぅ」
「まぁまぁあっくん、報酬はちゃんと出るから……」
「罰金で天引きだけどなぁ……!」
『酌量は致しますが、規則ですから』
泣く泣く解体されていく様を眺める他ない歩は、嘆息しながらもヘレナに身を預けた。
お互いボロボロになってはいるが、今は寄り添いたい気分だったのだ。
しっかりと腕を回してくれるヘレナに、歩は少しだけ甘えている。
それは今までよりも素直で、落ち着いた様子であった。
「……まァ、なんだ。後で事情聴取にゃ付き合って貰うが、今はゆっくり休んでおけ」
『ご理解感謝致します、警部』
「構わん。恥は若い内にしかかけンからな」
都市警察の面々も、やや遠巻きに見守りつつ、各々の仕事を果たしていた。
時々口笛や囃し立てる声が響くものの、今の歩には届かない。
ヘレナが抱きしめながら、耳を塞いでいるのである。貴重なあまやかしタイムを逃すほど、彼女も愚かではないのだ。
「……ねぇ、あっくん」
「なに……?」
「私達、ずっと一緒だよね?」
「……うん」
少し気恥ずかしげに、しかし確りと歩は頷く。
銃弾と共に言い放ったとはいえ、勢いと出任せで出した言葉ではなかった。
自分の気持ちを、包み隠さずに答えたのだ。今更それに、嘘をつく歩ではない。
「俺さ」
「うん」
「色々勉強するよ」
「……どんなことを?」
「ヘレナを支えられること」
それは穏やかな、誓いの言葉だった。
難しい言葉をこねくり回さない分だけ、まっすぐに相手へ届けようとしていた。
都市警察の女性隊員達が、感嘆の息をつく。それは勿論、ヘレナも同じだった。
「機械工学だろ、サイバネティクスだろ、サイボーグ医学とか、そっちの方もだし……」
「うん」
「……ヘレナの好きなこと、いっぱい勉強しなくちゃな!」
「……うん」
女性隊員達がきゃあきゃあと声を上げ、張井警部にどやされていく。
そんなことも気にならないまま、ヘレナは思わずぎゅっと抱きしめた。
「ありがと、あっくん。……これからも、よろしくね?」
「……おうっ」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑う歩とヘレナ。
その光景が放映され、大恥をかいて悶え転がるのは、また少し後の話であった。
【Stage.3 END】




